自転車都市、アムステルダムからパリへ【天星の欧州自転車周学 その3】
目次
二十歳の自転車旅人・中村天星さんが、欧州の自転車の道「ユーロヴェロ」を巡る旅の連載シリーズ。第三回は、自転車王国オランダの首都アムステルダムから。ベルギー、フランス、イギリスを走り、再びフランスへ渡り首都パリを目指す。

今回のルート。自転車王国オランダの首都アムステルダムを出発し、南西へ。ベルギーの首都ブリュッセルへ向かう。その後はユーロヴェロ12 「北海サイクルルート」沿いにフランスの港町カレーからドーバー海峡を船でイギリスに渡る。ロンドンを含めたイングランド南部を走行後、フランスに再び船で戻り、首都パリを目指した
8/20〜21 自転車王国オランダ・アムステルダム出発──ロッテルダムへ
アムステルダムを出発してまず目指した街はロッテルダム。ロッテルダムはオランダ第2の都市でヨーロッパ最大級の港がある。ロッテルダムへ行く間も自転車王国の素晴らしさを目の当たりにした。
今まで通ってきた北欧や中央ヨーロッパの国々は首都や大きな町、ユーロヴェロなどの有名な自転車道は車道と分離されていたが、小さな村やそこに行くための道は自転車道と車道が混同していることが多かった。
しかしオランダは違った。ほぼ全ての村や街に続く自転車道が整備されており、それぞれの道に番号が振られている。
ロッテルダムではその日一晩泊まらせてもらったホストファミリーが街を自転車で案内してくれた。
走行中の詳細な動画はインスタグラム、ティックトック等で発信しているので参考にしてほしい。ロッテルダム市内は自転車は小回りが利くので自動車よりも早く移動できることがザラにあるのだとか。他にも各国の風景やヨーロッパでどんな道を走っているのかも発信しているので海外サイクリングを計画している人や興味がある人は参考にしてみてほしい。
8/22〜25 ノード方式でマップ要らず──ベルギー
続いての目的地はベルギーの首都ブリュッセル。時間がなかったため、ロッテルダムから電車で移動することにした。自転車を電車に乗せるのだが、これも非常に快適だった。
ロッテルダム駅で乗車用のチケットと自転車チケットを購入し、ホームまで向かう。
IC(急行列車)は予約が必須だが、通常の列車は混雑時を除き、自転車スペースに空きがあれば自転車をそのまま乗せることができる。
オランダ、ベルギーはシェンゲン協定加盟国であるため検問所がなくスムーズに国境を越えることができる。
1時間半ほどでベルギーの首都ブリュッセルに到着。
ヨーロッパの心臓と呼ばれるベルギーはまさにダイバーシティ。フランス、ドイツ、イギリス、オランダなどの主要な国々と隣り合うという地理的要因から欧州議会等のヨーロッパ政治の中心地である。
またラテンとゲルマン二つの歴史の交差点であり、歴史的、文化的にみても非常に興味深い場所なのである。
市内の自転車レーンは車通りが多い場所に限られていた。
ブリュッセル自体は大きな街ではないので1日のんびりポタリングをするのに最適だ。美しい装飾が施された歴史的な建物が非常に多く、世界遺産に登録されている広場、グランプラスは特に素晴らしかった。
一方、ブリュッセル郊外は自転車専用レーンが多く設けられ、道が黄色に塗装されていたりとサイクリストだけでなくドライバーに対しても視覚的にわかりやすく、事故を防ぐ取り組みがされていた。
数日ブリュッセルを見学したのち、フランス・カレーを目指して北西へ移動。この道のりが非常に興味深かった。ベルギーは大きく北部のフランデン地域と南部のワロン地域に別れている。
今回走ったフランデン地域は北海沿岸から続く「北ヨーロッパ平野」に属し、起伏が少ない平坦な土地が特徴だ。
またサイクリングインフラが非常に充実しており、ヨーロッパ各地をつなぐ、国際的なルート「ユーロヴェロ」が北部沿岸を通っていることに加えて、国内の番号付きルート案内システム「ノード方式」が各地に広がっているなど国内外両方から積極的に取り組みが行われている地域だった。
