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日本人レーサーインタビューから2017年を振り返り part1

レース
今年も残すところあと数時間。今年もさまざまなことがあった自転車レース界。2017年シーズンを終えた選手たちの想いを語ってもらった。

part1では、病気で苦いシーズンとなってしまった宇都宮ブリッツェンの増田成幸選手、来シーズンU23カテゴリーを背負って立つことになる石上優大(アミカル・ヴェロクラブ・エクスアンプロヴァンス/エカーズ)、そして年末のトラックワールドカップの団体追い抜きで初めてメダルを獲得した一丸尚伍(ブリヂストンアンカーサイクリングチーム)に話を聞いた。(text&photo:滝沢佳奈子)

 

増田成幸(宇都宮ブリッツェン)

Q:1年振り返っていかがでしたか?
A:甲状腺の病気のおかげですごいしんどい1年でしたね。気持ち的にも肉体的にも。全然いいトレーニングができていなかったですけど、ホルモンが正常値にありさえすれば、ツール・ド・おきなわみたいにある程度走れるっていうのはわかったんですけど、ちゃんとこの病気をコントロールしないことには、満足いくパフォーマンスは発揮できないなと痛感させられた1年でした。
若ければじっくり病気と向き合うんですが、残された時間もあんまりないし、ちゃんと完全燃焼しきって選手生活を終えたいなと思っているので。


Q:選手生活については、どこまでと考えていますか?
A:(鈴木)真理さんとは9歳違うんですけど、「あと9年いけるよ!」って言われてるんですけど、ちょっと流石に9年は……(笑)。でも今何年後に辞めるって決められないですけど、今34歳で、あと10年はちょっとできないから、あと数年じゃないですかね。その残された時間をしっかり完全燃焼できるように。


Q:東京オリンピックなどは視野に入れていますか?
A:もちろんですね、やっぱり出たいと思っています。そこはしっかりビジョンとして据えておいて。でもそこに向けて、長期的な距離感というか時間はないので、一刻も早く病気を治して、ベストな状態に持ってこれるようにしたいなと思います。


Q:今までの選手人生の中で一番のピークはどこだと感じていますか?
A:病気になる直前ですね。アジア選手権とかかなり調子良かったし、なった瞬間からもがき苦しむ1年になってしまいましたね。たとえピークじゃなくても、勝てるっていう自信はあるので、病気を先決で治すこと、次に調子を戻すこと、さらにその上を目指すことをやっていけば自ずと、ピークの頃より上に行けるかは分からないですけど、選手である以上はそこを目指してやっていきたいと思いますね。


Q:2018年の目標はやっぱり全日本を取ることですか?
A:もちろんですね。もう毎年、取りたいな取りたいなと思っているので。でもあんまりそこに入れ込みすぎると、失敗したりとか、今まで何回もそういう失敗をしてきているので。ある程度気持ちに余裕を持って、なるようになるくらいな気持ちで。人智を尽くして天命を待つという心構えでいきたいですね。病気に関してもトレーニングに関しても、1日1日大事にしていきたいなと思っています。


Q:甲状腺ホルモンの値の上がり下がりは定期的なんですか?
A:薬の量を減らしたりすると、上がってきますね。


Q:ツール・ド・おきなわの時は薬も調整されてたんでしょうか?
A:ジャパンカップの時に薬を減らしてたせいで、数値が盛り上がってきたんですよ。めちゃくちゃきつくて。それで、ジャパンカップの前から薬を増やして、それが効いてきて、おきなわで落ち着いたっていう感じですね。全然満足いくトレーニングできていなかったですし、これ走れるかなと思ってたんですけど、とりあえず数値落ちてきたから大丈夫かと思ってスタートしたら、とりあえず先頭集団ではゴールできて。でもそれ以上のことはできなかったですね。


Q:増田選手が出られない期間、Jプロツアーなどをご覧になっていてどう思いましたか?
A:またみんなと一緒にレースしたいなという気持ちでしたね。4月の頭に病気が発覚して、2カ月くらい何もしてなかったんですね。その間は、もうレースの情報すら入れたくなくて、見てなかったですけど、それが落ち着いてきて、少しずつ自転車に乗れるようになってからは、気持ちも上向きになってきて。レースでみんなが勝った負けたやっていて、喜んだり悲しんだりしている様子を見て、やっぱりそこに自分も入りたいなっていう気持ちもありました。でもあんまり焦っても、ストレスも良くないので、リラックスするように心がけてはいたんですけど、闘いの場に身を置いている職業っていうのもあって、常にある程度のストレスとは闘っていますね。


