Back Number

夏ライドを手に入れろ!

どこまでも続くまっすぐな道と、空に浮かぶ入道雲。夏ライドはボクらを未知の世界へと連れて行ってくれる。でも、いいことばかりとは限らない。直射日光は体に絶えず降り注ぎ、じめついた暑さが体にまとわりつく。ノドの乾きがライディングを鈍らせる。そんな、夏にまつわるトラブルや不快解消法を、各方面のアドバイザーに直接聞いてみた。これからのサマーシーズンをより快適に走るために、どんな方策があるのか? 今年の夏を今までとは違う夏にするために……。
夏ライドを手に入れろ!

 ここまでスポーツ医学が進歩した現代でも、真夏に「高校生が部活中に熱中症で倒れた」というニュースを耳にすることは多い。実際に今でも年間何百人という人が熱中症で亡くなっているのだという。なかでも自転車は運動量が多いハードなスポーツ。夏をナメてかかると痛い目にあう。
 そんな夏の危険は、練習時間を気温が低い早朝(もしくは夕方)に変更する、ツーリング先を高原などの涼しい場所に設定するなど、走る「場所」と「時間」を変えれば避けることが可能だ。そうすれば真夏でも快適に自転車を楽しむことができる。だが、様々な制限があってそうはいかないという人や、暑くても関係なく走るというライダーも多いだろう。イベントが炎天下で行なわれることもある。
 本誌の関係者がとあるロングライドイベントでこんな光景を目にしたそうだ。快晴で気温も高いイベント当日、峠を汗だくで上っていたとあるライダーは、ウインドブレーカーを着たままだったという。かなり危険な状態になってもおかしくない行為だが、熱中症に関する正しい知識があれば、そもそもそんなことはしないはずだ。
 湿度の高い日本の太陽の下で、自然に身をさらしながら、激しい運動を長時間にわたって行なうサイクリストには、熱中症に対する正しい知識が必要になってくる。
 だからこその「夏ライド」特集。真夏の太陽の下を快適に走るための知識とテクニックが満載である。今年の夏も、思う存分楽しもう。

▲このページの先頭へ

暑さと紫外線による体の
パフォーマンス低下を防ぐ!


体温は変化している
ローラー台でペダリングしている状態のサーモグラフィー写真。左は運動前で、右がペダリング開始後15分の状態。それほど運動強度は高くなかったにもかかわらず、頭部を中心に体温が急上昇している。頭部だけでなく、よく使う肩甲骨まわりや太ももなどを中心に全身が赤くなっていることがわかる。

なってからでは遅い熱中症は死に至る!
今でも熱射病で亡くなる方は多いです。熱射病になってしまうと脳の中枢に機能障害が発生し、体温調節ができない状態になります。水分補給や冷却、点滴などでは対処できません。卵の白身は熱していくと固まってきますよね。熱射病はそれと同じだとイメージしてください。ただ熱くなるだけではなく、もう後戻りができないんです。熱いから冷やせばいい、という簡単な問題ではないのだ。
でも、現場ではこういう症状が出たから○○病です、と断定するのは難しいんです。
脚がつったからあなたは熱けいれんだと判断します。止まりなさい!
なんてやってるとロードレースはやってられませんよね(笑)。症状として書いてあるのは倦怠感とかめまいなど、非常にアバウト。自覚症状としてはまず脚がつりやすくなるということです。そうならないようなコンディショニングを行なうことが大切になってきます
 自転車は過酷なスポーツだ。運動量が多いし、直射日光に加えアスファルトなどからの照り返しもあるので、気温より暑く感じることも多い。先生に夏場にトレーニングする場合の注意点も挙げてもらった。
暑さに慣れる、体を慣らすという意味では暑いなかを走るのはありです。高地順応のようなもので、寒い場所から暑い場所に行ったときは汗腺が開くまでに時間がかかり、汗が出にくいことがありますから。しかし、強度を上げるトレーニングを目的とするならあまりオススメできません。暑いなかでは強度を上げられないので、トレーニング効果が薄くなります。空調が整っている室内スポーツとは違って、自転車は明るさや交通量など、時間的な問題があって難しいですよね。実際にプロは長距離を走らなければならないので、日中も走ってますし。強度を重視するなら朝走って昼間は休み、夕方また走るなどの工夫が必要です。また、暑さや激しい運動に慣れていない人は、冷房の効いた室内から突然暑いなかに出ても汗が出にくいので、しっかりとウォームアップをして汗腺を開かせてからのほうがいいでしょう。



