日本で最も贅沢なサイクリングができる場所を見つけた【山口県・周防大島】
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「瀬戸内のハワイ」と呼ばれるサイクリストの楽園、それが山口県の周防大島(すおうおおしま)だ。ペダルを漕げばそこは南国リゾート。ムード漂うビーチラインに、走りごたえのあるヒルクライム、そしてゴージャスな島グルメまで。リゾートを味わい尽くす2日間のサイクリング旅へ出発!

レポーター:中谷亮太 富山を走るサイクリングガイド時々ライター。取材と称して全国各地を走り回る旅人。山口県でのサイクリングは今回が初めて。
地図は友達だ。筆者はライターのかたわらサイクリングガイド業もしており、自転車旅についてちょっと一家言ある人間である。グーグルマップを開いては、新しい旅先を求めて情報収集するのが日課だ。無論、山口県も旅のウィッシュリストに入っていた。自らサイクル県をうたい、プロモーションに力を入れていると人伝てに聞いたからだ。
なので初訪問のスポットは、いち自転車旅行者の目線で物事を俯瞰してしまう。走りやすいルートはもちろん、グルメ、絶景、ホテルなど、どの程度サイクリストフレンドリーかが気になるのである。ここでツアーをしたら楽しそう!と思えるか否かは、やはり実走しないとわからないものだ。
結論、周防大島および山口県南西部は、自転車旅にうってつけのグッドなエリアであった。1泊2日のサイクリングでそう実感するに至った、体験記を以下に紹介したい。
1泊2日のリゾートサイクリング

まずは旅のあらましをお見せしよう。山口県南西部の岩国からスタートし、周防大島をぐるりと時計回りに走行。島のゲストハウスで1泊し、翌日に本州に戻り柳井駅でフィニッシュする。全長151kmのサイクリング旅だ。
周防大島(別称:屋代島)は山口県の南東エリアに位置し、瀬戸内海に面する全周約100kmの島だ。同海域では淡路島、小豆島に次いで3番目の大きさを誇り、特産品はみかん。健脚なロードサイクリストなら5時間もあれば一周(スオイチ)できるだろう。しかしここは絶好のリゾートエリア。急ぐのは野暮というもので、島をゆったり味わいつくすプランを組んだ。
1日目:旅の始まりは岩国から


太陽がじりじりとアスファルトを焼く8月の朝。旅のスタート地点「岩国錦帯橋空港」に降り立った。1日5便、羽田空港から1時間半の空路でアクセスでき、山口旅を身近にしてくれる玄関口だ。外に出るとサイクルピットなるボードが立ち、工具やフロアポンプが無料で利用できる体制がアピールされていた。タイヤの空気を入れ、バイクを整えていざ出発だ。

メインの目的地は周防大島だが、岩国に来たら外せないポイントがある。足慣らしがてら、錦帯橋(きんたいきょう)に向けて約6kmペダルをこぎ進めた。日本を代表する名橋であり、四季折々の表情を見せてくれる景勝地だ。レトロな木造5連アーチが水面に反射する光景は、まさに山紫水明(さんしすいめい)。橋の上は自転車で走れないので、当時の往来に思いを馳せながら写真に収めた。

山陽本線と並走する国道188号線を南下していると、レモンイエローの電車が背後からやってきた。ガタンゴトンというリズミカルな音がペダリングとシンクロし、一瞬の併走はまるで背中を押されたかのよう。追い風に乗って走り続けると、左手にライトグリーンの大橋が見えてきた。周防大島は目前だ。
いざスオイチ! 南国リゾートの陽気に誘われて

旅のハイライトのひとつ、「大島大橋」がその姿を現した。全長1020mの雄大なトラス橋が、本州と周防大島を結んでいる。地続きに島サイクリングへとアクセスできるのがスオイチの売りだ。アイランドコースは常に海側をなぞる”時計回り”が定石だから、今回もその法則に従うことにした。
ルートは島の外縁部をなぞればOKで、迷子の心配はほぼゼロ。加えてブルーラインの敷設もバッチリで、舗装状態はきわめて良好。道ゆく商店にはバイクラックが設置され、サイクリストをもてなす気概が感じ取れる。ゆるやかなアップダウンを乗りこなしていくと、スオイチの味わいがじわりと染み出してきた。それは”多島美”と呼ばれる瀬戸内ならではの風景だ。

翠玉色(すいぎょく)の海面が、遠く青空とつながって鮮やかにグラデーションしていく。その境界には大小の島々が、まるで宙に浮かぶかのように並んでいる。これぞ多島美。潮風に乗って絶景の中を走る爽快感は、まさにサイクリング天国と呼ぶにふさわしい。白砂のビーチやヤシの木が並ぶ沿岸路は、ここが瀬戸内のハワイと呼ばれるゆえんを肌で感じさせてくれた。夏休み期間だからか、海水浴や釣りに興じるグループを数多く見かけ、非日常の空気に満ちていた。


時刻は12時。最高のタイミングで本日のランチスポット「アロハオレンジ」に到着した。ここの名物は「ギャング丼」。器からあふれんばかりに盛られたローストビーフを前に、特別な気分に浸る。普段のサイクリングではこんな豪勢なランチは頼まないが、ここはリゾートだから話は別だ。柔らかな肉と特製のタレ、至福の味が口いっぱいに広がった。来客の絶えない人気店であった。

どこまでも続く海沿いのルートは、贅沢にも絶景に慣れてしまうもの。このまま前進しても構わないが、気分転換に「オレンジロード」へと舵を切る。島の内陸部を貫くサブルートで、木陰のトンネルが日差しを遮ってくれた。時折隙間から覗くオーシャンビューがちょうどいいアクセントだ。再び海沿いに出る頃、辺りにクルマの気配は一切なくなった。島東部の絶景ルートをひとりじめ気分で快走を続けた。

