フランス〜ルクセンブルク〜スイス【天星の欧州自転車周学 その4】

目次

二十歳の自転車旅人・中村天星さんが、欧州の自転車の道「ユーロヴェロ」を巡る旅の連載シリーズ。第四回はフランスを中心にルクセンブルクとスイスを巡った9月21日〜10月17日までの1か月間の旅を振り返る。

前回はこちら

 

この1か月はとにかく山上り。スイスのアルプスやジュラ山脈はもちろん、フランス東部も丘陵地帯が広がる。先月の旅のルートはほとんどが平地の北海沿岸地域だったので余計に山が多いと感じた。一方で人の手が入りずらい山岳地帯だからこそ残っている自然の美しさや雄大さを存分に味わうことができたサイクリングだった。

 

今回のルート

ルートは赤い線で記載

 

今回のルートはこちら。フランス・東部「世界大戦の激戦地」ヴェルダンから始まり、「ヨーロッパの金庫」ルクセンブルクへ。その後再びフランスに戻り、グラン・エスト地域圏からジュラ山脈を越え、永世中立国スイスに入国した。「世界一物価が高いとされる都市」チューリヒから首都ベルンまでアルプスの雄大な自然を堪能しながら、各都市を巡った後、再びフランスへ戻った。

1週間ほどかけて走ったブルゴーニュ=フランシュ=コンテ地域圏は世界的なワインの生産地。ちょうどワイン用ブドウの収穫期。ブドウ畑に囲まれた道を走るとあたりからブドウの爽やかな香りを感じた。

そしてついに今月の目的地リヨンに到着。フランス第2の都市で体験した出来事は「なぜ車や電車が発達しているのに自転車で旅をするのか」「日本では自転車がどこにでもあるし、ほとんどの人が乗れるがこれは当たり前なのか」を考える良い機会となった。

 

7月〜10月にかけて走行したルート

7月〜10月にかけて走行したルート

 

旅を始めて100日を超えた。訪れた国は合計11か国。走行距離は約5000km。長期滞在用のビザも有効化したので安心して旅を続けられる。

日々の詳細な様子はInstagramから発信している。

 

フランス「世界大戦の激戦地」──ヴェルダンへ

ドゥオモン納骨堂前

ドゥオモン納骨堂前。写真に映る無数の十字架。これはほんの一部

 

第一次世界大戦時、進行するドイツ軍とそれを阻止するフランス軍との間で起こったヴェルダンの戦い。300日間で両軍合わせて兵士30万人が亡くなった。しかし今までで発見・埋葬できたのは10万人。20万人は未だ激戦地の山の中で眠っている。

 

ジャン・ポールさんと

ヴェルダンに住むサイクリスト、ジャン・ポールさん

 

ヴェルダンには2日間滞在した。あいにくの雨だったのだが、ポールさんが家に招待してくださり、車でヴェルダンの戦争博物館やドゥオモン納骨堂などヴェルダンの戦争の歴史について教えてくれた。また地元の方が集まるパーティーに呼んでくださり、彼らと文化交流することができた。

恥ずかしいことだが、この地で両国の生存をかけた激戦が繰り広げられていたことはヴェルダン近くに来るまで知らなかった。しかし、毎日さまざまな場所でフランス人たちと会話をする中でヴェルダンを通過するという話をすると、「時間があるなら見にいってほしい」と皆が口にしていた。

彼らにとって極東の日本からやってきた若者に自国の「戦争」について知ってほしいと思ってのことだろう。

ヴェルダンはフランス東部にあり、ドイツの国境に近い。ドイツとはヨーロッパ連合という結びつきがあるが、常に一定の緊張感がある。

島国であり、他国と隣接しない日本で生まれ育った僕にはなかった感覚だったが、国際化が進む中で多くの日本人が理解しなくてはならないことの一つだと感じた。

 

日帰り見学「欧州の金庫」──ルクセンブルクへ

フランスからルクセンブルクへ入国

フランスからルクセンブルクへ入国。シェンゲン協定により、ルクセンブルクも出入国の検問所はない

 

ルクセンブルクの面積は約2586km²。東京都より少し大きいくらいの国だ。しかし一人当たりGDPは世界トップクラスで主な産業が金融・銀行・保険などであることから「欧州の金庫」とも呼ばれている。

国内の公共交通機関、バスや電車などはすべて無料でもちろん自転車も乗せることができる。この日は一日雨でサイクリングはほとんどできなかったが、同じ名前の首都、ルクセンブルグで1日観光することができた。

 

