“自転車によるあおり運転”罰則化は決して無関係じゃない

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2020年6月30日に施行された改正道路交通法にて、いわゆる“自転車によるあおり運転”への罰則が規定された。au損保によるアンケート調査によると、自転車によるあおり運転を受けた経験があると回答した人(車両運転者)は全体の13.9%と、何と7人に1人の割合に上り、決して無視できない数字だ。我々スポーツバイク愛好者はこれをどう捉え、どう行動すべきか? プロの見解も仰ぎつつ、考えてみた。ここでいう自転車というのはスポーツバイクに限らず、一般車を含めたすべての自転車を指す。スポーツバイクユーザーなら「私はそんなことしていない! 一般車ユーザーと同じにしないでほしい」と思うかもしれないが、知っていて損はない内容なので、まずは読んでみてほしい。

“自転車によるあおり運転”とは?

昨今、自動車によるあおり運転の問題がメディアで取りざたされ話題になったが、一方で“自転車によるあおり運転”も問題視された。これを受け、2020年6月30日から施行された改正道路交通法により、自転車が他の車両(車・モーターサイクル・自転車)に対してあおり運転をすることも新たに罰則の対象となったのだ。

主にロードバイクに乗るスポーツバイク愛好者は、「そんなことするかよ」と思ったかもしれない。しかし、“自転車によるあおり運転”には、例えば前を走る車やモーターサイクルの後ろにぴったりと張りついてドラフティング(風よけ)したり、後方確認をつい怠って急に進路を変えてしまったりすることが含まれる。あなたに悪意はなかったにせよ、やってしまった経験がある人はいるのではないだろうか。また対車両に限らず、歩行者に対しても無意識にそうした行為に及んでしまっていることもあるかもしれない。

“自転車によるあおり運転”として取り締まられる行為(「妨害運転罪」と言う)は次の7つだ。

※以下の写真は、許可を得たクローズドサーキットにて撮影しています。
※写真内の赤いコーンは、道路の幅を表現しています。

①逆走して進路をふさぐ

逆走して進路をふさぐ行為の再現イメージ

自転車は原則として車道の左側を通行することが義務づけられるが、反対側を逆走し、対向の車両の進路を妨害する行為。

②横から幅寄せをする

横から幅寄せする行為の再現イメージ

不必要に相手車両に対して横から幅寄せし、進路を妨害したり威嚇するような行為。

③急な進路変更

急な進路変更の再現イメージ

後続の車両の通行を妨げるようにして急な進路変更を行う行為。

④不要な急ブレーキ

不必要な急ブレーキの再現イメージ

不必要に急ブレーキを掛け、後続の車両の通行を妨害し、威嚇するような行為。

⑤執拗(しつよう)にベルを鳴らす

執拗にベルを鳴らす行為の再現イメージ

相手の車両に意味もなく執拗にベルを鳴らし続け、威嚇するような行為。

⑥車間距離の不保持

車間距離不保持の再現イメージ

前方の車両が停止・減速しても自分が安全に停止・減速できる距離を逸脱し、極端に車間距離を詰めて走行するような行為。

⑦危険・無理な追い越し

危険・無理な追い越しの再現イメージ

前方の車両の通行を妨げる無理な・危険な追い越し行為と、追い越し禁止区間における追い越し行為。

なお先に述べたとおり、これは対車に限ったことではなく、対モーターサイクル、対自転車についても該当する。なので、例えばライド中にたまたまスピードが合ってしまった先行の自転車の後ろを無断でドラフティングして走り続ける行為(スポーツバイク愛好者としては非常にマナーに欠ける行為とされる)も、妨害行為として認められうるのだ。

“自転車によるあおり運転”再現ムービーもチェック

※撮影は許可を得たクローズドサーキットで行っています。
※映像内の赤いコーンは道路の幅を表現しています。

au損保による興味深いアンケート結果

記事冒頭でも紹介したが、自転車向け保険を展開するau損保が2020年10月に実施した「自転車のあおり運転に関する調査」によると、全国の車両運転者(車・モーターサイクル・自転車)のうち、自転車によるあおり運転を見たことがあると回答した人は全体の23.1%とおよそ5人に1人の割合に、さらに自身が自転車によるあおり運転を受けたことがあると回答した人は13.9%とおよそ7人に1人の割合にも上った。

この調査で収集した一般の体験談によると、「ロードバイクに乗った人から風よけのために後ろにぴったりとついて走られた」「急ブレーキを掛けられた」「フラフラと蛇行運転をされた」といったものがあった(一般の体験談については、こちらのサイトで確認できる)。

とかく自転車は交通弱者と捉えられがちだが、一方で相手車両から“おあり運転をしている”と捉えられることもあるということが重要なポイントだろう。

ロードバイクを中心としたスポーツバイクに乗っていると、ついつい前方を走る車かモーターサイクルに近づいて走ってしまうことがある(先述のとおり自転車に対してもだ)。また、よく後ろを確認しないまま大きく進路変更をしてしまったり、道路の中央付近にふらついてしまうこともある。もちろん、意図してそれをやるのは言語道断であるが、意図せずもやってしまい、相手はそれが“あおり運転を受けている”と認識することがあることを、我々は理解しなければいけないだろう。

スポーツバイクのプロに見解を仰ぐ

ここまで、“自転車によるあおり運転”について述べたが、一方で自転車に乗っているときは車からあおり運転を受けることもあるだろう。そんなとき、我々はどう対処すべきか。また、“自転車によるあおり運転”についてどう考えたらいいのか。元プロロードレーサーで、現在は一般の自転車乗り向けにサイクリングプログラムの指導やライドイベントを主催する、リンケージサイクリング代表の田代恭崇さんに話を聞いた。