今回はブリュッセルから北部沿岸までのルートにノード方式のルートを使用し、そこからカレーまでユーロヴェロ12「北海サイクルルート」を利用した。
車通りおよび信号がほとんどなく、快適にヨーロッパを楽しむことができた。
8/26 一晩だけ滞在──フランス
カレーからイングランド・ドーバーまではフェリーを利用して海を渡った。
一日数便が行き来し、1時間程度でドーバーに到着する。
今回は朝9時発のフェリーに乗ることにしたのだが、ハプニングが起こる。何と到着したフェリーターミナルは別の会社だったのだ。
この航路は複数の会社が利用しており、それぞれのターミナルは離れた場所にある。それに迷路のように複雑に道が交差しており、1度道を間違えるとかなりの時間ロスになる。
間違いのフェリーターミナルだと気づいたときはすでに受付終了20分前。「間に合わない」と呆然としていたとき、偶然、救いの手が差し伸べられた。何とたまたま警察が通りかかり、事情を知りターミナルまでクルマで送ってくれたのだ。
親切な助けもあってなんとか時間に間に合い、無事に乗り込むことができた。帰りはもっと時間に余裕を持って移動しなくては。読者もカレー港を利用するときは注意をしてほしい。
8/27〜9/1 久しぶりの左側通行に戸惑う──イギリス・イングランド
お昼前、イギリスに入国。今回はイングランド南部のみを走る予定だ。
初日はホストが見つからず、飛び込みでキャンプ場を利用。イングランド、ウェールズ、北アイルランドは基本的に野宿はNG。しかしスコットランドのみは合法で認められている。複数の国が集まる連合国ならでは地域特異性が出ている。
この日泊まったキャンプ場は現金10ポンド(約2000円)。現金を持っていなかったのでATMで引き落としたのだが、手数料で8ポンド(約 1600円)。キャンプ場周辺にはここしかATMがないので泣く泣く引き出す。大きな街で事前に引き落としておけばもっと安くなったかもしれない。この地域だとこのキャンプ場は最安値の値段で設備はトイレだけ。しかし夜寝るだけだったので十分だ。

キャンプ場滞在。オーナーのおじいさんが受付をしてくれたのだが、本場の英語はびっくりするぐらいなんと言っているのかわからなかった。ここ2か月である程度会話はできるレベルになったと自負していたのだが、自信をなくしてしまった
その後、1週間ほどイングランドに滞在した。
イングランドの自転車インフラの状況は非常に日本と似ていた。まずはやはり、左側通行のところだろう。他のヨーロッパの国々が右側走行に対し、イギリスは日本と同じく車は左側を走る。2か月ぶりの左側に当初は戸惑った。また田舎の車道も日本に似ており、道幅が狭い。
イギリスにはNCN(National Cycle Network)と呼ばれるイギリス全土を結ぶサイクリングおよび徒歩などの移動を想定した道のネットワークがある。
しかしオランダやベルギーのノード方式と違って番号で割り振られているだけで、連鎖的につながっているわけではない。次の番号のルートに進むには車道を通らざるを得ない場合がある。
何度か危ない目に遭いながらも無事にロンドンに到着。ヨーロッパを代表する大都市の1つだ。人の多さはもちろん、車の数も他の国々の都市と比べて非常に多い。
ロンドンの自転車のインフラ状況に関しては素晴らしかった。大通りに自転車専用レーンがあるのはもちろん、細い道にも専用レーンがあったのには驚いた。
また意外だったのが市内を走るサイクリストの多さだ。そのほとんどはスーツ姿。通勤時間は街中にロードバイクに乗った英国紳士たちで溢れていた。オランダやデンマークなどは「ママチャリ」が多かったので 余計に印象的だった。
ただ走行する上で注意しなければならないのは「人の飛び出し」だ。観光スポットは特に信号を無視して渡る人が多い。それさえ気をつければ問題なく市内をポタリングできるだろう。
数日ロンドンを見学した後、フランスへ渡るために南部沿岸の港町ニューヘイブンという街に向かった。
イギリスをサイクリングしていて非常に大変だったのが「天候」だ。基本的にずっとどんよりとした雲で覆われていて頻繁に雨が降る。
