サイクリスト目線で徹底試乗! けんたさんが気になるクルマ、乗ってみた!

目次

実はクルマ好きでもある自転車系YouTuberのけんたさん。そんな彼が編集長という絶対権力を行使して企画したのが、前代未聞の自転車専門誌によるクルマ乗り比べ企画。最近気になっているという最新モデル5台を集め「自転車乗り目線」でレビューしました!

 

気になるクルマ、乗ってみた

左:サイクルスポーツ・2025年5月号〜7月号編集長 けんたさん
チャンネル登録者数29万人超の自転車系YouTuber。オンロードからグラベル、MTBまで様々な自転車遊びを楽しみ、実体験を動画で発信。ツーリングも大好きで、輪行や車載を組み合わせ、国内外の魅力的なルートを紹介している
右:サイクルスポーツ・元編集長 江郷
本誌元編集長にして、現在は姉妹誌『driver』の副編集長を務める“6輪使い”。今回は各クルマの解説役としてけんたさんをサポート

 

サイクリストとクルマが密接な関係にあるのは皆様もよくご存じのとおり。レースやイベントへの遠征、トレイルやダウンヒルコースへのアクセスなど、クルマがあると自転車遊びの幅は格段に広がる。というわけで、ここではサイクリスト目線でのクルマレビューをお届け。サイクリストと相性のいいクルマといったら、真っ先に積載性に優れたクルマを思い浮かべると思うが、遠征でハンドルを握る時間だって貴重な人生の一部。自転車と同様、愛を注げるクルマの方がいいに決まっている。

そんなテーマの下、編集長のけんたさんがチョイスしたのは、所有することで自転車ライフがより楽しいものになりそうな5台。「軽自動車」「クロスオーバーSUV」「本格四駆」「快適に過ごせる車」「ミニバン」と、それぞれメーカーもカテゴリーも異なり、いずれもフツーじゃない、何がしかの特徴を備えているモデル。なかには明らかに不向きに見えるモデルも混じっているが、まあ実際に乗ってみなければ分からないということで(笑)。いずれにしても、ここでおすすめしたいのはサイクリストにとって便利な……もとい「いいクルマ」。本誌元編集長江郷氏(2014年6月〜2018年4月)にもサポートいただき、前代未聞の自転車雑誌によるクルマレビューの開幕!

 

ホンダ・N ボックス ジョイ ターボ

N ボックス ジョイ ターボ

DATA

価格:212万7400円~
発売時期:2024年9月~
総排気量:658cc
駆動方式:FF、4WD
WLTCモード燃費:18.4km/L~
全高:1790mm(FF)、1815mm (4WD)
全長:3395mm
全幅:1475mm
乗車定員:4人

 

伝統の「M・M思想※」を体現 広大な車内は圧巻

長年ベストセラー軽として君臨しているホンダ「N ボックス」。本車はアウトドアシーンを想定したデザインや機能が与えられたN ボックスのバリエーション。クラスを超えた広大な室内空間には、汚れが目立たないチェック柄の撥水ファブリックを用いたシートを標準装備。さらに後席を前に倒せばフラットな室内で足を伸ばしてくつろげる「ふらっとテラス」というシートアレンジが可能となっている。ラゲッジルーム後端床下には容量約18Lのフロアアンダーボックスも備える。

※マン・マキシマム/メカ・ミニマム思想。人間のためのスペースは最大に、機械のためのスペースは最小限にして、クルマのスペース効率を高めようとする、ホンダのクルマづくりの基本的な考え方

 

自転車を積載

荷室の床が低く開口高が大きいのがN ボックスのアドバンテージ。ホンダ独自の「センタータンクレイアウト」による恩恵だ。縦積みも余裕だが、軽自動車は全長に制約があるため、2台積みでは前輪を外さないと収まらず

収納

インテリアはデッドスペースを徹底的に活用し、あらゆる部分に収納を設置

サイドポケット

特に後席の左右に設けられたサイドポケットは自転車のボトルも収納することができ、利便性が高い

シートをフラットに

後席は座面をはね上げることも可能。ヘッドレストを外して前席を倒せば、後席とつながるフラットな空間に。シーンに応じた多彩なシートアレンジが大きな魅力

 

