コルナゴ・プロジェクトマネージャーインタビュー〜V5RsとY1Rsはかくして作られた
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V5RsとY1Rsの試乗のあと、その2台の開発を指揮したプロジェクトマネージャー、ダヴィデ・フマガリ氏へのオンラインインタビューが実現した。1時間半にもわたる一問一答から、V5Rsのバランスの秘密や、Y1Rsの乗りやすさの理由などが明らかになる。

ダヴィデ・フマガリ氏:コルナゴへ入社して16年になるR&D マネージャー。数々のバイクのプロジェクトマネージャーも兼務し、空力の専門家やエンジニアなどからなるチームを率いて開発を行う。バイクのデザインの検討や、UCIルールとのすり合わせなども担当する。
あのステージでY1Rsが選ばれた理由

コルナゴ・Y1Rs
サイクルスポーツ(以下CS):今年のツールはY1Rsが大活躍でした。上りのステージでもエアロロードのY1Rsが多用されていたようですが、レースで使うバイクのチョイスはチーム/選手に任せているんでしょうか?それともコルナゴ側が依頼しているんでしょうか?
ダヴィデ:バイクの選択はチームに任せています。ツールではY1Rsが多く使用されていましたが、ジロではV5Rsがメインで使われました。チームはV5RsとY1Rsの比較テストを綿密に行っており、どのレースでどちらのバイクが最適なのかを判断しています。もちろん、平坦ステージでは軽量バイクを使用する必要はないので、空力に優れるY1Rsが好まれています。傾斜がそこまで激しくない山岳コースでは、状況を分析して両方のモデルを使いわけます。傾斜が激しい山岳コースでは、軽さで有利なV5Rsが使用されます。

コルナゴ・V5Rs
CS:選び分ける基準は?
ダヴィデ:おおまかには、斜度8%以上の坂ではV5Rsが有利、それ以下ではY1Rsが最適とされています。もちろん、速度域や選手の好みによっても変わります。ポガチャル選手のようにバイクチェンジを好まない選手もいれば、ジェイ・ヴァイン選手のように両モデルをチェンジしながら使用する選手もいます。また、ダンシングを多用するのか、シッティングが多いのかによっても選ぶバイクは変わりますね。

photo Kei Tsuji/SprintCyclingAgency©2025
CS:今年のツール・ド・フランスの第13ステージは、山岳個人タイムトライアルだったにもかかわらずポガチャル選手がY1Rsで走ったことが話題になりましたね。
ダヴィデ:その第13ステージでは、Y1Rs、 V5Rs、DHバー仕様のV5Rsという3台を用意しました。チームの分析によると、このステージではV5Rsの方がY1Rsより3秒速いことが分かっていましたが、ポガチャルは「3秒程度であれば問題はない」と、乗りなれているY1Rsを選択しました。
CS:計算ではV5Rsの方が3秒速かったのに、なぜY1Rsを選んだんでしょう?
ダヴィデ:彼にとって3秒を取り戻すのは簡単で、計算上のタイム差以上に「慣れているバイクで走ること」が重要だと判断したのです。彼はY1Rsの剛性と高速巡航性をかなり気に入っているようです。しかし、2025年のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュではポガチャルはV5Rsを使用しました。「急坂が多いから」というのが理由です。平坦が多く高速になるミラノ・サンレモではY1Rsを選びました。
剛性バランスの秘密
CS:各社、エアロロードとは別に、軽さと剛性と快適性を持ち合わせた万能モデルをラインナップしています。各社完成度の高い万能バイクを作り始めているなかで、V5Rsならではの強みとは?
ダヴィデ:V5Rsはコルナゴ至上最軽量であり、かつ空力性能も重視していることが特徴ですが、コルナゴが製品開発をするうえにおいて最も重視していることは安全性です。そのうえで他社より優れている点の一つは、コルナゴならではのジオメトリです。もちろんディスクブレーキ化やタイヤのワイド化、クランク長の変化などに伴ってジオメトリは最適化されていますが、基本的なジオメトリはエルネスト・コルナゴ氏が設計したものを継承しています。
CS:ではフレーム剛性について。フレームの剛性は高ければ高い方がいいのか、それとも適度なしなりがあった方がいいのか、そこはどうお考えですか。
ダヴィデ:個人的には、過度な剛性はマイナスになりうると考えています。まずは快適性。例えば、モーターサイクルのレースでは、路面の綺麗なサーキットを走るにもかかわらずサスペンションを使用しています。もし高剛性がよしとされるならサスは必要ありません。それは自転車においても同じです。剛性が高すぎると地面からの衝撃が吸収できなくなり、エネルギー消費が大きくなり失速につながってしまいます。
次にフレームの剛性バランスです。Y1RsとV5Rsでは、剛性が必要でない箇所は剛性を抑える設計をしています。コルナゴ本社にはフレーム各部の剛性を計測できる計測機器があり、それを用いてフレーム各部の剛性バランスを調整しました。ドイツの第三者検査機関であるゼドラーラボでもフレームの剛性が測定可能ですが、そこで計測できる数値だけでは不完全なんです。以前、コルナゴはCX1というフレームを展開していましたが、フレームの剛性値だけでいえばCX1はV5Rsより硬いんです。しかし、だからといってCX1のほうが優れているのかというと、そうではありません。現在の見地からいうと、CX1は「剛性が必要ない部分まで剛性が高かった」んです。もし今、選手に両方のフレームを渡すと、V5Rsの方が剛性が高いと評するでしょう。これはフレームの各場所において剛性を調整しているためです。これらはV4Rs開発時から取り入れている手法です。
CS:剛性が必要な場所と、抑えたほうがいい場所とは?
ダヴィデ:シートチューブ周辺は過度な剛性は必要ありません。剛性を高めることによって快適性が損なわれるからです。バイクの快適性は、ポガチャルであろうがホビーライダーであろうが、レベルに関係なく全てのライダーにとって必要な要素ですから。剛性が必要な箇所はボトムブラケット周辺とヘッド周辺です。
Y1Rsの空力技術
CS:では一番聞いてみたかった質問です。ロードバイク界で空力が重視されはじめてからかなりの年月が経ちますが、コルナゴはコンセプト以来、エアロロードを発売していませんでした。なぜY1Rsまで時間が空いたのでしょうか?
ダヴィデ:これまでのUCI規則においては、我々が満足できるエアロロードを作ることができなかったことが一番の理由です。ルールに縛られて中途半端なものを作るよりは、Vシリーズに注力したほうがいいと考えました。現在はUCI規則が緩和され、かつコルナゴの空力技術が進歩したことで、完成度の高いエアロロードを作ることができるようになったんです。チームからは、いつも「空力性能の高いフレームを開発してほしい」と依頼を受け、プロトタイプを作って検討は続けていましたが、満足できるバイクでなければ世に出せません。