そもそも熱中症ってなに?
熱中症 高気温・高湿度によって体内の放熱機構が機能しなくなり、体温が異常に上昇し、脱水状態が加わった状態。重度によって熱疲労、熱けいれん、熱射病に分けられる。
熱疲労 発汗により体内の水分が枯渇した状態。症状は倦怠感、脱力感、めまい、頭痛、吐き気など。蒼白や皮膚が湿った状態となり、脈が弱くなる。危険信号。
熱痙攣 大量の発汗により、水分だけでなく電解質(とくにナトリウム)が失われた状態。水分に加えて電解質の補給が必要となる。倦怠感と痛みを伴う筋肉のつりを起こす。
熱射病 熱中症のなかで最も重度の状態。死に至るレベル。皮膚は乾燥し、発汗は停止する。視床下部にある体温中枢機能が害され、脈と呼吸が浅くなり、錯乱や意識障害とい った症状が起こる。透析を必要とするような高度腎機能障害や、後遺症を残すことが多い。熱疲労~熱けいれんの段階で体内の血液量が少なくなっており、循環不全(肝臓、腎臓、心臓に血液が行きわたらなくなってくる)によって臓器にダメージを与えてしまう。そのような多臓器不全の恐れもあり、その段階までいってしまうと冷却 や補給をしても間に合わない。
日々の体調に注意しよう
時期(夏の始まりか終わりごろか……など)、湿度、個人の力量、暑さへの慣れ、日々の体調(風邪気味、寝不足、二日酔い……) などにかなり左右される


筋肉と血液を冷やせば
走りは快適になる
筋肉と血液を冷やせば
走りは快適になる

そんな恐ろしい熱中症を予防するにはどうすればいいのか?
「熱中症にかかりにくいようなコンディショニングをしっかりと行なうことが大切です。まずは水分補給。そして体を冷却すること。体に水をかけて強制的に冷却してやるのは非常に有効です。プロ選手だって暑い日のレースでは走りながら体に水をかけますよね。私がブリヂストン・アンカーチームに帯同したツアー・オブ・タイランドなどでは、飲む水とは別に体にかけるための水をペットボトルで100本以上用意していました。それを氷を入れたアイスボックスに詰めて冷やしておくんです。気温が高いと、選手は飲む水よりも体にかけるための冷水を欲しがるんですよ。自転車は走行中、常に風に当たっているので、水によって体が直接的に冷やされることに加え、気化熱による冷却効果もあるので、体を冷やす方法としては効果的です」

かけるべき場所や注意点は?
「水温は低いほうがいいですが、かける場所は注意しないといけません。冷水を腹部にかけるとお腹を冷やして壊してしまうこともあります。レース中に壊した選手もいましたね(笑)走りながらかける場合は前傾姿勢になっているので、熱を持ちやすい首筋や、面積の大きい背中にかけるといいでしょう。また、筋肉を冷やさないといけないので、太ももなどライディングで酷使する筋肉にかけても有効だと思います。休憩中なら氷などを当てて冷やすことができるので、血管が多く通っている箇所、太ももの付け根、脇、首などを重点的に冷やすと効果的です。キャップやウエアにかけても、気化熱という面でいいでしょう」



補給も大切
内田先生によると、熱中症を防ぐための補給は、水ではなく電解質の入ったスポーツドリンクがいい。汗によるミネラル欠損を補えるので、20分おきに飲むようにする。ノドが渇いたと感じたときでは遅いのだ。水温は4℃~ 15℃が最も吸収効率がよく、体内部からの冷却効果もある。一気に飲みすぎると胃に溜まるだけで吸収されにくく、さらには下痢やおう吐の原因にもなるので200㏄ずつが目安。あまり濃度が高いのも困るが、腸での水分の吸収にもエネルギーがいるので、疲れたときに吸収させやすくするには、濃度を薄めにしよう。市販のスポーツドリンクは4%くらい糖分が含まれているので2倍に薄めるくらいがちょうどいい。

熱が発生しやすいところ
15分ほどペダリングした直後。頭部は大量の熱を発しており真っ赤。ロードバイクの前傾姿勢を維持するために肩甲骨~腕の筋肉も使うため、肩まわりも温度が上がっている。ペダリングでよく使う大腿部や、血管が多い太ももの付け根や脇も温度が上がりやすいことがわかる。


効率よく冷やすための
アイテムを使う

気持ちいいけどかなり過酷な夏ライド。現場で有効かつ効率的な冷却テクニックを、プロ選手のコンディショニングも行なう内田先生に聞いてみた。
「ストッキングにアイスキューブ(角氷)を入れ、氷が首の後ろに当たるようにして、首に結んで走ると体温を下げるのにかなり有効ですよ。ビニール袋などでは溶けた氷が溜まってしまうので重くなり不快ですが、網なら溶けたら水が出ていってくれるので、走行中でも気になりにくいんです。炎天下を走るシチュエーションや、風が当たりにくいヒルクライムなどにはオススメのテクニックです」

