熊出没注意!サイクリストが知っておきたい熊の知識と対策
目次
日本では近年、熊の目撃情報が増加しつつある。我々サイクリストにとっても他人事ではなく、正しい知識を得て、対策を立てることが大切だ。人と熊が良い距離感で共存するための方法を野生動物の専門家に伺った。
山深い林道や峠道には、筆舌に尽くしがたい魅力があふれている。一方、サイクリストにも身近な問題になりつつあるのが野生動物との遭遇だ。耕作放棄地が増えていることやハンターの減少から、国内での熊の目撃情報は増加傾向にあり、この数年は熊による人身事故を頻繁に耳にするようになった。そのような中で、好んで野山を走り回る我々は一体どうするべきなのだろう。「残念ながら熊と自転車は非常に相性が悪いんですよ」という苦々しい事実を教えてくれたのは、北海道・斜里町で野生動物を専門に調査・捕獲・対策を行う葛西真輔さん。これまで熊と自転車の遭遇事例を幾度も対応してきた葛西さんいわく、自転車は走行音が静かである上にスピードが速いことが熊との不慮の遭遇を招いてしまうという。熊の正しい知識と回避方法や対策を知り、彼らとの共存方法を探っていこう。
アドバイザー
ワイルドライフプロ
葛西真輔さん
2005年より知床財団でシカや熊の対策・捕獲に携わり、2022年に北海道東部の野生動物を専門に扱う合同会社ワイルドライフプロを設立。学生時代はツキノワグマの生態を研究しつつ、MTBで日本各地をキャンプツーリングした経歴を持つ生粋のサイクリスト。
日本に生息する熊の種類
【北海道】
ヒグマ
体長/1.5m〜2.0m(雄)
体重/150kg 〜400kg(雄)
ヒグマは北海道に生息しており、雄は最大体長2.0m、体重400kgまで達する。ツキノワグマに比べて木登りは余り得意ではなく、地上での活動が中心。食性は雑食で、木の実などの植物や虫、肉類まで幅広く口にする。河川を遡上する魚を補食する姿も有名だ。行動範囲も非常に広く、葛西さんいわく「中には海を泳いで渡る個体もあるほど」。次々と家畜を襲い、北海道を震撼させたOSO18というヒグマの存在も記憶に新しい。
【本州〜四国】
ツキノワグマ
全長/1m〜1.5m(雄)
体重/50kg 〜100kg(雄)
ツキノワグマは本州および四国に生息する熊だ。全国的に個体数は増加傾向にあるものの、四国など一部では減少が続き、地域によっては「絶滅の恐れのある地域個体群」に指定されている。九州では1987年に捕獲されて以来、絶滅したと考えられている。最大全長1.5m、体重100kgまで成長し、木登りが非常に得意。食性は雑食で、ブナの実やドングリ、栗などを好んで口にする。丸い耳と胸元の三日月型の白斑が特徴。
Topic 1 熊の活動場所や時期、時間帯など行動の傾向は?
ヒグマ、ツキノワグマ共に行動の傾向は類似している。1日の中で行動が活発になる時間帯は早朝や夕暮れ。曇りや小雨など視界が悪い日も活動的になる。行動するのは主に「彼らの食べ物がある場所」(葛西さん)で、個体によって行動範囲や行動パターンは大きく異なる。ただ、沢筋や稜線など、比較的歩きやすい場所を利用して移動をする傾向にある。熊は春から秋にかけ活動し、寒い季節は冬眠をする。春〜秋は食べ物を求めて活動しているが、繁殖期である初夏は熊にとって特別な季節だ。繁殖期の雄は子孫を残すために雌を追いかけ回し、時には子熊を殺してしまうこともある。そのため雌は非常に神経質になっており、夢中で逃げる余り、普段は出没しない舗装路などに飛び出してしまうことも。基本的に熊は臆病な性格をしており、人間を避ける傾向にある。だが、人間の廃棄したゴミや食べ物を口にした途端、彼らの行動パターンはガラリと変わると葛西さんは警鐘を鳴らす。
食べ物がある場所ならどこにでも出現。繁殖期となる初夏や、行動範囲を広げる秋は特に注意!