CS:なるほど。では、Y1Rs最大の特徴であるハンドルバーを採用する一番のメリットは?
ダヴィデ:ロードバイクの空気抵抗を低減させるうえで重要な点が2つあります。1つ目は、空気が最初に当たることになるハンドルの形状を空力的に最適化すること。2つ目は前面投影面積を極力小さくすること。とはいえ、ヘッドベアリングやブレーキレバー、タイヤなどの形状を大きく変更することは不可能なので、フレームの前面部分とハンドルバーでできるだけ前面投影面積を減らすことが有効です。それがこのハンドルを開発した理由です。また、このCC.Y1というハンドルは剛性を高めつつも軽量化も実現しており、重量はV5Rsに使われているCC.01と同じ335gです。
CS:従来、ハンドルはミリ単位の調整をしていましたが、このようなエアロ形状のハンドルバーでは細かい調整ができなくなります。そこはデメリットではないのでしょうか?
ダヴィデ:ハンドルポジションにおいて最も重要なポイントはレバー位置です。ハンドルは確かに専用ですが、最適なレバー位置にセッティングしてもらうために、95/105/115/125/135mmと多くのステム長を用意しました。

CS:ハンドルと同様にシートチューブも特徴的ですが、この形状は空力を高めるためなんでしょうか。それとも快適性のためなんでしょうか。
ダヴィデ:このシートチューブはUCI規則変更によって実現できたものです。この形状の目的は空力と快適性の両方ですが、どちらかといえば快適性向上の意図のほうが大きいですね。
CS:かつてのエアロロードはフレーム単体、バイク単体で空力を測っていましたが、昨今ではライダー込み、もしくはライダーがペダリングした状態でどうなのか、というフェーズに移行しています。Y1Rsはどうなんですか?
ダヴィデ:コルナゴは空力を考えるうえで常にライダーが自転車に乗った状況を考慮しています。そこは自転車の空力開発において非常に重要な要素です。例えば、シートチューブやシートポストをエアロ形状にしたとき、バイク単体で風洞実験をすると、いい結果が出ます。しかし、それだけで「シートポストをエアロにすればいいんだ」と判断することはできません。ライダーを乗せてペダリングをした状態で計測すると、シートポストのエアロ化はほとんど意味がなくなってしまうからです。ライダーの両脚が空気をかき乱すためですね。だからライダーを含めたシステムで考えなければいけません。
「乗りやすさ」の秘密
CS:では乗り味について。Y1Rsのような特殊な形状のバイクは、実際に走らせると乗りづらかったりハンドリングが悪かったり……というケースが多かったんですが、Y1Rsは奇抜な形をしているのに乗りやすいことに驚きました。
ダヴィデ:まさに我々が「単純な剛性値ではなく、剛性バランスを考慮して設計した」ことの効果です。快適性はY1Rs開発において重要な点の一つです。もちろんY1Rsはポガチャル選手がグランツールで使用するバイクでもありますが、ホビーライダーの方々がサンデーライドを快適に楽しむことができるようにも設計しました。それには、各部の剛性コントロールや、ジオメトリの煮詰め作業が必要です。ハンドリングについてもフレームサイズに応じたフォークオフセットを用意しており、自然な操作性を実現させました。
CS:Y1Rsは各フレームサイズによってフォークのオフセットがきっちり変えられてるんですね。これがハンドリングの秘密ですね。予定の時間を大幅にオーバーしてしまいましたが、ありがとうございました。
ダヴィデ:こちらこそ。なにかあればいつでも連絡してください。チャオ。
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