スペシャライズド・Sワークストーチ&Sワークスプリベイル インプレッション
目次
自転車を走らせているのは人に他ならない。レースでの勝利も、ロングライドを楽しむにも、ライダーがストレスなく扱うことのできるプロダクトの存在が不可欠である。そんな〝快適〟というキーワードに対して、数ある自転車メーカーの中で、恐らく最も真剣に向き合っているのがスペシャライズドだ。1997年に「ボディジオメトリー」というコンセプトを立ち上げ、科学的な検証に基づいてライダーとバイクのタッチポイントにおける最適な関係を探り続けている。ライダーの能力を高める効率性、痛みを強いることのない快適性の追求が、同社の製品作りに息づいており、バイクのみならずエクイップメントでも絶大な人気を誇っているのは必然といえるだろう。
今回紹介するロードシューズ「Sワークストーチ」、ロードヘルメット「Sワークスプリベイル3」は、そんなスペシャライズドの快適というキーワードを色濃く反映した最新アイテムである。
S-WORKS TORCH 各部詳細
高いパフォーマンスを持ちながらも快適性に重きを置いたSワークス トーチ
スペシャライズドのロードシューズといえば、昨年登場したSワークスアーレスが人気を博しているが、早々にもう一つのフラッグシップとしてSワークストーチを投入するというのは、少々意外な展開にも思えた。
その意図をメーカーに尋ねると、両者は重視する性能が異なるという。アーレスはトップスプリンターをも満足させるパワーを可能な限り逃さない作り目指し、同社のバイクに例えるのならターマックSL7のような存在。一方のトーチはSワークス7の後継にあたり、高いパフォーマンスを持ちながらも快適性に重きを置いた、いわばエートスのような位置付けだという。ちなみにスペシャライズドが用意したトーチの資料には、「履いていることを忘れる無の感覚」を目指したと記されている。
トーチはアーレスのような突飛な作りではないが、全ての設計を新たにしている。そしてアウトソールの刷新、クロージャーの変更、新形状のヒールカップという3つのハイライトによって、主題である快適性が追求されている。
カーボン製のアウトソールは、Sワークス7よりも4mm広く設計。さらにプラス3mmしたワイド仕様も用意されている。形状自体も新たに「Iビーム」という構造を採用。アウトソール内側にI字形状の補強材を配置して強度・剛性を高めなおかつ20gの軽量化を実現している。
アッパー部はBOAダイヤルをより前方に移動して母指球の浮き上がりを抑え、Sワークス7にあったベルクロストラップを廃しても、十分に高い固定力を得ているという。また、アッパー素材も快適性が必要な部位へよりしなやかなものが配置され、自然なフィット感と足へのストレスを軽減している。
左右非対称のヒールカップ形状としたのは、トーチにおけるざん新な設計だ。これは、快適性を得るにはアキレス腱を包む部分に従来よりも大きなスペースが必要とされるためで、もちろん確実なホールド性も両立されているという。
そして、こうした新設計に加えて、ボディジオメトリーのコンセプトによる「内反ウエッジ」「縦足弓のアーチサポート」「中足骨ボタン」という、従来からのテクノロジーも継承。スムーズなペダリング動作、パワー伝達の最大化と持続性の向上、さらには足の痛みやしびれを防ぎ、効果的なフィティングを生むシューズとしての土台は維持されている。
既存のテクノロジーを礎にして、新しいテクノロジーを積み上げ、究極の快適性を追求した1足がSワークストーチである。
— Sワークストーチ — インプレッション
Sワークスアーレスは、アウトソールが4mm拡充された恩恵なのか、どっしりと足がソールに収まり、土踏まずのサポート感もしっかりしているので、とても安定性に優れる印象を受ける。
そしてこの土台に対して、アッパー部が絶妙なマッチングをみせる。空間を広げたというヒールカップは、余裕を感じつつもアキレス腱から踵の部分の必要なポイントを的確に抑える。さらに足の内側まで伸びたタン部分がより広範囲で甲を覆うことで、安心感に富んだアッパー部のフィット感が実現されている。
こうしてシューズ内での足のむだな動きが抑えられ、スムーズで効率的なペダリングが可能になり、さらにはトルクも安定してかけ続けられる。したがって足と脚が疲れにくいのだ。そしてクロージャーをしっかり締めても足への圧迫を感じにくいので、長時間のライドでも自然な履き心地を失わない。
筆者の場合、長時間のライドでは足先のクロージャーを緩める必要に迫られるシューズもあるが、スペシャライズドのシューズは足先のしっかり空間が確保されており、なおかつトーチの場合はワイドなアウトソールとアッパーの小指側にしなやかな素材を用いるので、そうしたストレスも皆無だ。