IMPRESSION 実用的で気分もアガる、スーパー軽自動車

スペースユーティリティに優れる軽といえば、軽バンのように実用本位なクルマというイメージだけど、N ボックス ジョイはそうじゃない。内外装はしっかりデザインされていてチープさはなし。チェック柄シートは座るだけで楽しい気分にさせてくれる。荷室の広さは圧巻で、1台だけならサドル高76cmの僕のバイクでも前後輪を付けた状態で悠々縦積みが可能。あと荷室のポケットにボトルを収納できるのはとても便利だ。走行性能も「これが軽?」って感じ。しっかり加速して、視界がとてもいいのが印象的だ。

N ボックス ジョイ ターボ

 

スズキ・ジムニー シエラ JC

ジムニー シエラ JC

DATA

価格:208万4500円~
発売時期:2018年7月~
総排気量:1460cc
駆動方式:4WD
WLTCモード燃費:14.3km/L~
全高:1730mm
全長:3550mm
全幅:1645mm
乗車定員:4人

 

世界を見渡しても例のない唯一無二の小型オフローダー

現在では数少ない堅牢なラダーフレーム構造やパートタイム4WDシステム、前後リジッドアクスル式サスペンションなどを採用し、高い悪路走破性を備えるモデル。軽自動車版であるジムニーとの大きな違いは、1.5Lの自然吸気エンジンを搭載していることと、トレッド(左右タイヤの中心間距離)を広げ、ワイドボディ(室内容積は同じ)になっていること。今回の試乗車は4速ATだったが、5速MTも設定されている。

 

自転車を積載

ラダーフレーム構造の4WDなので、床が高くなってしまうのは仕方ないところ。後席を倒しても荷室の奥行きは980mm程度(2人乗車時)しかなく、バイクは前後輪を外さないと積載できない

運転席

4人乗車だと荷物をほとんど積載できないという割り切った設計だが、運転席にはゆとりがあり、狭苦しさは感じない。スズキセーフティサポートやクルーズコントロールも装備

インテリア

計器類の視認性が高く機能的なインテリア。プラスチックの質感そのままなのにチープに感じさせないデザインは魅力的だ

シフトレバー

副変速機を備えるトランスミッションは本格4WD車の証

 

IMPRESSION 積載性には目をつぶりたくなる

正直、自転車を積み込んだときは「これはないか」と思ったけど、試乗したら印象は一変した。不便さを凌駕して余りあるほど運転が楽しい! ステアリングの手応えがずっしりとしていて、運転している実感が濃厚だし、他のクルマで躊躇するような砂利道や水たまりもガンガン踏み込んでいける頼もしさはジムニー シエラならでは。確かに荷室は狭いけれど、グラベルライド好きやバイクパッキング好きは積載性の乏しさを工夫によって克服することを「楽しみ」と感じる志向があるので、決して乗り越えられない壁ではない……気がする。

ムニー シエラ JC

 

トヨタ・シエンタ Z(ハイブリッド) 7人乗り

シエンタ Z

DATA

価格:303万6600円
発売時期:2022年8月~
総排気量:1490cc
駆動方式:FF、4WD
WLTCモード燃費:28.2km/L~
全高:1695mm(FF)、1715mm(4WD)
全長:4260mm
全幅:1695mm
乗車定員:7人

 

実用的でスタイリッシュなコンパクトミニバン

5ナンバーサイズのコンパクトな7人乗りミニバンながら、室内高は1300mmを確保。サードシートを前方にスライドさせて格納する「ダイブイン機構」により、長さ1525mmのフラットな荷室を作り出すことができる。取材車は最上級グレードにあたり、ハンズフリーで開閉可能な両側スライドドアや予防安全装備が充実。パワートレーンは1.5Lハイブリッドシステムを採用し、28.2km/L(WLTCモード)という優れた燃費を実現する。サードシートを持たない5人乗りの設定もあり。

 

自転車を積載

セカンドとサードシートを倒せば、バイク2台の前後輪を外すことなく縦積みが可能。もちろんサドル高もそのまま。ボディサイズを考慮すれば驚異的な積載力だ

荷室の低いフロア高

荷室のフロア高はN ボックス ジョイに次いで低い505mm。高く持ち上げる必要がないので重いバイクも楽に載せ降ろしできる。奥行きも十分にあり、前輪を外せば4台は無理なく積めそうだ

充電用USB端子

シフトサイドポケットに充電用USB端子(タイプ-C)を装備。前席周辺には多彩な収納があり、運転席シートバックにもUSB端子を備えている

フラットな荷室

サードシートを床下に格納することによるフラットな荷室がシエンタの強み。シートアレンジはシーンに応じた5つのモードが用意され、車中泊なども快適にこなせる

 

