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スペシャライズドが独自の自転車専用風洞実験室を建設「空力こそすべて」

新製品

アメリカ・カリフォルニア州モーガンヒルにあるスペシャライズドは、その本社周辺に独自の風洞実験施設を建設。5月16日、インターネットを通じてライブで「Aero is everything」=『空力こそすべて』と銘打たれた発表会を行なった。

 

■スペシャライズドのウインド・トンネルを、風と同じ始点で見る

「空気抵抗とは、特にロードバイクに乗るライダーにとって、とても大きな抵抗になります。それは時に、重量や走行抵抗を超える重要なものなのです」と、スペシャライズドのエアロダイナミズム開発担当、マーク・コート氏は話す。

これまでスペシャライズドは、空力を低減するさまざまな製品を作り出してきた。最近で言えば、マクラーレン社の風洞実験施設でフレームやヘルメットを開発し、歴史をさかのぼれば、近郊のアーバイン大学内の小さく、手作り感あふれるウインド・トンネルで、デュポンとともに、トライスポークを開発した。

 

■1989年、デュポンと共同開発したトライスポークに付いて語るスペシャライズド創業者、マイク・シンヤード氏

だが、こういった施設で製品試験を行なうには、 時間や人員の制約、試験にいたるまでの数週間の準備期間など、多くのロスが出てしまう。加えて、現存するウインド・トンネル施設は、クルマ、飛行機や宇宙機材といった、自転車ではあり得ない速度域での空気流体実験のために作られたものであった。「だからこそ、人力を原動力とする乗り物、自転車に最適なウインド・トンネルは、自社開発の一部として、作らなくてはならなかったのです」

 

■前面にはハニカムの網、中央の丸い台座は回転するようにできている

7ヶ月の期間をかけて、綿密に建築された、スペシャライズド独自の風洞実験施設。前面には細かなハニカム形状の網、後方には人間ほどの大きさがあるファンを6つ、カーボンで一体構造となった壁に埋め込まれる。後方のファンで引き込まれた空流が、前面のハニカムを通り乱流をなくし、中央にある自転車などの実験機材に当たる。中央の実験機材部分は、左右にも回せるため、角度を付けた空力実験も行なえるというわけだ。

自転車専用であるために、計測できる数値の範囲もとても細かい。0km~100kmという速度域のなかで、たとえばタイヤのノブが作り出す細かな乱流の計測も可能になるという。実際に空気の流れを作ってみる。フワフワと髪の毛が自然になびいていくぐらいの風。体感としては20km近くあるのでは、と、現場のジャーナリストから意見が出たが、実際は10km程度のスピードでの空力であるとか。なるほど、こうなると、空気抵抗がどれだけライドの抵抗になっているのか、というのが理解できる。

 

■ちなみにこの巨大な6つのファンが、有機的なカーボン製の壁に埋め込まれている、もっとも大きな理由は「だってカッコいいでしょ」だからだそう。

しかし、なぜ風洞実験施設を独自に作らなくてはならなかったのか。例えば、マクラーレンの施設をさらに活用する、ということではいけなかったのか。という本誌からの質問に対し「月曜日に思いついたアイディアを、金曜日にはプロトタイプとしてテストできるのです。これはマクラーレンの施設では、できないことでした」と答える。

さらに言えば、この空力実験の結果が、いわゆるトップレース機材の開発以外にも使えるようになる、というのも大きいという。例えばマウンテンバイク、例えばウエア、ヘルメットなどといったアクセサリーはもちろん、「すばらしいのは、コミューター自転車の開発にも、エアロダイナミズムを盛り込めることです」つまり、 素材研究や重量の追求といった、これまでの技術だけでなく、実際のライドにおける重要なファクターである空気流体力学を、それこそ、イージーライド用の自転車制作にも、応用できるということなのだ。

 

■ヘルメットやアクセサリーなどの開発にも、積極的にエアロダイナミズムを応用できるようになった。

この風洞実験施設が始動してから、2ヶ月。スペシャライズドはすでに、いくつかの製品をこのウインド・トンネルで開発を始めている。この製品がなんなのか、は、まだ言えないそうだが、あるいはそれは、トッププロ用のアイテムではなく、空力的に理想的な通勤バイク、になるのかもしれない。

「我々は今、未来の話をしています。単にバイク単体、アクセサリーといった、『モノ』の話ではないのです」

問 スペシャライズド www.specialized.com