シマノ・デュラエースWH-R9270ホイールシリーズを徹底解剖!

目次

  • text 吉本 司
  • photo 佐藤正巳/山内潤也
  • movie 佐藤正巳/山内潤也

Presented by SHIMANO

2021年に5年ぶりとなるフルモデルチェンジを果たしたシマノ、ロードコンポのフラッグシップ「デュラエース」。通算10代目となるR9200シリーズは、同時にホイールラインナップも再構築され、コンポ同様に目が離せない存在になっている。リム高さの陣容を見直した3つのモデルについて、それぞれの走りと用途の違いについて確かめることにしよう。

シマノデュラエースホイール3モデルを徹底解剖

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前編:テクノロジー解説

後編:インプレッション

シマノ・WH-R9270ホイールシリーズの特徴

WH-R9200シリーズは新たに36mm、50mm、60mmのリム高さとして、各モデルの用途をより明確化している。軽量化と空力性能の向上を追求し、さらにフリーボディの内部構造を刷新して向上している駆動効率も見逃せない。今回はディスクブレーキ✕チューブレスタイヤ仕様のWH-R9270シリーズを試す。

WH-R9270-C36-TL

シマノ・WH-R9270-C36-TL

シマノ・WH-R9270-C36-TL ●価格/10万7690円(フロント)、12万5840円(リヤ) ●重量/620g(フロント)、730g(リヤ) ●対応タイヤシステム/チューブレス、チューブレスレディ、クリンチャー

 

前作では40mmのリム高の「WH-R9170-C40-TL」が山岳レースを任されていたが、WH-R9270シリーズでは「C36」がそれにとって代わる。リム高さを36mmに抑えて外周部の軽さを追求。ホイール全体としても「C40(前作)」に対して272gという大幅な軽量化によって1350g(前後セット)の重量を実現した。これによりクライミング性能と鋭い加速性能に磨きをかけている。空気抵抗については「D2」と呼ばれる新形状のエアロリムを採用して空力が向上。さらに新設計となるフリーボディの内部構造「ダイレクトエンゲージメント」を搭載して、今まで以上に力強い走りを手にしている。

WH-R9270-C50-TL

シマノ・WH-R9270-C50-TL

シマノ・WH-R9270-C50-TL ●価格/10万7690円(フロント)、12万5840円(リヤ) ●重量/674g(フロント)、787g(リヤ) ●対応タイヤシステム/チューブレス、チューブレスレディ、クリンチャー

WH-R9270シリーズにおいて、シマノが自信作と言ってはばからないのが「C50」だ。前作の「WH-R9170-C40-TL」と「WH-R9170-C60-TU」の中間に位置する50mmというリム高さを新たに採用することで、平地から上りまで、よりカバー率を広げたオールラウンダーのキャラクターが与えられた。重量は1461g(前後セット)で、リムハイトが10mm低い「C40(前作)」よりも161g軽量に仕上げているのは、特筆すべき点だろう。さらに新型リムの採用により空気抵抗も軽減されており、「C40(前作)」と比べて5.1W、「C60(前作)」よりも1.0W少ない数値を獲得した。横風の影響についても「C40(前作)」と同水準だという。

WH-R9270-C60-TL

シマノ・WH-R9270-C60-TL

シマノ・WH-R9270-C60-TL ●価格/10万7690円(フロント)、12万5840円(リヤ) ●重量/751g(フロント)、858g(リヤ) ●対応タイヤシステム/チューブレス、チューブレスレディ、クリンチャー

平地のスピードレース、スプリンター、TT、トライアスロンなどを照準としたのが「C60」だ。60mmのリム高さは前作と同様だが、リムはD2シェイプの新設計。より空力を高めたエアロ形状もそうだが、リム幅も内側21mm、外側28mmに拡幅することで、タイヤとのマッチングも良くなり空力性能を向上させている。さらに面白いのが車輪の組み方だ。前輪のみ「C60」専用のハブが使用され2:1のスポーキングを採用。加えてスポーク太さも1/8mmにサイズアップ。これらにより横剛性が増している。重量は1609g(前後セット)で、「C40(前作)」よりも軽量な点も見逃せない。

