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タイヤのセッティングで走りを変える

タイヤのセッティングで走りを変える!
前後の合計でおよそ12㎡(編集部 実測値)。一般的なロードバイク用 タイヤの接地面積である。たったの12㎡。 そんな指2本分ほどの接地面を介してボクらは、限りある人間のパワーのすべてをアスファルトに伝え、力強く加速し、コーナー手前で激しく減速し、車体を深くバンクさせてコーナーをえぐり、ときにはダウンヒルを100㎞/h近い速度で駆け下りたりもするのだ。「12㎡」 にわれわれは、文字どおり「命を預けている」のである。
 当たり前のことだが、ロードバイ クの運動はつねにタイヤを介して行なわれている。タイヤがダメなら、デュラエースもカーボンホイールも50万円のフレームもなんの意味もなさない。そのフレームやコンポーネ ントの高性能化も、タイヤの進化と 無関係ではないだろう。動力伝達率 を向上させた近年のフレームは、タ イヤにより大きなトラクションを要求する。フレームのヘッド剛性が上 がったことでコーナリングスピード は上昇し、結果としてタイヤにはさらなるグリップ力が求められる。飛躍的な性能アップを果たしたブレーキキャリパーが発生させるストッピ ングパワーは、最終的にはタイヤにしわ寄せがいくのである。
 要するにタイヤは、「自転車の運動性能を司る最重要ファクター」であり、その「重要度」はますます高まっているのだ。
 しかし、「自転車のタイヤが担っている役割とは?」という質問に何人が正確に答えることができるだろうか。タイヤに課せられたおもな義務は、ライダーと自転車の荷重を支えながら、「走る・曲がる・止まる」 =「駆動力を路面に伝える・方向を 転換/維持する・制動力を路面に伝 える」ことである。さらにロードバイクのような乗り物のタイヤにとっては、軽さや真円度、快適性(振動吸収性)、耐久性(耐磨耗性)、耐パンク性、グリップが大きいこと、転がり抵抗が小さいこと、ロードバイ クに特有の高圧に耐えること、それ に限界時のコントロール性(いきな り滑りださない)なども重要な要素 となってくる。そこに扱いやすさ(携行性や着脱のしやすさ)や安全性(いきなり外れたりしない)も含まれ、 これらをひっくるめて総合的な「タイヤ性能」が形成されているのである。このように、非常に多くの、ときには相反する要求を絶妙にバランスさせている繊細なパーツが、現在 のロードバイク用タイヤなのだ。
 イギリスの獣医師、ジョン・ボイ ド・ダンロップが自転車用空気入り ゴムタイヤを発明・実用化してから 120年余り。車体と路面との唯一の接点となる、自転車を構成するもののなかで最も重要なパーツの1つであるタイヤは、それゆえに大幅な進化を遂げてきた。
 しかし、前述の質問に対して正確に即答できないように、ボクらはタイヤが担う働きの大きさに見合うほどの知識を持てていないのではないか?知識だけではなく、高性能化するタイヤ性能の100%を引き出す術を正しく理解できていないのではないか?そんなことで「自転車が好きです」と胸を張って言う資格はあるのだろうか?
 そんな思いから生まれた今特集は、”ワンランク上のタイヤ活用術”を 習得するべく、「タイヤ開発のプロ」 と「走りのプロ」の双方に、「実験データ」と「フィーリング」という 両面から取材し、実践的なアプロー チを試みた大特集だ。
タイプで異なるライディングフィール
現在ロードバイクにおいて主流のクリンチャータイヤの魅力は優れた トータルバランスだ。以前はチューブラーに振動吸収性で及ばないとも言われたが、その評価も変わりつつある。とくに最新モデルは低い空気圧でも転がり抵抗を増やさないので、その結果セッティング領域も広がり、当然ながら乗り心地が向上している。
