新連載! 安井行生のロードバイク徹底評論 第1回 Cannondale SYNAPSE HI-MOD2 vol.10

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安井シナプスハイモッド2-10
  • text 安井行生
  • photo 安井行生/キャノンデール・ジャパン

2012年、名車スーパーシックスエボを完成させて、レーシングバイクカテゴリでライバルを置き去りにしたキャノンデールが、エンデュランスロードにも本気になった。イタリアで100km、日本で300kmを走り込んだ安井が、シナプスの本質とエンデュランスロードのあり方に迫る。技術者インタビューを交えた全10回、1万文字超の最新ロードバイク論。最終回のvol.10。

 

ただ真空地帯が広るのみ

安井シナプスハイモッド2-10

そんな理論を正しくなぞるアメリカンビッグブランド勢に対し、乗り手と一体となって初めて表出してくるような、人間的な速さを作り出すブランドもある。ヒトとバイクとの濃密な関係によって構築される速さ。じっくりと乗り込んで初めてこれを仕上げた技術者に頭が下がる種の速さ。真の自転車乗りだけを湧き立たせる速さ。それは、分かりにくいが深みのある速さだ。タイム、ボッテキア、グル、シファックなどがここに属するだろう。それらは、全身の筋肉をしならせながら生き物のように走ってくれる。
 
“生き物のような一体感”ーー 非常に曖昧な表現だが、それは時として、路面と身体、スピードと筋肉、バイクと意識を繋ぐ一種の神経回路として働く。最近のコンフォートバイクにはそれがなく、路面と乗り手の間にはただ真空地帯が広るのみなのだ。
 

「現在の理想」に最接近したシナプス

とはいえ、「どちらがロードバイクとして正解なのか、どちらがより優れているのか」という議論にはまったく意味がない。それを長所と捉えるか短所と感じるかによって評価は正反対なものになるからだ。白黒つけようにも、評点の位置によって白と黒があっさり逆転してしまう。「どんなタイプの異性が好みか」「カレーと牛丼はどちらが美味いか」みたいなもの。だから、ロードバイクという乗り物に唯一絶対の正解なんて存在しないのだ。
 
だからロードバイク選びは楽しくも難しい。欠点が混ざることを承知で情緒面における美点 ーー「味」「旨み」「一体感」ーー を優先するのか。それとも、生理的感覚との乖離に目をつぶってどこにも欠点のない栄養満点の走りを求めるのか。後者になら、新型シナプス、大いにお勧めできる。
 
作り手が思い描く理想。我々がバイクに対して抱く願望。乗り手が路上で得る現実。それらが交わるポイントは、その狭間に無数に漂っている。そして、新型シナプスが錨を下ろしているのは、作り手の「理想」にかなり近いポイントである。快適性と動力性の両立が求められる現代において、「理想とされている性能」への最接近に成功したフレームなのだ。
 
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