再びフランスに戻り、「ドイツ文化が色濃く残る街」──メッスへ

メッス大聖堂

メッス大聖堂。美しい外観とステンドグラスが特徴のゴシック様式の教会。複数回増築がされ、この様式には珍しい翡翠色の屋根が特徴的だ

エリックさんと

メッスで一晩お世話になったサイクリストのエリックさん

 

9/24 メッスにて。雨の中自転車で走行していると自転車の前輪がパンクした。そんなとき、彼らはホストしてくださり、修理に必要な場所を用意してくれた。

パンクの原因はタイヤの側面が石畳にぶつかったようだ。3mmほど穴が開いていた。

 

作業スペース

広々としたスペースのおかげですぐにチューブ交換と修理を完了させることができた

 

フィンランドをスタートしてからここまで5000kmほど。一度もパンクせずにここまで来ることができた。

日本一周時は1万kmほど走って1度もパンクなしだったがそのほとんどは舗装路。

今回の旅は石畳や未舗装路の地域を多く走ったが、5000kmもパンクせずに走れたのは「Schwalbe Marathon Plus(シュワルベ・マラソンプラス)」の圧倒的な耐パンク性能のおかげだろう。今後の旅も愛用していきたい。

 

アルプスとジュラ二つの山脈を駆け抜ける──スイスへ

フランスからスイスに入るために通過した検問所

フランスからスイスに入るために通過した検問所。スイスはEUに属していないが、シェンゲン協定加盟国であるため、国境検査なしで出入国できる

 

10月初旬、スイスは夏の暑さはすでになく、秋真っ只中。東京の気候なら冬の始まりのような気温だった。朝晩は冷え込み、3、4℃になることも多かった。

 

スイスの自転車道の標識

スイス全土に自転車道が張り巡らされている。種類もさまざまでツーリングを目的としたものもあれば、マウンテンバイクのコースなども整備されている

 

Veloland Schweiz(ヴェロランドスイス)と呼ばれる自転車道は、世界でも屈指の整備された自転車ルート網とされ、国家プロジェクトの一環で、ハイキング、マウンテンバイク、カヌー、インラインスケートととも整備された。

赤い標識に白文字でルート番号が明示され、迷うことはほとんどない。また多くの区間で自転車専用または低交通量の道路が使用され、安全にスイスの美しい景観を楽しむことができる。

 

ジュラ山脈

美しい自然が広がるスイス。ジュラ山脈にて

 

また多くの区間で自転車専用または低交通量の道路を使用され、安全にスイスの美しい景観を楽しむことができる。気になった人はぜひ、公式サイトやアプリを確認してみてほしい。

 

破損したトゥークリップ

破損したトゥークリップ

 

スイスを走行中トゥークリップが折れて、革紐を通す部分とつま先を入れる部分に分かれてしまった。応急処置で黒色の結束バンドで繋げたものの今度はそれが足に干渉するようになってうまくペダルを漕げなくなってしまった。

原因は蓄積した金属疲労だと考えられる。引き足の時にこの部分に何度も負荷がかかり、折れてしまったのだろう。

折れた直後はどうしたものかと悩んだが、幸いこの状態でも漕げるし、代えがきくものなので時間があるときに探すことにする。

 

チューリヒ旧市街地

スイス・チューリヒ旧市街地にて

 

比較的新しい建物が多く立つスイスの経済の中心地チューリヒ。一方でこのように美しい旧市街地を保存しており、そのコントラストが楽しめる。

 

リマト川沿いの工房

チューリッヒに流れるリマト川沿いの工房

 

この工房は公共の建物らしく市民なら誰でも使えるとのこと。みたところ設備も非常に整っていて切断、溶接、研磨に塗装とある程度のことはここでできるようだ。試しに折れたトゥークリップを溶接できないか聞いてみたところ形状と素材的に厳しいとのこと。やはり買い換えるしかなさそうだ。

ただしここは世界で最も物価の高い国の中でも物価が高い地域。緊急時以外はここで買うのは控えよう。

 

ベルン

スイスの首都ベルンへ。首都でありながら他の首都と異なりカオス感は全くない。ゴミもなければ、街を歩く薬物中毒者、路上生活者もいない

 

中世の街並みが残る美しい市街地ベルンはユネスコの世界遺産に登録されている。他の国の首都はその国の経済の中心地でもあるイメージだったが、首都ベルンは経済の中心でもなければ、人口もスイスで5位と多いわけでもない。しかし、1191年、建設当初から計画的に整備された都市づくりが今も美しく保存されているこの街はスイスを代表する街であり、首都にふさわしいといえよう。

