エリートのスマートトレーナー用フレーム「スクエア」をインプレッション

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イタリアのエリートから、インドアトレーニング用スマートフレーム「スクエア」が発売された。高機能なバーチャルシフティングシステムを搭載しており、組み合わせるスマートトレーナーは他社製にも対応する。よりリアルなインドアトレーニング環境を構築したいシリアスレーサーから、家族でトレーナーを共有したい人まで、実にメリットの多い製品なのだ。

スクエア

 

エリート・スクエアの特徴

スクエア

ELITE SQUARE
価格:25万1700円(画像のエリート・ライザーとアヴァンティは付属しない)
重量:約23kg
設置サイズ:H91.5×L105×W44.5cm(最小調整、アヴァンティ使用時)
対応トレーナー:
エリート・ジャストシリーズ、スイートシリーズ、ディレートシリーズ、アヴァンティ
ワフー・キッカーv4〜6、キッカーコア、キッカームーブ(可動部無効時)
タックス・フラックス、ネオ2、ネオ3M
サリス・H3
マージーン・T600、T300
ズイフト・ハブ
※最新の対応状況はエリートの公式ウェブサイト参照

 

世界で最初にスマートトレーナーを商品化し、ダイレクトドライブ式が主流になった今も業界をリードしているエリート。ここに紹介する「スクエア」は、最高水準のパーソナライズを実現するスマートフレームだ。その名のとおりスクエアなシルエットは、和洋を問わずどんなインテリアにも違和感なく溶け込み、無駄を削ぎ落としたデザインからはプロダクトとしての美しさが漂う。

このスクエアは、「愛車のリヤホイールをいちいち外してスマートトレーナーにセットするのが面倒」と嘆いているサイクリストだけのものではない。幅広いユーザーのニーズに応えるのがこの製品の魅力だ。第一のポイントは調整範囲の広さ。サドル高や後退量、ハンドル高、フレームリーチを自在に調整でき、対応身長は152cmから198cmまでと実に幅広い。さらにクランク長も5種類から選択可能であり、家族や仲間とシェアする際にもストレスがない。サドルの固定方法は一般的なやぐらタイプを採用しており、角度調整や交換も容易だ。ハンドルは内蔵スイッチの関係により現状では交換こそできないものの、角度調整には対応している。

第二のポイントは、バーチャルシフティングシステムだ。シマノ、スラム、カンパニョーロなど、メーカーごとに異なる変速操作を忠実に再現できる。専用アプリではギヤ段数や歯数まで自由に設定可能だ。さらにハンドル上部のボタンはズイフトのバーチャルステアリングや、エリートのスマートファン「アリア」に対応しており、ほぼすべての操作を手元だけで完結できる。

対応するスマートトレーナーはエリート製品に限らず、ワフー、タックス、サリスといった主要ブランドも幅広く網羅。つまり、すでに愛用しているトレーナーが適合すれば買い替えは不要だ。複数メーカーの人気モデルとシームレスに連携する設計でありながら、エリートのインタラクティブ技術とも完全に統合されている。

スクエアは「ただの汎用フレーム」ではない。サイクリスト一人ひとりの体格や嗜好に寄り添い、リアルな乗車フィールとスマートな操作性を両立させる新世代のトレーニングデバイスなのだ。

 

調整できる部分

調整する機会の多いサドルおよびハンドルの高さは、クイック式のクランプで調整可能。サドルの後退量とフレームリーチの変更は、サドル下部(サドルポストチューブ)に収納されている専用キーで行う仕組みだ

サイズチャートカード

フル調整可能なスクエアは、身長152cmから198cmまで対応可能だ。右は箱に同梱されているサイズチャートカードで、これを目安に初期設定を行いつつ、あとは個々の好みに合わせて微調整を

クランク

クランク長は165mm、167.5mm、170mm、172.5mm、175mmの5つから選択可能で、その変更はペダルを外さずとも簡単に行える。スマートトレーナーの駆動は、静粛性に優れ、なおかつローメンテナンスなベルトドライブだ

スマートトレーナーとライザー

ANT+ FE-Cをサポートしている多くのダイレクトドライブ式トレーナーとの組み合わせが可能であり、対応製品についてはエリート本社が最新リストを公開している。フロントサポートレッグをエリートの「ライザー」に差し替えれば、勾配シミュレーター機能やステアリング機能を付加することもできる

スクエア

フロントサポートレッグを使用した標準状態 photo:カワシマサイクルサプライ

ハンドルバー

人間工学に基づいて設計されたコマンドレバーは、3大コンポメーカー(シマノ/スラム/カンパニョーロ)の変速およびブレーキ操作を忠実に再現。ステムの上部にはガーミンマウントあり

