安井行生のロードバイク徹底評論 第4回 LOOK 675 vol.7

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安井675-7

最初は誰もが異端児だと思ったルック・675。しかし同じスタイルをまとう795の登場によって、キワモノではなく次世代ルックのブランドアイデンティティーを背負う存在として見なければならなくなった。「なぜルックはこんなフレームを作ったのか?」をメインテーマに書く徹底評論第4回。発表されたばかりの795を見る目も変わる、渾身のルック論である。vol.7

 

「斬新な衣」と「古典的な中身」

安井675-7

さて、そんなふうにテンション低めで始まった試乗だったが、予想に反してよく走る一台であった。軽快感が弾けるのではなく、トルクを与えるとグイッという感覚を伴ってスピードを上げていく。高速高負荷域でさらに大トルクをかけ増してもゴンゴンと力強く加速する。剛性は高いのにパワーをかけても脚に嫌な感じが残らないところもいい。「自然だが分厚い」- 675のトルク感・剛性感を表現すると、こんな言葉になる。
 
ハンドリングは素直で、ハードブレーキングでもバシッと止まる。「快適性を重視した……」と聞いていたから、ルーベやシナプスなどと同じカテゴリのフレームなのかと思っていたが、あそこまで過保護ではなく、むしろライダー主体の味付けだ。その外観からは想像しにくいが、意外にも675は、古典的な戦闘機なのである。
 
筆者の脚力と体重なら、重量のあるエアロ系ホイールよりも硬くて走行感が軽いホイールのほうがフレームの良さを引き出せて相性がいい。しかし、パワーのある人なら50mmクラスでも行けるだろう。この675でボーラやレーシングスピードをぶん回せたら、どんなに気持ちいいだろう。

 

芯の太い「踏めるフレーム」

どっしりとした芯があるので登坂専用車にしようとは思わないが、いわゆる「踏めるフレーム」、「走るフレーム」である。これは、羽のようなしなやかさで軽快感を作り、それを武器に坂でひらりひらりと舞う586の正統後継車ではない。「安定」で走りのベースを作っている675は、「軽やかさ」がベースにある586とは走りの方向性が違うのだ。695ほど正確でも高反応でもないが、実に気持ちのいいフレームである。
 
時代の先鋭を狙う必要のないセカンドグレードのバイクは、このような走りになりやすいのかもしれない。初代プリンスに対する初代マーヴェル。トレック・5900に対する5500。リドレーの歴代ミドルグレード。いずれも最上位モデルにはない、芯の太いどっしりとした走り味を持っていた。現在でいえば、ドグマF8と3代目プリンスがその関係にある。
 
セカンドグレードはブランドイメージの牽引という重荷を背負わない。だからトップモデルほど高剛性である必要もない。エアロダイナミクスに目くじらを立てる必要もない。ある程度は重くても許される。かといって、エントリーモデルほどコストの縛りがあるわけでもない。結果、適度な剛性が走りに深みをもたらす。肉厚で重みのあるフレームが安心感をもたらす。わずかな違いが走りをガラリと変えてしまうロードバイクの世界には、筆者の経験則としてそういうことが多々ある。家業を継ぐ必要のない次男坊が伸び伸び自由にやっているイメージだ。
 
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