安井行生のロードバイク徹底評論第5回 PINARELLO DOGMA F8 vol.11

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安井ドグマF8-11

ピナレロのフラッグシップが劇的な変化を遂げた。2015シーズンの主役たるドグマF8である。「20年に一度の革新的な素材」と呼ばれる東レ・T1100Gと、ジャガーと共同で行なったエアロロード化は、ピナレロの走りをどう変えたのか。新旧ドグマの比較を通して、進化の幅とその方向性を探る。東レ・T1100Gの正体に迫る技術解説も必読。vol.11

安井ドグマF8-11

 

ドグマが失ってしまったものとは

じつは、ドグマF8がイタリアで発表された数週間後に、日本でドグマF8に乗った。「試乗は人目の付かないところで……」というやんわりとした報道規制がかかるようなタイミングでの試乗だったのだが、このときのファーストインプレッションは決して芳しいものではなかった。歴代ドグマの持ち味の一つだった“力強いトルク感”と“一体感”が、雲霧消散していたからである。
 
このときのメモには、「マジになって踏まないと美味しいところが味わえない」、「完全にプロ仕様」、「体が追い付かない」などなど、結構ネガティブなことが書いてある。ピナレロも人間を無視するようになって、とうとうここまできてしまったか- と、暗澹たる気持ちにさせられたのだ。しかし、このとき乗ったのは48サイズ。今回走らせたのは、筆者にジャストな46.5である。
 
このフレームサイズの差による印象の違いがかなり大きく、今回のインプレッションでは評価が好転した。あのとき書いた文章は訳あって記事にはならなかったのだが、今思えば発表しなくてよかった。読者のみなさんに間違った印象を伝えてしまうことになっていたからだ。とはいえ、適正サイズに乗っても、ドグマF8の一体感はやや色褪せたと感じられる。

 

高出力前提なら、新型の方向性が正しい

安井ドグマF8-11

ドグマF8に比べると、ドグマ65.1はいい意味であいまいで、コーナリングでもダンシングでも体に馴染んで自然な振る舞いをしてくれる。そこには、「やさしく安定感高く力強いドグマ65.1」と「正確だが機敏で鋭く兵器のようなドグマF8」という対照的なイメージが浮かび上がる。
 
先代ドグマ65.1を先々代ドグマ2と比較したときには、「ドグマも硬くなっちまって……」と思ったものだが、新作ドグマF8と比較すると、ドグマ65.1にはフレームにもフォークにも一瞬のタメのようなものがあることが分かる。インプレとは絶対評価ではなく相対評価でしかないことの証明である。
 
予想したとおり、走りの方向性はガラリと変わっていた。新旧ドグマ、これはもうまったくの別物である。個人的には旧ドグマの味が好みだが、高出力を前提とするなら、ドグマF8の方向性が正しい。スカッと硬いフレームが好きな人や、瞬間的なスピードの上げ下げで勝負する人なら、新型を選ぶべきだろう。