冷却する際の注意点などはあるのだろうか?
「注意しなければならないのが冷やしすぎです。氷なら0度C以下にはなることはありませんが、たとえば人工の冷却剤や保冷剤などはマイナス20度Cほどになってしまいます。そういったものを長時間、直接肌に当てていると低温火傷の危険性があります。冷却効果を長くもたせたいときには、冷却剤を肌に直接当てるのではなく、布でくるむなどの工夫をしましょう」

最近は夏ライドを快適なものにするためのアイテムが多く発売されている。それらを活用しない手はないだろう。このページでは、そんなアイテム群を紹介していく。
 まずはキャップ。本来は頭部の日焼け防止や汗落ち防止に有効なアクセサリーだが、頭部に水をかけた際に水分を多く保持できるというメリットもあり、気化を持続させることで効率よく体温を下げることができる。
 肌に塗ることで気化を助けてくれるオイルなども有効だ。そして、筋肉などを効率よく冷やせるコールドスプレー、保冷剤も活用しよう。体温を下げるのなら冷やすものの温度は、ある程度低いほうがいいのだ。
 夏ライドを快適にしてくれるだけじゃなく、もしかしたらあなたの命を守ってくれることになるかもしれない熱対策のアイテムたち。今年の夏は暑くなる前に手に入れておくことをオススメする。




ボトルの水温変化を実験
ポラールの普通のボトルと保冷ボトルを3本ずつ用意し、それぞれに「水道水(常温)」、「氷をいっぱいに入れた水道水」「水道水を冷凍」の3パターンでの、水温の変化を調べた。実験は、平均気温30℃の車内で15分 おきに4時間水温を測定した。
●冷凍したボトルは4時間経過した時点で、普通のボトルは氷が半分くらいになっていたのに対し、保冷ボトルは2/3ほど氷が残っていた。体にかけるなら、水に氷を入れたものか、水を半分ほど入れて凍らせるのがいいだろう。実際は水を使うので、1~2時間程度でなくなってしまう


▲このページの先頭へ

夏ライドを手に入れろ!

自転車に乗るなら避けては通れない日焼け。内田先生によると、
「日焼けは肌にダメージを与えるだけでなく、筋肉疲労の原因となります。ロードに乗る人はすね毛を剃ることが多いですが、剃ったあとに日焼けをすると肌のトラブルが起こりやすくなるので、余計に気にしたほうがいいですね。プロ選手もしっかりと日焼け止めを塗っていますよ。彼らの手足がコンガリと焼けているのは走っている時間が長いことと、レース中に塗り直しできないことが原因。水をかぶったり汗をかいたりすれば日焼け止めは落ちてしまうので、サイクリングなら数時間おきに塗り直すことが必要となってきます。そうそう、みなさんは日焼け止めをうっすらと広げるように塗っていませんか? じつは、それではかなり効果が薄いんですよ。白さが残るくらい肌に乗せないと本来のUVカット効果は発揮されないんです」とのこと。  
日焼けを防ぎたいなら「しっかり塗る」「数時間おきに塗り直しする」ことが大切なのだ。




塗る場所と量
日焼け止めはしっかりと塗らなければちゃんとした効果は得られない。とはいえ、「どれくらい?」「どうやって?」塗ればいいのだろう。アネッサやウーノなど紫外線対策商品を展開する資生堂の担当者に聞いた。
お肌のプロフェッショナル資生堂に聞いた日焼け止めのQ&A
Q1 男性用、女性用の違いは?

日焼け止めは、男性用と女性用とありますが、その違いは肌に塗ったときの使用感ぐらいです。女性用であっても、もちろん男性にもお使いい ただけます。


Q2 自転車に適したSPF値は?

通常生活であれば、SPF10 ~ 20、PA+、スポーツをする場合ですと、SPF20 ~ 30、PA++、激しいスポーツをする場合にはSPF30 ~ 50、PA+++が目安です。自転車の状況を考えますと、最後のSPF30 ~ 50、PA+++でしょう。


Q3 日焼け止めを塗るときは汗を拭いたほうがいい?

日焼け止めのコーティングは汗などの水分で次第にくずれます。塗り直す際には、水分はふき取ったほうがいいでしょう。


Q4 日焼け止めを塗る頻度は?

最近では80分の耐水テストをクリアするウォータープルーフの日焼け止めもありますが、自転車の場合はたくさん汗をかいたり、水をかけたりするので、80分よりも短くなるでしょう。


Q5日焼け止めの落とし方は?

基本的にクレンジングを使用して落とすのが基本です。弊社の「アネッサ」の場合は、専用のクレンジングは必要ありません。




▲このページの先頭へ