 また耐パンク性も、重量増を抑えつつ強化したモデルが増えている。こうしてもともとの優れた整備性と高いグリップ力により、トータルバランスに優れた存在になっている。
一方、ロードタイヤの伝統的な存 在であるチューブラーは、そのものの軽さはもちろん、ホイールを含め、 総合的に軽量化できるのが大きな魅力。とくにここ数年、レースではカーボンリムの使用が増えているだけに、レーシング機材としての側面がより色濃くなった。また、弱点と言われてきた整備性の低さはテープ式の接着剤の登場が解決し、それを使用すればタイヤ交換は最も簡単だ。
 ロードタイヤで最も新しい存在が チューブレス。リムにタイヤビードを引っかける構造はクリンチャーと 同じで、タイヤの気密性を保持する インナーシールをケーシングと一体化させてチューブを省いた構造は、いわばクリンチャーの発展型。走行 時のエネルギーロスが少ないことから走行抵抗が小さく振動吸収性に優 れ、そのうえパンクにおける空気の漏れが緩やかなのが大きな特徴だ。
 現状は製造メーカーが2社しかなく選択肢が少ないこと、そして交換作業にコツを要すことなどマイナス面もあるが、対応ホイールメーカー も徐々に増えているので、クリンチ ャーとともにロードタイヤの2大定番となる可能性はあるだろう。
タイヤの構造はどんどん進化している
 まず、下の2枚の写真を見てほしい。右が従来のタイヤ、左は最新の構造を持つタイヤだ。
  その差は一目りょう然。右のタイヤは、ケーシング(肌色の部分)にトレッド(黒いゴムの部分)を乗せ ただけという単純な作り。サイドウォールがケーシングだけで構成されているので、リムにタイヤをはめた状態で上から触ってみるとフニャフニャである。タイヤ自体の剛性が低く、サイドカット(タイヤの側面が裂けてしまうこと)にも弱い。ビードもスチール製で重い。
  対して、左の最新モデルの構造は複雑だ。ブレーカー(耐パンク性能を向上させる目的でケーシングの中に織り込まれている茶色い繊維)がサイドまで回り込み、ケーシングの構成要素のひとつとなっている。これによって、貫通パンクだけでなく サイドカットに対する耐パンク性能が向上するとともに、タイヤ全体の剛性もアップしている。
  これが最近のクリンチャータイヤの最適空気圧が低くなってきた要因だ。圧が低くてもタイヤ自体の剛性が高いので走行性能を維持できる。さらにトレッドも、素材(コンパウンド)技術だけでなく断面形状技術によってもグリップ力を発揮させる設計へと進化している。中心部分が尖った形状は、直進時からコーナ リングまですべてのシーンで高いグ リップ力を発揮させるような意図に よるものである。
  このように、タイヤの各部位をクローズアップしてみれば、現在のロードタイヤは構造面においても素材面においても、さまざまな要素がお互いに絡み合って総合的な”タイヤ性能”を成しているということがわかるだろう。タイヤは非常に複雑なパーツへと進化しているのだ。
トレッドに使用されるゴムの配合設計のこと。グリップや耐久性、ウェット性能などの向上をねらって、シリカやカーボンブラック等を配合させていることが多く、各社のノウハウが現われる部分。シリカを配合すれば低温時やウェットコンディションでのグリップ向上に効果的だと言われているが、コンパウンドにうまく結合させないと意味がない。一概に"シリカコンパウンド"といってもカーボンフレームと同じくその性能はさまざまで、パナレー サーではシリカをうまく使って低温から高温まで広い温度範囲で安定したグリップを発揮するように設計しているという。カーボンブラックとは一般的なゴムの補強材。だいたいどのタイヤにも入っており、摩耗や切れに対して強くする効果がある。なお、タイヤが黒いのはカーボンブラックの色である。

