ドイツでグラベルライドをしてみたら……
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ロードバイク等スポーツ自転車向けの輪行袋ブランドとして知られる「オーストリッチ」。そのオーストリッチを展開するアズマ産業の社長、伊美哲也(いみ てつや)さんは“輪行の達人”であり、熱心なサイクリストでもあります。そんな伊美さんが、2025年6月に欧州最大規模の自転車イベント「ユーロバイク」に出展するためフランクフルトに行ってきましたが、その際に地元のグラベルを走ってきました。ご本人によるレポートをお届けします。
開催地フランクフルトの道路事情
まずはフランクフルト市内の道路事情から(※全て個人的感想です)。フランクフルト中心部の自転車インフラは、サイクリストにとって理想的な環境と言えます。自転車と車、そして歩行者はしっかりと分離されている道が多く、安全で快適に移動できるように設計されています。日本のように車道を走る、という感じはありません。特に交差点や左折レーン(ドイツは右側通行)では、色分けされたエリアや分かりやすい矢印、自転車のマークなどがあちらこちらに設置されています。初めて走るときは少し戸惑うこともありましたが、表示が明確なので慣れてしまえばストレスなく走れるのも魅力のひとつです。
また、一般的な道路は車優先、歩行者優先といった上下関係はなく、全ての利用者が平等に安全を確保できるように設計されているように感じます。ただし、治安が著しく悪い中央駅前付近は、割れたビンが路上に散乱しているのを目の当たりにすると(1本、2本ではない)外国に来ているんだなと身が引き締まります。
街を走る自転車の種類も多彩です。クロモリのオールドコルナゴ、レーシーなフォーカスのカーボンバイクなどは時折見かける程度ですが、シティバイクタイプのeバイクは非常に多いです。近年は電動カーゴバイクが目立つようになりました。信号待ちをしているとまわりは全て女性の運転するカーゴバイクだったりすることも。とにかく初速が速いのであおられますが……。
休日になるとシティバイクにサイドバッグやトレーラーを装着し、サンデーバイクとして家族と公園に出掛けて楽しんでいるようです。フランクフルト中心部から5km程度で多くの公園があり、そのアクセスはもちろん自転車レーンを通り、快適に移動ができます。公園内は野ウサギがぴょんぴょん跳ねていて、ちょっとびっくり。道にしても広場にしても、管理が行き届いていてとてもきれいです。遠出をしなくても、このような自転車環境がすぐそこにあるのが日本と大きく異なる点だと感じます。フランクフルトの人口が76万人程度と日本との人口の差も大きいのでしょうね。
今回の飛行機輪行
今年もユーロバイク開催前の時間を利用してグラベルライドに挑戦してきました。フランクフルトでのグラベルライドはこれで3度目。これまで西のマインツ、東のアシャフェンブルグでも走りましたが、今回はフランクフルトの中心部から南へバスで約30分のダルムシュタットという町に宿を取りました。
日本からの飛行機輪行には2025年秋に発売予定の「OS500W(ワイド)」を使用。ワイド化したことと、新たにハンドル部分にマチを付けたので、ハンドル・ステム一体型のバイクも簡単に収納できます。ちなみに500mmサイズの私のバイクは、ノーマルサイズの「OS500」に入れた場合、ステムを緩めてハンドルをフレームに巻き付けることで袋の中でピタッと固定できて良いのですが、今回の「OS500W」では、ハンドルを曲げたり、サドルを下げる必要がないので、作業の手間が省けてかなりの時短になりました。ちなみに取り外した部品はホイール、ペダル、リヤメカ、ローター。取り付けたものはダミーローター、両エンド金具(リヤはシャフトの部分のみ)、フレーム養生用パッド。ライトとサイコンは機内に持ち込みました。
参考までに私の自転車ですが、フレームはDAVOS(ダボス)・D604(クロモリ、機械式、ホイールベース1045mm)、タイヤはiRC・BOKEN DOUBLECROSS(ボウケンダブルクロス)42C、ハンドル巾460mm(下ハン外外)、BB-サドル上660mm。空気圧は最悪ポンプがなくても走れる2気圧程度まで空気を抜きました。
ライドをするときの宿泊先は必ず駅の近くを選びます。なぜなら輪行袋を持って知らない街を長く動きたくはありません。大きいし、重いし。特に行きは自転車と周辺用品をOS500にまとめて入れるのでそれ自体が重くなります。スーツケースに自転車用の荷物を分けてしまうと、万が一どちらかがロストバゲージしてしまった際、シューズやウェアが手元にないということも。そうしたリスクを避けるためにも自転車関連は全てひとまとめにすることをお勧めします。今回はロストすることなく、自転車は大型荷物専用口から受け取ることができました。
