”ほぼ木で”ロードバイクを作った人【試乗あり】

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ヒノキの香りがほのかに漂ってきそうなこの木目が美しいロードバイク。なんとフレームも、フォークも、ハンドルさえも木でできている。それでいて重量はわずか13kg。この一見変わった形の「木製ロードバイク」を作ったのは兵庫県在住の藪内生也(やぶうち いくや)さんだ。

 

「自分で作ったもので旅がしたい」

仕事をしながら趣味として続けてきた木工趣味。これまでに模型、飛行機、カヌーなど様々なものを形にしてきた藪内さんだったが、ふと「自分で作ったもので、旅をしてみたいな」と思ったという。しかし、自動車やオートバイはハードルが高い。そこで考えたのが「自転車」だった。

写真の左側が最初の1台「ウッディー君」、右側が2台目の「スパルタンカリブー」

最初に作ったのは、ママチャリの部品を流用したベルトドライブ式の自転車「ウッディー君」。初めての一台ということもあり、ハンドルまわりにガタが出たり、強くペダリングするとフレームが歪んだりと、強度面の課題は多かった。それでも輪行旅の相棒として各地を走り回っていた。

2台目「スパルタンカリブー」。「カリブー」はトナカイの意味となり、バイクの形もトナカイに見えてくる

次に手がけたのが、より輪行しやすいミニベロタイプの「スパルタンカリブー」。強度や精度は大きく向上し、1日150kmのツーリングやヒルクライムレースにも参加できるほどの完成度に。ベニヤ板を多用した構造ゆえ重量があり、振動吸収性は乏しかったが、それでも約8年にわたり大きな故障もなく走り続けた。さらにトレーラーも自作し、キャンプライドを楽しむまでに進化。

そしていよいよ、「もっと長い距離を走れるロードタイプを作ろう」と考え、現在の木製ロードバイクの制作が始まった。

構想から完成まで1年以上

全てバラバラの状態で、丁寧に削り組み上げていく。素材も場所によって変えてる

構想に半年、設計1か月、制作10か月、調整1か月と、全て一から自転車を作るのには膨大な時間がかかる。「自転車はカヌーよりずっと難しい。アライメントはやってみないと分からない。曲がるときに切れ込みすぎたり、バランスが崩れたり……。やっぱり実際に作って乗らないと分からないですね」と語るように木という素材の難しさがあるようだ。

フレーム内部は木が詰まっているかと思いきや空洞があり、軽量化を実現している

そして、試行錯誤を経て完成したのが、3台目の木製ロードバイク「シロヤギくん」。フロント部分を横から見ると、山岳地帯に住んでいる「白岩ヤギ」に似ているから名付けられたという。動物がモチーフになっているように藪内さんの遊び心と愛着が感じられる。気になる制作費用だが、材料や部品だけでおよそ15万円かかっているという。

 

木でここまでやる

フロントディレイラーの変速装置。上にスライドさせると、ワイヤーが引っ張られ、ディレイラーが稼働する仕組み。当然藪内さんのオリジナル設計だ

フロントディレイラーも手作り! 素材は狂いの出にくい硬いケヤキを使用。ワイヤーはフレームの中を通している

リヤ周りは強度が必要なので、鉄の板で補強している

シートポストは何本もの木を使って「曲げ木」の製法で作られている。革製のシートバックも手作りだ

フレームの素材はヒノキを中心に、見える部分にシナベニヤ、変速機まわりには固くて狂いにくいケヤキ、サドルステーも硬い樫を使っている。金属で見える部分を除き、フレーム・フォーク・ハンドルまで全て木だ。

この重厚感あるヘッド周りが「白岩ヤギ」に似ているそうだ

フレームの精度も驚くほど高い。「フロントフォークの軸には真鍮パイプを入れて、そこにピッタリ合う木の軸を旋盤で削り出しています。精度は0.025mm以内。潤滑にはロウを使っていますが、分厚く塗りすぎると入らなくなるんです」

トップチューブとダウンチューブの間に入れられた補強

トップチューブとダウンチューブの間に補強材を入れたのは、ダンシングをした時にフレームがねじれ、タイヤが干渉した経験から。試行錯誤の末に導き出された答えだ。

 

編集部員が乗ってみた

まず全体を見て「?」と思ったのが、フロントフォークの向き。一般的な反り方とは真逆だ。これにはちゃんと理由があり、ブレーキキャリパーを前側ではなく後ろ側に配置することで、見た目をスッキリさせたいというデザイン上の工夫だ。このように藪内さんのアイディアが各所に詰まっているバイクだが、走り出すと素直な乗り心地に驚く。踏み出しが軽く、スッと進んでいく。13kgというフレームの重さは一切感じない。ヘッド周りの剛性感も全く不安がない。ちゃんとロードバイクの乗り心地になっているのだ。これまでの木工の経験や、3台目の制作ということで細かい所まで作り込まれているに違いない。

「木製のロードバイクを作っている人はいるが、実際にレースで使っている人はほとんどいないじゃないかな」と語るように、ロードバイクとなると、精度や強度など制作の難易度がぐっと上がるようだ。

今後の目標を聞くと、「この自作バイクとカヌーを使って、モンベルのSEA TO SUMMITに参加します。あと、より長距離を目指してブルベにも挑戦したいです」と笑顔で話す。“自分で作ったもので旅をする”という夢は、すでに現実のものになっている。