ツール・ド・フランス2026開幕地バルセロナからお届け。〜地中海の国々を巡るツーリング〜【天星の欧州自転車周学 その9】
目次
二十歳の自転車旅人・中村天星さんが、欧州の自転車の道「ユーロヴェロ」を巡る旅の連載シリーズ。今回は、ツール・ド・フランス2026の開幕地、スペイン・バルセロナからだ。
第9回では、スペイン・バルセロナから「周学の旅」をスタート。ムンジュイックの丘で息を呑む絶景を堪能し、美術館やグエル邸を巡ってガウディ建築の世界に触れた。また、街中ではサイクリングレーンを走りながらバルセロナの自転車文化を体感し、盗難対策やレンタルバイクの便利さも実感。さらにフランス南部まで足を延ばし、海沿いの道や歴史ある街を自転車で駆け抜ける充実の数日間を過ごした。
日々の旅の断片はインスタグラムでリアルタイムに発信している。
この記事は普段なかなか旅に出られない人にとって、スクロールをするたびに異国の風を切り、海外の道を走っているような疑似体験を。そして、いつか旅に出ることを夢見る旅人にとっては、理想と現実を繋ぐ実用的な道標となることを願って書いている。
2/21 バルセロナ到着 — 自転車と共に辿る絶景の丘
ついにスペイン・バルセロナに到着した。
モロッコから再びスペイン・アルメリアに戻り、約2週間で1150kmを走破した道のりだった。途中、暴風でテントが立てられず寝れない夜もあれば、途中でサイクリストが家に招待してくれる幸運もあったりと、旅はまさに塞翁が馬の連続だった。
今年のバルセロナはサイクリストにとって非常にアツい場所だ。なぜなら今年の7月から行われるツール・ド・フランスはここから開幕するからだ。第1ステージは市内の有名スポットを通過する。
市街地に着いた後、まずはムンジュイックの丘へ向かった。この丘は第1ステージ、レース終盤の重要な上り坂で自分でも上ってみたかったからだ。
実際、自転車で登るにはかなり厳しい道のりだった。坂道は急で、体力を消耗した。道はグネグネと曲がる。しかし、丘の上から望む地中海の青い海とバルセロナの街並みを一望した瞬間、「来てよかった」と心底思った。もし登坂が厳しければ、バスでのアクセスも可能だ。
ムンジュイックの丘の後は、街中のレンタルバイクショップ「Bike & Motos Rent Mattia46」に自転車を預けた。これまで美術館や博物館に自転車で訪れる際、駐輪場に置くことが多かったが、常に盗難の不安がつきまとっていた。バルセロナは特に自転車盗難が常習的な街である。そんな中、安全に預けられた瞬間、心がふっと軽くなった。
オーナーは非常に親切で、通常40ユーロかかる4日間の預かりを、荷物込みで30ユーロにしてくれた。「大きな荷物でも大丈夫。」と言ってくれたその安心感は、美術館での鑑賞体験に直結する。明日からメノルカ島へ飛ぶため、ここで自転車を預ける必要があったのだ。LCCで自転車を積むと高額になるため、時間を優先してフェリーは今回は選択しなかった。
荷物を預け、心が軽くなった状態でカタルーニャ美術館を訪れた。広大な館内は3フロアに分かれ、1階がローマ時代、2階が中世、3階が近代・モダン美術の展示である。展示はスペイン・カステーラ地方を中心に、キリスト教美術やローマ時代の遺物など多岐にわたる。特筆すべきは、視覚障害者向けの設備が整っていたことである。オーディオガイドや手で触れられる展示があり、誰もが芸術に触れられる工夫に感銘を受けた。
美術館見学後はバスでバルセロナ空港へ。市営バス2.5ユーロと直通バス7.5ユーロで3倍近く差があるため注意が必要だ。「市営バスに乗ろう」と自分に言い聞かせ、19時過ぎに空港に到着。オンラインチェックインを済ませ、翌朝のフライトに備える。
メノルカ島からバルセロナへ — 朝のライドと再会
2日間メノルカ島を満喫。メノルカ島に住んでいるJonoさんとユミコさんのところに2日間お世話になった。