川や水場の近く
見通しの悪いコーナーやアップダウン
Topic 2 サイクリングの計画時に、チェックしておくべき情報は?
サイクリストと熊の双方にとって「遭遇しないこと」が最善だ。まずは訪れる地域の出没情報をチェックすることから始めよう。熊の出没情報は各自治体や団体のサイトに掲載されているほか、現地のビジターセンターなどで入手できる。熊の出没には主に通過型と滞留型の2種類があるという。通過型は1回出没するだけでそれっきり姿を現さないパターンだが、要注意なのは滞留型だ。出没箇所に熊の餌となるものがあったり、熊の通り道になっていたりすることが多く、特に注意する必要がある。同じような目撃情報が相次ぐときは同一個体である可能性が高い。最新情報および出没傾向を押さえておこう。
自治体やビジターセンターなど、現地の最新情報を事前に確認
Topic 3 熊に不意に遭遇しないために、ライド中にできるコト
熊の最新情報を入手したら、いざ現地へ。ここで重要になるのが、熊との遭遇を「回避するための行動」だ。自転車は熊にとっても予測できないスピードで懐に飛び込んでくるため、相性が悪いと葛西さんは表現する。「やはり音を出して、人間の存在を知らせることが重要です」。登山者が携行するような熊鈴やラジオはもちろん、集団走行であれば複数人でのおしゃべりも回避行動としては適切だ。また熊の行動が活発化する早朝や夕暮れ、悪天候時などはより注意が必要。強風下や川沿いなど音が聞こえづらい状況にも気を付けよう。さらに見通しが悪く、死角が発生するような場所に熊が潜んでいる可能性もある。回避するためのポイント4つをチェックして、熊と出合わないライドへ出かけよう。
その1 熊鈴やスピーカーを装備
熊と自転車の相性が悪い理由の一つに「走行音が静か」なことが挙げられる。そのため熊鈴やラジオ、スピーカーなどで音を出し人間の存在を知らせることが有効だ。もちろん自転車用ベルも活用できる。また、熊の出没が懸念されるエリアでは、ソロよりは集団走行の方がオススメだと葛西さん。集団の話し声だけでも十分な遭遇の抑止になりうる。どれも古典的だが、最も効果のある方法だ。
その2 視界が悪い場所では入る前に発声!
その1で紹介したような鳴り物に加えて、視界が悪い場所に入る前に、声を上げたり手をたたいたりすることを率先しよう。注意箇所は、やぶが茂っており視界が悪い場所や、見通すことのできない峠道でのカーブ、峠のピーク近くのアップダウンによる高低差など。また曇りや小雨、霧などの気象条件にも注意しておきたい。「警笛」標識の際のように、通過前には警笛を鳴らす感覚で、大きな音を出すよう心がけよう。
その3 「ゆっくり走る」を心がける
熊との不意の遭遇を避けることはもちろん、自身が左記のような「次のアクション」をスムーズに取るためにも、「スピードを抑えてゆっくりと走る」ことを心がけよう。そして、やぶの中からの「ガサガサ」、「バキバキ」といった熊が動くような音には注意し、もしも聞こえたら警戒だ。山道で自転車の速度を上げたくなる気持ちを抑え、大自然の中で耳を澄ませる心持ちで走ろう。
その4 道の際を走らない
仮に熊と遭遇したとしても、可能な限り距離のある状態を保ちたいため、林道やトレイルでは特に両サイドから離れて走行しよう。左右に深いやぶが茂っていたり森が広がっていたり、見通しが悪く熊が潜んでいそうな場所からはできる限り距離を取るよう心がける。ただ、交通量のある道では対向車線から車が来る可能性もあるため、通行上での安全もお忘れなく。周囲をよく観察しながら、リスクを回避して走る心構えが重要だ。
Topic 4 熊に遭遇してしまった際にやるべきコト