タイヤの両端にあるビードは、リムと タイヤを固定する役割を持つ。素材にはアラミド繊維やスチールなどがあるが、ロードバイクのタイヤでは重量を 軽減するためにアラミド繊維を使用しているものが主流。スチールはコストパフォーマンスに優れるが、重く、折り畳めないというデメリットがある。

ケーシングとはタイヤの骨組みとなる繊維層。耐パ ンク性能や乗り心地を大きく左右する重要な部分だ。空気を入れている器と言えばわかりやすいだろう。 ケーシングの素材にはナイロン、コットン(綿)、セタ(絹)などがあるが、現在の主流はナイロン。ケーシングの糸密度を表わす数値としてTPI(スレッド パーインチ=1インチあたりの糸数)が挙げられ、この数字が大きいとしなやかさに優れた高性能のタイヤだと言われてきた。確かに、ケーシングにトレッドを乗せただけの単純なつくりではTPIがしなやかさを表わすのだが、現在はタイヤ構造が複雑になっており、TPI値だけでは性能を判断できない。パナレーサーでは目的に応じて数種類を使い分ける。
トレッドとはタイヤと路面が接する部分のことを言い、グリップ力を担うなどタイヤのキモとなる部分である。クルマの場合はトレッドとサイドウォールの役割が完全に分かれるが、自転車タイヤの場合は傾きがあるので役割を完全に分けることはできず、ケーシングと相まって性能を発揮する。トレッドの厚みもモデルによって差がある。それはタイヤの設計思想による違いであり、ぶ厚ければ耐パンク性や耐摩耗性がよくなるが、当然重くなる。

ガラス片などの鋭利なものからインナーチューブを守り、パンクを防ぐ目的で配されるタイヤの補強材。耐パンクベルトともいう。空気入りタイヤはその構造上、パンクというリスクから完全に逃れることはできず、各メーカーは耐パンク性の向上にしのぎを削っている。しかし、現在のテクノロジーではブレーカーにも剛性・グリップなどの複合的な要素が絡んでおり、ブレーカーがタイヤ全体の剛性・ライディングフィールにも影響している。よって耐パンクだけが目的とはなっていないこともあり、耐パンクベルトという言い方は古いものとなりつつあるという。ここも各メーカーの特徴が表われる部分だ。

トレッドの表面に施される模様のことで、グリップ力に影響する。トレッドパターンの代表的な形状にはスリック(パターンなし)、シボ加工、ライン、杉目、ヤスリ目などがあり、使用される状況に応じたデザインが施される。各メーカーの個性が表われる部分。なお、写真のバリアントEVO3PTのトレッドパターンはスリックではなく、あえて細かな凹凸を設けることで新品の段階からナラシの終わった状態の表面を再現しているのだという。
トレッドの断面形状もタイヤ性能を左右するファクターである。各タイヤメーカーは、素材(コンパウンド)技術だけでなく断面形状技術によってもグリップ力を発揮させようと努力しており、ここにもメーカーの個性が出ている。たとえば、写真①のパナレーサー・バリアントEVO3PTは中心がとがった三角形断面をしている。これは直進時には抵抗を少なくし、コーナリング時には最大のグリップを発揮することを意図したもの。これ以上とがらせるとバランスが悪くなるのだという。対して、写真②のような丸型断面にもメリットがあり、直進安定性に優れて安定感がある。よって気軽な走行に適しており、パナレーサーもツアラーなどツーリング向けタイヤで採用している。
 ロードバイクタイヤのサイズといえば、ほとんどの人が無条件に選ん でいるであろう"23 C"が主流。
しかし、その選択は絶対なのか? パナレーサーの宮路さんはこう語る。 「ロングライドやグランフォンドの ような楽しみ方をするライダーが世 界的に増えたこともあり、ここ1~2年でトップクラスのタイヤにも 25Cが設定されることが多くなりました。要するに、25 Cというサイ ズにレーシングスペックが導入されるようになったわけです」
 23 Cと25 Cで違うのはもちろん太さ、要するに空気量である。空気量 の差は走りにどんな影響を与えるのだろうか。意外に思われるかもしれないが、空気圧や重量などの諸条件 が同じであれば、理論的には、「タ イヤは太くなればなるほど転がり抵 抗は減る」と言われている。これは 同じ荷重がかかった場合に、太いタイヤよりも細いタイヤのほうが大きく変形するためである。しかし、こ れはあくまで巡航時を前提とした理 論上の話。ロードバイクの運動は巡 航だけではなく、タイヤの性能を決 定づけるのも転がり抵抗だけではな い。運動には加減速が含まれるし、 太いタイヤは重量増を招き、高速域 では空気抵抗が増大してしまう。
 では、空気量の変化は実際の走り にどのような変化をもたらすのだろ うか。ここでは宇都宮ブリッツェン の廣瀬選手に23 Cと25 Cを使っても らい、感覚として性能を判断しても らった。走りが軽いのは23 Cと25 C、 どちらなのか。そして、23 Cという タイヤは、あなたの使い方に本当に 適しているだろうか? ちょっと太 めの25 Cが劇的な性能向上を見せ ている今、愛車のタイヤサイズを見 直すいい機会かもしれない
※)赤字の部分がロングライドでとくに必要な【ストレスフリー=安心感】につながる部分空気圧は800kPa(8bar)にそれぞれ設定しテストした
※)5段階評価

