安井行生のロードバイク徹底評論第10回 BMC SLR01 vol.8

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安井BMC・SLR01-8

2018シーズンはアツい年となりそうである。ドグマF10とK10。ターマックとルーベ。エモンダ、プロペル、リアクト、シナプス、R5に785……。

各社の主力機のモデルチェンジに日本中のロード好きが話題騒然としているなか、BMCは旗艦SLR01を世代交代させた。

開発プログラム主導による前作をどのように変化させたのか。イタリアでのプレスローンチに参加した安井が報告する。vol.8

 

初代と二代目の走りを振り返る

安井BMC・SLR01-8

さて、ようやくインプレだ。そうしてできた新型SLR01の走りはどうなのか。前作と比べてどう変わったのか。ディスクブレーキ版とリムブレーキ版の走りに差はあるのか。

まずは初代と二代目の走りを振り返っておきたい。2010~2013年の初代SLR01は、かなり特異な走り方をするフレームだった。剛性は決して高くなく、しなりを前面に押し出すタイプのフレームだったが、その走行感は絶品としか表現のしようがないものだった。シルクのようなペダリングフィール。負圧エリアに吸い込まれるような加速感。しなりと戻りの繰り返しが生む一体感あるヒルクライム。ふわりと浮いたまま滑空しているかのような快適性。しなやかさを走りの軽さに結び付けているとう点ではルックのKG481に近かった。

ACEテクノロジーによって開発された二代目SLR01は剛性が25%もアップし、初代の生き物のような身のこなしは綺麗さっぱり消えていた。そのかわり、高負荷時の運動性能や振動減衰能力、スタビリティは驚くほど向上していた。しかし、軽いだけ軽くてヒラヒラフワフワしているのにヘッドとフォークがとにかく硬いという、昨今のハイエンドフレームにありがちな冷徹な高性能バイクでは全くなかった。高剛性化に走ったとはいえ、とにかくガチガチにしてフレームを動かさないという古典的な手法とは全く違う。「軽くて硬い」のに、「軽くて硬いだけ」のスカな感じに堕してはいなかったのだ。
 
では新型の走りはどうだったのか。イタリアではSLR01チームとSLR01ディスクチームに、日本ではSLR01スリーとSLR01ディスクワンに乗ることができた。その4モデルの走りから、新型SLR01の総合的な印象をお伝えする。

 

試乗記:リムブレーキ版

まずはリムブレーキ版から。基本的には、先代の走りの延長線上にある乗り物だ。リニアな加速や左右方向の鋭い挙動は旧型SLR01の面影を色濃く残す。激変ではなく微変の範疇。新型の開発において技術のジャンプはないため、当然の結果だろう。
異なるのは大トルク入力時の振る舞いである。先代SLRのインプレ原稿で筆者は「平地でも山でも二代目SLR01は走りが軽いのだが、その美点が唯一薄れてしまうのが、体重を叩き付けるように踏み込むようなシーンだった。ガチャ踏みするとSLR01の優位性は消える。大トルクをかけたときに感動的な爆発力を持つタイプではないのだ」と書いたが、新型はこの点がかなり改善されている。
中~高負荷時の反応性がリニアになり、高速まで気持ちよく伸びるようになった。とくに時速30km近辺からの踏み増し加速のスムーズさは素晴らしい。これはトップチューブとチェーンステーの強度・剛性が向上した結果だろう。それによってどんなペダリングもどっしりと受け止める安心感も出た。
 
そのかわり、旧型のような危うい切れ味、坂での軽やかさはやや薄くなったように思う。これは耐久性と剛性の向上と引き換えに失ったものだろう。旧型はともすれば坂で舞うために作られたような印象があったが、新型は平地でも上りでも下りでも満遍なく高性能を発揮する。万能型になったと言ってもいい。
ダイレクトマウント化したブレーキだが、激坂九十九折りのようなフルブレーキが繰り返されるような場面ではメリットを感じる。どんなに強くブレーキレバーを握り込んでもブレーキキャリパーが変形することなく、レバーへの入力と制動力との関係がよりリニアになった。
 
ハンドリングにも不満はない。先代同様にクイックではあるのだが、扱いにくくなる二歩手前で踏みとどまっている。いいバランスだと思う。このハンドリングに関しては大きな進歩があった。ワイヤリングである。
リヤブレーキのワイヤリングは歴代のBMCに共通する欠点だった。ヘッドチューブ前面から入るブレーキアウターはハンドリングに悪影響を及ぼしやすい。とくに最小サイズだと、「アウターが短すぎて最後までハンドルが切れない領域」と「アウターが長すぎてハンドルを右側に押してしまう領域」がオーバーラップしてしまう。54サイズあたりを基準として設計するからこういうことになるのだろう。
ノコンあたりを入れないとなんともならなかったそれが、新型では改善されていた。フレーム側のアウター受けの窪みを半円球状にし、そこに片側が球状になったアウター受けを合わせることで、アウターがスムーズに首を振るような作りになったのである。たったこれだけのことなのだが効果は絶大で、アウターの弾性がハンドリングに影響することがなくなった。最初からこうしとけよと思わなくもないが。
 
快適性だが、これはあくまでレーシングバイク。フワンフワンではなく、微振動までしっかりと伝えてくる。しかし減衰性能は非常に高く、振動は一発で収束する。フレームのそこかしこにギミックを仕込み、技術の三重奏四重奏で塗り潰したノイズのない仮想現実ではなく、人間の生理と乖離しない現実世界の振動減衰特性。レーシングロードバイクとしての正解はどちらかと問われれば、筆者は後者に一票を入れる。  

 

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