雨が降ったり止んだりが続く。雨が降り始めたので雨具を着たらすぐ止むし、小雨だからすぐ止むだろうと雨具を着ないとその後の大雨でびっしょり濡れる。かといってずっと雨具を着ていると通気性の悪さが不快でサイクリングが楽しめない。
ニューヘイヴンへ向かう前日ポーツマスと言う街を通った。理由はここに僕を助けてくれるかもしれない日本人がいると紹介をしてもらったからだ。紹介してくださったのは日本人で初めて自転車で世界一周を達成した池本元光さん。僕の旅の話に興味を持ってくださり、この話をしてくださった。
連絡先がわからなかったので直接教えていただいた住所に伺った。「本当にこの住所であっているのだろうか、連絡せずに伺ったら迷惑ではないだろうか」と不安な気持ちを胸にドアをノックする。
しばらく待って出てきたのは日本人女性のチカコさん。ここへ来た経緯を伝え、断られるだろうと思いながらも、もし可能であれば一晩に庭テントを貼らせてもらえないかと伝えた。すると彼女は驚いた表情をしながらも僕の滞在を許可してくださった。
夕方帰宅されたご主人のボブさんは自転車について熟知されていて僕の自転車の不調を治してくださった。
次の日、ニューヘイブンからフランス・ディエップへ夜行便のフェリーを使った。前回の経験から出発5時間前の18時にはターミナルに到着した。23時に出発。次の日の朝5時に到着予定だ。
船内に入ると皆一目散に横になれるスペースを探していた。もちろん僕もそのうちの1人だ。なんとか自分の場所を見つけ、横になる。明日も丸一日走るのでなるべく体力を温存しなくては。
次の日予想外のことで目を覚ます。僕が想定していたよりも早く港に到着したのだ。昨日セットしたアラームはまだ鳴っていない。
寝ぼけてうまく頭が働かなかったが、とりあえず船を降りる。まだ夜明け前、あたりは真っ暗だ。遅れるならまだしも早く着くなんて、欧州では珍しい。とりあえずターミナルに向かい、夜が明けるまで待つ。同じ考えのサイクリストたちもやってきた。彼らと談笑している最中僕が「フェリーが早く着くなんて珍しいね」なんて話しをすると彼らは口を揃えて「そうかな。今日は30分も遅いはずだよ」と言った。
どういうことだ? 頭が混乱する。とりあえずスマホの時計を確認する。今は朝6時前だ。確かにフェリーを降りてからここまで大体30分ほどなので5時30分にフェリーを降りたことになる。混乱していると1人のサイクリストが「フランスはイギリスよりも1時間標準時が早いよ」と教えてくれた。
そこでやっとこの疑問が晴れた。フェリーの出発時刻が23時で到着が朝5時とチケットに書いてあったのだが、実際は出発時間はイギリス時間で、到着時間はフランス時間で書かれていたのだ。なんとややこしい。幸い、到着後すぐに予定を入れていなかったので問題はなかった。
無事に長期滞在用のワーホリビザも有効化でき、シェンゲン協定のビザなしは90日のみという縛りはなくなった。
9/2〜20 再びフランスへ──首都パリ
フランス入国後はパリまで南に進んでいった。
車道と別れた自転車専用道は市街地に多く、町と町の間は基本的には車の脇を走ることになる。ここでの注意点は「急いでない限りはなるべく車通りの多い道は避けること」だ。特に幹線道路は大抵時速90kmの看板が立っており、車はそれ以上の速度を出す。ほとんどのドライバーは自転車を追い抜くときは低速かつ幅をとって追い抜いてくれるのだが、時にはギリギリで追い抜くドライバーもいる。非常に危険だ。
ではどうすれば車通りが多い場所をさけられるのか……方法はいくつかあるが1番無難なのは川沿いを走ることだろう。安心してサイクリングを楽しむことができるはずだ。
他にはサイクルマップアプリを使用することだ。
僕は「Komoot(コムート)」というアプリを使っている。目的地までのルートを作成してくれるのだが、優先して自転車道や車通りや傾斜の少ない道を選んでくれる。グーグルマップは有名な場所や建物を調べるのには強いが、自転車ルートを検索すると度々、草でいっぱいの農道や今は行き止まりになっている道などを案内される。また「Komoot」はルート検索だけでなく、水飲み場などグーグルマップでは検索しても出てこないスポットも教えてくれる。
