注目の最新モデルを試乗&紹介 タイム・アルプデュエズディスク

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タイムのフラッグシップの一角をなす「アルプデュエズ」が、5年ぶりにモデルチェンジを果たした。前作はリムブレーキ版が先行販売されたが、本作は当然ながらディスクブレーキ版のみの展開となる。

アルプデュエズディスク

TIME
ALPE D’HUEZ DISC

タイム・アルプデュエズディスク
フレームセット価格/59万4000円〜61万6000円(カラーによる)

RTM製法のタイムにしかできない、ダイニーマ採用フレーム

もちろんアップデートはそれだけでない。ワイヤ類はフレーム内に完全に収納される構造に。そしてシートまわりの造形が見直され、これを受けてシートチューブの形状も改められるといった変化はあるものの、フレームには前作のシルエットが色濃く残る。

とはいえ最大の変更・注目点は構成素材だ。カーボンと同社が従来から用いるヴェクトランに、新たに 「ダイニーマ」 を加えてきたのだ。この素材は超高分子量ポリエチレン繊維で、防弾ベストなどにも使われるほどに強度が高く、水に浮くほど軽いのが利点。つまりフレームの強度を維持しながらの軽量化に効果的なのだ。一方で唯一の欠点は低い融点。プリプレグを使って製造するカーボンフレームの場合、ダイニーマは成型時の熱に耐えられないという。しかしタイムが誇るRTM工法は、それよりも低い温度でフレームを成型するため、ダイニーマの使用が可能だというのだ。こうした新しい素材を積極的に取り入れることができるのも、自社で研究・開発・製造までを手がけるカーボンのスペシャリスト、タイムならではである。

新型アルプデュエズは、見た目の変化こそおとなしいものの、実は中身の濃いモデルチェンジなのだ。

DETAILS

シートポストのクランプバンド

シートポストの固定はクランプバンドで行う方式に改められ、前作よりも、より固定が確実になった。シートポストも丸断面の27.2mm径の製品が使えるようになり、汎用性が増している

ヘッドチューブまわり

FSAの「ACR」システムを利用して、ワイヤ類はヘッドチューブに内装される。ベアリング径は上下1-1/2インチ、コラムは上側1-1/8インチ。ヘッドまわりは若干ボリュームが大きくなった印象を受ける

シートステー

シートステーはモノタイプ。いかにもシートステーがメインフレームに差し込まれている様が分かる作りは、アルミ×カーボンバックの頃のロードフレームみたいで、いささか懐かしさを覚える

フロントフォークのクリアランス

収納できるタイヤは28Cサイズまで。最新モデルとしては控えめな仕様だ。写真は内幅21mmのホイールに28Cのタイヤを装備した状態。フォーククラウンとのクリアランスはかなりタイトだ

ダイニーマを編み込んでいる証

タイムは自社でカーボン繊維を編み、チューブの元となるカーボンブレードを製作する。この作業時にダイニーマ繊維が編み込まれている。自社で素材のコントロールをできるのが強みだ

BBまわり

ハンガー規格はBB386。BBまわりの造形、差し込み式のチェーンステーなど、基本的な構造は前作から受け継ぐものだ。大きく刷新しないのは、それだけ元々の完成度が高いことの証でもある

SPEC

フレーム╱カーボン
フォーク╱カーボン
メインコンポ╱シマノ・デュラエー スDi2 R9270
ホイール╱ヴィジョン・ メトロン60SL
タイヤ╱ハッチンソン・ フュージョン5チューブレスレディ 700×28C
ハンドル&ステム╱ヴィジ ョン・メトロン5D ACR 3Kインテグ レーテッド
サドル╱サンマルコ・ショ ートフィット2.0 3Dレーシング
シートポスト╱ヴィジョン・メトロン SB20
シートポスト サイズ╱XS、S、M、L、 XL
カラー╱ブルークローム、レッドクローム、ピンククローム、グロスカーボン、チームレッド
試乗車重量╱7.38kg(ペダルなし)

GEOMETRY

アルプデュエズディスクのジオメトリ図

SIZE

アルプデュエズディスクのジオメトリ表

IMPRESSION「筋肉質になった走りに、ふと昔を思い出す……」

アルプデュエズディスクに乗る吉本さん

前作のアルプデュエズは、ペダルを踏めばふわりと軽く舞い上がり、路面を滑るように進む。その固有な走りに激しい興奮を覚えたことは、今も鮮明な記憶として脳内に残る。新型の走りを一言で述べるならば全体的に剛性が増している。おそらくディスク化はもとより、それに伴うホイールなどパーツ類の剛性アップとのバランスを取るためだろう。密度の高い物を踏んでいるような安心感は、相変わらずのタイム味。以前はそこに踏みしろや、剛性のいなしを強く感じたが、新作はややパワーのあるペダリングを必要とされる。とはいえ扱えないほどではないし、平地や緩斜面の高速域など高負荷ペダリング領域では、新作の方が力強さを感じることができる。

下りは相変わらず抜群だ。小さな振動はフレーム内で霧散させるような感覚で退け、大きな振動はドイツ車のサスのように“バスッ”と素早く減衰する。このうえない安心感で、下りの快感を極めたいのなら、それだけでもコイツを買う価値がある。

前作の走りを知る筆者としては、 そのバランス感を懐かしく思うが、 新作アルプデュエズはタイムが考えるディスク時代のベストバランスなのだろう。走りは少々筋肉質になったとはいえ、タイムにしかない味は色濃く残っているから大丈夫だ。

RIDER 吉本 司

本誌前編集長で現在はフリーライター。ロー ドバイク歴30年を超えるベテランで、タイムは初期から見ている。