ピナレロ・ボリデF HR 3D ガンナのアワーレコード挑戦を支えるTTバイク

2022年10月8日にUCIアワーレコードに挑戦するイネオス・グレナディアズのフィリッポ・ガンナ。それを支えるバイク「ボリデF HR 3D」がピナレロから発表された。ピナレロ史上最速のバイクを目指し開発され、3Dプリンターで製造されているのが特徴だ。

 

ボリデF HR 3D

 

ボリデF HR 3Dは、ガンナの体格に適合しつつ、快適性と空力性能が最大化されている。UCIアワーレコードに挑戦する際には、アスリートがより長く速く走れるようにするため、快適性は重要な要素だという。また、3Dプリンターによって、フレームに新しいエアロな形状が取り入れられるとともに、剛性も高められている。

 

ボリデF HR 3Dの前部

 

フレームの特徴の1つはシートチューブとシートポストだ。

シートチューブとシートポストを合わせた抵抗は、フレームとフォークの全体の抵抗の40%近くを占めるという。ライダーの脚が常に上下に動くことで周囲の空気を偏向させ、シートチューブとシートポストの周りでは常に交互に空気が流れている。この交互の気流が、空気をシートチューブに付着させることを難しくし、気流は常にシートチューブから離れ、その周囲に大きな低圧領域ができ、それが大きな抗力を生み出すことになるからだ。

 

TTバイクと空気の流れ

 

この抵抗を減らすため、ボリデF HR 3Dのシートチューブとシートポストには、オーストラリアのアデレード大学のザトウクジラの研究成果が利用された。

ザトウクジラ

ザトウクジラは、非常にタイトなターンや水中からのジャンプをすることで知られており、この能力は、ヒレの前面にある結節が大きく寄与していることが研究者によって明らかにされている。既に航空機の翼やファンなどにもこのヒレの形状が利用されており、気流の分離効果を最小化するために、ボリデF HR 3Dのシートチューブとシートポストの前面には段差が設けられている。しかし、空力を高めるために効果的な設計もそうでないものもあったため、ピナレロは空力研究開発パートナーであるNablaFlow(ナブラフロー)社と共に多くのシミュレーションを行って、CFDと風洞を使った実走行テストを繰り返し、形状を最適化した。

 

 

ボリデF HR 3Dの試作

ボリデF HR 3Dのシートチューブ

 

また、フレームは、3:1のUCIルールが撤廃されたことを受けて、前面投影面積を可能な限り小さくするよう設計されている。ハブやBBの幅を通常より狭く、具体的には、ハブはリヤで120mmから89mmに、フロントで100mmから69mmに、BBは70mmから54mmに狭められた。さらに、フレームの各部には、より長くより細い翼型が用いられている。

 

ボリデF HR 3Dの前面

ボリデF HR 3D

ピナレロ・ボリデF HR 3D

 

2015年にブラッドリー・ウィギンズがUCIアワーレコードに挑戦した際に、そのバイクのハンドルバーに金属3Dプリントをピナレロは用いていた。3Dプリントは、難しい形状を簡単に作ることができ、1人のアスリートのためにカスタム形状で1つ1つ製造できる。

ボリデF HR 3Dのフレームとフォークには、3Dプリント用に特別に設計された航空宇宙材料である高強度のスカンジウム・アルミニウム・マグネシウム合金「Scalmalloy(スカルマロイ)」が使用されている。

 

ボリデF HR 3Dの製造工程

 

メトロン社が、大型のEOS M400を使用して、スカルマロイのパーツを3Dプリント。フレームは、前三角が3ピース、シートステー、チェーンステーが2ピースの5つのパーツで構成されている。これらのパーツは個別に作成され、入念な洗浄などを行った後、航空宇宙用のエポキシ樹脂で接着される。

 

ボリデF HR 3Dの製造工程

 

また、フォークヘッドやハンドルバーエクステンションなど、応力のかかる部分にはチタンが使用される。

 

ボリデF HR 3Dのハンドル製造

ハンドルの製造にも3Dプリンターが使用されている

 

2022年8月19日にダニエル・ビガムがUCIアワーレコードの新記録を樹立したときに使用していたのもボリデF HR 3D。このフレームは今後一般にも販売される予定だ。