その1 走行中に、視界の先に熊がいることを確認した場合
回避行動をしたが、それでも熊と遭遇してしまったときの心構えとして最も大切なのが「慌てない、騒がない、走って逃げない」ことだ。距離のある状態で熊を発見できたのなら、熊のいる方向を意識しつつ、ゆっくりと後退しよう。このとき慌てて走ってはいけない。熊の視力は余り良くないものの、動くものを反射的に追いかける習性があるため、とっさの動きに反応してしまう可能性がある。「もしかしたら全力で走れば振り切れるのでは」などと考えないように。熊の最高時速は50〜60kmともいわれているため、余りにも危険だ。多くの熊は積極的に人間へ危害を加えることはしないため、落ち着いて行動することが大切。ちなみに熊が不快感を表す行動として、頭を下げたり、息が荒くなることが挙げられる。熊の様子を気にしながら、落ち着いて静かに退却をしよう。集団の場合も刺激しないよう、まとまって後退するように。
慌てない、騒がない、走って逃げない!
その2 走行中に、5m以内に熊がいることを確認した場合
考え得る最も最悪なシチュエーションが、5m以内に熊がいることを確認した場合だ。「この状態になると『これが正解』という答えはありません。正直、熊がどのように行動するかも分からないので。熊によっては突然怒り出すこともあるし、向こうがパッと逃げてくれるパターンもある。熊によって反応が全く違います」と葛西さん。ただ、ここではっきりと言えるのが「慌てない、騒がない、走らずにゆっくり距離を取る」ことの重要性だ。巷には目を合わせないことや、手を広げて体を大きく見せるなど、様々な説があるが、ここまで危機的状況に陥ると一般の人はそのような行動は取れないのではないか、と葛西さんは指摘する。一方、この状況下でもサイクリストができる有効なアクションがある。それは熊と自分自身の間に自転車を挟み、自転車を盾にするという行動だ。加えて熊よけスプレーも有効な一打となる。手持ちのアイテムを駆使し、この難局を突破しよう。
自転車を盾にして、 ゆっくり距離を取ろう
Topic 5 熊対策となるアイテム&サービスはある?
【熊撃退スプレー】
フロンティアーズマン マックス ベアスプレー234mL
価格/1万2100円
熊撃退に有効なアイテムといえば熊よけスプレーだ。攻撃を回避できない状況で、自分の身を守るために熊スプレーは有効でもあり、遭遇が懸念されるエリアを訪れる際にはぜひ携行しておきたい。ただ、この熊スプレーは我々人間にも効果バツグンなので、使い方を間違えるととんでもないことに。いざという時、確実に正しく使えるよう事前にスプレーの使い方を練習しておくことも大切。スプレーは熊の目や鼻、口を狙うのが有効だ。噴射液は前方に散布されるため、間違っても風上に噴射し人間同士で自爆をしないように。
事前に扱い方を練習しておこう!
【熊スプレーレンタルサービス】
熊よけスプレーはいざというときに心強いアイテムでありながら、扱いが難しい側面があるのも否めない。航空機への持ち込みや手荷物預けができないため、遠征では現地調達する必要がある。さらに1本あたりの価格が高価なので、熊が出没する可能性のあるエリアへ滅多に行かない人は、購入を躊躇するかもしれない。そんな時に利用したいのが、熊よけスプレーのレンタルサービスだ。モンベルでは各地のモンベルストアでスプレーの貸し出しを実施。少しでも不安に感じたら、ぜひ熊よけスプレーを借りて万が一に備えたい。
各地のモンベルストアでベアスプレーのレンタルサービスを実施
問・モンベル































