東京サイクルデザイン専門学校どうでしょう!? 北海道研修旅行の珍道中
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東京・渋谷にある東京サイクルデザイン専門学校(TCD)では、自転車に「乗る」楽しさを学ぶために4泊5日の北海道研修旅行を実施した。7月末にフェリーで北海道・苫小牧港へ上陸した一行の汗と笑いと学びの旅の様子をお届けする!
個性派ぞろいの参加者たち
東京サイクルデザイン専門学校(以下、TCD)に個性的な学生が多いことは、十分承知していた。それでも、北海道へフェリーで航るために茨城県・大洗港に集まった彼らのバイクを見て、思わず笑ってしまった。
毎日約80kmを走る3日間の行程(フェリー移動も含めた全行程は4泊5日)では、2日目に獲得標高が1000mを超える上りがメインのコースもある。にも関わらず、ピストバイク、グラベルバイク、さらには14インチのフォールディングバイクと、個性丸出しのバイクに乗って笑顔でフェリー乗り場に登場するのである。最高だ!
そういう個性派は3年生に多く、そのうちの1人、大高直樹さん(先輩製作のピストバイクで参加)が、そのいきさつをこう話す。
「3年生になると、少しひねくれてきて、『変なバイクで行こう!』と行く前にひと盛り上がりありました。やっぱフレームは鉄がいいとか、折りたたみもいいね、太いタイヤにしようっていうことで、統一感がなかったですね(笑)」
とはいえ、自分で製作したバイクに乗る学生は、羨ましくもあり、なによりかっこいい。ちなみに、1、2年生のほとんどは“ひねくれ度”は低いものの、思い思いのこだわりが詰まったロードバイクでの参加となった。
北海道へはフェリーでの輪行だが、学生たちは船旅も多いに楽しんでいたのが印象的だ。今回参加したのは、1年生10名、2年生2名、3年生10名の計22名。引率として学校長でケルビムを主宰する今野真一氏と講師2人、学校関係者1名が参加した。
参加した講師の高橋晶先生によれば、旅行後のアンケートに参加者の82%が「楽しめた」と回答したそうで、満足度の高い研修旅行だったことが伺えたところで旅のハイライトを振り返る。
責任感とユーモアのある3年生
今回、旅行譚を聞かせてくれた3年生の大高さんと木村さんが挙げるのが、北海道2日目の小樽から朝里峠へ上り、そこから定山渓温泉へ向かう下りだった。
「ピストだったんで、上り用にギヤ比をすごく軽くしてたんです。そしたら定山渓までの下りが急でスピードは出るし、コーナーもタイトで、ずっとペダルから足を離して必死で下りました」(大高さん)
その後ろを走っていた木村さんも笑いながら話す。
「後ろを走ってたら、コーナーでペダルが地面にカリカリ当たってたし、すごい速さでペダル回ってて大変そうって(笑)」(木村さん)
それでも大高さんは、この旅行で何かを得たようで……。
「次また北海道へ行くなら、いま製作してるトラクロクロス(固定ギヤで走るシクロクロスレース)のフレームで、固定ではなくフリーのシングルで行きたいですね。遠くへ旅行に行ってディレーラーにトラブルがあると怖い。そう考えるとシングルスピードが一番向いてるかなって気がしてます。気のせいですかね?」(大高さん)
いや、それでいいと思う!
3年生では他にもバイクのチョイスで痛い目を見た学生もいた。出発前日に長野で開催していたシマノバイカーズフェスティバルに出場していたという森本さんだ。
「彼はグラベルクロスに出場したままのセッティングで北海道に来たので、かなりボリューミーなタイヤでした。たしか650Bの47cで、しかもヘッドアングルがかなり寝てるグラベルバイクで『全然、上れない!』って、ツラそうでした(笑)」(大高さん)
「上りの手前で僕がパンクして、森本くんもグループから外れて一緒に修理してくれてました。その後、みんなに追いつこうと思ったら、彼だけ先生が運転する車にちゃっかり乗せてもらってて、峠の上まで行ってました(笑)」(木村さん)
ホイールが14インチのダホンのフォールディングバイクで参加した3年生は、終始ロードバイクばかりの高速グループの先頭を引いて、先輩らしい責任感にあふれる走りを見せてくれた。実にいいキャラクターが集まっているのだ。
胸がアツくなるシーンの数々
研修旅行に帯同した取材班が見た胸アツなシーンもあった。あれは2日目の午後。小樽から朝里峠への長い上りでのこと。カメラを構えて学生を待っていると、九十九折りのはるか下方を上ってくる2名の学生。1年生の高橋さんが、アメリカ人で同じく1年生のスプレッグさんの腰を押しながら上ってくるのである。
スプレッグさんは、昔、事故で足にケガを負い、今もボルトが入っているため、上りに不安を抱えていた。しかも、乗っているバイクは70年代のフジで、スプロケットは6スピードという漢ギヤ。高橋さんに後で聞くと、「スプレッグさん、キツそうだったし、押したら一緒に上れるかなって」とさわやかに答えてくれた。
もう1つの胸アツシーンは、3日目の支笏湖への下りが始まる前の上りでのこと。今野学校長と学生が、ヒルクライムレースばりのバチバチのデッドヒートを繰り広げていたのだ。腰を上げて踏み込み仕掛ける学校長。それに追いつこうとペースを刻む学生たち。学校長の背中からは「オレを追い越してみろ!」と言わんばかりの気迫がみなぎっていた。
最後は10代、20代の若さが勝り、学校長は彼らに先を譲ったのである。その無言の駆け引きに、なにか熱いものを感じてしまった。
自転車の奥深さを知り楽しむ
旅行後の変化を高橋先生は感じているという。
「5日間の旅を一緒に過ごしたことで、学年を超えて、自転車でつながることができたと思います。それに普段は学校で自転車の整備と製作をメインに彼らは学んでいますが、それに乗って楽しむ、活用するところまで体験できたと思います」
最後に大高さんが今回の研修旅行で感じたことを話してくれた。
「いろんなバイクを持ち込んで、その場で友達のバイクと交換したことで、ジオメトリーや車種によって、同じ“自転車”という乗り物であっても感じ方がまったく違うことを実感しました。ジオメトリーや設計思想、乗る人の用途を知ることがいかに大事かを考えるいい機会でした」
TCDが掲げる、「オール・アバウト・バイシクル」のスタンスが詰まった北海道研修旅行。その楽しさが、そのまま学びの深さとなっていく。