23Cのほうが走りは軽いですね。こぎ出しも軽快で、2、3踏みですぐわかるほど。巡航性や下りで伸びる感覚も軽い。対して、グリップ力と快適性は25Cに分があります。走りは若干重くなるものの、思っていたほどではないのが意外。ハンドリングや剛性感もいいレベルですが、ダンシングではハンドルを左右に振ったときの印象がまったく違います。25Cでは振り幅の大きなところでタイヤがつぶれて、戻るタイミングが遅れる感じがします。でも今日初めてバリアントの25Cを使ったんですが、あまりにいいのでビックリしました。練習では25Cを使いたくなったくらい。でも慣れてしまったら、レースで23Cに戻したときに危険かもしれません。

パナレーサーが誇るオールラウンドレーシングタイヤ。圧倒的なグリップ力と低い転がり抵抗を両立させたZSGコンパウンドに加え、ケーシング全体をカバーするPT(ProtectionTech-nology)シールド構造で耐パンク性と走行性能を高次元でバランスさせた、プロも絶対の信頼を寄せるプロスペックモデルだ。
参考価格:5660円

タイヤが太くなると接地面積は大きくなると思っている人が多いかもしれないが、じつはタイヤの太さが変化しても同じ空気圧ならば巡航時の接地面積はあまり変わらない。ただし、空気圧を大きく変化させたときや大きなトルクがかかったときなどの変化は大きい。
廣瀬選手の評価(※表1)を見ると、振動吸収性とグリップの2点において25Cが23Cを上回っています。これはエアボリュームが増えたことによる性能変化でしょう。25Cの"巡航時の転がり抵抗の少なさ"の低下が23Cに比べて0.5ポイントに収まっているのは注目です。重量増が大きく影響する"加速時の反応のよさ"は1ポイント低下していますね。これからもわかるように、アタックなどの瞬間の反応が求められるレースやタイムをねらうヒルクライムでは23Cを、安心感(グリップ)と体への負担の少なさ(振動吸収性)、巡航性が重視されるロングライドには25Cが適しているといえます。ロングライドでは峠でスプリントのようなもがきはしないですからね。また、ツーリング的な視点で見ると、25Cには耐パンク性の向上という大きなメリットが加わります。レースとロングライドではスピード域や楽しみ方が違うので、それぞれの楽しみ方に応じてどのような性能を求めるかを考えて選択すべきです。
23Cと25Cの性格の違いを、廣瀬選手の実走テストをもとに、わかりやすく表にしてもらった。グリップ、快適性などの安心感を重視するなら25C、走りの軽さなど勝つためのバランスを重視するなら23Cという選択が適していることがわかる
走りの軽さと瞬間の反応が必要とされるレースでは、やはり23Cが有利だ。タイヤ幅が狭い23Cは剛性感も向上するため加速時のタイヤ変形量が少ない。よってダンシング時にダイレクト感が失われず、ヒルクライムでも有利。路面のいい日本のロードレースならば、23Cがスタンダートチョイスだろう。
25Cは23Cに比べ、圧倒的な安心感をもたらしてくれる。ロングライドに必要とされる安心感(=グリップ、快適性、耐パンク性)は25Cの圧勝だ。さらに、総合的な走行性能の向上により、今や25Cのデメリットは考えられているほど多くない。シリアスに攻める走り方をしない限り、25Cで決まり!かも。
 タイヤ幅の差による走りの変化を検証した次は、空気圧について考えてみたい。ロードバイクにとってタイヤの空気圧とは、F1マシンにおけるサスペンションセッティングにあたる重要なファクターだ。ライダーのなかには、空気圧は高ければ高いほど走りが軽くなってイイと思っている人もいるだろうが、実際の路面は鉄板のような平面ばかりではない。凹凸、ひび割れ、うねりもあれば荒れている箇所もあり、雨のときは当然ウエットになり、砂利が浮いていることもある。
  キレイな路面では最高だけどタイトコーナーでは滑ってしまう。ヒルクライムでの走りは軽いけどダウンヒルでは恐怖を感じる。そんな空気圧はとてもじゃないが正しいセッティングとはいえない。さまざまなフィールドを走るロードバイクにとって、大切なのはバランスなのだ。
  ならば、走りの軽さ、グリップ力、快適性などの要素がうまくバランスするスイートスポットはどこにあるのか? そもそも、エアをカンカンに入れれば入れるほど走りは軽くなる、は本当なのか?
  それらの疑問を解消させるため、ここではパナレーサーの試験機にて、600・800・1000kPaの空気圧においてタイヤの推進力、転がり抵抗、グリップ力、硬さがどのように変化するのかを検証した。
  また、だれよりも空気圧にシビアなプロライダー、宇都宮ブリッツェンの廣瀬選手と長沼選手にも空気圧を段階的に変えて試乗してもらい、空気圧が変わることで走行感がどのように変化するかを試してもらった。
