その名は「鬼ベアリング」ジェイテクト製ロード用セラミックベアリング

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自動車や産業機械などのセラミックベアリング製造を手がけるジェイテクトが、ロードバイク用の高性能セラミックベアリング「鬼ベアリング」を8月20日に発売し、自転車市場に参入する。

鬼ベアリング安原選手

鬼ベアリングを手にするマトリックス・パワータグの安原選手

海外ブランド製のセラミックベアリングさえ圧倒する回転性能

鬼ベアリングは、ジェイテクトが1984 年に世界で初めて実用化したセラミックボール軸受の技術を結集し、自動車・産業機械向けに培った知見を活かして開発された。

セラミックボールを使用し、ボールを支えるインナーレース(内輪)とアウターレース(内輪)にさびにくいステンレス材を採用することで回転性能を長期間にわたって維持。ボールとレースの接触部や潤滑用のグリスをロードバイクのホイールの回転数や温度などの使用環境に最適化する特殊内部設計を採用している、と鬼ベアリングの設計担当・藤原英樹さんは説明する。

鬼ベアリング藤原さん

鬼ベアリングの設計者、藤原さんが製品の特長を説明

「ロードバイクのハブのベアリングと、クルマや産業機械用のベアリングでは使用環境や回転数が異なります。例えばターボチャージャーのタービン用のベアリングは、毎分20万回転で300℃に達する環境の中で使われますが、ロードバイクのホイールはせいぜい毎分300回転ですし、温度は常温です。それを踏まえて最適な潤滑油を使用するなど内部設計を最適化しています」

このことは、既存のロードバイク用ベアリングと比べ圧倒的な回転性能の高さを実現することにつながり、漕ぎ出しの軽さと、より長時間にわたる速度維持を可能にする。また、メンテナンスフリーでありながら高い耐久性と長寿命を兼ね備えているのも特徴だ。ライダーにとっては、より少ない労力で遠くまで速く走れるだけでなく、メンテナンスに気を遣う必要がなくストレスフリーで長期間にわたって優れた性能が維持できることを意味する。

回転性能を比較する同社の実験では、ベアリングだけを変えた同じ種類のホイールを同じ速度で回し始めると、元々製品に付いていたベアリングや海外ブランド製のセラミックベアリングを搭載したホイールが止まってからも、鬼ベアリングを搭載したホイールは回り続けたという。

鬼ベアリングデモ機

鬼ベアリングと他3種類の比較デモ機

鬼ベアリンググラフ

4種類のベアリングの回転性能を比較した実験のグラフ。横軸が時間、縦軸が回転数。青が鬼ベアリング

 

マトリックス・パワータグの選手も太鼓判

鬼ベアリングマトリックスの二人

圧倒的な回転性能の高さが評価され、JCLでチームランキングトップを独走する国内屈指のレーシングチーム・マトリックスパワータグの安原大貴選手やホセ・ビセンテ・トリビオ選手は、5月からレースバイクに試作品のベアリングを採用した。

安原選手は「機材に頓着のない僕でもこれは圧倒的に素晴らしいと感じられるほどケタ違いに軽い。特にコーナーの立ち上がりでアドバンテージを感じる。骨折明けの全日本選手権で20位完走できたのも、このベアリングの助けがあったことが大きい。ほかのチームの選手に使ってほしくない」と太鼓判を押す。一方、ホセ選手も「下りですごくスピードが伸びる。上りも軽快に走れる」と好評価だ。

同チームでは6月からすべての選手が鬼ベアリングを使っているという。

東京五輪がきっかけで自転車分野に進出

ジェイテクトが自転車の分野に参入するきっかけは、昨年開かれた東京五輪。トラックレースでアメリカナショナルチームに使われたアラヤ製のディスクホイールにジェイテクトのベアリングが採用されたことだった。両社が共同開発したこのホイールは、同大会の自転車トラック競技の女子オムニアムで金メダルを獲得した。これをきっかけにロードバイク用のベアリングを開発し、市販することになった。

鬼ベアリングの「鬼」という名前は、ジェイテクトのグループビジョン「No.1&Only One」から「ONI」を取ったもの。セラミックボール軸受としての圧倒的な高性能を「鬼」の強さにたとえている。また、日本の妖怪である「鬼」を商品名に採用することで、自転車競技の本場欧州へ日本ブランドをアピールする意味も込めている。

マヴィック製のホイール用からスタート。将来的にはBBなども展開し世界進出も

鬼ベアリング

鬼ベアリングを搭載したハブ

鬼ベアリングの製品第1弾として、マヴィックのロードバイク用ホイールの現行モデル(コスミック、キシリウム両シリーズ)用のベアリングがワイズロードの大阪本館と名古屋本館で販売される。ベアリングの規格が同じジップなど他社製の一部ハブにも使える。

同社によると、その他のブランドのホイールに対応するベアリングや、ホイール以外のBBやプーリー、ベアリング交換キットについても現在開発中という。
「将来的には世界進出も視野に入れていて、国内外のロードバイクユーザーにジェイテクトブランドを浸透させたい。いずれジェイテクトのベアリングをUCIワールドツアーの選手たちにも使ってもらいたい」と開発担当の藤原さん。日本製のベアリングが世界を席巻する日が近い将来訪れるかもしれない。

●価格:12万円(税込、前後輪用ベアリング+工賃、ホイール代は別。限定30セット)
●販売店:ワイズロード 名古屋本館、大阪本館の両店

シマノ鈴鹿ロード(8月20日~21日)で鬼ベアリング搭載バイクに試乗可能!

ジェイテクトは、8 月 20 日と 21 日に鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)で開催される「シマノ鈴鹿ロード」にイベント出展を行う。会場では、同社製のベアリングと他社製のベアリングの回転性能が比較できるデモ機の展示のほか、前後輪で鬼ベアリングを搭載した試乗車も用意する予定。その後も今治クリテリウムをはじめ、ロードレース会場での体験会や試乗会などを実施予定という。