新連載【工具1本からはじめる!自転車メンテ】第1回「六角レンチ」
目次
一つの工具から広がる自転車メンテナンスの世界。大阪のプロショップの名物スタッフ・タカハシ氏によるプロの視点で、基礎作業を丁寧に解説。「仕組みを知って自分で触る」という自転車メンテの楽しさを伝えます。
はじめに
ここ数年、世の中は「物価上昇」という流れの中にあり、その流れの影響はこれを読んでいる人も、これを書いている僕自身にとってもお財布事情に厳しい現実となっている。なんとか自転車を買っても、整備にかかる費用も決して安くはない。少しでも費用を安く済ませたいと思うのは誰しも考えるもので、「自分で作業してみよう!」というチャレンジ精神にも火が灯る人も多いだろう。
僕自身も、10代の頃にロードレース競技を始めたため、常に金欠であり、自分でタイヤを交換したり、バーテープを巻いていたところ、それを見た自転車屋のスタッフさんから「ちょっと働いてよ」と声をいただいたのが自転車屋人生の始まりだった。
前置きはさておき、この連載ではこれからDIYに挑戦する人のために、よくある失敗や小さなコツを伝えていきたい。セルフメンテナンスのための道しるべとなれば幸いだ。もしこの連載がきっかけで自転車整備の面白さに気づく人が増えてくれたら嬉しい。あわよくば、僕のように自転車屋の仕事についてみようかなと思う人が増えてくれたら尚嬉しい。

高橋 真吾(タカハシ シンゴ)
所属:Movement(大阪・天王寺)& Dugout Cycleworks
東京都出身。大阪のプロショップ「Movement」の名物スタッフであり、実業団ロードレースの経験に加え、マニアックなパーツ知識やクロモリ系バイクなど幅広い造詣を持つ。今後は自身の事務所での活動も展開予定
第1回の工具「六角レンチ」
第1回ということで、やはりこれだろう。世の中に多くの自転車がある中で、特にスポーツサイクルカテゴリーでは必ず使用するのが六角レンチ。あまり整備に馴染みのない家庭では、プラスドライバーやマイナスドライバーが一般的だが、自転車メンテではそれらよりも圧倒的に使用頻度が高いのが六角レンチだ。
言葉にしてみれば「六角レンチで締めるだけ」であるが、意外な落とし穴があることは念頭に入れておきたい。
早速トライ! まずやってみるのにオススメの箇所は?
工具の扱いに慣れていない人が初めての作業としてオススメなのは、サドル交換やボトルケージの取り付け。
完成車を手にした時に、多くの場合はボトルケージは付属していないため後から取り付ける人が多い。2本のネジで完結するためトラブルが少なく、初めての作業としてやったことがある人も多いだろう。簡単に手順を紹介していく。
1.六角レンチで緩める
まずはボトルケージの部分のネジを緩める。
2.ボールポイント側に持ち替えて素早く取り外す
家でやる時は素早くなくても大丈夫。丁寧に作業しよう!
3.ボトルケージを取り付ける
この際、ネジがスムーズに回っていくことを確認しながら締めること。ネジが斜めに入り、ネジ山を潰してしまうことがある。
4.締め込み
仮付けまではボールポイントで早回しをしてもいいが、最後の締め付けは必ず六角側で行う。ボールポイントではネジがつぶれたり、力がしっかりかからないため、力をかける使い方はNG。
5.適正トルクで締める
ここが難所である。適正トルクの記載がない場合も多く、これを読んでいる人はトルクレンチを持っていない人も多いだろう。最近のロードバイクはアルミボルトが採用されていることが多く、2〜3Nmでの取り付けが一般的で、ネジ側も最大4Nmあたりであることが多い。
オススメの締め方は、レンチのL字のあたりを指で持ち、指の力だけで締めるぐらいの感覚であればオーバートルク(締めすぎ)は避けられる。腕ごと動かしてしまうと、締めすぎになりやすいので注意。六角サイズが小さいネジほど傷めやすいので意識しよう。
6.ワンポイント
上記のように、ボトルケージの締め付けトルクは自転車の中でも高くない部類に入る。しかしながら、ドリンクを積載すれば500ml以上の重さがかかり、走行中の振動と相まって緩みやすいネジのひとつ。1~2か月に1度は「緩んでいないかな?」とチェックするのが好ましい。走行中にボトルケージのネジが外れ、漕いでいるクランクと当たってしまいフレームを割ってしまった人もいる。定期的なネジチェックを心がけてほしい!
サドル交換
サドル交換もネジ1〜2本で済むため、自分で作業する人は多い。サドルの角度や位置調整は快適性に直結するため、自分で調整できることは大きなメリットだ。
2本締めタイプは比較的よくあるトルクで、5〜8Nmあたりが多い。自分が使用しているトムソンのシートポストでは6.8Nmが推奨されているが、軽量タイプでは5.1Nmと指定されることもある。メーカーごとに指定値は異なるため、必ず確認してから作業しよう。
中でも紹介しておきたいのが1本締めタイプのシートポスト。
例えばNITTO(日東)のS65シートポストでは指定トルクが16〜18Nmとなっているが、これは自転車整備の中ではかなり強い部類だ。
実際にセルフ作業ではこのトルクに達していないケースも多く、サドルが徐々にズレてしまう原因になる。「強すぎるのでは?」と感じる数値でも、指定値であるなら正しく締める必要がある。
良い工具、悪い工具?
六角レンチといっても100円ショップで買えるものから、1本で数千円という高級なものまである。まだ六角レンチを持っていない人が選ぶとしたら何がベストか考えてみた。
安かろう悪かろう、コストを下げた製品には理由がある。六角レンチの場合、最大の違いは精度だ。
精度が悪いとボルト穴との隙間が大きくなり、面で噛まず、ネジをなめやすい。ネジ側の精度もまちまちなので、せめて工具の精度は確保しておきたい。
工具の材質も異なり、柔らかすぎる工具もある。工具が柔らかいと、トルクをかけたときにしなりが出てしまい、適正トルクの感覚がつかみにくい。
ネジをなめる原因の多くは、実は工具側にある。慣れていない初心者こそ質の良い工具を使ってほしい。
ホーザン・W-110セット
初めてでも手を出しやすい価格、安定した精度、適度な硬さというバランスから、ホーザンのW-110セット(4345円)をおすすめしたい。1.5〜6mmまでの7本セットで、自転車整備の多くをカバーできる。
なお、ペダルの脱着には8mmを使用することが多い。ペダルの取り付けトルクは約35Nmと高トルクのため、8mmは別途用意するのがオススメ。
トルクレンチを使っていたのにボルトが折れた?
今回何度も出てきた「適正トルク」の話。ネジは正直で、回した感触には必ず意味がある。
次回はトルクレンチと「ネジの回り」に触れてみたい。数字で管理する整備と、感覚で感じ取る整備。複雑に絡み合うその境界線を考えてみたい。

























