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ホイールのマヴィックが満を持してリリースする29erホイールセット

7月24日、長野県大町市にある鹿島槍スポーツヴィレッジ マヴィックテストライドステーションに自転車関連のメディアが集合。マヴィックの新製品ホイール試乗会が開催された。まずはMTBホイールの目玉、29erの3モデルを紹介する。
text●鏑木 裕 photo●岩崎竜太

マヴィックから待望の29erホイール登場

北米から始まったMTBホイールの29er化は、日本を含むアジア圏はもとより、2012年にはヨーロッパでも主要規格になった。ハイエンドの完組みホイールブランド最大手であるマヴィックは、残念ながら29erホイールに関しては出遅れ感が否めなかった。2012年まではわずかに1モデルのみ。しかも、26インチホイールをそのままストレッチして大径化したに過ぎない仕様だったのだ。 しかし2013年、ようやく本気仕様でラインナップを充実させる。ハイエンドXCホイールのクロスマックスSLR29、オールマイティに使えるミドルレンジのクロスマックスST29、そして入門グレードのクロスライドディスク29。そんな3機種をラインナップに加えて、29er戦線に本格参入したのだ。

クロスマックスSLR29:専用設計で高い完成度

26インチ版のモデルチェンジから1年。クロスマックスSLRの29erバージョンが発表された。基本的に、ホイール径が大きくなるほど、横剛性が低下し、重量が増え、慣性が大きくなる、というネガティブな要素が増える。マヴィックによると、26インチホイールをそのまま29インチへストレッチした場合、剛性は39%低下し、重量は10%増え、慣性は40%強く働くのだという。 そこでマヴィックでは、クロスマックスSLR用にリムの断面形状を再設計(写真右下)。肉厚を若干上げることで、前後20本のスポーク数を実現した。スポークは、ジクラル・アルミ合金製だが、ストレスの掛かる後輪スプロケット側のスポークはサンドブラスト処理を施している。金属表面を微細な砂を吹き付けて鍛えることにより、元々高剛性なスポークを、さらに高剛性化させているのだ。

ITS-4と、ISM-3D加工の実力とは

さて、乗り始めて最初に気付くのは、後輪ラチェット数の多さ。7.5°のアソビで歯が噛み合う48ノッチのITS-4(写真中央)は、ペダリングを開始するときに“掛かりのよさ”を明確に体感できる。発進時はもちろんのこと、コーナーの立ち上がりや、障害物を乗り越えた後、集団走行中における加減速など、止めていたクランクを回し始める瞬間は、ライド中に頻繁にある。その際、すぐに後輪へトルクが掛かると、空走区間が短縮されて、素早く加速してくれる。ライダーが感じる「ここで加速したい」という意志と、そこからチェーンにテンションが掛かってバイクが実際に加速し始めるまでのタイムラグが少なくなることは、速く走れるというだけでなく、乗り手にとってのストレスを大幅に軽減してくれる。 ギヤが掛かるとバイクは加速する。ペダリングの入力トルクに対しての加速度は、各回転部の抵抗や、タイヤやフレームの剛性にも左右されるが、ホイールも大きな影響力を持っている。 まずは重量。回転体は、それを回すだけでエネルギーを要するが、回転部分が重くなるほど、さらに重量物が回転の外周部にあるほど、大きなエネルギーを必要とする。また、ホイールがブニブニとたわんでしまえば、パワー伝達においてロスが発生する。ダンシングで大きなトルクをガツンと掛ければなおさらで、軟らか過ぎるホイールは加速が鈍るどころか、前輪が左右にふらつくから、タイヤが通るラインすら真っ直ぐに安定しない。 その点、クロスマックスSLR29ほど、優れた性能を持つホイールはない。ISM 3D加工(写真下)によって積極的に切削されたリムの単体重量は約420g。ロード用のスタンダードなリムとそん色ない重量だ。

