「学生フレームビルダーの3年間の集大成!」東京サイクルデザイン専門学校 卒業制作審査会レポート
目次
東京・渋谷の「東京サイクルデザイン専門学校(TCD)」で2026年3月5日(木)、自転車クリエーションコース3年生による卒業制作審査会と表彰式が開催された。
学生たちが3年間の学びの集大成として制作したオリジナルの自転車が並び、会場には独創的なフレームやコンセプトモデルが集結。審査員による講評やプレゼンテーションが行われ、学生たちはそれぞれの作品に込めた思いを語った。ここではその受賞作を中心に紹介していこう。

作品の前で行われたプレゼンテーション

審査会では、展示された自転車の前に作者が立ち、制作意図や構造について説明するプレゼンテーションが行われた。審査員や教員、学生たちが作品を囲みながら質問を投げかけ、作者がその場で答える形式で進められる。

例えば、井上陽翔さんの作品は、廃棄される楽器を再利用する自転車パーツというユニークなコンセプト。吹奏楽部で使われなくなった管楽器を素材として活用し、ベル部分をベル(呼び鈴)として使うなど、思い出の詰まった楽器を日常の自転車へと生まれ変わらせた。
「楽器には思い出が詰まっている。廃棄されるのではなく、別の形で日常に残せないかと考えた」と井上さん。楽器修理の専門学校や楽団関係者の協力を得て制作したという。
また、篠宮秀虎さんの作品「THRONES」は、ケルビムの名車ハミングバードにインスピレーションを得たトラックバイク。シートチューブが見えない構造を採用し、流線型のフレームラインを強調したデザインが特徴だ。
本田貴士さんの作品は、電気を使わないアシスト自転車。フライホイールに運動エネルギーを蓄え、発進時の加速を補助する機械式のシステムを採用した。
「下り坂で得たエネルギーを次のスタートに活かせないかと考えました」と本田さん。電動アシストとは異なるアプローチで、機械式の可能性を探った。

井上陽翔さん「tone/tone」

篠宮秀虎さん「THRONES」

本田貴士さん「C-Nexus」

小野友雅さん「Children」

吉野航希さん「PORTER」

羽鳥舜さん「MODURA」

土方怜音さん「Da Vinchi」
外部審査員が選ぶ「金樹賞」
表彰式では、外部審査員によって選ばれる「金樹賞」が発表された。今年の審査員は、ヤマハ発動機販売株式会社営業統括部 部長 山口朋章氏とともに、『Cycle Sports』本誌編集長エリグチも登壇。自転車業界の第一線で活動する審査員が、それぞれの視点から作品を評価した。
金樹賞(ヤマハ発動機販売)【CYCLOADER(加藤大夢)】


ヤマハ発動機販売による金樹賞を受賞したのは、加藤大夢さんのカーゴバイク「CYCLOADER」。
この作品は物流用途を想定した大型カーゴバイクで、前方に操舵・駆動系をまとめ、後方を大きな積載スペースとした設計が特徴だ。さらに前後ユニットを分離できるモジュール構造を採用し、荷台部分を用途に応じて交換できるようにしている。
制作の着想は、1930年代のフランスで使われていたカーゴバイク「サイクルオート」。前方に駆動系を配置する構造を参考にしながら、現代のパーツ規格や整備性を考慮して再設計したという。
加藤さんは制作背景について「自転車は移動の道具であると同時に、社会の課題を解決できる可能性を持っていると思いました。物流や災害時の輸送など、さまざまな用途に広がる自転車を作りたいと考えました」。
フレームサイズは通常の自転車よりも大きく、設計と強度計算には苦労したという。試作なしで設計を進める部分も多く、制作期間の多くをフレーム設計と構造検証に費やした。
審査員の山口氏は講評で「社会課題へのアプローチと、自転車の可能性を拡張する視点が素晴らしい。未来への広がりを感じる作品」と評価した。