パリは10日ほど滞在した。憧れのランドナーショップやルーブル美術館、ヴェルサイユ宮殿、凱旋門など歴史的な場所も見学した。
ただ1番多くの時間をかけたのは市内を自転車で走りパリの自転車事情を観察したことだろう。自転車のインフラ整備については大通りは車道から別れた自転車専用道があるだけでなく、セーヌ川沿いや一部市街地などは車通りのないサイクリングルートとなっていた。
またレンタサイクルも充実しており、多くの場所でそれに乗って移動する人や専用駐輪場を見かけた。
アプリやウェブサイト、あるいはステーションの端末でプランを選択し、ロックを解除する仕組みとなっている。
このレンタサイクルに使われていたタイヤはシュワルベ・マラソンプラス。僕が今回の旅で使用しているタイヤと同じだ。
パリを出発後マルヌ川沿いに東へ向かう。次の目的地は10か国目ルクセンブルグ。当初の予定は欧州13か国を巡る予定だったのだが、少し延長してアフリカにも向かうことに。
ヨーロッパとはまた違った環境になるだろう。今から楽しみだ。
今月の費用(8/20〜9/20)
*1ユーロ=170円、1ポンド=200円として計算
・交通費:24000円
イギリス往復のフェリー代及び複数回使った電車の料金。
ヨーロッパはこれが高い。距離あたり50kmくらいで自転車含めて3000〜4000円。フェリーは必要経費として、電車の利用はもう少し減らしたい。全て自転車で移動したいが、思わぬハプニングで予定に間に合わなくなった時に使っているのでもっと余裕を持って移動すれば減るかもしれない。
・宿泊費:2000円
イギリスでキャンプ場を利用した時の値段。
それ以外は毎日、親切な人が家に泊めてくれた。ヨーロッパはサイクリストが多く、自転車旅を応援してくれた。また、ヨーロッパに住んでいる日本人の方々に助けていただくことも多い。さらに、その人たちが知り合いを紹介してくれて連鎖的にお世話になるなんてこともある。感謝してもしきれない。
・食費:20000円
基本的には自炊。
泊めてくださった方々が、食事をもてなしてくださることもあった。本当にありがたい。また僕も彼らに恩返しという形で日本食材を用意して日本の家庭料理を振る舞うこともあった。料理が得意でよかった。
・観光費: 17000円
各国の首都では必ず国立博物館や美術館に行っている。
欧州の歩んできた歴史や文化を学び、理解したい。現地の人に対して尊敬の気持ちを持つことは旅をする上で重要なことだ。彼らが許可してくれているからこそ旅ができるということを忘れてはならない。もちろん彼らが日本に来るときは日本について理解してほしい。そして日本を満喫してくれるのがベストだ。
また博物館の多くは若い世代の入場料が割引の値段だったり、無料である。ありがたく利用させてもらっている。
今回助けてくださった方々を紹介
オランダ
ベルギー
フランス

Jacquesさん。
10日間パリでお世話になった。1年前日本一周自転車旅をした時に別府で知り合い、そこから親しくなった。パリの街を案内してくれたり、彼の趣味の太極拳やダンスを教えてもらった。また体調を崩した時に滞在の延長を許可してくださった

Marcさんご夫婦。
シャトーティエリで一晩お世話になった。彼らの娘さんが自転車でヨーロッパを旅をしていたとのこと。2人とも学校の先生でフランスの教育について教えてもらった。また、次の日がストライキの日でストライキの理由や過ごし方など日本にはない文化を知る機会になった

Yannさん。
サント・ムヌーの近くに住んでいて一晩お世話になった。彼は2匹の犬と3匹の馬を飼っていてみなとても人懐こかった。またこの地域はシャンパーニュ地方と呼ばれ、ここのスパークリングワインはシャンパンと呼ばれている。今回貴重な一本を開封、飲ませていただいた











































