安井行生のロードバイク徹底評論第5回 PINARELLO DOGMA F8 vol.5

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安井ドグマF8-5

ピナレロのフラッグシップが劇的な変化を遂げた。2015シーズンの主役たるドグマF8である。「20年に一度の革新的な素材」と呼ばれる東レ・T1100Gと、ジャガーと共同で行なったエアロロード化は、ピナレロの走りをどう変えたのか。新旧ドグマの比較を通して、進化の幅とその方向性を探る。東レ・T1100Gの正体に迫る技術解説も必読。vol.5

 

新素材、東レT1100Gの秘密

安井ドグマF8-5

ここからはドグマF8に使われるフレーム素材の話をしよう。モデルチェンジの度に、50t、60t、65tと使う炭素繊維の弾性率をアップさせ、それを効果的に宣伝材料として使ってきたピナレロ。今回のドグマF8に採用したのは、T1100Gという東レが開発したばかりの新素材である。
 
ピナレロの発表会に来ていた東レの担当者は、「T1100Gは不可能に近いことを達成した驚異的な素材です」と胸を張った。“20年に一度の革新的な素材”と言われるほどのものだという。
 
ならば次は70tか。いや75tか。とうとう80tか。どれだけすごい素材なのかと思いきや、弾性率は33t程度らしい。では、T1100Gとやらの一体何が“驚異的”なのか。発表会の直後に東レの担当者に話を聞くことができた。

 

「20年に一度」と評される革新的な素材

「この繊維は、ボーイング・787のメイン材料(T800S)の後継素材として開発され、次世代航空機に使われる予定のものです。しかし、その航空機に使われる前にドグマF8に使われることになりました。炭素繊維の世界的なディファクトスタンダードはT700Sで、東レではこのグレードの販売量が最も多いんですが、T1100GはT700に対して強度が40%高いんです。T800比でも、強度が10%ほど上がっています」
 
グレードが上がれば強度も上がる。当然ではないか。それの一体どこがすごいというのだ。
 
「炭素繊維の強度と弾性率は、基本的にはトレードオフの関係にあります。弾性率を上げると強度は下がってしまう。炭素繊維とはそういうものなんですが、T1100Gは、T800SやT1000Gといった繊維をベースに、強度だけでなく弾性率も上げることに成功した繊維なんです」
 
東レの炭素繊維は、強度に優れる<高強度系繊維>と、弾性率が高い<高弾性率繊維>という2つのカテゴリーに分かれている。このT1100Gは、<高強度系繊維>のトップに位置する新型の繊維。前述のとおり、炭素繊維において強度と弾性率は両立しないものだが、このT1100Gは強度も弾性率も上げることに成功した繊維なのだ。これが、T1100Gが「20年に一度の革新的な素材」と呼ばれる理由である。