IMPRESSION 全ての面で高得点! 人気も納得

サイクリストの相棒という観点では文句の付けようがない一台。スペースユーティリティは収納力・積みやすさ共に圧倒的だし、消臭・撥水・撥油機能付きファブリックシートをはじめ、インテリアは北欧風でしゃれているし、ハイブリッドで燃費も抜群。駐車場の都合で5ナンバーサイズのクルマしか所有できない。あるいは1台しかクルマを所有できないならこれ以上の選択肢はないのでは?と思ったほど。おまけに走行性能も明らかにN ボックスより一枚上手の上質感なのだ。強いて欠点を挙げるなら街でたくさん見かけること。車体色で個性をアピールしたいところだ。

シエンタ Z

 

スバル・クロストレック リミテッド

クロストレック リミテッド

DATA

価格:323万4000円~
発売時期:2022年12月~
総排気量:1995cc
駆動方式:FF、4WD
WLTCモード燃費:15.8km/L~
全高:1575mm(ルーフレール非装着車)
全長:4480mm
全幅:1800mm
乗車定員:5人

 

スバルらしく骨太 にわかSUVと一線を画す

同社のフォレスターより一回りコンパクトなクロスオーバーSUVだが、最低地上高は200mmを確保し、本格的な悪路走破性を実現している。パワートレーンはスバル伝統の水平対向エンジンに低出力のモーターを組み合わせた「e-ボクサー」を採用。これはエンジン主体で駆動するが、低負荷時のみEV走行が可能なシステム。今年登場の最上級グレード「S:HEV」には、より本格的なストロングハイブリッドが搭載されている。3眼方式の先進運転支援システム「アイサイト」を標準装備する。

 

自転車を積載

フロア高が高く、バイクは寝かせて積載するしかない。ただ荷室長は1591mmあり、ホイールハウスの張り出しも少ないため、前後輪を付けたままラフに載せることができる。ライト付きバックドアが便利

ルーフレール

サイクルキャリヤを装着する際に便利なルーフレールはメーカーオプション。残念ながら機械式立体駐車場にはぎりぎり収まらないサイズ

フロントシート

ホールド感に優れ、長時間運転も快適にこなせそうなフロントシート。「リミテッド」グレードは座面と背もたれが温まるヒーターを標準装備

アイサイト

3眼方式のアイサイトは広範囲の障害物を検知。全車速追従クルーズコントロールは、渋滞時も操作を任せられ、疲れた帰り道に助かる

 

IMPRESSION レースイベントの帰りに乗るならこのクルマ!

バイクを積むことに関してはN ボックス ジョイやシエンタにはかなわないものの、クルマとしての「走り」は間違いなし。インテリアのセンスはスバルらしく(?)シンプルな印象ながら、シート、ステアリング、シフトノブといったドライバーが直接触れる部分はしっかりなじんで質感も高い。走り出せば安定したハンドリングと路面からの突き上げを感じさせない、しっとりとした乗り心地。これにアイサイトもあるんだから、長距離ドライブはさぞ快適でしょう。あとサイクリストにとってスバル車はロードレースでおなじみ。イメージ的にも◎。

クロストレック リミテッド

 

ニッサン・キャラバン グランドプレミアムGX マイルーム

キャラバン グランドプレミアムGX マイルーム

DATA

価格:551万6500円
発売時期:2024年8月~
総排気量:1998cc、2439cc
駆動方式:FF、4WD
WLTCモード燃費:11.3km/L~
全高:1975mm
全長:4695mm
全幅:1695mm
乗車定員:5人

 

日産が手掛けた商業仕様とは一線を画したバン

商用バン「キャラバン」をベースに、快適に過ごせる空間の架装を施したモデル。キャンピングカーメーカーではなく、日産のカタログモデルとしてラインナップされているのが特徴。インテリアは木目調で統一され、セカンドシートは用途に合わせてアレンジ可能な2in1シートを採用する。調光機能付きのダウンライトやウッドブラインド(オプション)などでリビングのような空間を演出する。エクステリアはサンドベージュ×ホワイトの車体色に、黒のスチールホイールを組み合わせる。

 