ヤマハ発動機販売株式会社営業統括部 部長 山口朋章氏
金樹賞(サイクルスポーツ)【alcedo atthis(岩崎大河)】


我らがサイスポによる金樹賞を受賞したのは、岩崎大河さんの「alcedo atthis」。車体名はカワセミの学名に由来する。美しく鋭いフォルムを持つ鳥をモチーフに、優雅さと瞬発力をフレームデザインで表現した。
特徴的なのは、ISP(シートポスト一体型フレーム)を採用した流れるようなフレームライン。さらにステムも自作し、ヘッド周辺からハンドルまで一体感のある造形を実現している。細部の仕上げにも強いこだわりが見られる。溶接や仕上げのラインが目立たないよう処理し、全体として滑らかなシルエットを作り出している。
岩崎さんは制作のコンセプトについて「無駄を削ぎ落とし、ひとつの造形として完成した自転車を作りたいと思いました。芸術作品のように見てもらえたらうれしい」と語る。
審査では「王道のスポーツバイクの美しさを、現代的な造形として高い完成度でまとめている」と評価された。また、岩崎さんの本モデルは、部門賞の「プロダクトモデル賞」も合わせて受賞した。

サイクルスポーツ本誌編集長エリグチも審査員を務めた
コンセプトモデル賞【Ivy(黒田琉仁)】


コンセプトモデル賞には、黒田琉仁さんのミニベロ「Ivy」が選ばれた。クラシックなキャンピング自転車の思想をベースに、小径車として再構築したモデルだ。
ツーリング用途を想定しながらも、街乗りにも対応できるバランスを目指して設計された。フレームはラグ構造を採用。既製のラグではなく、ブランク材から削り出して制作したという。ラグ制作には多くの時間を費やし、「見えない部分まできれいに作ることを意識しました」と黒田さん。
完成したフレームには、クラシックな雰囲気と現代的なバランスが共存している。細部まで丁寧に作り込まれたディテールから、自転車に対する強い愛情が伝わってくる作品だ。審査では「キャンピングバイクの魅力を現代的に再解釈した作品」と評価された。
グランプリ【RIDGELINE(山田雅一)】

今年のグランプリには、山田雅一さんのミニベロ「RIDGELINE」が選ばれた。
細いクロモリパイプを多数組み合わせた三次元的なフレーム構造が特徴で、見る角度によってシルエットが変化する。設計には約1年を費やしたという。
山田さんはまず模型制作からスタートし、その模型を作るための治具も制作。その後、実車用の治具を作り直し、精度を確保しながらフレームを組み上げていった。フレームには数多くの接合部が存在する。細いパイプをロウ付けで組む作業は難易度が高く、溶接の角度やトーチの入り方に苦労したという。
山田さんは「設計は楽しかったが、制作は想像以上に大変でした」と振り返る。審査員からは「複雑な構造を高い精度で成立させた技術力が素晴らしい」と評価され、満場一致でグランプリに選ばれた。

海外審査員による「SPIN THE FUTURE」【CYCLOADER(加藤大夢)】
今年新設されたのが、海外のフレームビルダーやインフルエンサーが審査する「SPIN THE FUTURE賞」。学生がInstagramに投稿した作品動画をもとに、海外の審査員が評価する仕組みだ。
ベストSPIN THE FUTUREには、加藤大夢さんのCYCLOADERが選ばれた。海外審査員からは「革新的でありながら実用性も高い」というコメントが寄せられた。また、加藤大夢さんのCYCLOADERは同校の準グランプリも獲得している。三冠王!


東京サイクルデザイン専門学校・今野真一学校長
今野真一学校長は「今年の卒業制作は例年に比べても全体のレベルが非常に高く、審査員からも多くの評価が集まりました。王道のスポーツバイクから独創的なコンセプトモデルまで、多様な作品が揃い、それぞれに強い個性と自転車への愛情が感じられました。学生たちが時間をかけて技術と発想を形にした成果であり、指導者として非常に誇らしく思います。今後も自転車づくりに挑戦し続けてほしい」と卒業生を前に語った。
この卒業制作を経て、生徒たちは新たな道へ歩み出し、その多くの進路は自転車業界となる。ぜひ日本の自転車界、その未来の原型を目にしてほしい。

学生の作品が集まる「卒祭2026」

今回の卒業制作作品は、卒祭2026でも展示される。
卒祭は卒業制作展と学園祭が融合したイベントで、東京サイクルデザイン専門学校の青山校舎全体を会場に開催される。自転車クリエーションコースの卒業制作作品のほか、姉妹校ヒコ・みづのジュエリーカレッジの卒業制作展、学生による作品販売「クリエーターズマーケット」、ヴィンテージウォッチ販売なども行われる。
卒祭2026「つくる、まとう、ひらく」
会期:
2026年3月6日(金)〜8日(日)11:00〜18:00(最終日は17:00まで)
会場:
東京サイクルデザイン専門学校 青山校舎(東京都渋谷区渋谷1-20-5)
https://tcds.jp/news_detail/data/1026












