2027年のVelo-city開催に向け、愛媛県が掲げる自転車活用の新段階
目次
2027年にVelo-cityが開催される愛媛県。その首長である中村時広知事に、自転車を活用したまちづくりの現状や課題、Velo-cityに向けた展望などを聞いた。
自転車を利用しやすいまちづくりが進むグダニスク
今年の6月にポーランドのグダニスクで開催された、Velo-city(ベロシティ)(※1)に参加しました。グダニスクは石畳の道にレンガの建物と、どこをとっても絵になる観光地です。また、街には自転車に配慮した道が850kmにわたって整備され、電動アシスト付きのシェアサイクルも普及するなど、自転車を利用しやすいまちづくりが進んでいます。このシェアサイクルはスマホアプリで簡単にレンタルできるため、観光客だけでなく市民にも利用されています。また、「自転車をまちづくりに生かす」というコンセプトがしっかりしているので、快適に走ることができました。
海沿いに延びるユーロヴェロ(※2)を使って私が視察に向かったのは、バルト海沿岸に広がる自転車に優しいまちづくりの様子です。30kmほどのサイクリングですが、電動アシスト付きでしたので楽々。シェアサイクルにしても、料金体系から仕組み作りまで非常にうまく考えられています。自転車専用の安全に配慮した信号システムでも、日本では見られないものを感じ取ることができました。これは移動手段としてもそうですし、観光地でサイクリングを楽しむという観点からもそうです。それはしっかりした基本計画があることの重みでしょうか。
まちづくりの主体は、県ではなく市や町
Velo-cityでは、欧州サイクリスト連盟やグダニスク市長といったリーダーの方や専門家のみなさんとの意見交換もしました。そのときに考えたのは、「自転車をまちづくりに生かすにはどうしたらいいのか。安全対策にどう向き合っていくのか。さらに自転車を楽しみとしてどう広げていくのか」ということです。ただし、基本的にまちづくりということで言えば、まさにVelo-“city”ですから“市町村”なんです。そこに“県”が関わるというのは、向こうからすれば違和感を覚えたかもしれません。
とはいえ国際会議の誘致となると、「市や町ではちょっと難しいのかな」とも思いつつ、「まちづくりをじかに担当していないところをどうカバーしていくのか」ということは、非常に大きな課題だと考えています。例えば自転車政策にしても、ヨーロッパでは国境を越えて共通するものがありますし、サイクリングコースの整備しかり自転車専用の信号機の存在しかりです。そこは全体で取り組んでいるヨーロッパが進んでいます。そういった取り組みを目の当たりにすると、「2年後に来てもらったとき、ヨーロッパから訪れた人に「おっ!」と言ってもらえるような取り組みをしたいですが、前述したとおり、まちづくりに県が手を出すことはできません。そのジレンマを抱えつつ、どう進めていくのかが課題だと思っています。
電動アシスト自転車(eバイク)の規制基準を世界標準に
レンタルしたeバイクでグダニスク市内を巡った際に感じたのは、日本におけるeバイクの規制基準(※3)が、諸外国の規制(※4)とは異なっていることです。日本の場合は時速24kmで電動アシストが切れるまでに、段階的にアシスト力が減っていきます。だから世界標準のeバイクに慣れている方が、日本でeバイクを借りるとアシスト力が弱いため、故障しているのかと思うのです。いろいろな背景がありつつも、やはり「世界標準にしないといけないのでは?」と感じました。世界標準だとアシスト力が非常に強いから快適で、お年寄りでも平気で坂を上っていけます。峠も楽に越えられると思います。
愛媛県ではいち早くこの点を認識し、平成30年度からeバイクの規制基準の緩和について国に要望を続けているほか、令和元年度には、地元自治体や自転車メーカー、レンタサイクル事業者と連携して「E-BIKEアクションしまなみ」を始動し、エリアを拡大しながら全国に向けてeバイクの魅力や情報を発信しています。
国や市町との連携を力として
それからトラム(路面電車)との連携です。駐輪場とトラムの駅が一体化したモビリティハブがとてもよくできています。自転車をまちづくりの基本構想に取り入れると、この域にまで達するのだということを、私も走りながら実感しました。
今回のVelo-cityは日本初開催ということで、国も非常に関心を持っています。現地には国土交通省の職員も来ていましたから、しっかり連携してやっていけそうです。また、参加者全体として行政の割合が多いですから、愛媛開催時には国内の自治体も多く参加すると思います。県内の自治体も負けないよう、様々な知識や知見を得る機会にしてほしいなと思いました。観光面での取り組みは県でもできるのですが、まちづくりとなると市長さんや町長さんのビジョンが大きな影響を与えます。
世界が注目するしまなみ海道
