安井行生のロードバイク徹底評論第5回 PINARELLO DOGMA F8 vol.8

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安井ドグマF8-8

ピナレロのフラッグシップが劇的な変化を遂げた。2015シーズンの主役たるドグマF8である。「20年に一度の革新的な素材」と呼ばれる東レ・T1100Gと、ジャガーと共同で行なったエアロロード化は、ピナレロの走りをどう変えたのか。新旧ドグマの比較を通して、進化の幅とその方向性を探る。東レ・T1100Gの正体に迫る技術解説も必読。vol.8

 

「樹脂の進化」がカギを握る

安井ドグマF8-8

では、フレームメーカーが自社で樹脂を含浸させて作るプリプレグとはどれほど違うものなのだろうか。
 
「それはもう全く違います。樹脂そのものの違いも大きいですが、『いかに樹脂をキレイに含浸させて均一なプリプレグを作るか』という製造技術面でも大きな差が出ます。樹脂の配置がバラついてしまうと、そのバラつきはそのまま成型品に反映されてしまいますから。均一ではないところは、やはり破壊の起点になってしまいます」
 
自転車メーカーも自転車メディアも、コレは何トンだウチは何トンだと、カーボン繊維の弾性率の話しかしないが、それに組み合わされる樹脂も重要なのだ。
 
「もちろんです。繊維の種類って意外と少ない。では、どこで違いが出るのか。樹脂です。繊維の性能を活かすためには、樹脂の性能が非常に重要となります。T1100Gは、20年に一度と言われるほどの性能進化を達成した新型繊維です。東レが炭素繊維を作り始めて40年。炭素繊維の開発に関しては、できることはほとんどやりつくしていて、長いタームでしか開発が進まないんです。毎年のようにポコポコ新製品が出てガンガン進化していくものではない。そこで、まだまだ変化&進化する樹脂の性能が大切になってくるんです」

 

極端な軽量化には二の足を踏む

従来は軽量化を重視するブランドではなかったが、ドグマF8はT1100Gの採用などにより、ドグマ65.1比で120gの軽量化を実現している。しかし、キャノンデールやBMCやトレックのように、一気に600g台まで軽量化してこないのは興味深い。東レとこれほど仲がいいのだから、素材・技術レベルでは可能なのだろうが、ピナレロは過度のダイエットにはそれなりのデメリットがあると考えているのだろう。
 
素材も形状も、ガラリと変えた。これは、今まで築き上げてきた「走行性能の基準」を一度捨て、走りを一から構築しなおしたことを意味する。とくに従来のピナレロは、オンダフォークによって走りの性格が決定付けられていたフシがある。オンダフォーク特有の振る舞いが、「ピナレロらしさ」を形成していたのだ。それが一新されたということは、走りが大きく変わる可能性が高い。