2ステージで真夏の脚試し!「矢島カップMt.鳥海バイシクルクラシック」を実走レポート

目次

8月2日と3日、秋田県由利本荘市で「第38回矢島カップ」が開催された。タイムトライアルとヒルクライム、2種目で競う2日間のステージレースイベントだ。約640名を集めた大会の模様をレポートする。

 

2ステージで2度おいしいレースイベント

TT

ヒルクライム

初日にタイムトライアル、翌日にヒルクライムの2本建てイベントだ

 

正式名称は「矢島カップMt. 鳥海バイシクルクラシック」。今年で38回目を数える伝統のサイクルイベントだ。会場は由利本荘市矢島町の「日新館」。昨年は悪天候で中止となったため、2年ぶりの開催となった。

 

鳥海山

2日間に渡り晴天(と猛暑)に恵まれた。標高2236mの鳥海山には雪渓が残る

 

矢島カップの特徴はずばり、タイムトライアル(TT)とヒルクライムの複合イベントであることだ。初日は8kmの個人TT、翌日は26kmのヒルクライムで合計タイムを競う。片方だけの参加も可能だが、約4割の参加者はダブルエントリーだった。どちらも走りごたえがあり、筆者としても両日参加をおすすめしたいと感じた。

 

なまはげと秋田犬がお出迎え

なまはげと秋田犬がお出迎え。ちょうど大会同日に「秋田竿燈(かんとう)祭り」が開催され、駅には観光客が多く集まった

 

富山在住の筆者は、北陸新幹線→秋田新幹線で5時間半かけて秋田駅へ移動した。さらにレンタカーで1時間半ドライブして矢島町へ。移動だけで半日かかるので金曜日入りである。なかなか来るきっかけのない秋田だから、取材とはいえ精一杯楽しもうという意気込みだった。

 

あきたこまち

参加賞は地元ブランド米「あきたこまち」。価格高騰の続くお米だけにありがたい限り

矢島駅と鳥海山

会場から見える矢島駅と鳥海山。レトロな車両が味わい深い

 

会場の矢島町は、鳥海山の山麓に位置する登山の出発地点だ。輪行する場合は「由利高原鉄道 鳥海山ろく線」の終点駅まで、レトロな単線車両で車窓旅が楽しめる。秋田=米所らしく、一面に水田が広がる緑豊かな場所で、まさに日本の夏という雰囲気が居心地よかった。

 

マヴィック

ジャイアント

大会スポンサーのマヴィックとジャイアント。メカニック担当として参加者をサポートした

 

攻略しがいのある8kmのショートTT

TT TT

 

さてTTのレースコースだが、距離8kmで獲得標高60m。ゆるやかなアップダウンの続く田園路を片道4km飛ばし、Uターンして戻るシンプルなレイアウトだ。いかに上りを耐え、下りでスピードに乗せるかが攻略のカギとなる。チャンピオンクラスは10分台を刻む短期決戦だ。レースとはいえあっという間に終わるので、誰にでも親しみやすい難易度だ。もちろん全開走行はキツイが、気分爽快でフィニッシュできるだろう。

アマチュアにとってTTの機会はあまり多くない。それゆえか、ここ一番のエアロフル装備+TTバイクで、気合十分のライダーの姿が印象的だった。一方、ノーマルバイク1台+エアロバー装着で挑む人も多かった。年1回の記録測定という名目で、地元ベテランライダーの楽しく走る姿も微笑しかった。

TTといえば1秒を絞り出すシリアスなもの、という印象もあるだろう。しかし矢島カップはいい感じで“草レース”な雰囲気だ。沿道の観客も含めて皆リラックスして楽しんでいた。しかし出走時間は一人ひとりしっかり管理されていたり、計測ミスがないよう運営スタッフの数も多く、割と本格的だ。

 

チャンピオンクラス表彰式

チャンピオンクラス表彰式。翌日のヒルクライムとの合算タイムで総合優勝者が決まる

ホテルまさかの食事

主催者手配のお宿「ホテルまさか」で地元の旬味をいただいた。海が近いので食のバリエーションは豊かだ

 

国内屈指のロングコースを駆け上る

スタート前に会場周辺をパレード走行

スタート前に会場周辺をパレード走行。地元住民からエールをもらい気合十分

 

TTを終えた翌日、ヒルクライムの本スタート前に恒例のパレードタイムが設けられた。600名近い大集団で町内をゆったりと走行し、町民から温かいエールを受ける。ライダーにとっては地元の協力を直接感じられるため、とてもいい取り組みだと思った。

 

ウェーブスタート

チャンピオンクラスを先頭にウェーブスタート。9クラスに細分化されている

 

8時20分、18名のチャンピオンクラスを先頭にいざスタート。カテゴリーはチャンピオン、女子A・B、MTB男女、ジュニア、男子A〜Gの合計9つに分かれる。それだけ表彰のチャンスも増えるというもので、老若男女幅広くライダーがそろった。ちなみに、最遠方の参加者は何と福岡県だという!

