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ツアー・オブ・ジャパン 宇都宮ブリッツェン密着レポート 8日目

アジア最大級のステージレースなだけあり、世界の強豪たちが揃うこのツアー・オブ・ジャパン(TOJ)だが注目して欲しいのは海外チームだけでない。日本人選手や”純日本チーム”の活躍・戦いぶりにも是非とも着目してみて欲しい。そこで今年のTOJは、地域密着型チームのリーダー的存在である宇都宮ブリッツェンに全ステージ密着し、その内側をお届けしていく。ひとりでも多くの人にその魅力を知ってもらえると嬉しい。
 
text&photo 滝沢佳奈子

TOJ最終ステージの地、東京へ

伊豆・修善寺での激しいレースを終え、いつものように慌ただしく準備をしておよそ180kmの距離を移動してきたその先には、今まで自然のなかで見てきた星の光の何千倍もの明るさで煌々とした明かりが灯る高層ビル群が選手たちを迎え入れる。8日間の長旅もいよいよ終わりを迎える。

最終の東京ステージは日比谷シティ前をパレードスタートし、大井埠頭周回コースに入る。スタート前、各チームのピットが設置された日比谷公園に人だかりができている。さすが東京。他のステージも平日にも関わらず多くの人がかけてつけていたが、やはり桁違いである。

ブリッツェンは公式で宇都宮からの東京までの観戦バスツアーを開催しており、多くの赤いサポーターが選手たちの到着を待ち構えていた。スタート1時間前の10時に選手たちがピットに到着すると、多くの人が声を掛ける。選手たちも最後の戦いを前にファンの声援を受け、嬉しそうな表情であった。

 
レース前サポーターの子供たちと触れ合う阿部選手。実はプリントされたゼッケンがひどくほつれてしまったため、手書きのゼッケンで出走することに
レース前サポーターの子供たちと触れ合う阿部選手。実はプリントされたゼッケンがひどくほつれてしまったため、手書きのゼッケンで出走することに

レース開始後、鈴木譲選手が逃げに。集団ではいい形で位置取り

日比谷シティ前でのスタートを切ると、すぐに周回コースに入る。1周目にはアタック合戦が続くが、2周目のバックストレートで鈴木譲選手を含む逃げが決まる。前日のチームミーティングでは、大久保選手のスプリントのため、ラスト1、2kmの牽引を阿部選手が、最終発射台として小野寺選手が、それ以外の選手は位置取りを行なうという作戦を立てていた。もし逃げに有力選手が入った場合は逃げ切りの可能性も出てくるため、ブリッツェンもスプリンターである大久保選手あるいは小野寺選手を送り込むという。昨年までの経験をもとに、どこで誰が何をするという話が、今までのステージ以上に入念に話されていた。

「想定外でしたけど大人数の逃げが行ったんで、自分も割と序盤から積極的に動いてたんですけど。雰囲気的に逃げるチャンスありそうだったんで乗ってけて良かったですね。スプリントしたいチームがランプレとNIPPOとアヴァンティだったんで、2つ入ったし決まるかな、と。今日は調子良かったですね」と逃げが決まった時の状況について鈴木譲選手は話す。

そのまま集団は逃げを容認し、コントロールに入る。タイム差は最大で2分半程まで広がっていった。集団ではキナン、ランプレ、NIPPO、アヴァンティなどがチームで固まって集団での位置取りを行なう。ブリッツェンもチームとして常に4~5番手に位置し、いい形で位置取りができているようだ。

「今日は走り出して自分自身の調子も良くて、周りもいい感じでレースに臨めてたんで、本気で狙っていこうっていう感じではありましたね。レース走ってる間は逃げ切りか集団かどっちになるかわからなかったので、集団の中でもチーム全員でまとまって位置取りできてましたし、それはTOJ期間通してみんなの連携が強まったからなのかなとも感じましたね」と小野寺選手が語った。

 
レース序盤積極的にアタックを仕掛ける鈴木譲選手
レース序盤積極的にアタックを仕掛ける鈴木譲選手
集団の前方ではチームみんなで位置取りをする
集団の前方ではチームみんなで位置取りをする