Q:雨澤毅明選手など、チームの若手の成長を見て、ベテランの立場としてどう思われますか?
A:若手とも一緒に走りたいなと思いました。真理さんと僕が走ってた頃みたいな感じで、これからは自分が真理さんにしてもらったように、若手との向き合い方っていうのも変わってきたかとは思うんですけど、レースとか練習を通して、走りでいろいろ付き合っていきたいなという気持ちはありますね。


Q:来シーズンに向けて一言お願いします。
A:来シーズンはこの病気を治して、しっかりベストコンディションでチームに復帰して、またレース勝ちたいなと思っています。

 

石上優大(アミカル・ヴェロクラブ・エクスアンプロヴァンス/エカーズ)


Q:今シーズン振り返ってどうでしたか?
A:今シーズンかなり苦労しましたね。去年よりさらに苦労したかなっていうのはありますね。今年からフランスのチームに一人で入って、フランスで一人暮らしもして、かなり環境がガラッと変わったっていうのもあるんですけど。それにちょっと順応できないっていうわけじゃないですけど、順応するのに苦労しましたね。


Q:来年も同じチームに所属でしょうか? 走るレースの内容はどんなものなのでしょうか?
A:同じチームですね。フランスのチームでフランスのレースを走るのが主体なんですけど、それプラスナショナルチームの遠征っていうのも入りつつ。今のチーム自体はナショナルチームの活動は喜んで出してくれるところなので。ナショナルチームとフランスのチームとの日程をうまく組んで走っている状況ですね。かなりこのチーム、レベルも高くて、お金もあって、格式のあるチームなんです。かなり出られるレースが多くて、アンダー1年目の時にエカーズで1年間フランスに行ってたんですけど、エカーズじゃ出られないようなレースばっかり出られて。ネームバリューもあるので、フランスの中でもかなりいいレースに出られていると思います。


Q:2017年のナショナルチームではU23の人数もきちんと揃えられていましたが、2018年主力がほとんど抜けてしまいますね?
A:今年はかなりメンバーに恵まれたところがあって、来年は(ツール・ド・)ラヴニールとかに出るのも苦労すると思うんですよね。あそこは出るだけで価値はあるので、まずはそこを目指して、アジア選手権やネイションズカップをうまく走っていかなければいけない。今度は自分が成績を出す立場なので。


Q:来年からは石上さんがエースという立場?
A:そういうのは特にないです。レースごとという感じで。春先のレースは風が強い平坦基調のレースばっかりですし、5~6月になると上りのレースになってくるんです。時と場合になるかと思いますけど、そういう気持ちでやっていく必要はありますね。それプラスフランスのチームのレースがあるので。チームのレースでもUCIレースを走るので、そっちでも成績を出していきたいなと思います。


Q:もう一歩抜け出せないもどかしさがあると思うのですが……
A:本当ですね、ここからちょっと抜け出せれば、ポンっと行けそうなんですけど、そこが難しいところですね。難しいところというか苦労しているところですね。


Q:アンダーからエリートに上がる時にどういう状態かっていうのは、今後の活動にかなり影響するのではないでしょうか?
A:そうですね。アンダー4年目は保険の年というか……、アンダー3年目で決めるつもりで走らないと、アンダー4年目で成績出そうと思ってるとちょっときついかなと思います。もちろん4年目で5~7月くらいまでで成績出してればプロになれると思うんですけど、こういうスポーツなので、何があるかわからないので、狙える時に狙っていくっていのが一番いいかなと思います。もうアンダー2年もやって、半分終わっちゃったので。頑張らないといけないですね!