最新設計のチューブレスリム

WH-R9270ホイールシリーズのリム内側

WH-R9270ホイールシリーズのリム内側形状

WH-R9270ホイールシリーズのリム外側形状

WH-R9270ホイールシリーズのリム外側形状

リムはCDF解析などを駆使して導き出された「D2」と呼ばれる形状に生まれ変わり空力を改善。太幅タイヤにも対応するよう、その幅を内側21mm、外側28mmに拡幅し、深いタイヤの接触面を持つ独自のエアロ形状によりタイヤとリムの境界にある溝を埋め、この部分で起こる乱流を抑えてホイールシステムとして空力性能を追求した。他社製品と比べて0〜15°のヨー角度において、空気抵抗を低減するという。また、リムの断面積も増したことで横剛性は強化され、縦方向の追従性も高められ、ハンドリングや乗り心地も向上している。リム重量は公にされていないが、シマノでは「かなり攻めた設計」としており、軽量化は進んでいるようだ。チューブレスレディタイヤへの対応は、チューブレステープを使うオーソドックスな仕様だ。

新構造のハブ

WH-R9270ホイールシリーズのフリーボディ

WH-R9270ホイールシリーズのフリーボディ

WH-R9270ホイールシリーズのリヤハブカットサンプル

ダイレクトエンゲージメント構造

ハブのボディ素材は前作と同様のアルミだが、形状が見直されフランジがより無駄のない形になった。ベアリングは回転精度の高いカップアンドコーン式。最大の変更点はフリーボディだ。ボディ自体は軽量化のためにアルミ素材を選択。内部構造は従来の爪を用いた方式から、オープンラチェット式の「ダイレクトエンゲージメント」を取り入れた。これは現行MTBコンポ・XTR(M9100系)のハブに投入されている構造とほぼ同様だが、ロードホイールに適した駆動剛性を生むように、ノッチ数やそのフィーリングなどが変更されているという。この構造を採用することで、「C50」は「C40(前作)」よりも63%駆動剛性が向上(「C36」は69%、「C60」は89%)。また、ハブ自体の回転抵抗についても、あらゆる速度域で64%以上削減されている。

モデルによってスポーク太さと組み方を最適化

WH-R9270-C60-TLのスポークと同C36/C50のスポーク

WH-R9270-C60-TLのスポークと同C36/C50のスポーク

WH-R9270-C60-TLの前輪スポークパターンと同C36/50の前輪スポークパターン

WH-R9270-C60-TLの前輪スポークパターンと同C36/50の前輪スポークパターン

従来は全てのリム高さで同じスポーク太さとスポークパターンだったが、今回は「C60」のみ、それらが固有の仕様になっている。後輪については、全てのモデルが従来通りフリー側と反フリー側のスポーク数の比率を2:1とする、「オプトバル」と呼ばれる組み方を採用。前輪は「C36」と「C50」が左右ともにクロスパターンで本数が1:1となる組み方だが、「C60」は後輪と同様のオプトバルになる。ブレーキローター側は本数が多いクロス組で、反対側がラジアル組となる。さらにスポークの太さについても、「C36」と「C50」が1.5mmであるのに対して「C60」はワンランク太い1.8mmを使用する。こうしてスポークの組み方とその太さを変えることでホイールの横剛性を高め、ハイスピードなライディングとなる「C60」に適した性能を追求している。

WH-R9270ホイールシリーズ徹底インプレッション

インプレッションライダー/自転車ジャーナリスト・吉本 司

インプレッションライダー/自転車ジャーナリスト・吉本 司。フリーランスの自転車ジャーナリスト。ロードバイクを主軸にするが、機材、レース、市場動向など車種、遊び方を問わず広い知識を持つ。デュラエースのホイールは、ほぼ全ての試乗経験がある