スクエアアプリ

専用スマホアプリ「スクエア」では、コンポメーカーやギヤ段数、チェーンリングとカセットスプロケットの歯数を自由に設定できる。つまり、自分のバイクとまったく同じ環境が作り出せるのだ

 

インプレッション〜群を抜く静粛性と、直感的な操作性に感動

スクエア

スクエアをインプレするにあたって用意したのは、光学式トルクセンサーを内蔵するエリートの最新トレーナー「アヴァンティ」と、同じくエリートの「ライザー」だ。スクエアは、ベルトドライブゆえにトレーナーにセットする手順は通常とやや異なるが、特に難しいことはない。そして、勾配シミュレーターであるライザーは、室内でクライミング感覚が養えるだけではない。スクエアと組み合わせることで、ズイフト内のバーチャルステアリングと連動し、ハンドルの操舵がアバターの挙動に反映される。バーチャルライドにリアリティを求める人にはうれしい機能だ。

まずは専用アプリを起動し、自分が普段乗っているバイクの変速環境を入力する。コンポメーカーはシマノで、スプロケットは11段の11-30T。チェーンリングは52×36T。これで準備完了だ。日本語表示こそないが、選択項目はシンプルであり、多少の英語力があれば問題ない。代理店であるカワシマサイクルサプライによれば、日本語ローカライズの要望はすでに本社へ伝えているとのことなので、今後に期待したい。

さて、ズイフトで軽めのコースを走り出した瞬間、思わず感嘆の声が出た。ペダルを踏み込んでも、ほとんどと言っていいほど騒音が出ないのだ。数年前に初めてダイレクトドライブ式を試したときも静かさに驚かされたが、この環境はさらにその上を行く。静粛性の要因はベルトドライブ。これまで意識していなかったが、チェーン駆動は予想以上に騒音の原因となっていたことに気付かされる。

また、変速システムがバーチャルシフティングのため、ギヤを切り替えても「カチャッ」という音が一切しない。操作するとアプリ画面内でギヤがスムーズに変わり、それに応じてペダルの負荷が自然に変化する。しかもベルトは注油不要。室内でペットを飼っている人なら、チェーンルブの飛び散りを心配せずに済む点も大きな魅力だ。こうした環境面のメリットだけでも、導入を検討する価値は十分にあるだろう。

スクエアに組み込まれたブラケットとレバーは、シマノDi2に近い形状をしている。シフトアップ/ダウンの操作感もほぼ同じで、長押しによる多段変速にも対応。普段ロードバイクに乗っている人なら違和感はないはずだ。さらにライザーを使用すると、ズイフト内の勾配変化に合わせてフレーム自体が傾き、自然と手元で変速操作をする流れになる。分岐ポイントでは実際にハンドルを切って方向を選択することも可能。バーチャル空間と現実の動作が直結する感覚は新鮮であり、これまでのインドアトレーニングとは次元の違う没入感を味わえた。

そして、可動域が広いにもかかわらず、スクエア本体にガタつきやしなりは一切感じられない。エリートの最新スマートトレーナーはどれも最大出力2000Wを超えるパワーに対応しており、スクエアもその負荷に耐えるだけの剛性で設計されているのだろう。もがいても不安はなく、アウトドアライドと同様の強い踏み込みが可能だった。

スマートトレーナーのヘビーユーザーが気にするのは、長期使用におけるサポート体制だろう。この点についても安心材料が揃っている。ベルトドライブのため基本的にメンテナンスフリー。注油やチェーン交換といった日常的な手間は不要だ。さらに、万が一不具合が発生した場合でも、国内代理店であるカワシマサイクルサプライが、ほとんどの修理を国内で対応する。加えて、エリート本社と直接ネットワークをつなぎ、基盤プログラムの修正やソフトウェアのチェックもリモートで行える体制を整えている。高額な製品だけに、こうしたサポートが保証されていることは非常に心強い。

スクエアを中心とした環境は、インドアトレーニングの体験を大きく変えるポテンシャルを秘めている。圧倒的な静粛性、直感的な操作性、そして堅牢な剛性。さらに充実したサポート体制が組み合わさることで、ユーザーは「走ること」だけに集中できる環境を手に入れられるのだ。

トレーニング効率を高めたいシリアスレーサーはもちろん、インドア環境に快適さを求めるファンライダーにとっても、エリートの最新システムは有力な選択肢となるだろう。

 

インプレッションライダー/大屋雄一
モーターサイクルにも造詣が深いフリーランスライター。ヒルクライム、ブルベ、シクロクロス、キャンプツーリング、MTBレース、ママチャリ耐久など、自転車を使った競技や遊びは一通り経験している雑食系だ。