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ニーバリが奇跡の逆転優勝! ジロ・デ・イタリア2016

オランダで開幕した今年のジロが、
様々なドラマを繰り広げた後、
3週間後に古都トリノで祝福したのは、
祖国のチャンピオン、ニーバリだった

 
Photo: Graham Watson // ANSA / PERI / DI MEO / ZENNARO

最終日前日の逆転劇

チマ・コッピ越えのステージで区間優勝したイタリアチャンピオンのニーバリ
チマ・コッピ越えのステージで区間優勝したイタリアチャンピオンのニーバリ
 
今年のジロ・デ・イタリア(UCIワールドツアー)は、どんな小説や映画よりも予測不可能で、ドラマチックな3週間だった。

最高峰のチマ・コッピを越える第19ステージのスタート時点で、地元イタリアで唯一総合優勝の候補だったビンチェンツォ・ニーバリ(アスタナ)は、その日マリア・ローザを着ていたオランダのスティーブン・クルイスウエイク(チームロトNL・ユンボ)に5分近いタイム差を付けられていた。しかも彼は、総合3位にすら入っていなかった。

ニーバリが今年のジロで総合優勝するのは不可能だと、誰もがあきらめかけていた。開幕前、優勝候補に名前が上げられることのなかった28歳のクルイスウエイクは、その日まで非常に好調で、たとえ厳しい山岳ステージがまだ2日間残っていても、打ち負かすことは難しそうだった。

ところが、チマ・コッピだったアニェッロ峠の下り坂で、信じられないハプニングが起こった。マリア・ローザを着たクルイスウエイクが、コース脇の雪壁にぶつかって転倒してしまったのだ。その一部始終はTVカメラがしっかりと捕らえていて、まるで映画のワンシーンのようだった。

しかし、それは作り物の世界ではなく、現実だった。幸いクルイスウエイクは、リタイアを余儀なくされるほどのケガを負っていなかったため、レースに復帰することができたが、雪壁にぶつかって一回転した体はあちこち痛み、心が折れてしまっていた。

その日、フランスに越境して上ったリスル山のゴールで、両手を高く上げたのはイタリアチャンピオンのニーバリだった。厳しい山岳ステージをもう1日残してニーバリは、一度は手の届かないところにあったマリア・ローザのスソを、しっかりと握りしめていた。


 
最終日の2日前に、まさかの転倒で総合優勝を逃してしまったクルイスウエイク
最終日の2日前に、まさかの転倒で総合優勝を逃してしまったクルイスウエイク
 
最終日前日に、マリア・ローザを着ていたのはコロンビアのエステバン・チャベス(オリカ・グリーンエッジ)だった。ニーバリは、まだ26歳でグランツールでの経験も浅いライバルに、たった44秒差だった。グランツールすべてで優勝している『メッシーナのシャーク』にとって、チャベスは格好の獲物だった。

イタリア中が注目した最後の山岳ステージで、ニーバリは期待を裏切ることなくライバルたちを攻撃した。山岳アシストのバレリオ・アニョーリ(アスタナ)は落車のケガで失っていたが、彼にはまだベテランのミケーレ・スカルポーニ(アスタナ)が付いていて、献身的に働き続けていた。

息を吹き返した『シャーク』は、誰にも仕留められなかった。ニーバリは終盤のロンバルダ峠でアタックし、ライバルたちを蹴落として独走を続けた。

サンタンナ・ディ・ビナーディオ山のゴールにニーバリが飛び込んだ後、運命のカウントダウンが始まったが、44秒が過ぎてもマリア・ローザのチャベスの姿はまだ見えなかった。今年のジロで、幸運の女神を味方につけたのは、イタリア中の期待を背負って走っていたニーバリだった。

最終日の記者会見でマリア・ローザを着たニーバリは、不調の原因が、実はウイルス性の胃腸炎だったと明かした。彼はそれをライバルたちには隠しつづけ、じっと回復の時を待っていたのだ。

マリア・ローザを着た祖国のチャンピオンを迎えた古都トリノの街に、イタリア国歌の大合唱が響いた。もしも、チマ・コッピの下りで、あの若いオランダ人が転倒しなかったら…なんて考えるイタリア人は、そこにはいなかっただろう。

 

■4度目のグランツール制覇を成し遂げたニーバリのコメント「僕はジロの期間中、ウイルス性の胃腸炎を患っていたのだが、時にはすべてを話さない方がいいこともある。最後の休養日のおかげでよくなった。決して家に帰りたいとは言わなかったし、ずっと総合上位に留まっていた」

「クルイスウエイクはドロミテ山岳区間のあとでいいアドバンテージを持っていたが、僕はまだ最も高い山岳が残っているとわかっていた。標高2000メートルを越えて走るのは誰にとっても簡単なことではないが、自分の調子がいいことに気がついた」

「クルイスウエイクは転倒したが、アニェッロ峠の頂上に向かっていた時、彼の呼吸が荒くなっているのに気がついていた。だから上りとその後の下りで、彼にプレッシャーをかけたんだ。もしそうしなかったら、おそらく何も起こらず、チャベスも楽に走っていただろう」

「僕は自分の成績を顧みることはあまりないが、そうしてみると、大きな成功に満ちあふれているのだと気がつくよ」
 

マリア・ローザを巡る闘いで消えていった優勝候補たち

 
第99回大会はニーバリの逆転劇でフィナーレを迎えたが、3週間の長い道程には様々なドラマがあった。

オランダのヘルデルラント州アーペルドールンで開幕した時、今年の有力な優勝候補はイタリアのビンチェンツォ・ニーバリ(アスタナ)と、スペインのアレハンドロ・バルベルデ(モビスター)、ミケル・ランダ(チームスカイ)の3人だった。