田代恭祟さん。元プロロードレーサーで、現在はリンケージサイクリング代表を務める

「今回の“自転車によるあおり運転”の罰則規定は、自転車利用者による極端な妨害行為を対象にしたものだと思われます。

そもそもの基本として、車も自転車もどちらも車両であり、公道というみんなで平等に使えるもののうえにおいては、法律上同じ立場にあります。ところが、日本は車社会なので、どうしても車の交通が優先であるという認識になってしまう。自転車が法律上は何ら問題のない通行方法をしていても、それが車中心の視点からすると問題視されることも多いんです。まずはそれを念頭に置く必要があります。

とはいえ、自転車に乗っていて車からあおり運転を受けたり、自らがおあり運転をしていると思われてしまっては仕方がありません。そのためには、自らの身を守るための走り方を心がける必要があるでしょう」と田代さん。その方法とは?

「第一に、車道の左側通行を徹底し、ふらつかずに走行する技術を身につけることです。法律上の観点からすると、多少ふらついていようと車が安全に自転車を追い越す義務があるので何ら問題はないのですが、実際、そうはいきません。」

車道左側の適切な位置を走行し、ふらつかずに走る

「第二に、走るコースを選び、自転車専用通行帯、ナビマークをしっかりと走ることです。」

自転車専用通行帯と自転車ナビマーク

「第三に、信号などで停車している車の前に、不必要に左側から通行して出ていかないことです。これも、法律上は問題はないと解釈するのですが、結局信号が変わってからまた車に追い越されてしまうことが多いので、車との軋轢(あつれき)を生みやすくしてしまうのです」と田代さん。これによって、自分が相手をあおっていると受け取られる、あるいは相手が自分をあおっているかのように受け取ってしまうかもしれない。

信号待ちなどで停車している車の左から前方へ出ずに待つ

「最後に、発進時にしっかりと後方確認をすることです。発進時に限らず走行時もそうですね。しっかりと後方を確認することで、車のドライバーに対して後方に注意を払っていることを訴える効果もあります。」

後方確認

なるほど。これだけ注意していれば、あおり運転を受ける可能性は少なくなりそうだ。また、自分が他の車輌に対してあおり運転をしていると思われてしまう可能性も、小さくできそうだ。

しかし、そうはいってもやはり悪質なあおり運転を受けてしまう可能性はゼロにならない。もし自分がそうした行為を受けたとき、どう対処したらいいのだろうか?

「最も心がけることは、車道上であおり運転をしてきた相手に面と向かって対応しないようにすることです。絶対に相手にしてはいけません。」

あおり運転を受けても相手にしないこと

「どんなに理不尽な行為を受け、頭に血が昇ったとしても冷静になり、相手にしないことが大切です。相手にしたところで、何のメリットもこちらにはありません。へたをすると、命の危険もあります。

そのうえでおすすめの対処法は、すぐさま停止して歩道上に退避するなど、車が容易に進入できない場所へ逃げることです。もし歩道がない道路なら、民家と民家の隙間や田んぼの中などに逃げ込んでも構いません。そこまですれば、相手が追って来ることもないでしょう。」

歩道上への退避

まずは“冷静になる”、そして“車が入れない場所へ避難する”。参考にしたいところだ。

万一にあおり運転を受けたとき・自分が加害と疑われたときに役立つアイテム

車とモーターサイクルの場合は、トラブルや事故などの状況を明確にする・自分があおり運転をしたと加害が疑われたときに正確な情報を得るために、ドライブレコーダーが証拠として役立つ。では、自転車の場合はどうだろうか? あおり運転を受けない、あおり運転だと認識されないための走り方を心がけるのは大前提だが、そのうえで万一のときに役立つ、自転車ならではのアイテムについて考えてみよう。

一つ目は、小型のアクションカムを活用することだ。さまざまな用途に使える人気のモデルを、ドライブレコーダー代わりに活用する方法が考えられる。

小型アクションカムをドライブレコーダー代わりに使う例

画質を落とせば1時間弱は余裕で録画を続けられる製品が多いので、例えばスポーツバイクによる通勤時でも十分に持つだろう。短時間のライドでも活用できる。

二つ目に、自転車用のドライブレコーダーを活用することだ。専用品の購入とはなるが、テールランプを兼ねた製品も発売されているので、活用してみるのも良いだろう。

サイクリック・フライ6 リアライト/カメラ/Gen3(2万2727円・税抜)。テールランプとドライブレコーダーを兼ねた製品だ。問:インターテック

三つ目に、GPSレコーダーの活用が挙げられる。より正確な証拠を提出するためにはGPSの記録が有効になる。スマートフォンでGPSレコーダーアプリがいろいろと出ているので、そちらも併用してみるのが良いだろう。最近のスマートフォンは衛星即位サービスによるGPS補正に対応し、正確な情報が記録できるものが多く出ているので、そうした機種を選び、各種GPSレコーダーアプリと組み合わせて使ってみると効果的だろう。

車も自転車も同じ車両であるという認識を持つ

最後にまとめを。田代さんが指摘していたが、車(モーターサイクルも含め)も自転車もどちらも法律上は同じ車両に位置づけられ、同じ公道をシェアしている立場であることを、しっかりとそれぞれの運転者は認識する必要があると思う。

公道とは本来、自動車も自転車も、そして歩行者も、利用する人がルールとマナーを守って使わなければならないものだ。お互い、自らの行為が“あおり運転”として相手方に認識されうることを肝に銘じ、また相手から(自分に法律上の非はないにせよ)あおり運転を受ける原因となるような行為をしないように心がけることが大事だろう。