 

道路脇の露店

道路脇の露店、色とりどりで大小さまざまなカボチャが売られている

 

10月上旬のスイスの道を走っているとよくカボチャを売る露店を見かける。スイスはちょうどこの時期がシーズンらしい。そういえばもうすぐハロウィーンなんだなと季節の訪れを日付ではなく景色から感じた。

 

サントクロイス

スイスとフランスの国境付近の街、サントクロイスにて

 

数日滞在したスイスも最後の日が訪れた。ジュラ山脈山腹から見た景色は雄大なスイスの自然を一望できた。朝日は遠くに広がるアルプス山脈から上り、山頂の雪を美しく輝かせていた。

 

行ったり来たりで再びフランスに──ブルゴーニュのワイン畑を駆け抜け、パリに次ぐ大都市リヨンへ

スイスの山々を上り終えるとフランスへは下り坂。速度に気をつけて、下っていく。次の目的地はディジョン。中世ブルゴーニュ公国の首都として栄えたこの街はマスタードとワインの街として世界的に有名。

ディジョンはワイン街道「Route des Grands Crus(グラン・クリュ街道)」の北端に位置し、南北に60km続くこの道をサイクリング。ちょうど収穫期だったのか大勢の人と収穫機見かけた。自転車で風を切りながら進んでいると漂ってくる爽やかな葡萄の香りと美しいワインヤードが楽しめるライドだった。

ワイン街道を抜けると見えてくるのはパリに次ぐフランスの大都市リヨン。ソーヌ川沿いのサイクリングルートに沿って進んでいく。

 

ソーヌ川のサイクリングマップ

ソーヌ川のサイクリングマップ。古代ローマ時代から水運の大動脈として使われてきたこの川は今では地元市民やヨーロッパ人サイクリストに人気のサイクリングロードとなっている

 

10/16 リヨンに到着。リヨンはローマ時代から続くフランスの大都市。

 

フルヴィエールの丘から見るリヨンの景色

フルヴィエールの丘から見るリヨンの景色

 

世界遺産にも登録されているローマ時代やルネサンス期を感じさせる旧市街地や美しい白い大聖堂、ローマ時代の劇場を見学できるフルヴィエールの丘はリヨンならではの景観だ。

 

リヨンの映画博物館

ルネサンス期の建物を利用した映画博物館。リヨンは映画と非常に関わりが深い街だ

 

フルヴィエールの丘までの道のりはかなり急勾配の坂道だったので足がちぎれるかと思ったが、上り切ってから見える景色は格別。美しいリヨンの街を一望できる。

今回はここまで。次回は現在いるフランス東部から西部、大西洋側に位置するボルドーへ進んでいく。その後、次の国スペインへ。ピレネー山脈越えに挑む。

 

この1か月でお世話になった方々を紹介

今回紹介する以外にも毎日大勢の方が僕の旅を応援、助けてくれた。

 

ポールさんと

フランス・ヴェルダンで2日間お世話になったポールさん。
フランス国内やヨーロッパを中心に自転車旅をしている。今の夢はスイスからオランダまで流れるライン川を自転車で辿ること。休日に分割してライン川沿いを旅している

エリックさん家族と

フランス・メッスでお世話になったエリックさんとご家族。
街で自転車がパンクした際に手助けしてくれ、温かい食事と修理用のガレージを貸してくれた。また翌日はメッスの街を案内してくれた。世界中を自転車で旅しており、複数の言語を話せるマルチリンガル。日本語についてとても関心を持っていた

ジョージさん、サビーヌさんたちと

フランス・ナンシーに住むジョージさん(左下)とサビーヌさん(右上)。
雨で濡れた服を乾かし、温かい食事をご馳走してくれた。ドイツ人サイクリストのカップルも滞在していて、彼らはフランスで自転車旅をした帰りだという。 ジョージさんはワインの飲み方をレクチャーしてくれた

レミさんと

フランス・スロッス=ス=サン=テロフのRémiさんとご家族。
家族でマウンテンバイクを楽しんでいる。夕食にキッシュの作り方を教わった。 この日も雨で、凍えていたが、彼らは薪ストーブをつけてくださり、びしょ濡れになった靴や服を乾かせてもらった

フィリップさん家族と

フランス・エピナルに住むフィリップさんとご家族。
ご夫婦でヨーロッパ中をサイクリングしている。地下室にあるワインセラーには数百本ものワインが保管され、中には70年前のものもあった。あたたかい食事とベットを用意してくれた

