eMTBで「日本一過酷」なレースを走ると、どうなるのか 松野四万十バイクレース2025レポート<後編>
目次
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ここまではっきり言って、順調である。浅田さん、高橋さんとはペースも合い、eバイクの設定パワーもそろえられるので誰か一人が大きくバッテリーを消耗してしまった、なんてことがない。同じ道を上り、下る。ペダリングのリズムが同調し、誰が先に行くでも、誰が待つでもなく、そろって進んでいく感覚。自転車乗りとしてチームになっていく喜びがある。
しかしこうも順調だと、日本一過酷とも言われる松野四万十バイクレースのレポートにはならないのではないか? という余計な心配も生まれてくる。まぁ過酷さについては先達も多く書いていることだし、ここは楽しいイベントとして紹介してもいいだろう、などと考え始めた矢先、辛いセクションがやってきた。

何てことないように見えるが、辛かった……
何の変哲もない舗装路区間。ここが私の、奴隷坂
それは何てことない舗装路。最後のCPとなる松野南小学校までのいわゆる「つなぎの区間」である。この10kmの緩斜面の上りがひたすらに辛かった。
もちろんここまでにそうしてきたように、eバイクの電源をオンにしてECO+にすればサクサク走れたに違いない。しかし、この後の松野南小学校CPで充電ができるとはいえ、最後に待つラスボスの目黒林道に備えて、なるべくバッテリーは温存しておきたい。チェックポイントでの充電時間を減らさないと、関門時刻が迫ってくる。それでもし何かパンクなどのアクシデントがあれば、完走ができない可能性もある。
電源をOFFにしたeMTBというものは、それはもう重く、緩斜面の上りで進まない。しかしチームメイトの浅田さんはこの状況下でも軽快そのものといった感じでいいペースを刻む。「ちょ、ちょっとペースを落としてください……」と何度も口から出かける。先程味わったチーム感は、eMTBがもたらした幻想だったのか。実際はちゃんと足の差が出るのである。私にとってはこの何てことのない区間が、奴隷坂であった。
すべてラク、なんて松野四万十ではありえない
苦しみながら気づいたこととしては、eMTBとはいえ松野四万十バイクレースのような制限時間ありの長距離を走る場合には、どこかで頑張る場所が必要だということ。全行程がラクラク、ということは無いのである。
クタクタになりながら、松野南小学校CPに到着。しかしバッテリーをセーブしたおかげで、ちらし寿司とスープを食べているうちに充電も最終区間を走り切れるまでに完了。とはいえ1時間ほどは滞在した。舗装路でバッテリーを使っていたら、もう30分くらいは充電が必要だっただろう。


松野南小CPで充電しつつ補給を摂っていると、ムービングマスク隊も一休みにやってきた
アルティメットクラスは最後に目黒林道が設定されている。途中に下りはあるが、約15kmのジープロードの登坂が待ち受ける。
体力を使い果たしてなおこの登坂が待ち受けるとしたら、その絶望は推して知るべしだが、eMTBのおかげで幸いにもまだ気力と体力は残っている。目黒林道に入って電源を再びONにすると、この日聞き慣れたモーター音がして、ペダルがふっと軽くなった。先程の舗装路よりもずいぶん楽で、なにより楽しい。そして再び、チームの3人のリズムがシンクロし、ひとつの塊となって林道を攻め込んでいく感覚を得る。

最後の目黒林道に入っても、我々のペースは落ちない。それどころか、まとまって集中して走れる感覚があった。上りがとにかく楽しい
下りも楽しいが、この上りこそが、eMTBで松野四万十を走る醍醐味だと再確認した。
林道の周回を終え、再び松野南小学校CPを通過したらあとはフィニッシュを目指すだけ。バッテリーの目盛りは2つまで減っているが、あと舗装路を7kmほど残すばかりだから、残量の心配をすることはない。
朝は真っ暗で全貌が見えなかった虹の森公園が見えてきた。FINISHと書かれたゲートを3人そろって越えた時の達成感は、他では味わえないものだ。eMTBで体力的にかなり助けられたが、それでも130kmの道のりである。簡単だったとは言えない。今日、およそ10時間ほどを自転車で一緒に過ごしただけなのだが、浅田さんと高橋さんは、私の大事な自転車仲間になった。実際の会話以上に、ペダルを通じて対話した気がする。

フィニッシュ! 経過時間はスタートしてからおよそ10時間半!