高剛性スポークが走りを支える

リム剛性の約7割は、リムを支えているスポークに依存しているらしく、「軽いリムを硬いスポークで保持する」のがホイールの理想的な作り方なのだという。ダンシングをする際に、バイクをいつもよりも多めに左右へ振ってもホイールの“ヨレ感”はとても少なく、シングルトラックにありがちなタイヤ1本分ギリしかないラインであったとしても、無理なく通せるから気持ちがいい。 この優れた剛性は、ブレーキングやコーナリングでも存分に発揮される。カッチリとダイレクト感に優れるため、たとえばタイヤのグリップ限界を見極めやすく、ブレーキにしてもコーナーにしても、滑り出すギリギリを追求しやすのだ。そもそも硬く軽いホイールは、コーナーでバイクを倒し込みやすく、路面のギャップに対してタイヤを追従させやすい。サスペンションのバネ下重量が軽くなれば、サスペンション自体の動きも機敏になるからタイヤのグリップも向上する。それらの結果、「バイクをコントロールしやすい」と感じることになる。 ペダリング、コーナリング、ブレーキング、ギャップ、etc……、というように、上下・左右・前後の動きに対して、乗り手の意識から最小のタイム差でバイクが動いてくれるからだ。

クロスマックスSLR29のネガポイントとは?

クロスマックスSLR29は、今まで乗った29erホイールの中で、もっとも優れたバランスを持つ。静止重量だけなら、軽いホイールは他にいくらでもあるが、実走時の軽さとなるとトップクラスだ。 USTチューブレスや、チューブレスレディのタイヤにも対応することで、きちんとタイヤセレクトをして体重や走り方に応じたエア圧調整を怠らなければ乗り心地も良好である。あらゆる路面を長時間に渡って速く、しかも最小限のストレスで走る、という点では素晴らしい完成度である。 そして、次に挙げる3点が改善されたなら、言うことのないホイールになるだろう。 まずは、フォークへの取り付け面が小さいということ。たとえばロックショックスのエンド部は、平面で構成されている。スペシャライズド(ロバール)やトレック(ボントレガー)のように、フォークとハブ軸のコンタクト面を増やす大口径なアクスルキャップが用意されることが望まれる。 ハブ取り付け部の剛性が向上するだけでなく、フォークエンドへの面圧が分散されるために脱着に伴う摩耗が防止でき、フォークの寿命が延びるからだ。 続いてリアの“142+規格”への対応だ。アクスル部のパーツ差し替えで、142スルーアクスルには対応しているものの、“142+”とはフリーボディの位置が若干異なる。もし、“142+”用のフリーボディキットがリリースされたら、現在日本の29erシーンで圧倒的な販売量を誇るスペシャライズドユーザーに対して、とても強い訴求力を持つはずだ。 最後は、ITS-4のシール性能である。2012年モデルではリップシールを新型とし、防塵防水性能の向上とフリクションの低減を実現している。フリー・ラチェット部分には定期的なメンテナンスをすることで、常にベストな回転性能を維持することができ、そのためにスプロケットを付けたままでもフリーボディーが外せる構造になっている。レース機材と考えれば必要な手間になるだろう。 だが、筆者としてはダストシールの抵抗を減らしたことで、走行時の低フリクションを実現したのだが、外部からの異物侵入を防ぎきるのは難しいのではと考える。 シールの防塵防水性向上とフリクション低減に関しては、言わば“諸刃の剣”だから仕方ないとはいえ、全てのユーザーが頻繁に該当箇所をメンテナンスするとは思えない。たとえばエンデュラン仕様とレース仕様に分けてユーザーがチョイスできれば、長期に渡って各ユーザーがマヴィックの提供する高性能の恩恵を得られるはずなのである。

