話題の中国ブランド超軽量ロードバイク「ウィンスペース・SLC3」って実際どうなのよ!?
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日本のロードサイクリストの間でも、その評価が急上昇している中国ブランド、ウィンスペース。同社が最新のテクノロジーを余すことなくつぎ込んだ「SLC3」は、フレーム単体で699gという重量を実現するだけでなく卓越した重量比剛性も備えており、ヒルクライムからロードレースまで活躍できる軽量ロードバイクだ。
WINSPACE SLC3 / ウィンスペース・SLC3の特徴

ウィンスペース・SLC3 【試乗車スペック】●フレームサイズ/L ●カラー/カーボンブラック ●メインコンポーネント/スラム・フォース AXS D2 ●ブレーキローター/ガルファー・ディスク ウェーブローター ●ホイール/ルン・ハイパー ライト D45 ホイールセット ●タイヤ/IRC・フォーミュラ プロ チューブレス RBCC 700×28C ●ハンドルステム/ウィンスペース・ゼロ SL 一体型カーボンハンドルバー ●サドル/プロロゴ・スクラッチ M5 パス ティロックス ●ペダルなし実測重量/6.98kg
今、ロードバイクシーンでは中国ブランドがその存在感を増している。その旗手とも言える存在がウィンスペースであり、同社が新たに投入した「SLC3」は、ロードサイクリストの話題となっている1台である。
車名にある「SLC」とは「Super Light Climber」の略。その名のとおり軽さにこだわって開発されたシリーズであり、この3世代目となるのが本作だ。
やはり話題となるのは699g(±30g、Mサイズ未塗装)のフレーム単体重量だろう。しかも単に軽いだけでなく優れた重量比剛性を得ているのも注目点であり、それを実現するのがカーボン素材の選択と製造プロセスだ。
カーボンは東レのT1100、T1000、M46、M65など定評あるタイプを適材適所に採用。さらに一体成型による継ぎ目のないフレームは強度・剛性を高め、カーボンの使用も抑えられるので軽量化も推し進められる。これらによってSLC3のフレーム剛性は、同社の前作SLC2からヘッド部で31.8%、BBエリアで21.6%向上。それだけでなく某トップブランドの旗艦モデルに対する重量剛性比も上回るという。
SLC3の魅力はそれだけに留まらない。日本国内の風洞実験施設でテストを行い、最新のロードバイクで重視される空力にも配慮したフレーム形状が展開されている。
フラッグシップモデルとしては格安な36万8000円という価格に、卓越した重量比剛性と軽量モデルとしては高い空力性能を詰め込んだSLC3は、その主たるコンセプトであるヒルクライムはもとよりロードレースまで万能な走りが期待できそうだ。

最新ロードバイクの定石とも言えるドロップドシートステーを搭載。シートチューブとの接合幅は広く確保して、空気がスムーズに流れるようにして空力性能を高めている

クラウンからブレードに至るまで薄く仕上げられたフロントフォーク。ホイールまわりとの大きな空間がスムーズな空気の流れを生む。最大32Cサイズのタイヤを装備可能

トップチューブは横に広く縦に薄い仕様で快適性とねじれ剛性を両立している。ヘッドベアリングは上下1-1/2インチ径。ケーブル類はFSAのヘッド小物により内装される

PF86規格のBBシェルに接合されるチューブたちは目一杯の幅として剛性を高める。前後方向の長さを抑えたシートチューブは、脚当たりの良いペダリングフィールに貢献する

前後エンドのスルーアクスルがねじ込まれる側は、ねじ穴の見えない仕様として、バイクのフォルムにすっきりとした印象を与える。実用面以外にも、しっかりとこだわっている
WINSPACE SLC3
●フレームセット価格/36万8000円〜40万8000円(カラーによって異なる)
●フレーム&フォーク素材/カーボン
●フレームセット付属品/オリジナルカーボンシートポスト
●カラー/カーボンブラック、ポーラーブラック、ポーラーホワイト、ヴェノム、グレイズ、スカーレットレッド
●サイズ/XS、S、M、L、XL
WINSPACE SLC3 / ウィンスペース・SLC3 試乗インプレッション