自転車を積載

元がキャラバンなので、後席を起こした状態でも積載は余裕。小物を収納できるサイドボックスの上に設けられたベンチに腰かけ、ちょっとしたメンテナンスを行うことも可能だ

リビングルームモード

ベッドルームモード

セカンドシートを反転させ、簡単に「リビングルームモード」や「ベッドルームモード」に変更できる。ライトな車中泊に特化した仕様のため、8ナンバーのキャンピングカーのようなキッチンがないので、車内が広い

大容量コンソールボックス

運転席と助手席の間には大容量コンソールボックスを備え、ヘルメットやボトルなどをまとめて収納可能。実用的でうれしい装備だ

 

IMPRESSION これでバイクロアへ乗りつけたい

キャラバンはサイクリストと相性バッチリ!なのだが、いまいち購入に踏み切れないのは、余りに実用本位過ぎるから。ところがこれに乗ったら上質な設えにびっくりした。ダッシュボードは高級感があるし、D型のステアリングやシフターセレクターは本革だし、おまけにシートもサポート感があって掛け心地抜群。さらに緊急自動ブレーキや横滑り防止装置も標準装備されているという。商用バンも進化しているのだ。肝心のインテリアもさすがメーカー純正なだけあって、センスも造りも良し。ディーゼルエンジンも思いのほか静かだ。

キャラバン グランドプレミアムGX マイルーム

 

Summary カタログでは分からないクルマ選びの「正解」

江郷:キャラクターが全く異なる5台でしたけど、印象はどうでしたか?
けんたさん:どれもそれぞれの良さがあります。象徴的だったのがジムニーシエラ。普通こういう企画では候補にすら挙げないと思うんですが……。
江郷:でも良かったと。
けんたさん:そうなんです。積載は不便極まりないのですが、その遊び心あふれるキャラクターがサイクリストの琴線にすごく触れる。ジムニーシエラに自分のバイクを積むと、相乗的にどちらも輝きを増しているような気がしました。素敵なライフスタイルをイメージさせてくれるんですよね。
江郷:豊かなライフスタイルを演出してくれるという意味での「いいクルマ」ってことですね。
けんたさん:実用性で選んだらハイエースやキャラバンみたいな1ボックスのバンで間違いないと思います。積載性はもちろん、ランニングコストやリセールバリュー的に見てもガチガチの模範解答。でも僕は趣味でサイクリストをやっているので、そう簡単には軍門に下りたくないという意地が働いて。面白くて実用的な「自分だけの一台」を探し当てたいという(笑)。
江郷:なるほど、単に積めればいいだけじゃなくて、「自分らしさ」や「遊び心」も大事なんですね。最近はそうした感覚を意識して、自転車を積むシーンをカタログで見せるクルマも増えてますね。
けんたさん:逆に元々スペースユーティリティが強みのNボックスやシエンタは、内外装のデザインや色遣いなどで楽しい雰囲気をうまく演出していました。便利なだけではなく、気分をしっかり“アゲて”くれる。
江郷:クロストレックはまたそれとは異なるキャラですか?
けんたさん:はい。正直、インテリアはもう少し今時なポップさがあってもいいような気がするんですが、シートに座って走り出すと、モノの良さで納得させられます。ボディはがっちりしているし、シートはホールド感がいいし、視界だって良好。クルマの基本を真面目に作りこんであって、スバルらしいなと思いました。これなら遠征でも運転疲れせず、ライドに全力投球できるだろうなと。
江郷:今回はキャラバンマイルームだけ、クルマを部屋として使えるという「飛び道具」を持っていたんですが、どうでしたか?
けんたさん:ヒルクライムなどの自転車イベントって前泊することが多いじゃないですか。だからこういう移動できる快適空間のニーズはありますよね。本格的なキャンピングカーだと装備的にトゥーマッチだし、日常使いとの兼用が難しいと思うので。
江郷:積載力はベースのキャラバン並みなのに、内装は商用バンの面影はないですもんね。本格キャンパーよりも立派なぐらい。
けんたさん:この企画を通じて分かったのは、正解は無数にあるということです。どのモデルもカタログに掲載されている数値だけでは計り知れない魅力がある。やっぱりサイクリストって、乗り物に対して鋭敏な感覚を持っているし、乗り味にもこだわりがあると思います。自分が運転するものに無関心ではいられない性質なんです。だからぜひ皆さんも実際に試乗して、バイクに見合った魅力あるクルマを見つけてください!

江郷元編集長
けんたさん