昨日に続く日本人選手の優勝が期待されるなか、アタック合戦が巻き起こる

残り周回数が少なくなるごとにタイム差は縮まるものの、なかなか集団は10人の逃げ集団を捕まえることができない。

逃げ集団での心境を鈴木譲選手はこう話した。「逃げ切れなくてもいいかなと思ってたんですよ。スプリントもあったし。日本人選手も外人選手も均等に(ローテーション)回ってて、新城選手が日本人頑張ってほしいってことで結構回ってくれてたんですよ。別に引く義理もないですし、ランプレはスプリントもあったんですけど、男気を見せていたんでみんなそれに触発されて均等に回ってましたね(笑)」

先頭の逃げ集団ではラスト2周でアタック合戦が起こり始める。鈴木譲選手は「内間(康平/ブリヂストン アンカー)が結構積極的に動いてて、みんな脚は残ってたんですけど牽制入って、後ろ4人が遅れていった。その(遅れた)有力選手4人の中でも、ホセは総合上たくてガンガン引いてたんで。その内スプリンターが2人遅れたんで、お、これはいいぞ、と。自分がはじめアタックして4人くらいに絞っていったんですけど、そこから2人追いついて6人になった」と状況を話す。

その後、ラスト周回で逃げ集団はさらに割れ始める。集団とのタイム差は56秒。逃げ切りが濃厚となってくる。逃げ集団6人中、鈴木譲選手、内間選手、入部正太朗選手(シマノレーシング)の日本人3人が残るなか、昨日の新城選手に続く日本人選手ステージ優勝が期待される。ホームストレートに入る手前で鈴木譲選手がアタックを仕掛けるが、その他の選手に追いつかれてしまう。カウンターで内間選手がアタックするもそれも吸収され、そのままゴールスプリントに。最後に抜け出したサム・クローム選手(アヴァンティアイソウェイスポーツ)が一番最初にゴールラインを切った。

「ホームストレート入る前も、高架の線路沿い入る右コーナーでも一人で行ったりとかして、まぁあれはゆるーく走ってたんで、牽制入ればいいなと思って。どっちかっていうとタラレバですけどメンツ的にもスプリントしても良かったかなと。ちょっと積極的すぎたかなという気がします。まぁ日本人選手2人いたし、彼らがうまく利用してくれてもいいかなと思ったんですよ。2人もスプリントあるし。結果的に日本人勝てなかったですけど、いいレースできたんじゃないかなと思ってます。」と鈴木譲選手は振り返る。

 
逃げ集団では均等にローテーションが行われる。ブリッツェンサポーターの前ではひときわ大きな声援を受ける
逃げ集団では均等にローテーションが行われる。ブリッツェンサポーターの前ではひときわ大きな声援を受ける
ゴール後、悔しげな表情を浮かべる鈴木譲選手
ゴール後、悔しげな表情を浮かべる鈴木譲選手

大きな経験が出来た1日に

最終周回、メイン集団の方でもブリッツェンが先頭を引く。

鈴木譲選手のために抑える動きをしていたのかと聞くと、「抑えるっていうより、前が捕まったときのためにすぐ出れるように位置取りしてただけです。ラスト600、700mの所でアベタカ、玲、陣の順でいけたんで。スプリント炸裂しなかったですけど、いずれにせよそれは7位争いの集団なんで」と増田選手は答えた。阿部選手も今日のステージについてこう語った。

「今日は作戦があって、それを遂行して、譲さんは逃げてましたけど、最後僕らは僕らの作戦通りの形がうまくできたっていういい印象の1日でしたね。最後前出て、結果実りませんでしたけど、でも今までできなかったですし、さほどトライもしてこなかったことが今日いい形になったので、この経験は多分すごく大きな経験になったと思います。僕自身もそうですし、若い小野寺もそうですね。」

その小野寺選手は、「やっぱり最終ラップで昨日ミーティングで話した通りの動きが途中まで出来てたんで、走ってても楽しかったですし、やっぱり気持ちいいんですよね。うまく連携がはまっていくと。そういった意味でも次につながる走りができたし、最終的に結果にはつながらなかったですけど形としてはすごいいいことができたんで、近いレースでそういった動きができてくるんじゃないのかなっていう手応えは感じましたね」と次につながるいい感触を得られたようだ。