アーレスは軽い履き心地とホールド力の高い履き心地で、特にパワーをかけてゆくような場面の走りで輝く、いわばスポーツカーのような存在。対するトーチは安定感があり安心感のある優しい履き心地で、それは快適性に富んだ持つサルーンを思わせる。2つのシューズがターマックとエートスのような関係性であることは、実際に履いてみても納得できる部分がある。ライドの強度や距離に応じて2つのシューズを使い分けるというのは、なかなか贅沢な話しではあるが、きっと効果的に違いない。
DATA
価格/4万9500円
サイズ/36 (23cm)、37 (23.5cm)、38 (24.5cm)、38.5 (24.8cm)、39 (25cm)、39.5 (25.3cm)、40 (25.5cm)、40.5 (25.8cm)、41 (26cm)、41.5 (26.5cm)、42 (27cm)、42.5 (27.3cm)、43 (27.5cm)、43.5 (27.9cm)、44 (28.3cm)、44.5 (28.6cm)、45 (29cm)
S-WORKS PREVAIL 3 各部詳細
クラッシュ検知システムの「アンジー」に対応している、サイズ調整機構の「マインドセットダイヤルシステム」。軽量小型のデザインは頭部の周長調整だけでなく、高さ調節の機能も備わっている
大きな通気口が目を引く新型Sワークス プリヴェイル3
シューズと並びスペシャライズドのエクイップメントで人気を誇っているのがヘルメットである。同社ではエアロタイプのイヴェードと酷暑や山岳ステージで活躍するプリヴェイルを展開しているが、両者ともに刷新され、後者は「プリヴェイル3」へと進化している。
今回のアップデートの主眼はさらなるクーリング性能の強化。そのコンセプトは大きな通気口が目を引く、新デザインに端的に表現されている。大きな開口部を設計するために、空気の流れを妨げるインナーシェルにあるフォーム製のブリッジを省略。これにより通気口の表面積は、前作のプリヴェイルⅡヴェントよりも24.5%増え、スペシャライズド史上最大となり、クーリング性能を大幅に向上させている。
大きな開口部でシェルの面積が極限まで減らされたプリヴェイル3は、十分なプロテクション性能を確保するために「エアケージ」と呼ばれる新構造のインナーフレームを用いる。アラミド繊維で編んだケーブルでヘルメットの左右を繋ぎ、カーボン製のサイドパネルにそれが固定されるという作りで、転倒時はエアケージが局所的な衝撃を受け止めつつ、シェル全体でエネルギーを分散させるという。
さらに回転方向の力に対しては、ヘルメットのパッドに融合された、超軽量なシステムのミップス・エアノードを装備することで、脳に伝わる衝撃を軽減してくれる。
通気性の向上とヘルメットの耐衝撃性能の確保は、相反する性能だが、プリヴェイル3はエアケージという新開発のインナーフレーム構造を採用することで合理的に解決してみせた。その独創性は開発力に富んだスペシャライズドならではだ。ちなみに安全性の評価は、この分野で定評のあるヴァージニア工科大学のテストによって5星という最大級の評価を受けているという。
— Sワークス プリヴェイル3 — インプレッション
ここまで通気口が大型だと、かなり開放感のある被り心地が得られる。数回使用したうちの1日は、ライドの途中に雨に見舞われることもあり、雨粒が頭に直接落ちてくるのが分かるほど。大雨以外で、そんな感覚を味わえるヘルメットはそう多くないだろう。
少々話しは逸れたが、プリヴェイル3における最大のポイントであるクーリング性能は、見た目の想像に違わない。風が頭を伝うのが認識できて、ヘルメット後部へと抜ける様まで感じられるほどだ。頭を下げ前傾姿勢を確保すると、より風が頭部に触れる感覚が強くなる。ここまで〝風を受ける〟ヘルメットはなかなかないだろう。
低速になり風の流入量が低くなるヒルクライムといったシーンにおいても、開口部の大きさは的確に放熱量の向上に貢献している感覚が得られる。あらゆる場面で、現在筆者が被っているヘルメットよりも涼しさを体感できた。放熱性でもプリヴェイル3は抜きん出ている。
重量は280gで際立った軽量性はないのだが、実際に被ると実重量をそこまで感じない。それは開放感のある被り心地に加えて、フィット感の良さだろう。被り心地はやや浅めの印象ではあるが、頭頂にヘルメットが的確に乗っていて、重量が前後にうまく分散されているような感覚があるので、重さを感じにくい。フィット感が的確なので、乗車時のヘルメットのズレも少ない印象だ。
また、Tri-Fixウェブスプリッターと10mm幅のサイドストラップは、耳まわりの開放感が想像以上にあり、暑い最中のライドではストラップのうっとうしさが極めて少なく快適だった。
狙ったコンセプトが高次元で再現されているプリヴェイル3は、酷暑や山岳ライドにおいてライダーに涼しさという快適性を確実に与えくるだろう。性能だけでなく、見た目にもクリーンで高級感を得られるので、Sワークストーチと共にエートスを乗るような脱レース派のサイクリストとの相性も良いだろう。
DATA
価格/3万3000円
サイズ/Round S (51-56cm)、Round M (55-59cm)、Round L (58-62cm)