インプレッションライダー:自転車ジャーナリスト ・吉本 司 フリーの自転車ジャーナリスト。40年におよぶ自転車歴において数々の車種に乗り、多様な楽しみ方を経験。そのキャリアを基に機材、競技、市場動向に至るまで、スポーツバイクシーンに幅広い見解を持つ
試乗車にはステム一体型のカーボンハンドル「ゼロSL」と、ウィンスペースのホイールブランドであるルンの最新作「ハイパーライト45D」が装備されている。とかく中国ブランドといえばその善し悪しはともかく、独特の“中華感”のあるルックスが漂うものだが、「SLC3」にそうした印象はえがたい。比較的シンプルな造形と細身なチューブで構成されるフレームの立ち姿は、前作と比べてスマートになった。マテリアルのヌードカラーにも後押しされて、フレンドリーな価格も感じさせない。ある意味無国籍な雰囲気で、それがいい。昨今流行となっているシンプル&クール系のウエアでまたがっても、決して違和感を覚えることはないだろう。
ライダーに寄り添うヒルクライム性能
車名にある「SLC」が「Super Light Climber」を意味することは先述したが、そのコンセプトは「SLC3」に的確に表現されている。ペダリングは軽やかで、車重の軽さも相まって低速から加速が響き、バイクの挙動も俊敏。軽快感の強いキャッチーな走りは、軽量車ならではのしつらえである。
ウィンスペースでは某社の某フラッグシップモデルよりも優れた重量比剛性をアピールしており、それなりに脚に響くようなペダリングフィールも想像したが、脚当たりは友好的だ。ペダルをしっかり上から踏めてトルクをかけられる。自分のペダリング感覚をバイクの特性にことさら合わせる必要のない自然なペダリングフィールは、「SLC3」の一つのチャームポイントと言えるだろう。
それは「SLC3」が狙うヒルクライム性能というお題に照らし合わせると、特にシッティングでトルクをかけ続けるようなペダリングを無理なくできるので、自分のペースを刻みやすい利点を与えてくれる。また、脚があがり精度が落ちるようなペダリングになっても進ませやすいので、ヒルクライムの後半でも味方になってくれるはずだ。
転じてダンシングの挙動は自然で軽快だ。シッティングからダンシングの移行もスムーズにできるし、ダンシングでの加速もすっと立ち上がるので、勾配変化の速度維持も脚への負担を抑えられる。総じてヒルクライムにおけるSCL3の性能は高く、なおかつライダーに寄り添ってくれる懐の深さもあるので、筆者のようなホビーレベルのサイクリストであっても仲良くなれる。
全において進化・洗練されている
それ以外の部分においても不足はない。セットアップされたホイールの効果もあるかもしれないが、平地の中・高速域も予想を上回る“流れ感”を得ることができて、平地における性能は軽量モデルとしては十分納得のいくレベルだ。下りも腰高な印象はなく、レーシングモデルとしての乗り心地も不足はない。総合的な性能は高いレベルでまとめられており、ヒルクライムだけでなくアップダウンのあるロードレースや山岳グランフォンドといったハードな用途においても頼れる存在となるだろう。
もちろんプライスパフォーマンスは圧倒的だし、40万円未満の価格帯を見渡してもライバルはそうそういないはずだ。へたをするとワンランク上のプライスレンジの中には、SCL3の走りに及ばないモデルもあるかもしれない。今やトップブランドのハイエンドはフレームセットで60万円超えが通常なので、SLC3との価格差は少なくとも25万円近くである。それこそこの金額差を、ホイールをはじめとするパーツ類のランクアップに使えば、完成車としてのトータルパフォーマンスを効率良く高めることができる。そんな賢い選択や機材遊びが広がるのも、また魅力である。
初めてウィンスペースのバイクに触れたのは今から5年程前だっただろうか。当時といえば同社以外に日本で手に入る中国ブランドが増え始めた頃である。そのときの印象は、彼らの常套句ともされる“コスパに優れる”というもので、走行性能に不満を覚えることはないけれど、特別に心を大きく揺さぶられるような感情を持つことはなかった。
それからおおよそ5年が経過して対面することとなった「SLC3」は、純粋に走行性能が向上しており、そのジャンプ率に驚かされた。そして、その中にキラリと光るフィーリングがあり“コスパの良さ”という言葉だけでは型付けけられないほどの魅力が出てきたことに感心させられる。中国ブランドのトップランナーは全てにおいて進化・洗練されており、新たな領域に足を踏み入れたのだろう。「SLC3」に乗り終えて、中国ブランドにさらなる驚きを抱くのである。
Brand Info〜WINSPACE(ウィンスペース)について
日本で最も知名度の高い中国のロードバイクブランド。その立ち上げには日本の自転車界における重鎮ともいえる人物が関わり、2008年の創設以来、技術力と信頼性を磨き上げ、中国を代表するブランドに成長している。昨年は「ウィンスペースオレンジシールウーマンサイクリングチーム」をおこし、欧州の主要UCIレースで活躍。今年はツール・ド・フランス・ファムへの参加も決定した。フレーム以外にもホイールブランドの「ルン」を手がけ、カーボンスポークホイールのパイオニアとして人気を集めている。