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ムダなしペダリングを手に入れろ!

もしクランクが硬くなかったら・・・間接をスムーズに動かすことが重要セルフセッティングなぜ、プロ選手の脚はふくらはぎが細いのか

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「ペダリングなんてカンタンじゃん!」と思っているアナタ。それはある意味で、たしかに正しい。 ペダリングとは、「ペダルに置いた脚を上下動させることでクランクを回転させる行為」といえる。これは自動車のエンジンにおいて、ピストンの往復運動がクランクを介して回転運動へと変換されるのと同じメカニズムだ。したがって、ペダルに固定された脚を上下動させるだけで、クランクアームはきれいな弧を描き、バイクは勝手に進んでくれる。「ペダリングはカンタン」と思ってしま う理由は、おそらくここにある。

脚が発揮した力をできるだけムダなく効率的にバイクの推進力へと変えるためには、クランクが回転する方向に、トルクをムラなく均一にかけ続けることが重要になる。これには「(片脚で)足を円状に回せる技術」(=動作様式)と「(両脚で)トルクを円状にかけられる技術」(=筋出力発揮)の2つが必要となる。

「ペダリングは難しい」と思っている人は、おそらく後者の「トルクを円状にかける」ことに難しさを覚えていると思われるが、一方の「足を円状に回す」ことに関しては気に留めていないか、あるいは当たり前のようにできているものと思いこんでしまっているのではないだろうか。 「いやいや、オレの足はちゃんと円状に回ってるよ」と言いたくなる気持ちもわかる。しかし、きれいに回っているように見えるのは、クランクが“硬いから”にほかならない。仮に、クランクアームがアルミやカーボンではなくゴムでできていたとしたらどうだろう。おそらく多くの人が、ダウンストローク時にぐにょ~んとアームが伸びてしまい、円の軌跡を描くどころではなくなってしまうだろう。

足がきれいに円状に回るためには、たとえクランクがゴムでできていたとしてもきれいに回せるようなイメージを持つことが重要で、かつ自身の筋肉で脚を円状にコントロールできるだけの最低限の筋力と能力があることが大前提となる。 足が円をきれいにトレースできるようになったら、次はその軌道にできるだけ近い方向にトルクをかけられるようにすることが重要だ。たと えば上死点でどれだけ下方向に力をかけても、それはいっさいクランクを回転させる力にはならない。引き戸を力いっぱい押しているようなもので、ムダな力を一生懸命発揮しているだけだ。1分間に80回転以上という速い運動のなかで、360度常に回転方向にトルクをかけ続けることは事実上不可能だが、少なくとも180度(各脚のダウンストローク)のなかでできる限り回転方向に近い方向にトルクをかけられることが、パワーロスを小さくするカギだ。

ペダルをより速く、力強く回したいからといって、やみくもにギヤを重くして練習したり、筋トレをしたりして筋力アップを図るより、まずは足が円の軌道をしっかりとトレースできるようにすること、それによりパワーロスを最小限に抑えられるようにすること、これを最優先するべきなのだ。

クランクアームが硬ければ、ペダルを介して固定された足は自然と円の軌跡を描いて回ってくれる(右)が、もしクランクアームが柔らかい素材であったら、しっかりと回せていない人の足はいびつな弧を描き、正面から見れば左右にもブレてしまうことがわかるだろう(左) ピストンの往復運動は、クランクを介して回転運動へと変換される。メカニズムとしてはペダリングでも基本的には同じである



クランクアームが硬ければ、ペダルを介して固定された足は自然と円の軌跡を描いて回ってくれる(右)が、もしクランクアームが柔らかい素材であったら、しっかりと回せていない人の足はいびつな弧を描き、正面から見れば左右にもブレてしまうことがわかるだろう(左)