一緒に走った高橋さん、浅田さんと。最高の一日をありがとうございました
ダントツのトップタイムだった門田・西山組に加え、アドバンスドの参加者もすでにフィニッシュをしており、会場は和気あいあいと、お互いを称え合う雰囲気に満ちていた。誰もがこの松野町の深い山を越えてきたのだから、ただ認め合うばかりである。

どの参加者も、フィニッシュでは最高の表情をしていた

町長も加わってのじゃんけん大会は大盛り上がり。
表彰式にじゃんけん大会(参加者全員に何らかの景品が贈呈された!)と、日が暮れゆく中で和やかに時は過ぎていった。私は心地よい疲労と充足感を覚えつつ、頭のどこかで、「今度はノーマルのバイクで走ってみようかしら」などと考え始めていた。きっと、今日とは違う風景を見ることになるのだろう。
会はつつがなく終わり会場を後にしたが、コース上にはまだ走っていたチームがあった。制限時間は越えてしまったが、戻って来るために奮闘していたのだという。この記事を書くためにフォトグラファーさんが撮った写真を見ていると、彼らのフィニッシュのシーンが記録されていた。

制限時間を越えたが走り切ったチームも。写真に絆が浮かび上がっている

走りきったこの笑顔は、松野四万十バイクレースを走る全ての人に許されている
これはまた来年、走りに戻ってこないといけない。
バイクと装備
松野四万十バイクレース2025のアルティメットクラスをeMTBで走った装備を参考までに記しておく。
補給食は写真のとおり。しかし全てを摂りきらなかった。固形食を持っていくつもりだったが失念。途中空腹を覚える場面があったが、CPでの食事で何とかまかなえた。

eMTBの場合、充電器を自身で持ち運ぶ必要があるのでバックパックが必要になる。

私は容量10Lほどのトレイルランニング用のザックを使用した。充電器でほとんど容積が埋まってしまうが、CPでの充電時間中に体を冷やさないようにコンパクトなダウンジャケットも入れた。その他補給食と替えのチューブを入れた。気温が上がらなかった今年はボトル1本で水は足りた。

バイクはジャイアント TRANCE E+PRO。フルサスで下りはただ楽しいだけのセクションになった。上りはアシストでやはりただ楽しいだけのセクションになった。つまり、松野四万十バイクレースがただ楽しいイベントになったのはこのバイクのおかげ。ホイールサイズは27.5インチ。

チームメイトのタカさんこと高橋雅志さんが乗ったのは、同じジャイアントでも2025年モデルの新型eMTBである、STANCE E+。フルサス、29インチとトレイルバイクとしての高い性能を持たせつつ、ワット時定格量625WHのバッテリーは松野四万十バイクレースのようなロングライドにも最適。
このイベントの発起人である門田基志さんはジャイアントのサポートアスリートでもある。この大一番に向けて新型のANTHEMを導入した。現世界王者も駆るピュアXCレーシングマシンだ。

「国内におけるレースで初投入となった新型ANTHEMは今までのモデルからフレーム形状が一新。120mmストロークのFLEX POINT PROリヤサスペションは、変化に富んだ松野四万十のコース攻略の大きな助けになった。フロントフォークはFOX 34。トラベル量120mmによって、長距離からくる体のダメージを軽減しつつ荒れた路面をハイペースで走り切れました。新開発のステム一体型ハンドルバー Contact SLR XC Integrated Handlebarもハンドル周りがスッキリ収まってお気に入り」とは、松野四万十バイクレース130kmをトップタイムで走破した門田選手の弁。
松野四万十バイクレース2025
開催日:2025年11月16日(日)
開催地:道の駅 虹の森公園まつの(愛媛県北宇和郡松野町)
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