100台以上のTOEIが一堂に会した!「TOEIオーナーズミーティング」レポート

目次

東叡社の「TOEI」を愛するサイクリストが一同に会する! 1998年に始まったTOEIオーナーズミーティング(略称TOM=トム)は今年で22回目となった。全国各地から集まった160人を超える愛好者の中には、アイズバイシクルやカトーサイクルなどの名店のオーナーもいて、TOEIの底知れぬ人気をうかがわせた。

TOEIオーナーズミーティング集合写真

TOM事務局の小泉直人さんは「東叡社さんの創業70年、おめでとうございます。70年は凄いことで、山田社長は生まれていません。我々はとにかく東叡社がないと具合が悪い。今も2人で頑張っておられますので、今後ともお体を大切にしていただいて、いい自転車を作っていただきたいと思います」と挨拶した。

続いて東叡社の山田博社長は「小泉さんたちのおかげで素晴らしい会を開催していただき感無量です。こうして自転車を拝見させていただいて、大事にしていてピカピカなのは大変にありがたいのですが、できればもっと乗っていただきたい。皆さん歳なのはわかりますが、ケガに気をつけて、できれば楽しんで乗っていただきたいと思います。これからもよろしくお願いします」とスピーチした。

その後事務局からは、かなり傷んでいた東叡社の看板を作り直したとのことで、東叡社の二人にそれが贈呈された。毎月第三金曜日に都内で開催されている超マニアの集まり「三金会」の有志、それに加えてTOM事務局からも寄付があって作られたそうで、書は前の看板と同じく書家でありサイクリストであった故花田尊文さんによるものだ。

看板贈呈

TOM事務局の小泉直人さん

TOM事務局の小泉直人さん

TOEIオーナーズミーティングは1998年に、純粋に東叡社の仕事は素晴らしいと思い、もっといろんな人に知ってもらいたいと思って始めたイベントです。だから「TOEIを持っている人、そして興味がある人」に呼びかけています。昔は宿泊を含め走りも入れたりしていましたが、人数が増えてしまうと今回のようなイベントになります。開催は関西が続きましたが、2年後の次回は東京寄りでと考えています。今年は若い人が来てくれたので、その人たちが育って、東叡社の良さを広めてくれると嬉しいですね。

東叡社の山田博さん

東叡社の山田博さん

オリジナルラグや特殊工作など、昔から言われている東叡社の特徴もあるけれど、現代的でツーリング車らしい構成の、昔からの価値観に冒されていない若い人たちからの注文も増えてきています。ブルベに使う人の注文や、散歩車も作っています。最近はタイの人が来日して、続けて注文してきています。なぜか16インチの小径車がむこうでは流行っているらしい。
ツーリング車らしい構成と言えば、やっぱり泥除けかな。泥除けがちゃんと付くかどうかはだいたい設計の段階で決まっちゃう。これは経験と積み重ねですね。
今は注文に追われている状態で、現在の納期は約1年。仕事があるのはありがたいな、と(笑)。

東叡社とは

TOEIは日本が誇るハンドメイドブランドだ。東叡社(埼玉)では山田博社長と小林保明さんがその腕をふるい、美しいフレームを生み出している。扱う素材は主にスチールで、車種的にはツーリング車が多い。「10台のうち1台くらいは東叡社で完成車に組み立てる」(山田さん)そうだが、それ以外は各地のプロショップ、そしてとびっきりのマニアが名車を生み出している。

TOEIオーナースナップ

鈴木収さん

鈴木収さん

奏風会というサイクリングクラブを運営している鈴木さんのTOEIは、今年のTOEIオーナーズミーティングで唯一のディスクブレーキ仕様車だ。「実はディスクブレーキ仕様車は2台目で、1台目はポストマウントのディスクでランドナー、2台目がこのスポルティフで、フラットマウントのディスクブレーキです」と鈴木さん。いずれも機械式ディスクをチョイスしていて、フロントフォークはフォーククラウン上面からブレーキアウターが入り、そこからインナーワイヤーがまっすぐフォーク下部に向かいブレーキ本体に至る斬新な構造だ。「クラブランでは峠を越えたり、旧街道で宿場町を通ったりします。宿場町で写真を撮るとき、ランドナーとかスポルティフの方が景観にマッチすると思う」と話す鈴木さんは、次の1台を「チタンにしようかな」と教えてくれた。