動きを意識しやすいように、ある程度負荷をかけて片脚で回す。両脚ではスムーズでも、片脚のときに引っかかり音が出たり、「グオン、グオン」と明らかにトルクにムラがあるようなローラー音が聞こえたら、脚の力できれいに円を描けていない証。また、右はよくても左はダメという場合は、左の動きを補完すべく右に余計な負担がかかっている可能性もある
片脚ペダリングがスムーズにできる場合は、バートップ、ブラケット、ドロップ部とポジションを変えて片脚ペダリングを試してみる。あらゆるポジションで滞りなく回せれば問題ないが、ドロップポジションのときに上死点をうまく通過させられない、などの症状がある場合は筋力よりも柔軟性に問題がありそうだ。セッティングを見直す必要がある
足が円の軌道をトレースできていれば、逆回転でもスムーズに回せるはずだ。ほかの項目にも共通するが、円の軌道を足がうまく通過するようにコントロールする、というイメージが重要で、「力強く回す」ことは必要ない。また逆回転では下死点からモモを引き上げる際に骨盤が倒れすぎていると上げにくいので、自然と骨盤が立ってくるのが実感できる
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恥骨結合部と座骨の3点でバランスよく腰を支えられる。大腿骨の動きもスムーズで、最もパワーを発揮しやすい
骨盤を自分の体の柔軟性を超えたところまで倒しすぎると、座骨と恥骨で支える体重のバランスが崩れ、恥骨側が圧迫される。TTなどの短時間ではいいが、血流が悪くなってしびれや痛みが出てくる可能性がある。またヒザが上げにくくなるという欠点もある
ダンシングのときは腰の位置がサドルによってマウントできていないが、シッティングでは固定されるので安定させたほうがいい。骨盤を立たせすぎるとヒザは上げやすいが、座骨側に重心が偏りバランスが悪くなるとともに、踏むときに力を入れにくくなる

ペダリングは自転車に乗るうえで最もテクニカルなジャンルだ。ヒザの上下運動を、クランクを通じて回転運動に変換するというシンプルなメカニズムだが、現実にはあらゆるレベルの人にとって終着点のないテクニックといえる。

人の体でペダリングの力を出すのは股関節からヒザまでの部分で、ヒザから先はそれを円運動に変換する役割を果たす。踏み込むときにヒザが左右に振れるとヒザ下の筋肉も作動してしまう。股関節の幅でまっすぐに上下運動していれば、ヒザ下のムダな筋肉の動きはいらなくなる。人の体は目的の動きと違う動きが出れば、筋肉はそれを抑えようとして、結果疲労につながってしまう。

また、ヒザが上がるときに足首やふくらはぎで無理やり押し上げている場合もあり、ふくらはぎがつってしまう原因になる。多くの場合、踏んでいるつもりになっているときほどロスが多く、逆に踏み応えがないときほどきれいに回せているものだ。これは踏み応えと感じているものが、じつは抵抗であるからだといえる。ペダリング時に変な動きが加わればその反力が生まれ、それによって筋肉の疲労や腱の炎症につながる可能性もあるのだ。

ペダリングのやり方として、骨盤を立てる、寝かせるという表現があるが、骨盤が倒れていると股関節の可動範囲が狭くヒザを上げにくくな り、サドルの上では恥骨側に体重がかかってしまう。一方骨盤が起きるとヒザは上がりやすいが、起きすぎると座骨側のみで腰を支えなければならず、踏む動作もやりにくくなる。恥骨と座骨のいずれかに重心が偏ると、サドルと骨にはさまれた部位が過度に圧迫され血流をさまたげ、しびれや痛みにつながりやすい。そうならないためにもサドル上で恥骨と左右の座骨の3点に均等に体重がかかり、恥骨側に20~40%、座骨側に60~80%程度の荷重がかかるようなイメージを持つことが重要となる。

ただし骨盤の角度は関節や筋肉の柔軟性とも関係してくるので、一概に立てればいい、寝かせればいいとは言い切れない。たとえば体の硬い人の場合は前傾がきつくなると、ハムストリングスが伸ばされて硬くなり、ヒザが伸びたときにストレスとなるため、サドル位置を低くして、 ヒザの動く角度を小さくしたくなる。逆に柔らかい人は、骨盤を立てつつも深い前傾を取ることが可能であり、引き伸ばされた筋肉の張力によってより強いパワーを発揮することができるため、深い前傾の取れるセッティングにしたほうが効果的といえる。