  空気圧を変えることで、走りにどのような影響があるのか。プロのフィーリングテストと実験結果の双方から検証してみたい。
下の4つの表は、600、800、1000のそれぞれの空気圧においてのタイヤの各性能の変化を検証した実験データです。いずれも800kPaの性能を100とし、それぞれの空気圧でどのように変化するかをパーセンテージで示したものです。空気圧と走りの変化の関係性がよくわかるのではないでしょうか。ただ実走行では、長沼選手のように空気圧が高すぎるとタイヤが跳ねてしまって逆に進まないということもあります。ですから、このデータが絶対ではありません。あくまで参考値と考えてください。
10気圧まで入れるとタイヤってカチンコチンになるんですね。これは……走りだす前から怖いな(笑)。走りそのものは軽いですよ。でもキレイな路面の直線だけ。凹凸ではいとも簡単に跳ねてしまうし、コーナーではグリップ力にかなり不安を感じます。慎重にリーンインで曲がっても怖いくらい。確かに走りは軽いですが、下りやコーナーを考えると8気圧でも厳しいものがありますね。さまざまなコンディションが混在するロードレースではまったく使えません。6気圧で走ってみると細かな凹凸をまったく感じず、快適は快適です。しかしいいのは振動吸収性だけ。ハンドルを振るとタイヤがクニャリとつぶれる感じがするので、ダンシングでは欠点がより強調される感じがします。
非常におもしろい実験データだと思います。ロードタイヤのセッティングはバランスが大事。1つの項目が高くても、安心感が損なわれるのでは正しいセッティングとはいえません。とくに興味深いのは、長沼選手の評価の中で、平坦路での"巡航時の転がり抵抗の少なさ"と上りでの"シッティングでの軽快感"が空気圧を上げるほどよくなっているのに対し、平坦路での"加速時の反応のよさ"と上りでの"ダンシングでの軽快感"が1000kPaで悪くなっていることです。これは出力が少なく、荷重が安定してタイヤに伝わるシッティングのときはよいが、出力が高く、タイヤへの荷重が安定しないダンシングやスプリントのときには、路面をうまく捉えられずに力が逃げているということでしょう。廣瀬選手よりも長沼選手のほうがハッキリとこの傾向が表われたのは、長沼選手の体重のほうが軽いことが大きな要因だと推測されます。空気圧は高すぎても低すぎてもダメで、さらに体重や好みによって細かく調整するべき、ということがこのデータから見えてきますね。
10気圧は思ったほど悪くないのが意外でした。やはり走行抵抗自体は軽くなります。しかしその恩恵にあずかれるシーンはかなり限定されるでしょう。路面がキレイな下りの直線では速いですが、コーナーでは怖いし、グリップは明らかに落ちます。タイヤ剛性が上がるので一瞬の反応はよくなりますが、ボクの体重なら入りすぎ。ダンシングでは、自分のライディングスタイルでは後輪が跳ねてしまいました。キレイな路面のTTなどではいいのかもしれませんが。6気圧に利点は感じません。極端に抵抗が増える感じはないものの走りが重くなります。もっと体重の軽い女子やキッズならいいのかも。6、8、10のなかでは8気圧がいちばんバランスが取れています。
ベストセッティングは楽しみながら探ろう!
長沼「ボクは7気圧をベースにしています。グリップとバランスを重視した結果この数字になりました。コースや天候によって変えますが、調整幅は6・8~7・2の間。自分の基準値より大きくずらすことはありません。ただ、ヒルクライムオンリーだと8気圧まで上げます。速度域が低いのでグリップもそれほど必要なく、パンクの心配も少ないので」
廣瀬「基準値は7・5気圧です。練習では0・3から0・5気圧程度の範囲で、ウェットコンディションでは7気圧くらいまで下げますね。熊野の滑るステージでは6・7まで下げたこともありました。ヒルクライムのみの場合には上げます。つがいけでは9気圧まで上げましたが、これは特殊なケース。コースを何回も試走し、路面のコンディションや滑らないことを確認しました」
  これらのコメントからもわかるように、プロ選手たちはわれわれアマチュアとは比べものにならないほど空気圧にシビアだ。宇都宮ブリッツェンでは、レース前夜に選手が自分の好みの空気圧をメカニックに伝えるのだという。コースの状況を考慮し、下りが苦手な選手は落とし気味にし、上りで勝負をかける選手は上げ気味に設定する。また、機材によっても空気圧は影響を受けたりする。硬いフレームに乗っているチームの選手は下げ気味にすることが多いとも。
  このように、プロ選手は路面状況やレースの種類、練習と本番という状況の違いや天候などによって空気圧を細かく変更している。
  要するに、タイヤの性能を最大限に発揮させるためには乗る人や状況に応じた空気圧のセッティングが重要なのだ。プロ選手のやり方と宮路さんの知識を参考に、”自分だけの最適空気圧”を探ってもらいたい。