蟹由香さん

蟹由香さん

TOEIは3台持っているというカメラマンの蟹さんにも登場していただいた。「背が低く、30年前は女性用のロードバイクは本当に少なくて、最初にオーダーしたのがVOGUE。それでオーダーに目覚めてツーリング車も作りたくなり、このTOEIを作ってもらった」。組み立てはベロクラフトだ。その次のTOEIは「もっと荷物を積みたいと思って」デモンターブル(分割式フレーム)、3台目は「下りが辛いのでディスクブレーキ」のツーリング車を作った。3台目は「コンチネンタルから650×28Bのタイヤが発売されて、これでスポルティフが作れると思った」と、部品から自転車が「生えた」パターンだ。「私の中ではオーダーがマスト。同じところでオーダーし続けると前のものをたたき台にして作ってくれるのでありがたいです」。

渡邊慎哉さん

渡邊信哉さん

1台目はTOEIでデモンタのランドナーを作った渡邊さん、2台目はセオリー通りスポルティフを注文した。少し古めの部品が好きで、8段変速時代のデュラエースのカセットハブに10段のスプロケ、それをサンツアー・シュパーブプロのシフトレバーでインデックスシフトするという無理難題をオオマエジムショに依頼、いくつかのクラシックパーツは自力で探してきた。「重量も10kg以下」と、「お店にお任せ」という割にはお任せじゃないオーダーだ(笑)。東叡社のビルダー小林保明さんにも「オリジナルカットラグをあっさり目で」と無茶振りをしたが、小林さんは「あまり変わらないと思うけど」と引き受けてくれた。完成したのはTOMの半月前、ギリギリだったが渡邊さんは9.7kgの重量にも大満足だ。

森浩史さん

森浩史さん

ヴェロドゥレーヴェ(岐阜市)でこのTOEIのフレームを購入した森さんは、山田淨二さんに組み立てを依頼した。山田さんは知る人ぞ知る「組み付け師」だが、実は自転車屋ではない。森さんは「達人だと思う。全幅の信頼を置いています」という。BBの中心からサドルの上まで、一番乗りやすい寸法を聞き、サドルのどのあたりに座るかを尋ねる。それだけで完璧に仕上がってくるというから凄い。新品の革サドルはオイルを塗ってしごき、チューニングし、すごく柔らかくなってできあがってきた。「これは良くないという部品は却下されるんです。実際、サンツアーのパーフェクトというボスフリーを持ち込んだのですが、変速のレスポンスの点でシマノのフリーに変更になりました」。乗って良し、見て良し。最高の1台が、山田さんによって作られている。

八橋治子さん

八橋治子さん

八橋さんは長野県南木曽町という山奥(失礼!)にお住まいのバリバリのサイクリスト。カトーサイクル(名古屋市)の加藤安弘さんから譲ってもらったTOEIに乗っている。「譲り受けたのはフレームだけでキャリアも付いていなかったので、東叡社に持ち込んで塗り替え、昔風の構成で組み上げてもらいました」。ところがマッドガードだけは「ワガママを言って」東叡社ではなくサイクルショップフサ(名古屋市)の佐藤さんにお願いし、ワンタッチで外せるように工作してある。この工作はベテランサイクリストであった故鈴木昭一さんの仕様だそうで、「もともとアルプスに乗っている人間なので、フォーク抜き輪行をしたい」と加工の理由を話してくれた。次の1台も「サンプレックスのピラーとか変速機とか、TAのクランクをヴェロドゥレーヴェの永井さんが加工したやつなどを持っているので、それらを使って東叡さんに」と目を輝かせた。