ムリな動きやムダな運動をすることなく、スムーズな動きと効率的なパワー伝達を可能にするためには、自分の体に合ったセッティングが重 要になってくる。

11時~2時付近では、上死点をスムーズに通過させるために脚を前方に送り出す大腿四頭筋の働きが重要になる。踏み込む際には大臀筋とハムストリングスが使用され、強いパワーの源となる。また下死点付近でヒザを屈曲させる際にもハムストリングスが使用され、そこから上死点に向かって股関節を屈曲させるときは大腿直筋や腸腰筋が動員される。脚の側面やヒザ下の筋肉は力の伝達と脚の余計な動きを制御するために用いられ、積極的には使用しない
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骨盤がしっかりと倒れて、右写真と比べて胴体と脚の距離が明らかに近い。これだけの柔軟性があればポジションの自由度も高くなる   脚に対して骨盤が倒れていない。これではペダリングで上死点を通過するとき、スムーズにいかない可能性がある。また深い前傾ポジションは難しいだろう
まず知る必要があるのは、自転車を乗るのに必要な骨盤まわりの柔軟性がどれくらいあるかということだ。写真のように立位体前屈をする。このときチェックするポイントは地面に手が届くか、ではなく骨盤の角度だ。いくら地面に手が届いても、写真左のような骨盤が倒れた状態にならないと柔軟とはいえない。写真右の状態から背骨が曲がることで地面に手が届いてしまう人は背骨が柔軟なのであって骨盤まわりが柔軟ということにはならない。

骨盤がしっかりと倒れて、右写真と比べて胴体と脚の距離が明らかに近い。これだけの柔軟性があればポジションの自由度も高くなる   脚に対して骨盤が倒れていない。これではペダリングで上死点を通過するとき、スムーズにいかない可能性がある。また深い前傾ポジションは難しいだろう
サドル高の決め方はいろいろあるが、ここではヒザの角度に注目した方法を紹介する。クランクを下死点にしてペダルを水平にする。このときに股関節とヒザ関節とくるぶしが作り出す角度が20°~ 40°になるようにサドルの高さを調節する。測っている脚のほうに意識がいきすぎてサドルに傾いて座らないように注意しよう。20°~ 40°と幅があるのは、人によって股関節や足首の関節の柔らかさに差があるからだ。微調整はこの幅のなかで行なう。
走り込んでサドル高に違和感を感じた場合は、写真で示した部分の角度が20°~ 40°の範囲になるように、高さを調整する

先端におもりをつけた糸を用意して、しっかりと垂直が出せるようにする
クランクを90°で止めてペダルを水平にする。ヒザ頭から垂直に降ろした線がちょうどクランクの先端部分を通るようにサドルの前後位置を調整する。これによりクランクのいちばんパワーを伝えやすい角度と、脚がいちばんパワーを伝えられる位置を一致させる。サドルの後退量が不足する場合は、シートポストをオフセット量が大きくとれるものに交換する必要も出てくる。

ハンドルの前後位置は、体を直立させてサドルに座り自然に体を前傾させてハンドルまで手を伸ばす。このときに持ったハンドルの位置が重要。ブラケットを自然に持てれば問題ないが、ブラケットより手前を持ってしまう場合はハンドルが遠いことになり、ステムの交換が必要になる。ハンドルの高さは、STEP1で柔軟性があった人はサドル高からこぶし1個分低くする。同時に、前から見て肩が上がってしまっていないかチェックする。
 