 

最初の激坂区間

最初の激坂区間。まだまだ先は長いので出しすぎ注意だ

ダウンヒル区間

標高差100mほど下るダウンヒル区間。脚を休めたら残り7kmの後半パートへ

 

鳥海山のヒルクライムルートは4つあるが、大会では「県道58号線・象潟矢島線」から祓川キャンプ場へと至る26kmのコースを採用。獲得標高はおよそ1100m。かの富士ヒルクライムを思わせるサイズだが、中盤にダウンヒル区間のスパイスがある。HCとしてはスピード域が高く、集団走で脚を温存することも戦略のうちとなる。

 

中盤

中盤の苦しい場面だが、気づけば鳥海山が眼前に。気合いを入れ直す

給水ポイント

コース上には給水ポイントが2箇所あり、キツイ場面でアシストしてくれる

残り100m

残り100mでようやく視界が開けた!絶景をバックにラストスパート

 

コースの攻略法だが、26kmと長いのでペース配分がより重要性を増す。序盤はロードレースらしく集団走となり、うまく前走者につけばタイムを稼げるだろう。とはいえライバルの走りに気圧されて飛ばしすぎてはいけない。ダウンヒルは脚を休めて温存するか、集団のままハイスピードでタイムを稼ぐかの2択だ。ダウンヒル区間を終えたら集団がばらけるため、あとは自分との戦いとなる。

 

鳥海山

ゴール地点、この日最も鳥海山に近づいた。雲が多く山頂はなかなか見通せず

 

コースには関門が3箇所設けられており、ゴールの祓川は11時10分がタイムリミットとなる(およそ2時間半)。完走率は、会場を見渡した感覚にはなるが9割以上といったところ。筆者は1時間半程度で完走し、間近に見える鳥海山の景色を楽しんだ。

 

スイカ

スイカ

おいしいスイカが完走者を労う。サポーターとして地元学生も駆けつけてくれた

レース速報

レース速報が順次掲載される。ゴール後すぐに記録が分かるのはありがたい

集団下山

6グループに分かれて集団下山。ゴール地点でも気温30℃と暑い1日だった

豚汁とおにぎり

完走者には具だくさんの豚汁とおにぎりが振舞われた

2日間のチャンピオンクラス総合を制したのは、元Jプロライダーとして活躍した才田直人(ヒルクライム日本百名登)。TTを15秒差の5位にまとめ、ヒルクライムで1分以上のリードを得て総合優勝に輝いた。優勝インタビューを以下に掲載したい。

 

才田選手

矢島カップを制した才田直人(さいたなおと)選手。優勝バイクはキャニオン・アルティメイトCFR

才田選手のTT

エアロバーなしで10分台の好記録をマークした才田

才田選手のヒルクライムフィニッシュ

持ち前の登坂力で3名のサバイバルレースを勝ち切った

 

才田選手コメント:
「鳥海山は何度か登った経験があるのですが、大会コースは初めて挑むルートでした。仙台で自転車を始めたので、東北での大会に特別な思いを持ってエントリーしました。自分はスプリンターではないので、ダウンヒルを終えた残り7kmが勝負所と捉えて戦略を組み立てました。いざ始まるとローテーションが綺麗に回って、3名まで絞れた集団から田崎選手が積極的にアタック。一度先行されましたが、ペースで追いついてから独走に持ち込めました。ライバルの思惑を読んで、自分の得意な走りで勝ち切ることができたと思います」。

 

比内地鶏弁当

帰りの新幹線で比内地鶏弁当をつつく。秋田尽くしの3日間であった

 

総括すると、2ステージレースとして完成され、非常に間口が広いイベントであると感じた。TTとHCどちらも走りごたえ抜群で、ビギナーからベテランまで挑戦しがいのあるコースレイアウトも好印象。“日本の夏”が詰まった地元の雰囲気も最高であったし、秋田を訪れるよいきっかけになるはずだ。

東北エリアはもちろん、東日本在住のサイクリストはぜひ鳥海山を目指してみてほしい。