 

一丸尚伍(ブリヂストンアンカーサイクリングチーム)

Q:2018年からブリヂストンアンカーサイクリングチームもチームブリヂストンサイクリングと名前を新たにし、東京五輪のトラック種目に注力する方針となりましたが、一丸選手は今後どういうことに注力していく予定でしょうか?
A:僕しても今までトラック中心で活動してきたので、それもナショナルチームの活動を中心としてきて、東京に向けてもナショナルチームにいないとオリンピックには出られないので、ナショナルチームの活動をベースにブリヂストンとしてチームで出られるレース、実業団のレースや全日本であったりの勝負をしていきたいです。ロードレースも積極的に。


Q:昨年は群馬CSCでのJBCFのロードレースにスポットで参戦されてましたが、今年もロードレースも参戦されるんですね。
A:海外の中距離選手はロードも走れるので、しっかり走れるようにして、それもトラックに生かせていけたらなと思っています。


Q:NIPPO・ヴィーニファンティーニから窪木選手や日大の沢田選手など、国内の有力なトラック選手がこぞってチームに加入することになりましたが、それによる影響など、どう考えていますか?
A:今まで全日本などで出られなかったチーム競技、主に団体追い抜き。オリンピックでも団体追い抜きが種目の中に入っているので、そこ強化っていう意味でチームが拡大したんだと思うんですけど、やっぱりチームでできること、チームで記録を狙って行って、もちろん優勝も狙って行って、今までできなかったことをこれから頑張っていきたいなと思います。


Q:2017年年末のトラックワールドカップで初のメダルを獲得しましたが、今までと何が違ったんでしょうか?
A:(日本選手団のトラック中距離ヘッドコーチ)イアン(・メルビン)コーチになって、今までと練習内容はあんまり変わらず、むしろシンプルになりました。その中で選手同士でしっかりコミュニケーションを取るっていうことと、綺麗に走ること。選手のラインのバタつき(ラインのブレ)をなくしたりだとか、まず基礎的ところを。そこをやらないと力がついても速くなっていかないから、ということでイアンが来てからそういう練習ばっかりですね。


Q:逆に今まではどういう練習をされていたんですか?
A:設定タイムを速くして、そのタイムでガンガン走るっていう。速く走れればバタつきなんて関係ないから!ってやっていたんですけど、どうしても個人個人の能力が海外選手に比べたら劣っているので、その中でいかに(チームメイトの)後ろで体力を温存できるかっていうところをイアンは重視していますね。


Q:走り方を見直した、という感じでしょうか?
A:映像とか見てもらうとわかるんですけど、4人が並んでいる中でバタつきが昔に比べてなくなったっていうのはありますね。


Q:今回メダルを獲得したワールドカップでは、世界選手権やオリンピックでメダルを獲れる選手がまだ揃っていない状況でしたよね?
A:メダルっていうよりも日本チームとしては、イアンが来てから数ヶ月で今の状態でどれだけ走れるかっていうのを確かめに行くのが目的だったんです。最初の目標は4分1秒だったんですけど、バンクが軽いのも気圧が軽いのもあって、予選も走って修正点がわかって、1回戦で結構いい記録が出たんですよね。あと、メダルがかかってたので、アメリカに勝てば悪くても2位っていう状況で、イアンが「もうここ決勝だと思って走れ」って言ったので、1回戦はみんなかなり気合が入っていましたね。だから逆にみんな決勝で疲れきっちゃって、1回戦ほどの走りはできなかったんですけど、まぁメダル確定ってことで。予選が終わってからメダルにシフトした感じでしたね。


Q:今回の感触を確かめるという点では成功と言える状態だったんですね?
A:そうですね、かなり。4分切れたっていうのは、日本の中距離界の歴史でも大きかったですし、僕としてもこんなに早く4分が切れるとは思っていなかったので。


Q:今後、オリンピックや世界選手権に向けて他国の選手たちもしのぎを削ってくると思いますが、それでも日本が上位に、メダルを狙える可能性はなんとなく見えたのでしょうか?
A:あと1年ありますし、イアンが来て、この荒削りの状態でここまで出せたっていうのは非常に自信につながりますし、やっぱりこれをコンスタントに出せるように、優勝したニュージーランドは予選から4分切るタイムで走っていましたし、そこからさらに2秒ずつ早くなっていったので、そこがやっぱり世界のトップです。僕らもまずは安定してそのくらいで走れるようにしていって、これからナショナルチームの強化練習が本格的に始まっていくと思うので、そこでしっかりレベルアップしていけたらと思います。レース系と違って、落車する可能性が高いわけでもなく、チームでタイムで競うのは、実力がはっきり出る種目なので、しっかりとやっていきたいです。



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