エアゲージをまず手に入れよう
パナレーサー・
デュアルヘッドデジタルゲージ

仏式と米式の両方に対応するデジタルゲージ。表示単位を「PSI」、「bar」、「kgf/c㎡」、「kPa」の4タイプに切り替えることができる。夜間の作業時にありがたい手元を照らすLEDライト付き。参考価格:3240円。問パナソニック ポリテクノロジー TEL:06・6354・7810
パナレーサー・タイヤゲージ
使い勝手に優れる圧力ゲージの定番モデル。仏式専用と米式専用の2タイプが用意されている。バルブに差し込んだまま圧力の微調整が可能な空気圧調整機能付き。参考価格:2990円。問パナソニック ポリテクノロジー

ジーヨ・GG-06
デュアルフェイスエアーゲージ

両面にダイヤルがあり、高圧域と低圧域のそれぞれの状況に応じた正確な計測が可能なエアゲージ。しかも計測後に針がロックされるので読み取りやすい。これ1つで仏式・米式に対応する。価格:1680円。問マルイ TEL:078・451・2742

路面コンディション路面状況によっても空気圧は変える。凹凸や荒れが激しければ下げることが多く、雨天時やウェットな路面でもグリップ力を確保するため下げる。コースプロフィールによっても変わり、ヒルクライムオンリーでは上げ、タイトコーナーが連続する場合は下げ気味にする。 ライダーの体重(荷重)同じ7気圧のタイヤに、50㎏のライダーが乗るのと90㎏のライダーが乗るのでは、意味が変わってくる。体重(=タイヤにかかる荷重)によって最適空気圧は大きく変化するのだ。当然だが、体重の軽い選手は最適空気圧が低くなり、重い選手は高くなる傾向にある。
ライダーのタイプ&スキル上りで勝負をかける選手は上げ気味にするなど、自分のライディングスキルや脚質に合わせて調整する。また、自分の欠点を補うようなセッティングもありだ。たとえば下りやコーナリングが苦手なら空気圧を少し下げ、安心感を高めたセッティングにしてみよう。
ブリッツェンメンバーはどのくらいの空気圧で走ってる?
解説
今や8気圧は高すぎる?自分に合った調整を昔からの基本的なつくりのクリンチャータイヤは、低圧使用でのヨレやパンクが心配で800kPa程度が基準値でした。しかし、現在のトップカテゴリーのタイヤは構造が進化したおかげで、750kPaくらいが基準値になっています。この表でもそれがよく表われていますね。また、雨天時や路面コンディションの悪いときはほぼ全選手が空気圧を落としています。とくに雨天時の下げ幅が大きいのが注目ですね。対してヒルクライムオンリーではやはりほぼ全選手が空気圧を高めに設定しています。その設定ですが、みんな20 ~ 50kPa刻みで調整していることが、空気圧の重要
性とデリケートさを物語っていますね。廣瀬と長沼両選手が採用している680kPaはバリアントの推奨空気圧からはわずかに外れていますが、このくらいなら問題ないレベルです。
結論 基準となる空気圧は今は7.0~7.5気圧程度
前後で空気圧を変えるのはあり!?「レースではフロントが滑るのを嫌う選手が多いので、前を少し落とし気味にしてグリップを上げて走ることはあります。リヤの空気圧も落としてしまうとダンシングのときに引きずるような感覚になることもあり、そういう意味でもフロント低/リヤ高のセッティングは有効です。具体的な数値は人によりますが、前後の差が0.3 ~ 0.5くらいでしょうか」(廣瀬)
「ロングライドでも前輪の空気圧だけを落とすというのは有効だと思います。グリップも向上しますし、手に伝わってくる衝撃も緩和されるので楽に走れるのではないでしょうか。ただ、極端に下げるとバランスが悪くなるので差は50kPa以内にしたほうがいいでしょう」(宮路)