オールマイティに使えるクロスマックスST29

クロスマックスSLR29が、XCレーシングを筆頭とする、高速クロスカントリーライドに最適化されたスペックなのに対して、同ST29は山岳トレイルでの走行性能を追求したのが特長である。 まずはリム。過度な切削加工を省略することで、リムの強度を確保。リムの内幅は19mmと、SLR29と同寸ながら、リム強度を増したことで、太めのハイグリップタイヤとのバランスが向上されている。 続いてスポーク。丸断面のジクラルスポークにより、剛性・強度ともにアップ。さらにフロントは24本で組むことで、たとえば20mmスルーアクスルのフロントフォークとの組み合わせも可能になった。軽量なジャンプバイクを組む際にも、強い味方になってくれそうだ。 さて、実際に走らせてみると、あらゆるシーンで漂う“安心感”を感じることになる。たとえば2.25インチ幅のような太めのタイヤを、2.0kmf/cm2に満たない低圧で乗ると、タイヤの変形量が大きくなる。 そもそも太いタイヤはグリップ力にも優れるため、コーナリング速度が上がり、タイヤは強く押しつけられるのだから当たり前だ。さらに乗り方によっては、タイヤメーカーが指定する下限圧を下回るような低圧で使うことも今や珍しくはないが、そうなれば変形量はもっと大きくなる。 このとき一緒にホイールもたわんでしまうと、バイクのリーン具合(傾き加減)によって、前輪が切れ込んでしまったり、外に流れてしまったり、という現象が出やすくなるのだ。しかしST29では、タイヤの変形量を補ってあまりあるホイール剛性を持つ。このため、タイヤのグリップ限界を引き出しやすいのである。 この事実は、タイヤセレクトにも影響を及ぼすだろう。リム幅こそSLR29と同じだが、SLR29では2.1インチ幅以下のタイヤに最適化されているな、と感じた。 それに対して、ST29では2.0~2.25インチ幅あたりで使うことを強くオススメしたい。そして太めのタイヤでオフロードを走る場合は、空気圧を低めにして、タイヤが持つグリップ力を存分に引き出して欲しいのだ。 ところでST29の登坂性能はというと、これがまたなかなかの走りっぷりを見せてくれる。ノッチ数48TのITS-4フリーは、ギヤの掛かりが良いし、何よりホイール剛性が高いからトルクの伝達ロスが少ない。 SLR29に比べれば重いとはいえ、ヘビーではないから軽快に上ってくれるのだ。極端なコトを言えば、たとえば700×26Cあたりのロードタイヤを入れてしまえば、29erのMTBがビュンビュン系の高性能クロスバイクになってしまうことだろう。 メーカーサイドでは「本物のマウンテンバイキングのためのホイール」となっている。確かにその点に関してはワタシも相違ない意見である。しかしオンロード用に使ったとしても十分高性能であろうことを、ここに付け加えておきたい。

入門者のバージョンアップに最適なクロスライドDisc 29

マヴィック・クロスライドシリーズといえば、スタイリッシュな入門用ホイールとして定番になっている。たとえば10万円前後の完成車のホイールをちょっとグレードアップ、なんていった際には、高い確立で候補に挙がることだろう。 その29erバージョンである。さすがに、クロスマックスシリーズにあるような高性能なスペックは採用されていないが、それでもホイール重量は前後で2020gに収められており、3万円台半ばの価格帯としては十分に魅力的だ。 比べてしまえば、ラチェット数が24ノッチと少ないために、ペダリング開始時にトルクが掛かるまでのタイムラグが気になりはする。 しかしそれはレーサーな視点での意見だろう。一般的なツーリング的使用で、「掛かりが遅いから速くはしれない」なんてコトは問題にならないはずだし、そもそもクランクを回している限りはノッチ数など関係ないのである。 前輪の路面追従性にしても、チューブドの重いタイヤ周りのおかげで、決して優れているとは言えないが、「乗り手の動体視力が追いつく上限スピードで走ろうとすれば」という注釈を付ける必要がある。 外部から閉鎖されたコースやサーキットならいざ知らず、一般のオープントレイルや林道をそんな速度域で走ろうということは、市街地をアクセル全開でクルマを走らせるのと同じぐらい、危険で反社会的な行為であろう。 現実に目を向ければ、クロストレイルDisc29は、実用性に富んだホイールセットである。 なぜこのホイールをもっと早く出せなかったのか。マヴィックは2012年までの間、大きな商機を逃していたと言わざるを得ない。そう悔やまれるほどに今回のラインナップは完成度が高い。 クロスマックスSLR29 価格/15万7500円 クロスマックスST29 価格/9万9750円 クロスライドディスク29 価格/3万6750円 (いずれも26インチ仕様も同額)
●鏑木 裕 元サイクルスポーツ編集部員にして、今は神奈川県横浜市で轍屋自転車店を経営。自転車関連メディアで活躍するフリーライター、MTBの片山梨絵選手のメカニック、そして自身もMTBのJシリーズに参戦するという多彩な面を持つ。 身長:178cm、体重:61kg 轍屋 http://wadachiya.com

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アメアスポーツジャパン マヴィック事業部
http://www.mavic.com/