シルヴィエさん家族と

スイス・クルーに住むシルヴィエさんとご家族。
休暇は家族でヒルクライムに行くのが趣味で、旦那さんは数十年前にスイスチームとしてツール・ド・おきなわに参加していた。スイスでよく食べるというクレープをいただいた。夕食に食べるものでチーズやハムを乗せて食べる、日本でいうおかずクレープのようなものだった

ステファンさんと

スイス・チューリッヒに住むステファンさんたち。
2日間お世話になり、チューリッヒの街を案内してくださった。ご夫婦でグラベルロードに乗り、奥さんは自分がデザインしたグラベルに乗っていた。自転車のメンテナンスをしてくださり、ホイールの振れの直し方をレクチャーしてくれた

アンドレさん夫婦らと

スイス・ランゲンタールに住むアンドレさんご夫婦。
旦那さんの工房でキャリアを改良してくれた。より荷物を安定して固定しやすく、ペダルを漕いだ際に干渉しないように微調整してくれた。夜は彼らの友人たちと食事を楽しんだ。手前の2人はドイツから来たご夫婦で休暇は自転車で旅しているという

エリックさんたちと

フランス・ジヴリに住むエリックさんたち。
ご夫婦で自転車旅をよくしているらしく、旦那さんは子供の頃から自転車が大好きだったらしい。家のガレージには十数台の自転車が並び、普段使い用やツーリング用、旅用など用途に合わせて使い分けているらしい。出逢った翌週も新しい自転車を購入すると言っていた

マシューさん家族と

フランス・ヴェルジッソンに住むマシューさんとご家族。
家族で複数回、1年に及ぶ自転車旅を楽しみ、彼らの活動は映画や、本になる程大きなものだった。ヨーロッパ一周や南米縦断など大きなものばかりだった。彼らの話を聞いていると自分もそこに行きたくなってしまった

オリヴィエさんたちと

フランス・リヨンに住むオリヴィエさんたち。
2日間滞在した。リヨンの街を案内してくれたり、彼がしている大人に向けた自転車講習会に特別インストラクターとして参加させていただいた。なぜ大人が自転車講習を受けるのか、彼らにどんな背景があるのかを知る素晴らしい機会となった

講習の様子

講習の様子。Vélo École (自転車学校)という団体が受講者に向けて自転車のレッスンをしている

 

最後に今月の費用を掲載

1ユーロ=178円 1スイスフラン=192円とする

ありがたいことに今月も多くの方に助けていただいた。宿泊する場所や食事を提供してくださったり、街を案内してくれたこともあった。また道の途中で差し入れをいただいたり、道案内をしてくれたこともあった。特にスイスやルクセンブルクは世界の中でも特に物価が高い国なのでこうした優しさが本当にありがたかった。

旅を始めた当初は自分自身の力で成し遂げたいと思っていたが、こうして多くの方と出会う中で自分の考え方が変わる出会いも多くあり、自分よがりの旅でなく、多くの人と交流してお互いに良い印象、相手の国の人からも「会えてよかった」「日本人って素敵だな」と思ってもらえるように今後も活動したいと思うようになった。

・食費 約1万4000円
(一晩お世話になった際に夕食と朝食をご馳走してくださる機会が多く、この値段に。実際は安く済ませてもこの値段の5〜6倍はすると思っておいてほしい。)

・宿泊費 0円
基本は野宿だが、幸運にもほぼ毎日どなたかが家にご招待してくださった。旅をしているとこのような機会があるが、あくまで一般のご家庭にお世話になっているということを忘れてはならない。ホテルのように過ごすのではなく、なぜ相手がホストしてくれているのか考えて過ごすべきだ。実際過去にお世話になった際、疲労と体調不良でホストと交流ができなかった際に、怒られたことがある。体調が悪いからしょうがないだろうと思うかもしれないが、相手からすればせっかくホストしたのに適当な応答をされたら嫌な気持ちになるのは当然だ。相手は断片的な情報しかわからない。辛いときは相手のホストの申し出を断ることも重要だ。
ここから学んだことは、辛い時は辛いとはっきり伝えること。相手を不快にさせてはならないと自分の感情を伝えずにいるとかえってそれが逆効果になることもある。

・観光費 約8000円
(各地の博物館や美術館を見学。多くの施設で25歳以下は割引や無料で見学することができ、お得にその国について知ることができる。)

・移動費 約9000円
(雨などにより目的地への到着が遅くなる場合のみ使用。2、3回。50kmほどの移動だったが、自転車持ち込みはほとんどの場合、追加料金がかかるので通常よりも高くなる。)