「C36」〜上りで生きる絶妙なペダリングフィール

軽量ホイールならではの質量を抑えた外周部に起因する踏み出しの軽さがあるのだが、この手の製品にありがちなスカスカとした踏み心地はない。トルクをかけるとホイールが路面をしっかり捉えようとする動きがあり、それが推進力に結び付く。

上りのシティングではペダリングのリズムをとても取りやすく、転がりの軽さもあってスルスル上って行く。「C50」も登坂性能はかなり高いのだが、こちらはシャープな軽さを武器に勢いで駆け上がり、「C36」はスムーズで軽やか、そして上品という雰囲気だ。したがって距離が長い上りでは脚を残しやすく、勾配が急な上りでは、特に一般のライダーはトルクを与えやすいだろう。

ダンシングで前輪に加重がかかるような場面でもホイールが潰れるような感覚はなく、ライダーの動作との相性も良くスムーズにバイクが動いてくれるので、気持ちの良いクライミングができる。

また、「C36」だけの性能ではないのだが、ダイレクトエンゲージメントのフリーシステムは、やはり従来のものとは少々踏み心地が異なる。トルクが大きなダンシングや地形変化における踏み直しなどの場面で、ペダリングに粘りとトルクが出るような感覚がある。

乗り心地は、レーシングモデルとしてはとても高レベルだ。カーボンリムがうまく衝撃を散らしている感覚が強く、振動減衰は早い。荒れた路面のコーナリングなどでも弾かれにくく安定性も抜群だ。乗り心地、操作性、脚あたりの良さなどトータルの快適性はC50を上回るので、上りコースが得意なのは間違いないが、一般ライダーのデイライド、ロングライド、ブルベといった用途にもマッチする。

「50」〜50mmクラスの最高到達地点

新型デュラエースでコンポそのもの以上に驚かされたのは、「C50」の性能かもしれない。パーフェクトとも言いたくなるほどに優れた性能バランスに仕上げられている。

ペダリングの軽さ、加速の鋭さは全域ですばらしく、一体感のあるホイール剛性も、パワーを失う感覚がまったくない。それなのに脚に響くような硬さは皆無なのだ。ペダリングをすると上死点から“ストーン”と軽く足が落ちて行き、アップストーロークとの連動性も抜群。無理なく、そしてシームレスにペダルにトルクをかけることができて、圧倒的に踏みやすい。平地は巡行性能も力強いし、スピード変化にもスパッと反応できる。高速域からのスプリントも50mmのリムハイトとは思えないほどの力強さがある。

上りでも外周部の軽さと剛性の高さ、ペダリングの踏みやすさが絶妙にバランスされていて、弾けるような軽さで走り抜ける。ダンシングをするとバイクが自然に左右に倒れて流れる感覚で上れるし、ケイデンス重視で走っても軽快に進む。平地同様50mmのリムハイトとは思えないクライミング性能だ。

さらには乗り心地も良好だし、下りにおけるコーナリングの接地感も不安はない。安心感も含めて快適性の不足もまったくない。ここまで鋭い運動性能を備えて、なおかつ扱いやすさを持つ超絶なバランスのホイールはそうそうないだろう。

シマノホイール史上最高傑作にして、現時点でこのクラスのホイールとしては最高到達点の一つだろう。プライスパフォーマンスまで含めたら絶対に右に出る者はない。

「C60」〜生粋のスピードマンに捧げたい高性能

60mmクラスのリム高さとなると横風の影響やダンシングでのバイクのさばきなどに神経を使うこともあるが、このホイールはそうした部分を感じさせないバランスの良さが魅力だ。ホイール剛性は高いのだが、脚に堪えるような踏み心地は皆無。おそらくリムのサイドウォールの肉厚の薄さによってクッション性がうまく働き、剛性を和らげているのだろう。

低速の走り出しは「C50」などと比べると鈍るとはいえ、ホイールが回り出してしまうと慣性が効いてエアロ効果、そしてパリッとしたリムの触感によって軽快な走りだ。前述したとおりペダルの踏みやすさもあり、なおかつ転がり感も強いので慣性も効いて高速巡航を続けやすく、中・高速域域からのアタックも息継ぎなく速度がきれいに伸びて気持ちが良い。

