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ヴィノクロフが悲願の金メダル獲得! ロンドン五輪 男子ロードレース

ツール制覇で英国の英雄となったウィギンスが、始まりの鐘を鳴らして開幕したロンドン・オリンピック。しかし、勝利の女神が手を差し伸べたのは地元の英国チームではなく、カザフスタンの老兵だった…
Photo: Graham Watson

強国を倒したカザフスタンの英雄


4年に1度、祖国の名前だけが記されたナショナルジャージを身にまとい、たった1枚の金メダルを目指して6時間の闘いに挑む。それがオリンピックのロードレースだ。7月28日に、英国の首都ロンドンで行われた第30回オリンピック競技大会の男子ロードレースで栄光をつかんだのは、ターコイズブルーのカザフスタンナショナルジャージを着たアレクサンドル・ヴィノクロフだった。彼は2000年のシドニー大会のロードレースで銀メダルを獲得し、38歳でついに世界の頂点に立った。しかしヴィノクロフは、この4日後に行われる個人タイムトライアルを最後に現役を引退すると決めている。 男子ロードレースは、ロンドン市内にあるバッキンガム宮殿前のザ・マル通りをスタート。ロンドンの南西30kmにあるサリー州のボックス・ヒル周回コースを9周し、ふたたびロンドンのザ・マルへと戻る全長250kmのコースだった。一部がナショナル・トラストによって管理され、風光明媚なサイクリングコースとしても人気があるボックス・ヒルの周回コースは全長15kmで、上りは2.5kmで平均勾配率は5%、最大で6.5%だった。この日は無線の使用が禁止され、展開に影響を与える結果となった。レースには63ヶ国から144選手が出走。日本からは別府史之と新城幸也が参加した。ザ・マル通りのスタートには、チャールズ皇太子夫妻が英国チームの激励に訪れ、ツール・ド・フランスで英国人として初優勝したブラッドリー・ウィギンスと言葉を交わしていた。 ロンドンを出発し、ボックス・ヒル周回コースへと向かう20km地点で、12人が集団から抜け出して逃げ集団を形成した。メンバーはリューウェ・ウェストラ(オランダ)、ミヒャエル・シャール(スイス)、ユルフン・ルーランツ(ベルギー)、ヤネシュ・ブライコビッチ(スロベニア)、デニス・メンショフ(ロシア)、パク・スンバク(韓国)、ステュアート・オグレディ(オーストラリア)、ホナタン・カストロビエホ(スペイン)、マルコ・ピノッティ(イタリア)、ティモシー・ダッガン(米国)、アレクサンダー・クリストフ(ノルウエー)。そして日本の別府もこの先頭集団に加わっていた。12人は30km地点ですでに集団に2分差を付け、ボックス・ヒルに到着した75km地点では、その差は5分半にまで開いていた。 今大会に最大人数の5選手を送り込んでいる有力国の中で、オーストラリア、ベルギー、スペイン、イタリア、オランダ、スイスはこの先頭集団に入っていたが、選手を送り込めなかった英国チームは、地元のレースという責任も伴って、序盤からメイン集団の先頭を引かなければならない展開になってしまった。世界チャンピオンのマーク・カベンディッシュを単独エースに立てた英国チームは、1年前に行われたプレ大会のように、レースをコントロールして最後は集団ゴールスプリントに持ち込まなければならなかった。しかし、同じく先頭に選手を送り込めなかったドイツだけが先頭で英国チームの援護をしていた。そしてナショナルジャージには記されていないスポンサー名が見え隠れするのが五輪のレースの特徴でもある。集団を引く英国チーム列車には、チームスカイのメンバーであるオーストリアのベルンハルト・アイゼルも加わっていた。それでもたった5人編成のチームでは、集団をコントロールするのは非常に困難だった。このレースにアッサン・バザイエフと2人だけで参加していたヴィノクロフも、この時は集団のなかで時が満ちるのをじっと待っていた。

