空気圧センサー内蔵のジップ・303 SWはサイクリストに何をもたらす?
目次
スラムグループのホイールブランド・ジップ。
303シリーズは、40mmハイトクラスの軽さと空力性能のバランスに優れ、上りも平坦もそつなくこなすオールラウンド型のホイールだ。
同シリーズに新たに加わった303 SWは、空気圧をリアルタイムで計測する「AXSホイールセンサー」をリムに内蔵するモデル。
ホイールとしての実力や使い勝手を旧世代の303を長年愛用してきた自転車ジャーナリストの浅野真則がチェック。内蔵された空気圧センサーの機能やこのデバイスの持つ可能性も考察した。
ジップが誇る万能ミドルハイトホイール303にAXSホイールセンサーをプラス
ジップ303シリーズは、軽さと空力性能のバランスに優れた40mmハイトクラスのミドルハイトホイールだ。
かつては202というリムハイトが低い超軽量クライミングホイールがあったが、現在は303シリーズがジップのロードバイク用ホイールの中では最もリムハイトの低いホイールとなった。
ラインナップとしては、エントリーモデルの303 S、上級モデルの353 NSW、そして今回紹介するAXSホイールセンサーを内蔵する303 SWがある。いずれもフックレス方式のカーボンリムを採用するが、303Sはリム内幅が23mmなのに対し、353 NSWと303 SWは25mmとワイドになっている。
●ホイールスペック
価格:18万3200円(フロント)、20万円(リヤ)
リム材質:カーボン
規格:チューブレスレディ、フックレス
リムハイト:40mm
リム幅(内/外):25mm/33mm
対応タイヤ幅:29-44mm
最大空気圧:73psi/5bar(29c)※タイヤ幅によって変わる
フリーボディ:スラムXDR/シマノ(カンパニョーロ10-12SおよびN3W用は別売)
重量:1440g(前後ペア、XDRフリーボディ仕様、リムテープ・バルブ込み)
●部分をチェック
ロードだけではないという意味で本当のオールラウンダーに進化
筆者はリムブレーキロードに乗っていた15年ほど前からチューブラー仕様の303を長く愛用していた。
かつての303シリーズと言えば、どちらかというと軽さが武器で、適度なリムハイトで空力性能も悪くなく、ロードレースからヒルクライムまであらゆるレースでオールラウンドに使えるホイールという印象だった。
今回303 SWをはいて思ったのは、「自分の知っている古い303と比べて、全体的にとがったところがなくなって扱いやすくなった」ということだ。
少なくとも軽さを売りにするようなホイールではなくなった。
1440gというペア重量は、40mmハイトクラスのチューブレス仕様のディスクブレーキ用ホイールとしては特別軽いわけではない。
ただ、重く感じるのはゼロスタートの時で、一度回り出すと2踏み目からは軽くブーストがかかったかのように回り始め、脚を止めたときの失速具合も昔の303と比べて緩い気がする。
下りから上りに切り替わるようなところでも失速しにくいので、下りのスピードを生かして惰性で上れる区間が長く、レースやロングライドでも足を温存しながら走れそうだ。
これは空力を追及したリム形状やリム表面のディンプル加工、前後とも20本という少なめのスポーク本数の相乗効果なのだろう。
リムハイトも絶妙な高さで、必要十分なエアロ効果を持ちながら、強い横風にもハンドルを取られにくい。
この季節に多いコーナーの途中での横方向からの突風にも挙動を乱されることはない。
リムがある程度重いからか、太めのタイヤを履きこなせるからか、安定感や安心感があるのだ。
とはいえ、さすがに50mmハイトクラスのホイールと比べると時速40kmを超えるような高速域ではやや伸びに欠けるし、長い上りはさすがに超軽量ホイールのように1枚思いギヤが踏めるほど軽快に……とはいかない。
それでもなぜか走っていて気持ちいいのだ。
気持ちよく走れる理由は、リム幅の広さと太めのタイヤとの相性の良さにあると見ている。
303 SWは、内幅25mmのカーボンリムを採用し、35mm幅のタイヤに最適化した設計がされている。
試乗ホイールについてきたのは、グッドイヤーと共同開発され、ジップの現行モデルのホイールに最適化したグッドイヤー・ベクターR Z30。
ジップのホイールに装着したときに30mm幅になるように設計されていて、見た目はかなり太く感じるが、実際に走ってみるともう少し細いタイヤのような軽快さがある。
AXSセンサーで空気圧を適正に合わせれば、乗り心地の良さと軽快さ、グリップ力を高い次元で実現してくれる。
車に例えるなら高級スポーティーカーのような感じだ。
また、今回は試していないが、40mm幅ぐらいのグラベルタイヤを履かせて、グラベルバイクと組み合わせて使ったら、オフロードでの高い走破性とオンロードでの空力性能を生かした高速巡航性能を両立できて最高なのではないかと思った。
最新の303シリーズは、ロードレースの世界だけでのオールラウンダーではなく、ロードからグラベルまで幅広く使える本当の意味でのオールラウンダーになったのだと思った。
端的に言うと、「あらゆる路面で気持ちよく速く走ること」を目指したホイールなのではないか。
これはロードバイクのディスクブレーキ化が進み、エンデュランスロードやグラベルバイクなどの多様化が進んだことに対するジップの回答なのだろう。
AXSホイールセンサーはわれわれに何をもたらすのか?