31歳のニーバリは、2013年に初優勝したあと2年間は不参加で、今年は3年ぶりのジロ出場だった。36歳のバルベルデは「彼はいつでも調子がいい」と、ニーバリが警戒する要注意選手で、昨年総合3位になったクライマーのランダは、開幕前から多くのメディアが注目していた。

昨年総合優勝したアルベルト・コンタドール(ティンコフ)と総合2位のファビオ・アルー(アスタナ)が参加しなかったため、ランダは今年のジロで、昨年の表彰台に上がった唯一の選手だった。しかも、その時はアスタナでアルーをアシストして3位になったが、今年は英国の強豪チームスカイに移籍し、エースとしてバラ色の闘いに臨んでいた。

ところが、本格的な山岳ステージがまだ始まっていない中盤の中級山岳ステージで、皆が注目していたランダに異変が起きた。彼は第10ステージのスタート直後のカテゴリー3の坂で集団から遅れ始め、そのままレースをリタイアしてしまったのだ。原因はウイルス性の胃腸炎だった。

初日の個人タイムトライアルで優勝し、母国オランダにマリア・ローザ・フィーバーを巻き起こしたトム・ドゥムラン(ジャイアント・アルペシン)も、サドル擦れに苦しめられ、第10ステージで大きく遅れ、翌日にリタイアしてしまった。

昨年のブエルタ・ア・エスパーニャ(UCIワールドツアー)で注目を集めたドゥムランはダークホースだったのだが、前半に7日だけマリア・ローザを着用して輝いた後、あっさり総合争いから消えてしまった。
 

クイーン・ステージでマリア・ローザを着たクルイスウエイク

 
こうして迎えた第14ステージ、ドロミテ山塊のクイーン・ステージで区間2位に入って総合首位に立ったのは、誰も予想していなかったオランダのスティーブン・クルイスウエイク(チームロトNL・ユンボ)だった。彼は28歳で6度目のジロだったが、昨年総合7位になったのが今までで最高の成績だった。彼にはまだ大きなレースでの優勝経験もなかった。

初めてマリア・ローザを着て走った翌日の山岳タイムトライアルでも、クルイスウエイクは区間優勝したアレクサンダー・フォリフォロフ(ガズプロム・ルスベロ)にわずか0.16秒差の2位になった。

ドロミテ決戦が始まっても明らかに調子が上がらず、山岳タイムトライアルでも遅れたニーバリとは対照的に、クルイスウエイクはバルベルデが区間優勝した第16ステージでも3ステージ連続で区間2位になり、総合首位の座を守り続けた。

最終週の集団で、マリア・ローザは最強だった。山岳ステージを2日残し、クルイスウエイクは総合2位のチャベスに3分差、3位のバルベルデに3分23秒差、そしてニーバリには4分43秒差を付けていた。

クルイスウエイクは昨年のジロでも最終週に強さを発揮していたのだが、前半戦ですでに大きく遅れてしまっていたため、総合争いに加わることはなかった。

「去年のように前半でタイムを失うことは防がなければならない。その上でもし、去年のレベルで走れたら、また別の素晴らしいジロになるだろう」と、彼は開幕前に語っていた。しかし、その野望は下り坂での小さなミスで打ち砕かれてしまった。

チマ・コッピからの下り坂で加速するニーバリに、クルイスウエイクは何とかついていこうとしたのだが、カーブで不注意になり、道の両側に残る雪のせいでスリップしてしまった。そのまま雪壁にぶつかって一回転した時、彼の肋骨にはヒビが入ってしまっていた。

マリア・ローザを着たクルイスウエイクが傷だらけでゴールにたどり着いたのは、ニーバリが区間優勝した5分あとだった。しかし、彼はマリア・ローザを失ってもジロを去りはしなかった。肋骨にヒビが入った状態で最後の山岳ステージを走りきり、総合4位で今年のジロを終えた。

「今年のジロが始まる前だったら、4位になれればうれしかったかもしれない。でも、チャンスを得たらそれをつかまなければならないものだ。僕はこのレースでそうすることに失敗した。不名誉なことだ」と、クルイスウエイクは語っている。

オランダは昨年のブエルタにつづいて、グランツールで2回連続、総合優勝のチャンスを失ってしまった。しかし、ドゥムランにしてもクルイスウエイクにしても、苦い敗北は将来の栄光の糧になるにちがいない。
 

ジロ・デ・イタリア2016 個人総合最終成績

1 ビンチェンツォ・ニーバリ(アスタナ/イタリア)86時間32分49秒
2 エステバン・チャベス(オリカ・グリーンエッジ/コロンビア)+52秒
3 アレハンドロ・バルベルデ(モビスター/スペイン)+1分17秒
4 スティーブン・クルイスウエイク(チームロトNL・ユンボ/オランダ)+1分50秒
5 ラファウ・マイカ(ティンコフ/ポーランド)+4分37秒
6 ボブ・ユンゲルス(エティックス・クイックステップ/ルクセンブルク)+8分31秒
7 リゴベルト・ウラン(キャノンデール/コロンビア)+11分47秒
8 アンドレイ・アマドール(モビスター/コスタリカ)+13分21秒
9 ダーウィン・アタプマ(BMC/コロンビア)+14分09秒
10 カンスタンティン・シウツオウ(ディメンションデータ/ベラルーシ)+16分20秒
 

(http://www.giroditalia.it/it/)