美しい地中海で行ったシュノーケリングやパドルは非常に楽しく旅が日常になりつつあった僕にとって刺激的な時間だった。この楽園にもう少し滞在したいと思いつつもバルセロナへのフライトに向かう。朝早いにもかかわらず、2日間お世話になったJonoさんたちは空港まで送ってくれた。「本当にありがとう」と何度も感謝を伝えた。さらにユミコさんが朝ごはん用におにぎりを作ってくれており、久しぶりの米の味に思わず「甘い」と感じた。1か月間米を食べていなかったせいか、ひと口で心がほっと落ち着いた。
バルセロナ到着後、レンタルバイクショップで3日間預けた自転車を回収。無事そのまま戻ってきた。「やっぱり安全に預けられるって大事だな」と改めて実感する。2日間離れただけなのにすごく新鮮な気持ちで旅が再開できた。
自転車を受け取った後は、バルセロナの宿「360 Hostel Barcelona」に向かいチェックイン。ここは価格が安く、ドミトリーだが快適。さらに夕食が無料で、宿泊者同士が自然と交流できる環境になっていた。この日はメキシカンな夕食で「めっちゃ美味しい!」と笑顔で話す旅仲間もいた。
荷物サービスも充実しており、滞在中はもちろんチェックイン前12時からとチェックアウト6時までは無料で荷物を預かってもらえる。盗難の多い街で自転車旅者には大きな安心感となった。
チェックインを済ませて世界遺産サグラダ・ファミリアの見学へ。
ここの前をツール・ド・フランス第1ステージは通過する。外観の彫刻の密度と内部の空間の清涼感の対比に息を呑んだ。今年完成したばかりの教会の真ん中に立つ一番高い中央の塔「イエス・キリストの塔」を含めて今年のツール・ド・フランスをバルセロナで現地観戦する人はぜひサグラダ・ファミリアも見学してみてほしい(オフシーズンの今ですら入場チケットは売り切れ続出なので早めに事前予約しよう)。
グエル邸と街中サイクリング — ガウディの挑戦と自転車文化
この日はグエル邸を訪れ、ガウディ建築の多様性に触れた。館内には牛骨や黒鉛など、通常の建材では見られない素材が使われており、歩くたびに発見がある。「ここまで実験的なのか」と感心した。
午後はバルセロナ市内を徒歩と自転車で散策。街中にはサッカーショップが軒を連ね、生活に根付く文化を肌で感じた。サイクリングレーンも主要道路沿いに整備され、自転車が街に自然に溶け込んでいる。「これは走りやすい!」と笑みがこぼれた。
ただし、盗難リスクは高い。市内の駐輪場には頑丈なロックがついた自転車が多く、それでも油断は禁物だ。文化の発展と盗難リスクが比例する、街ならではの課題を実感した。
夜はバルセロナ在住のサイクリスト宅に宿泊。長旅で疲れた体をゆっくり休め、翌日から北上してフランスを目指す準備を整えた。
スペイン→フランス — 国境を越えるライド
バルセロナを出発し、フランス国境付近のジローナ州で小さな町のスーパーに立ち寄る。レジでは「やあ(オラ・Hola)」と挨拶が始まり、まず聞かれるのは「袋はいる?(ボルサ?・¿Bolsa?)」「いりません(ノ グラシアス・No Gracias)」と丁寧に答えると「ありがとう(メルシー・merci)」と返された。まだスペインだが、フランス語が自然に混ざる地域の文化を感じた。
その後、フランスに入国。
沿岸沿いはアップダウンの多い地形で、ここまで回ったイベリア半島の旅を振り返る。
モロッコにも渡り、乾いた空気と低木の風景が印象に残った。
フランスではホストの家で布団に包まれ、旅の疲れを癒す。「やっと安心して眠れる」と胸を撫で下ろした。
国境を越えても、グローバルWi-Fiはスムーズに切り替わり、旅情報もストレスなく入手できた。自転車旅での情報インフラの重要性を改めて実感する瞬間だった。
モンペリエ — トラブルも自転車文化も
フランス・地中海の港町モンペリエに到着。サイクリング中にバックの中でオリーブオイルスプレー缶が漏れて、テントやマットが油まみれになるトラブルに直面。
しかし、今日止めさせてくれたホストが石鹸やブラシ、温かいお湯を提供してくれたため事態は収束。「助かりました、本当に……」と思わず感謝。