上りも時速が10km中盤以下となるような勾配、距離が長くなると、さすがに外周部の重さを感じるものの、それ以外であればホイールが転がる勢いを使って上れる。ホイールの硬さを感じにくいのでダンシングの動きが詰まるような仕草を見せにくいし、ケイデンスが落ちないように軽めのギヤを使ってもペダリングがしやすいので、“えっちらおっちら”という走りにならない。このクラスの製品としてはトップクラスの登坂性能だろう。

前述のとおりハイハイトモデルのネガがなく良いバランスでまとめられているのだが、「C50」の性能が“高すぎる”ので、このホイールのメリットを生かせるのは相当なスピードマンなのかもしれない。

一本選ぶとしたらどれか?

WH-R9270シリーズの3モデルの性能は、各リムハイトのカテゴリーではトップクラスの位置づけだろう。しかもその値付けは、とてつもないほどお手頃と言える。一部ではハイエンドモデルの価格を下げているメーカーもあるものの、WH-R9270シリーズの23万6090円(前後セット、各モデル共通)というのは、ライバルメーカーのセカンドグレードに位置する。コストパフォーマンスでいえば、今のところWH-R9270シリーズに敵うメーカーは、ほぼないだろう。

そんな魅力的なラインナップなのだが、最も魅力的でお買い得感も高いのは「C50」だ。先のインプレを読んでも分かって頂けると思うが、動力性能が圧倒的に優れていて、そのリムハイトを超えるような平地性能と登坂性能を持ち、なおかつ快適性も備えており、コースやライダーのカバーエリアがとてつもなく広い。

シマノは「C50」が自信作で「これ1本あれば上りも平地もいけます」と言い切っていたが、まさにそのとおり。「C36」、「C60」の守備範囲を相当に侵食しているので、ラインナップ構成がこれで良いのかと心配してしまうほどだ。おそらくロードレースをするようなサイクリストなら、これ1本持っていればだいたい事足りるに違いない。また、レースはしないけれど、デイライドで仲間とときどき競い合うような走りもするなら「C50」だろう。スプリンターでも「C50」で十二分に対応できるので、そうなると「C60」はTTや相当な脚力のあるスピードマンということになるだろう。

では、「C36」はというと? ピュアヒルクライマーや距離の長い上り、山岳グランフォンド、アップダウンの多い公道ロードレースが適しているのは言うまでもないのだが、「C50」に適すると先に挙げたサイクリスト以外は、「C36」の方が向いているかもしれない。

「C50」は動力性能が高いので、ついつい踏みたくなるし、走りを急がされる感覚もある。やはりスピード域の高い走りの方が、よりその性能を生かせる。マイペースでデイライドやロングライドを楽しむようなサイクリストには、「C36」の方が気持ち良く乗れるかもしれない。かく言う筆者も、今はもうレースをしないし仲間と競い合うような走りもしない。そして乗るバイクもスペシャライズドのエートスであり、「C36」の方が、バイクにも自分の走り方にも合っている印象だった。エンデュランスロードなどを含めて、ノンレース系のバイクには「C36」のセットアップを考えてみてはどうだろうか。

ラインナップ一覧表

デュラエース ホイールシリーズ一覧表

デュラエース ホイールシリーズ一覧表(ディスクブレーキ)

デュラエースホイール一覧表(リムブレーキ)

デュラエース ホイールシリーズ一覧表(リムブレーキ)

デュラエースホイールシリーズのラインナップは全計15種類。今後主流となるディスクブレーキモデルについては、チューブレスレディとチューブラーのタイヤシステムを、全てのリム高さで用意する。一方、リムブレーキモデルについては、その軽量性を最大限に生かすことのできるチューブラータイヤ仕様のみの展開だ。もちろん3種類のリム高さでそろえられる。カセットスプロケットの対応については、いずれも12段の製品のみとなる。