スタートから82km、島1番の映えスポット「星のビーチ」に到着。島出身の作詞家、星野哲郎さんの記念碑が2棟並び立ち、星のマーキングで彩られるフォトスポットだ。遠く対岸には四国山脈のシルエットが浮かび、果てない冒険に夢が膨らむ。撮影するのに順番待ちするほどの人気ぶりで、サッと撮影を済ませて宿に向かった。


さらに20kmほど海岸線をなぞり、「ゲストハウス星風(ほしかぜ)」に投宿。もちろんバイクは館内保管OKだ。ハワイアンテイストな清潔感ある内装に、芝生の中庭がいかにもリゾートといった趣だ。夕日に染まる凪の海を眺めながら、穏やかなまどろみに包まれていった。
2日目:絶景のご褒美 嵩山ヒルクライムへ
島サイクリングの”あるある”だが、一周を丁寧になぞりたい一方で内陸部の様子も気になってくる。地図を眺めていると、周防大島の中央部には標高600m台の山々が広がっていると分かった。ちょうど宿から近い「嵩山(だけさん)」の頂上には展望台があるらしい。時間はたっぷりある。せっかくなので脚を伸ばしてみよう!


嵩山ヒルクライムは、序盤から心を折りにくるような急勾配が続く。チェーンは早々にインナーローへ追いやられ、グラベルタイヤが簡易舗装の上でズリズリと音を響かせる。緑のトンネルが涼しいのが救いだ。頂上には想像を絶するご褒美が待っていた…とはいかず、一面白雲に包まれていた。パラグライダーのフライトポイントがあり、空を自由に飛び回る高揚感たるや…と想像を膨らませた。


再びシーサイドロードに舞い戻り、スオイチ完走まであと一息。島を出る前に、気持ち早めのランチスポットへと向かった。訪れたのは、オーシャンビューが自慢のイタリアン「サルワーレ」だ。山盛りの生野菜を添えた窯焼きピッツァをオーダー。ヘルシーでアッサリした口当たりだから、あっという間に完食してしまった。島の耳より情報が集まるスポットでもあり、周防大島らしさが詰まった素敵なレストランであった。


エネルギー補給を済ませ、大島大橋まで戻ってきた。スオイチを完遂し、あとはゴールの柳井市へと向かうのみ。市街の中心部には、室町時代から続く「白壁の町並み」が残っている。まるで時代劇のセットに迷い込んだかのような情緒ある景観で、細い路地裏にワクワクする。軒先に吊るされた民芸品「金魚ちょうちん」が、風に揺られて愛らしい。南国リゾートから歴史探索へ、この大胆な切り替えもまた面白い。

旅の締めくくりは、路地裏カフェ「茶房 難波庵」でのスイーツタイム。ひんやり冷たいメロンクリームソーダが火照った体に染み込む。ほろ苦いチョコパウンドケーキを添えればもはや言う事なしだ。贅を尽くしたサイクリング旅もこれにて完走。14時47分、柳井駅から岩国行きの山陽本線に乗り込み、帰路についた。海沿いをゆく電車の窓から、船の往来を名残惜しく眺めていた。

港が近いので、四国行きのフェリーで松山へ渡り、しまなみ海道を目指すのも十分現実的だと思う。そのまま西進して、本州西端の下関まで向かうのもいい。橋と海路が紡ぐ瀬戸内エリアのサイクリングは、無限のポテンシャルを秘めている。地図を眺めるほどに深みにハマっていきそうだ。サイクル県やまぐち、結構なお手前でした。空と海が重なる瀬戸内ブルーを、多島美をまた味わいに戻りたいと強く思った。

周防大島で見つけたプチ贅沢、いや”ぶち”贅沢な旅(山口弁で”とても”の意)。南国ムードあふれるスポットだから、肩肘張らずにリゾート気分で旅程を組んでみることをおすすめしたい。行く先々に現れる極上ホワイトビーチで、サップや釣りをプラスするのも面白いはず。秋冬に訪問すれば、収穫期の美しい蜜柑畑も拝めるだろう。初めての自転車旅にもうってつけな、理想のサイクリング天国であった。
こちらもオススメ!周防大島の魅力スポット
・飯の山展望台

大島大橋と瀬戸内海を見下ろす、360度パノラマが広がる絶好のビューポイント。橋を渡った直後にポツンと登り口があり、標高差260mの登坂で辿り着ける。脚が元気なサイクリング序盤に寄り道するのがいいだろう。
・グリーンステイながうら

RVパーク併設の複合アウトドア施設。レストランとビジターセンターが営業し、クルマで入島した際の起点としておすすめだ。ライド後は潮温泉で汗を流すことができるのもグッド。レンタサイクルもそろっている。
・道の駅サザンセトとうわ

サイクリストに嬉しいスオイチ必須立ち寄りポイント。地元の物産や食が充実し、レンタサイクルも完備。イチオシはみかんソフトクリーム。サイクリストは100円割引となる嬉しい特典も!
周防大島サイクリングルートはこちら!
約150kmを2日に分けてライドしたコースをStravaで公開。これから周防大島を走る際の参考にどうぞ!
サイクルイベント「シマクル」も注目!
「シマクル周防大島」は、島を一周しながら地元の名物を楽しむファンライドイベント。ロングコース90kmとミドルコース40kmの2カテゴリーがそろう。2025年は全国から500名を集客、好評を博した。開催時期は5月中旬。周防大島を訪れるよいきっかけになるはずだ。