連泊して翌日は地元自転車屋でチェーン交換。スウェーデンで一度交換しただけで約1万km以上使い続けたチェーンを更新する。「やっと交換できた」と胸を撫で下ろす一方で「長い間交換できなくてごめん…」と相棒の自転車に謝る。チェーンの購入ついでに店内を見学すると日本の自転車屋との違いに驚く。

多くのツーリング・バイクパッキングブランドが。旅で僕が愛用し続けているOrtlieb(オルトリーブ)はもちろん、ヨーロッパのサイクリストがOrtliebに次いでよく使っているVaude(ファウデ)、バイクパッキングのTopeak(トピーク)やRestrap(リストラップ)も。日本では売られていない製品もあり、思わず買うところだった
店内にはツーリング向けのeバイクや高品質バッグが並び、生活と旅に寄り添う自転車文化を肌で感じることができた。
帰宅したのち、ヘレンさんにフランスの自転車需要について尋ねると
「コロナ後から40代以上でeバイクの需要が急増しているね。もちろん値段も高いから生活に余裕のある人たちだけど。私みたいに定年退職した後に時間とお金があるけど足腰が不安で遠くに行けなかった人たちにとって『不可能を可能にする』自転車なのよ。だから若い人たちはあなたのような非電動の自転車でツーリングをしてる人が多いわ」
と教えてくれた。
アビニョン・マルセイユ・カンヌ — 歴史と現代の街を走る
世界遺産の街アビニョンでは中世の城壁に囲まれた旧市街を走り、教皇庁の重厚さに圧倒される。「中世の空気を感じるな」と自転車を押しながら思う。
マルセイユはフランスで2番目の経済を誇る街と言われ港町特有の活気が特徴的だった。
しかし街中の自転車レーンは少なく、ユーロヴェロ8(地中海沿岸ルート)では迂回するよう設計されていた。
カンヌでは港のヨットやセレブリティ文化を横目に、街中をサイクリング。馬に乗る警察官を見かけ、「まるで映画の一場面だ」と思わず笑った。
ニース — 文化と人々に出会う自転車旅
ニースではホスト宅に自転車を預け、市内の美術館巡りを楽しむ。シャガール美術館は偶然入場無料で、ゆっくりと作品を堪能できた。帰宅すると日本語で書かれた歓迎ポスターが。「こんばんは、ようこそ」と書かれた文字はホストファミリーの子供たちが学校から帰ってきた後に用意してくれたのだという。異国の地でも歓迎される喜びを感じた。
子供たちと折り紙で遊び、「やりたい!」と笑顔で言う姿に、旅先での文化交流の楽しさを再確認した。
1日で3カ国 — フランス・モナコ・イタリアを走破
ニースを出発し、世界で2番目に小さな国モナコを経てイタリアに入国。1日で3カ国めぐる珍しい旅となった。そして夕方ジェノヴァに到着。モナコは高級車と高層ビルが立ち並ぶ国土が狭い国で、30分ほどで走破できた。「貧乏旅人には無縁の場所だな」と苦笑い。
ジェノヴァではホストのアレン宅に宿泊。彼は美術家で、自宅に作品が飾られ、旅人をインスピレーションの源として歓迎している。「自分の家が誰かの旅の役に立つなら嬉しい」と語る言葉に心打たれた。イタリアのワインやチーズについてやペストジェノベーゼの作り方も教わり、自転車旅の合間に文化と味覚を存分に楽しんだ。
今回のヨーロッパ自転車旅では4カ国を絶景の丘陵、盗難対策、文化交流、歴史街道、現代都市の自転車事情、そして出会い、様々な体験が交錯した。自転車という移動手段が、ただの交通手段ではなく、文化や人とのつながり、街の魅力を感じるためのツールであることを実感した旅だった。
次回はEuro Velo5「Via Francigena」へ。イングランド・カンタベリーからイタリア・ローマまで、ヨーロッパを北から南に縦断する1000年以上の歴史を持つルートだ。
道中は紀元前のローマ時代の建物からキリスト教の重要な教会が多く見られるらしい。今からどんなことが起こるか楽しみだ。





