スプリントを任されていた大久保選手も「(スプリント)行ったんですけど、ちょっと出るのが早すぎたりとか、今後の経験を積むためにも(スプリントを)やる形にしたんですけど、自分の脚もそうなんですが修正点がかなりあるので、いいシミュレーションにはなりましたね」と話した。

 
ゴール後、大久保選手も少し悔しそうな表情をしながらチームカーに戻る
ゴール後、大久保選手も少し悔しそうな表情をしながらチームカーに戻る
ブリッツェンサポーターの前で6人で並び、報告をする選手たち
ブリッツェンサポーターの前で6人で並び、報告をする選手たち


今日の展開について清水監督は語る。
「今日は自分たちが予定していた内容とは違ったんですけど、勝率が高い方を選択してそのまま譲に行かせました。案の定そのまま譲が行ってくれて、譲にかなりチャンスがあって、勝てたレースだったので悔しいです。本当に勝ちパターンだったので、スプリントになったらユキヤか譲だろうと思って、ユキヤはもう昨日勝ってたし、疲れもあったみたいで、日本人の誰かが勝てば、みたいな気持ちでやってくれてたみたいなんで。(アフターパーティーの会場で)さっきも「せっかく俺頑張ったのになんで勝たないんだよ譲!」ってユキヤが半分冗談半分本気で言ってて、悔しかったですね。本来、チームとしては大久保陣を立てて、ああいう逃げだったらスプリンターを一人入れるって感じだったんですけど、まぁでも譲であれば十分いけたので、追いつかれたとしても大久保と小野寺で行ってたので、それでも両方いいスタイルだったと思います。まぁ結果が出てないんですごい悔しいですけど。」

 

ツアー・オブ・ジャパン 第8ステージ(6月5日/東京ステージ/112.7km)結果
1位 サム・クローム (アヴァンティ アイソウェイ スポーツ ) 2時間17分29秒
2位 アルヴィン・モアゼミ (ピシュガマン サイクリング チーム ) +0秒
3位 内間 康平 (ブリヂストン アンカー サイクリングチーム  ) +0秒

6位 鈴木譲(宇都宮ブリッツェン) +7秒
14位 小野寺玲(宇都宮ブリッツェン) +19秒
18位 大久保陣(宇都宮ブリッツェン) +19秒
30位 増田成幸(宇都宮ブリッツェン) +19秒
53位 堀孝明(宇都宮ブリッツェン) +19秒
62位 阿部嵩之(宇都宮ブリッツェン) +33秒


ツアー・オブ・ジャパン 全ステージ終了時個人総合順位
1位 オスカル・プジョル(チーム右京) 19時間22分37秒
2位 マルコス・ガルシア (キナンサイクリングチーム) +1分5秒
3位 ミルサマ・ポルセ イェディゴラコール  (タブリーズ シャハルダリ) +1分8秒

10位(→) 増田成幸(宇都宮ブリッツェン) +2分58秒
30位(1↑) 堀孝明(宇都宮ブリッツェン) +23分55秒
31位(2↑) 鈴木譲(宇都宮ブリッツェン) +24分28秒
52位(→) 小野寺玲(宇都宮ブリッツェン) +45分4秒
66位(1↑) 大久保陣(宇都宮ブリッツェン) +1時間8分21秒
69位(→) 阿部嵩之(宇都宮ブリッツェン) +1時間39分43秒


チーム総合順位
1位 タブリーズ シャハルダリ
2位 ピシュガマン サイクリング チーム 
3位 ブリヂストン アンカー サイクリングチーム

8位 宇都宮ブリッツェン


宇都宮ブリッツェン http://www.blitzen.co.jp
ツアー・オブ・ジャパン 2016 http://www.toj.co.jp/2016/

■ツアー・オブ・ジャパン 宇都宮ブリッツェン密着レポート【一覧】http://www.cyclesports.jp/articles/series/2104