安井行生のロードバイク徹底評論第5回 PINARELLO DOGMA F8 vol.12

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安井ドグマF8-12

ピナレロのフラッグシップが劇的な変化を遂げた。2015シーズンの主役たるドグマF8である。「20年に一度の革新的な素材」と呼ばれる東レ・T1100Gと、ジャガーと共同で行なったエアロロード化は、ピナレロの走りをどう変えたのか。新旧ドグマの比較を通して、進化の幅とその方向性を探る。東レ・T1100Gの正体に迫る技術解説も必読。最終回のvol.12。

 

進化ではなく退化

フレームには適度なしなりや一体感がないとダメという人にとっては、ドグマ65.1–>ドグマF8は進化ではなく退化だろう。65.1でしか味わえない恍惚の世界が、F8では消えてしまったのだから。しかし、ドグマF8も辟易してしまうようなレベルではない。ピナレロは曖昧な“人間”というファクターを完全に無視することはなく、ドグマF8を「扱いやすい」という範囲内ギリギリに留め、その中で可能な限り動力性能を上げてきた、という印象だ。
 
ただ、“一体感”などというものはあくまで個人の主観にすぎない、ということを前提に読んでほしいと思う。筆者より体重やパワーのあるライダーが乗れば評価が逆転する可能性はおおいにある。ライターの戯言を鵜呑みにしてはいけない。

安井ドグマF8-12

 

鮮やかなコントラスト

ではまとめに入ろう。65.1 –> F8の変化を簡単に表現すると、「より軽く硬く鋭く速く」である。剛性はより高く、加速はより鋭く、ハンドリングはよりシャープに。ドグマF8は、「純粋に速く走るための乗り物」としては文句なしの正常進化を遂げている。いま思えば、金属時代のドグマから前作ドグマ65.1までの進化の方向も、簡単に言えば、やはり「より硬く鋭く速く」であった。
 
数年前まで、空力や軽さはさほど重視せず、「バランスよく安定感・快適性を保ちながら加速プロセス後半でライダーを力強く押し出す」という方向に旗艦モデルを仕立てていたピナレロ。しかしドグマはモデルチェンジを重ねるごとにどんどん硬質に正確になっていき、ピナレロの新旧を貫く統一感はだんだんと薄まっていく。そして、ドグマF8ではひたすら高負荷機動に特化してきた。ブランドの立ち位置は変わり、エアロロードというコンセプトも加わったが、ピナレロが向いている方向は、今も昔も変わっていないのだ。
 
現在のレーシングバイクの趨勢は、昔ながらの「軽量化・高剛性化」に「エアロ化」をプラスしたもの。ピナレロも「高剛性+空力=スピード」を主張しながらそこに加わった。しかし、スペシャライズドをはじめとするビッグブランドの中からは、「乗り手とのマッチング」「ライド・クオリティ」「扱いやすさ」という曖昧な要素を重視する流れも生まれつつあり、この指向性の違いが混迷のロードバイクシーンに鮮やかなコントラストを描いている。その対比図の先端にいるのが、ドグマF8なのである。

安井ドグマF8-12