林徹さん、由美子さん

林徹さん、由美子さん

タンデムは前後2人の体格に合わせる必要があるから、まさしくオーダーが必要な車種だ。林さん夫妻のこのタンデムは知人のSさんから譲り受けたもので、ピッタリのサイズのタンデムが中古で手に入るとは奇跡に近い。タンデムは2人分の体重を支えるためにオーバーサイズのパイプが選ばれ、前部BBと後部BBを繋ぐ連携パイプには扁平管が使われたりしているが、それらのイレギュラーなサイズのラグもすべてオリジナルカットでハンドメイドしているあたりにTOEIの底力を感じる。気に入っている点はと尋ねると「完璧です」と即答が返ってきた。クルマで運びしまなみ海道などをツーリングしてきたそうだ。「もう歳だから、軽くないと辛い」と笑いながら、サドルをチタンレールのものに替えたり、BBもチタンにしたりと細かく軽量化を図っていた。

江野澤猛さん、瀧川美佐緒さん

江野澤猛さん、瀧川美佐緒さん

1988年に開催されたタンデムギャザリング、その予定を聞いてこのタンデムをオーダーしたのが前オーナーの瀧川さん(写真右)だ。オーダーしたのはイベントの1年前、そして同じように東叡社にタンデムを注文した人が5、6人いたらしい。タンデムギャザリングの様子は当時のニューサイクリング誌1988年8月号に紹介されている(38台集まったそうだ)。後ろに乗る人を決めずにオーダーしたタンデムは「身長は自分と同等かちょっと下くらい。乗ってくれる人がいなければ『同乗者募集』と書いてソロで乗ったっていい」と話すのは当時まだ20代だった瀧川さん。長い間、長谷川自転車商会(東京)に飾ってあったものを売ってほしいと連絡をとったのが現オーナーの江野澤猛さんだ。後輪に沿うように曲げられたシートチューブなど工房の技術を結集した名車が日本の道を走っている。

西村栄之さん、里音さん

西村栄之さん、里音さん

TOEIオーナーズミーティング参加者中ダントツの最年少、小学校6年生の西村里音(さとね)さんの愛車は24×1-3/8ホイールを履いたアルプスのランドナーだ。お父さんの栄之さんによれば「同じサイクリングクラブの方の奥さんから譲り受けました」とのこと。里音さんはこのランドナーでどこを走ったかな? 「電車で輪行して北海道まで行って、天売島と焼尻島に行きました」。体格から考えると輪行袋を担ぐのは難しそうだが、「お父さんが輪行袋を2つ持って、私はフロントバッグを持ちました」凄い! 他には?「稚内から走って宗谷岬まで行きました。宗谷岬が一番思い出に残っています」。このランドナーの一番のお気に入りは「色が好きです。それからボトルケージが好き」。そして「次はタンデム車に乗ってみたい、お父さんと!」

栗原由香さん

栗原由香さん

愛知県東栄町で、その名前にちなんで「TOEI×東栄町ライド」というイベントが行われている。そこに参加したくてTOEIの自転車を探していたという栗原さん、近所の葉山自轉車市場でこのアルプスの中古車を探し出してもらって購入した。栗原さん自身も神奈川県葉山町で「Foglia,Monti e Bici」というショップを営んでいる。普段は隣町の銀行まで走ったり、先日は苗場で行われた「オールドバイクミーティング」のグラベルライドに参加したりと愛用中だ。「上りは皆さんより遅かったのですが、グラベルでは安定感があって最高でした」と栗原さん。「このアルプスを大切に乗っていきたい」と話してくれた。

吉澤玄三さん

吉澤玄三さん

埼玉ランチタイムミーティング、通称SLTMは、玄人サイクリストが埼玉で開催しているライドだ。その場でこの1959年製のアルプスのフレームを譲り受けた吉澤さん(バイシクルショップ玄)はハタと考えた。仕様はリヤエンド幅110mmで内装変速専用に作られたフレームで「舶来の部品は付けられない」と考え、そこから長考が始まった。「わからなかったのがセンタープルブレーキで、寸法はマファック・レーサーと一緒なのですが、その当時の国産、ダイヤのブレーキにはそれが存在しない。苦肉の策でマファック・デュラルフォージを使ってTOEIと刻印を入れ、当時の東叡社の試作品と言われるブレーキのレプリカを作りました」と吉澤さん。マニア以外には何のことだかわからないが、66年前の自転車を新たに組み上げるには気の遠くなるような苦労があるのだ。