ドイツの多様な風景や歴史的な街並みも楽しめるグラベルコース
15時頃にホテルにチェックイン。16時頃から早速20kmほどライドへ。今回は輸出をお願いしている代理店のノリさんが同行してくれることもあり心強いスタートになりました。小さな町の中心地を抜けると、目の前に広がる豊かな自然。町の南西の森の小道や川沿いのトレイルを気持ちよく1時間半走りました。
南に抜けるダブルトラックの砂利道を右に曲がると草むらに覆われたシングルトラック。ホントにここでいいの?と思ってしまうほど荒れた道だけど、自転車のタイヤの跡があちこちに残っているので迷わず進みます。ライド後のビールを想像しながらの充実のショートライドで心身ともにリフレッシュ。すぐそこにある非日常の解放感、それこそがグラベル天国。ホテルに戻ると引っ付き虫がズボンにたくさん付いてました。
グラベルライド2日目は朝8時に出発。コースはアウトドア用ルート情報サイトのKomoot(コムート)のコースを参考にして「Ride With GPS」にコースを引き直してBryton(ブライトン)に転送しておきます。さらに、グーグルマップで景勝地やフォトスポットもまわれるようにコースを決めています。毎年とても楽しみにしているライドなので、年がら年中このサイトとグーグルマップとにらめっこです。ただし、Komootに登録してあるルートは初見で走るにはかなりリスキーな場所もあるので、過信せずにグーグルマップのストリートビューなども活用しています。
市内に向かって走ると中世の雰囲気のあるお城を発見。ここがこの町の中心部のようです。門を抜けて中庭に出ると,その広場は夜になるとビアガーデンになるらしい。メモメモ……。同行のノリさんも私もBierという単語には敏感です。そこから数分でグラベルロードに突入していきます。月曜日の通勤時間帯ということなのか、自転車通勤でこの道を走る人が多いのにびっくり。通勤ルートがグラベルとは!? おしゃべりしながら散歩している老人や走っている人もいて、まさに憩いの森です。
次の町まで数km、そこから上るとずっと山の中なので、補給できるようなスーパーやコンビニはおそらくない。経験上、多分次の町も補給はできないと想定し、出発前にホテルでサンドウィッチを作って、リンゴもひとつフロントバッグの中に入れておきました。水も補給は難しいので駅前のスーパーで買った1.5Lを持つことに。(炭酸水だった)日本のようにあちこちにコンビニがあることはとても便利だけど、ドイツのように準備さえしておけばコンビニがなくても不便には感じません。ないなりの楽しみ方をようやく覚えた感じです。
20km過ぎあたりにガソリンスタンドを見つけてアイスを補給。毒でも入っていそうな色のアイスでしたが、その甘さで生き返りました。気がつくとスタートしてから、ここまでほとんど信号なし。町に数個。私の住む東京では考えられない世界です。
この後、上りが始まります。前の方に人影があり、しばらくすると若い女の子と判明。10代? 26インチのMTBで上っていきます。それも一人で。オジサンたちは彼女を暖かく見守って、挨拶を交わし先を急ぎますが燃費が悪いのですぐにお腹が減ります。サンドウィッチを食べて、小腹を満たすと気になるのはランチのことばかり。レストランはそこそこ点在しているものの、休みの場合も多く、今回も予定していた店は休みでした。先には何もないようで、結局来た道を戻りレストランを発見し、ここでシュニッツェル(薄く叩いたとんかつ)を食べたが大正解。うまし。
ランチの後、重くなったお腹に満足して元気に上ります。尾根まで出ると一気に視界が開け、絶景が目の前に。これを待っていました。
ここからしばらく尾根沿いに、今日の目的地のひとつフランケンシュタイン城に向かいますが、ここからが大変でした。風が強い地域らしく、倒木が多く、乗り越えながら目的地に到着。丘の上に立っている城なので眺めがよく、遠くフランクフルトのビル群も見えました。通行止めになっている金網の向こうには、見えてはいけないものが見えてきそうなちょっと怖い感じのお城でした。ギャー!と声が聞こえそうな……。お城の裏口みたいな階段があり自転車を担いで降りて一気に下り、倒木をかき分けながら考えているのはビールのことばかりです(笑)。
64km、1120mUP。
無事にホテルに戻り、シャワーを浴びてお楽しみタイムです。開催前のリフレッシュに最高の時間を過ごし、いよいよユーロバイク本番です。










