303SWの目玉は、ホイールに内蔵されたAXSホイールセンサーだ。
空気圧を測るセンサー自体はスラムブランドでMTBの外付けがすでに出ているが、センサーの本体がリムの外側に露出していて決してスマートとはいえなかった。
ジップではこのホイールと353NSWにAXSホイールセンサー搭載モデルを用意しているが、これらのホイールでは、カーボンリムの中にAXSホイールセンサーが内蔵されていて、すっきりとクリーンなルックスなのが魅力だ。
もちろん空力性能にも影響しないのもいい。
センサーという重量物が、ただでさえ重くなりがちなバルブ側につくことでホイールバランスが崩れていないか不安だったが、その点は心配無用だった。
バランスの悪いホイールは高速域になると縦揺れを起こすが、それが一切なく、挙動もこの重量のほかのホイールと変わらない。
少なくともセンサーの走行性能への悪影響は感じられなかったし、走行中にセンサーの存在を意識することもなかった。
きっとどこかでバランスをとっているのだろう。
AXSホイールセンサーにはチューブレスバルブがついているが、このバルブを外せばインナーチューブを使用することもできる。
ただしセンサーを作動させるにはホイールに同梱されている専用TPUチューブを使用する必要がある。
この専用チューブはバルブにAXSホイールセンサーに空気を通すための穴が開いており、ほかのホイールに組み合わせて使うことはできない。
また、1本6000円ほどとかなり高価であり、チューブは消耗品だと考えると、AXSホイールセンサー付きホイールはチューブレスで運用するのが良さそうだ。
AXSホイールセンサーでできることは、空気圧をリアルタイムで計測することだ。
スマートフォンの専用アプリ「SRAM AXS」でライダーの体重やバイク重量、路面コンディション、タイヤの種類、リムの種類などを入力すると推奨空気圧が出て、適正空気圧の範囲にあるかどうかを表示できる。
空気圧のデータは、ガーミンなどの対応サイクルコンピューターに表示することもでき、ライドデータに空気圧データも記録される。

SRAM AXSアプリをインストールしたスマートフォンで、空気圧を一発でチェックできる。また、AXSホイールセンサーのLEDからも、適正空気圧の範囲内にあるかを確認可能(緑点滅:適正空気圧、低速の赤点滅:推奨空気圧より低い、高速の赤点滅:推奨空気圧より高い)。アプリを開かず判断できるので、出発前の慌ただしいときには便利だ
空気圧は走行前にエアゲージを使えばわかるが、AXSホイールセンサーは走行中でもリアルタイムに空気圧が把握できて、走行ログにも記録されるところが異なる。
走行中に空気圧がわかることのメリットとして考えられるのは、スローパンクをいち早く検知できることだろう。
いつもより走りが重いと感じたときに、自分が調子が悪いだけなのか、スローパンクしているのかを走りながらでも判断できる(チューブレスだとシーラントが漏れるので走行中にもスローパンクを把握できることもあるが……)。
あるいは、走行後にライドデータを見て、路面コンディションと空気圧、パワーやスピードの相関性を見て、「走った場所の自分にとっての適正空気圧」がわかる——というのが想定される使い方だろう。
個人的にはロードバイクよりグラベルバイクでこのような機能を活用できる場面が多いのではと思う。
だが、今のところ走行中の空気圧データがわかることが本当に必要かと問われると「ちょっと微妙ではある」というのが個人的な意見。
データがわかるだけであり、空気圧を適正に調整するには、結局バイクを降りてポンプで空気を充填する作業が必要だからだ。
個人的には小型の電動ポンプとエアセンサーをリムに内蔵し、走行中にタイヤに空気を入れられるようにして空気圧調整が走りながらできるようになると魅力が増すと思う。
特にグラベルライドでは、複数のグラベルを舗装路でつなぎながら走ることが多く、グラベルと舗装路では最適な空気圧が異なるため、グラベルに入る前に空気圧を下げたり、グラベルが終わったら空気を補充したりしていた。
これが走りながらできるとしたら、グラベルライドがシームレスにストレスなく楽しめるようになる。
ドロッパーシートポストのように、ハンドルバーに取り付けられるスイッチやシフターのスイッチで空気を充填したり抜いたりする操作ができるようになると最高だ。技術的には可能なのではないか?
僕が描いた未来予想図は実現するのか?
ジップが今後どのような手を打ち、サプライズを提供してくれるのか楽しみに待ちたい。




