私が知事に就任した際の最初の公約が、「しまなみ海道を世界に発信する」ことでした。これまでいろいろな仕掛けをして、地元自治体も協力してくれましたので、磨き込みも進んできました。日本ではトップクラスの人気を誇るサイクリングコースになり、アメリカの放送局「CNN」の「世界7大サイクリングコース」にも選ばれるなど国際的な知名度も上がるばかりです。Velo-cityでいろいろな人にパンフレットを配って話を聞くと、「しまなみ海道を走りたい」という声が圧倒的で、「しまなみがあるから行こう」という声が愛媛での開催に向けた後押しになっているなと痛感しました。しまなみ海道が世界でも十分に通用する、トップクラスのサイクリングコースだということが、あの会議の場で間違いなく証明できたかなと思います。
自転車を活用した地方創生を日本全国に広げる
Velo-city発祥の地であるヨーロッパの多くの国においても、まちづくりの主体は市や町なのですが、国策として自転車活用が一気に進められてきた背景があります。今、私は全国知事会の地方創生・日本創造本部の責任者を務めていて、その立場で国が地方創生2.0の基本構想を作ったときのメンバーにも入ったんです。そこでは「地方創生の一例として自転車活用があるんだ」と語り、さらに台湾の例を出すなどして、自転車を活用した地方創生を日本全国に広げるという観点で位置づけたら、環境問題や健康増進といった課題の解決に結びつくと訴えました。そして「自転車活用の文化が日本全体に広がるきっかけが生まれるはず」と、自転車を基本構想に組み入れました。これをつなげていくと、国策に結びつくという仕掛けをしたつもりです。
自転車活用の目標は健康と生きがいと友情
私がしまなみ海道を公約として掲げた当初は、「サイクリングが楽しめる環境を整えれば、観光客が来て活性化する」としか考えていなかったのです。ところが台湾の自転車メーカーの創業者に、「それは違う。自転車が人々に何をもたらすかを押さえておく必要がある」と言われました。「何をもたらすか……、それは健康と生きがいと友情だ」と。たしかに磨き込んでいくと、観光客の増加や地域の活性化に結びついていくのですが、本当の目標は別にあるわけです。それが「自転車新文化」という名前で、私が政策を取り組んだ背景なのです。そこは間違えないようにしていかなきゃいけないと思います。
みんなが思い思いに楽しむバイクパレードに
話をVelo-cityに戻すと、非常に盛り上がったのがバイクパレードです。距離が長いわけではないので、みんなが思い思いに楽しんでいただければと思っています。私が参加した際も、現地のスタート地点で「どこから来たの?」と尋ねると、オーストラリア、イタリア、アメリカと人種も国籍もバラバラ。世界中から人が集まっていると感じました。スピードを出すわけではなく、押したりゆっくり走ったりしながら、町中をサイクリングしてもらいます。コースには平らなところしかありませんから、誰もが楽しめるはずです。そしてゴール地点には一緒に走った人たちが集う場(松山城の麓に広がる堀之内を予定)も用意し、そこではイベントも開いて一日を楽しんでもらおうと考えています。
Velo-cityを欧米豪からの観光客増大のきっかけに
愛媛の観光に目を向けると、アジアの方々の来訪は順調で、その背景には国際便が就航したことがあります。一方で欧米豪の方々の来訪はこれからで、とはいえ直行便というわけにもいかず、それは広島経由でも成田経由でもいいと思うのです。要は欧米豪においていかに知名度を上げるかで、その点でVelo-cityは絶好の機会となります。だから欧米豪からの観光客増大に結びつくきっかけが、このVelo-cityには秘められていると思っています。
開催時には、来訪していただいたVelo-city参加者に対しての県民のみなさんによる、「来てよかった」と思ってもらえる“おもてなし”が非常に重要になってくるはずです。もちろん四国には元々おもてなし文化がありますから、そこは自信を持っていいでしょう。
※1
自転車を活用したまちづくりや政策に関する世界最大級(50以上の国から1000人以上の代表が参加)の国際会議のこと。欧州サイクリスト連盟(ECF)が主催して毎年開催されており、2025年はポーランドのグダニスク、2026年はイタリアのリミニ、そして2027年5月25日(火)から28日(金)の4日間、愛媛県武道館をメイン会場に初めて日本で開催される。
※2
ECFの推奨する全欧自転車道路網。ヨーロッパ全土を19の長距離ルートで結ぶプロジェクトで、全長約9万kmが計画され、2023年時点で6万km以上が供用されている。
※3
時速10kmまで比率1:2のアシスト力を発揮し、そこから時速24kmに至るまで徐々にアシスト比率が小さくなり、時速24kmを超えると0になる。
※4
EU域内の上限速度は時速25kmで、アシスト比率の上限がない代わりに、モーターの出力が250Wまでとなっている。免許必須となる代わりに、時速45kmまでのアシストが認められる別規格も存在する。米国では州によって規制が異なり、時速32kmまでという州が多い。
