先端におもりをつけた糸を用意して、しっかりと垂直が出せるようにする

靴の上から足を触って、親指の付け根と小指の付け根の位置を探る。その2点のちょうど中間をペダルシャフトが通るようにクリートを調整する。クリートの調整幅で調整しきれない場合は靴のサイズが合っていない可能性も考えられる。また、ペダリングし ているときに足が内側に傾く人(ローラー台に乗っているときの動きを正面から他の人にチェックしてもらうといい)はインソールの交換も必要。靴の中で足がムダに動くのを抑制できる。
走行中にクリートがずれると危険なので確実に固定しよう。ネジは1つずつ締め込むのではなく、3つのネジを少しずつ均等に締めていく
このようにシールを貼ると確認しやすい。足首の角度は踏み込むときの角度にして、ペダルシャフトとの位置関係を確認しよう

   
  足の傾きを確認する方法としてこんなのもある。イスの上にヒザ立ちして、脚を肩幅くらいに開く。ふくらはぎの中心線と、左右の足の裏をつなぐ水平線が直角に交わるようにする。足裏に今のインソールを当てて傾きを見る
   
  ●インソールも写真のような微調整ができるものが用意されている。インソールなんてと思う人もいるかもしれないが、これが驚くほど効果がある!
足の傾きを確認する方法としてこんなのもある。イスの上にヒザ立ちして、脚を肩幅くらいに開く。ふくらはぎの中心線と、左右の足の裏をつなぐ水平線が直角に交わるようにする。足裏に今のインソールを当てて傾きを見る

サドル高が低く、それが上死点を通過するときの動きがぎくしゃくしてしまう原因と考えられたため10㎜高くし、クリートの位置も変更。また、サドルが前上がりで前傾姿勢をとるときの妨げになっていたため角度も調整した。サドルについては形状自体に問題があると指摘されたので、交換するつもり。ポジションを変えてみると、確かに脚の動きにある詰まった感じが改善された。締め切りが終わったらガンガン走りに行くぜ!
  調整前に今のポジションをペンでマーキングしておいたり、ビニールテープを貼っておいたりするといい
セッティングが出たら、しっかりと距離を走り込むことが大切だ。そうするとポジションで気になる部分が出てくるので、それを各STEPの調整範囲内で変更して、自分のベストポジションを探そう。そのときに最初のポジションをバイクにマークしたり、サドル高、サドルとハンドルの距離、ハンドル高をノートに記録したりして、仮にセッティング調整に失敗しても、元に戻せるようにしておく。ポジションに対する探求心を持ち続けることも大切だ。
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なぜ、プロ選手のふくらはぎはスマートなのか?
その答えはズバリ「使っていないから」。そういうと、語弊もあるが、つまりペダリングパワーを生み出すための主となる筋肉ではないということだ。

で、ふくらはぎの役割はというと、ヒザ上の筋肉を使ってペダルを踏み下ろしているときに下方向にかかる力を支え、さらに必要以上にカカトが下がることを防ぐことだ。

ペダリングの最中、足関節(足首)は大腿部のパワーを出しやすいよう、その角度を微妙に調整しながら円運動を行なっている。ふくらはぎはその位置が適切になるようサポートしているのだ。したがって、パワーを生み出す源となる部位ではないので、大きく筋肉が発達してもそれは重りにしかならないのだ。

そして、体幹部とヒザ上の筋肉でしっかりペダリングパワーを生み出せるサイクリストは、ふくらはぎを使って足首の角度を最適化する必要性が低くなるので、この部分にかかる負担が少ないのだ。

逆にヒザ上でパワーを出すことができないペダリングスキルの低い人ほど、ふくらはぎの筋肉を本来の役割以上に駆使してしまい、それによってこの部分が発達してしまう。

プロ選手のふくらはぎが細い理由は、ひざ上でしっかりとパワーを生み出せる洗練されたペダリングスキルを持つ証でもあるのだ。つまり、ふくらはぎを意識しないのが究極のペダリングスキルともいえるのだ。

   
  大腿部でペダルパワーを確実に発揮できるスキルがあれば、ヒザ下は筋肉のないただの棒でも効率的なペダリングができるといっても過言ではない

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