地元のオリンピックで敗北を喫した英国艦隊


先頭集団は丘越えがつづくボックス・ヒルの周回コースに入って韓国のパクが脱落し、11人になった。そしてレースは中盤から動いた。4周目の丘越えで、英国チームが必死でコントロールを続けていたメイン集団から、イタリアのビンチェンツォ・ニーバリがアタック。ベルギーのフィリップ・ジルベール、グレッグ・バンアーベルマート、オランダのロベルト・ヘーシンク、スイスのマルティン・エルミーゲルがつづいたが、この時は丘を越えたあとで集団がこのグループを捕らえた。しかし、攻撃は終わらなかった。次の周回では、ウクライナのアンドレイ・グリフコがアタックし、ニーバリ、ジルベールがふたたび抜け出すチャンスを得た。このグループにはグレゴリー・ラスト(スイス)、ルーカ・パオリーニ(イタリア)、ヤコブ・フグルサング(デンマーク)、シルバン・シャバネル(フランス)、ジャック・バウアー(ニュージーランド)、ロマン・クロイツィゲル(チェコ)、テイラー・フィニー(米国)も加わり、先頭の11人を追走した。残り98kmで、先頭と追走グループの差は1分15秒、英国チームが引くメイン集団はまだ2分後方だった。 残り70kmで先頭には追走グループが合流し、22人になった。そしてボックス・ヒルの最後の丘越えで、このグループから最初にアタックしたのはベルギーのジルベールだった。彼は残り49km地点の山頂を、後続に45秒差を付けて単独トップで通過した。その後方では、コントロールの効かないメイン集団からさらにアタックがかかり、スペインのルイスレオン・サンチェスとアレハンドロ・バルベルデ、スイスのファビアン・カンチェッラーラとミカエル・アルバズィーニ、コロンビアのリゴベルト・ウラン、そしてヴィノクロフといったビッグネームがジルベールを追うグループに合流した。ゴールまで残り41km地点で、ジルベールはこのグループに捕まった。32人になった先頭集団には、スペインチームとスイスチームがそれぞれ3人ずつ入っていた。彼らは列車を組んで先頭集団を引き、メイン集団の必死の追撃を寄せ付けず、残り19kmで51秒差を付けていた。 ロンドン市内へと向かう途中、リッチモンド・パークで金メダルの行方を左右する不運が起こった。集団の先頭を走っていたカンチェッラーラが、残り15kmのコーナーで転倒してしまったのだ。北京大会で銀メダルを獲得していたカンチェッラーラは、この落車で右肩を負傷し、先頭集団から脱落してしまった。彼は結局6分近く遅れてゴールし、病院へ直行。幸い検査で骨折は見つからなかったが、4日後の個人タイムトライアル連覇にも赤信号が点ってしまった。 残り10kmでカヴェンディッシュのいるメイン集団と先頭集団の差は、まだ1分近く離れていた。最後は大方の予想通り、小さな集団でのゴールスプリントになるかと思われた矢先、先頭からアタックしたのはウランとヴィノクロフだった。2人はビッグネームたちの必死の追撃を尻目にロンドン市内を駆け抜け、残り2kmで15秒差を付けてザ・マル通りへと戻ってきた。そして最後はヴィノクロフが残り400メートルからスプリントを開始。25歳のウランにはそれに応える脚がなく、最後は大ベテランが有終の美を飾った。昨年に引退を撤回して臨んだプロ15年目のシーズンで、ついに世界の頂点に立ったヴィノクロフは「自分のキャリアを金メダルで終わらせるのは素晴らしいやり方だ。私はまだ水曜日のタイムトライアルを走るつもりだが、欲しかった金メダルは手に入れてしまったから、その後で引退しようと思っている」と、今回は引退を撤回する意志はないことを明らかにしている。 ■アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン) 1973年9月16日カザフスタン、ペトロパブロフスク生まれ。38歳。アスタナプロチーム所属。1998年にフランスのカジノでデビュー。2003年ツールで総合3位、2006年ブエルタ・ア・エスパーニャで総合優勝。2007年のツールで輸血ドーピング陽性になり、2年間の競技停止処分を受けた。昨シーズンで引退する予定だったが、ツールの落車で重傷を負ってしまい、引退を一度撤回し、今年のロンドン五輪を最後のターゲットにしていた。

日本代表選手2人の五輪

■別府史之(オリカ・グリーンエッジ) 序盤から逃げに乗り、五輪の公式ウェブサイトにおける途中の通過順位ではトップに別府史之の名前が! これまで日本の自転車界では、トラック種目でメダルにからむ話題が多かったが、ロードでもしっかりとレースの展開にからむ走りを展開。こんな話ができる時代が来たのだ。積極的な走りが功を奏して、22位という素晴らしい成績を修めた。フミは自らのブログで「自分らしい走りが出来た」とコメント。全世界に中継され、しかも逃げ切ったフミの力は誰の目にも明らかだ。 ■新城幸也(チームヨーロップカー) 「フィリップ・ジルベールがアタックしていったとき、僕はそのすぐ後ろにいたんですよ。でも見送りました。イギリスチームを見ていると、最後はスプリントになると絶対に思っていたので、それに賭けたんです。そうなればすべてのリスクを冒してスプリントするつもりで準備していました。ツール後、コンディションはすごくいいままなので、このままシーズン後半のレースでいい結果を残したいと思っています」。

ロンドン・オリンピック 男子ロードレース結果

1 アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン)5時間45分57秒 2 リゴベルト・ウラン(コロンビア) 3 アレクサンダー・クリストフ(ノルウエー)+8秒 4 タイラー・フィニー(米国)+8秒 5 セルゲン・ラグチン(ウズベキスタン)+8秒 6 ステュアート・オグレディ(オーストラリア)+8秒 7 ユルフン・ルーランツ(ベルギー)+8秒 8 グレゴリー・ラスト(スイス)+8秒 9 ルーカ・パオリーニ(イタリア)+8秒 10 ジャック・バウアー(ニュージーランド)+8秒 22 別府史之(日本)+8秒 48 新城幸也(日本)+40秒

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