ヒルクライムに特化したセッティングはありうるのか?表からもわかるように、ヒルクライムでは空気圧を上げる選手が多いようだ。「ヒルクライムレースだと8気圧くらいまで上げます。グリップもそれほど必要なく、パンクの心配も少ないので。ただ、それ以上だとダンシングで後輪が跳ねてしまうので、自分のライディングスタイルと体重に合った圧を見つけることが重要ですね」(長沼)
「少し高めの空気圧にするとやはり走りが軽くなります。ヒルクライムは速度域がそれほど高くないので、高圧による跳ねもそれほど気にしなくていいですから。ただ、レース後の下りでは7気圧くらいまで下げることを忘れずに!」(廣瀬)

推奨空気圧とは……メーカーの推奨空気圧とはどのようにして決められているのだろうか? 「安全性を考慮して決定しています。この範囲を極端に外した設定にすると外れるなどの危険が出てきます。また、タイヤの推奨空気圧はサイズによって変わりますし、設計思想によっても違います」(宮路)
まず、850kPa程度の高圧から乗り始め、そこから20 ~ 50kPaずつ落としていく方法が空気を入れる手間がなくて楽ですしわかりやすいでしょう。コーナーで不安を感じたり、手に伝わってくる振動が不快だと感じたら落とす。落としすぎると走りが重くなったり、コーナーでタイヤがよれたりします。そうしながら、すべてのシーンで安心して走れる空気圧を見つけていくとよいでしょう。路面の状態によって感じ方が違ってくるので、ホームコースを決め、同じ条件で体感することが大切です。適正空気圧はタイヤによって変わってくるので難しいのですが、一度自分のなかで物差しを作ってしまえばあとは楽ですよ。
タイヤは比較的購入しやすい価格ながら交換の効果が非常に大きなパーツです。そして、空気圧調整はまったくお金をかけずにてきめんの効果が表われるチューニングといえます。しかも気軽に今日からでもできますからね。チタンパーツや軽量カーボンフレームなどに目がいきがちですが、その前に空気圧を見直してみてはどうでしょうか? 空気圧次第で、ライダーの可能性もバイクの可能性も上がるんです。タイヤは本当に奥深い。だからこそオモシロイんですけどね。空気圧の変化を楽しみながら探ってみてください!
クリート位置と同じで経験を積むことが大切。ただ、限界のときに余裕が持てる空気圧にしましょう。予測できないシーンに対応できなくなるのでは、正しい空気圧とはいえません。「速い」と「無謀」は違いますから。8気圧以上には上げないほうがいいかな。
ボクの場合は、転がり抵抗よりもグリップを重視した結果、7に落ち着きました。自分のニーズを反映させることが重要です。下りが苦手な人は少し圧を落とし気味にするなど。上りで食らいつくなど肉体的な無理はききますが、グリップの無理は禁物です!