バイクショップ・スペースでは、新車の購入時に2〜3時間かけてポジション出しをしている。JCRC等のレースでも活躍中の佐藤シゲヒコ店長に、その手順を聞いてみた。 「まず股下を測り、それを基にサドルの高さを決めます。つぎにサドルにまたがってもらって後退幅を決め、ステムの長さ、ハンドルの落差の順にセッティングしていきます」。これらすべての手順が、固定ローラー台のうえで完了するが、じつはそれだけでは終わらない。 「その時点で、必ず1度公道を走ってもらいます。もちろんボクも一緒に走り、横から見ながらペダリングの特徴を確認します。お腹が出ている人はまずアップライトなポジションでセットするし、ドロップハンドル経験者なら、また違うセッティングになりますね。スムーズに回せているペダリングか、初心者特有の『踏み踏み』ペダリングかもいっしょに走ってみればすぐわかりますから」 「適正なサイズのフレームに短いステムを付けて、『慣れれば、最終的には120mmくらいのステムに変わりますよ』とアドバイスして納車することもあります」と佐藤店長。ステム長は一緒に走った時点で決め、その時点で必要なら変えるため、ワイヤーなどは120mmくらいのステムを想定して長めに残して組むそうだ。また、シートアングルが合わない場合は、後退幅の大きいシートポストに変えることも。 メーカー完成車で、バーテープを巻いてきている場合やステアリングコラムをすでにカットしてある場合は、乗り手に合ったセッテイングができずに困ることもあるらしい。 また、上肢が長すぎたり短すぎたりして、オーダーするしか体に合うフレームがない人もいるため、必ずしも希望のバイクにだれもが乗れるわけではないのが実情のようだ。そんな際は、「どうしてもそのバイクに乗りたいんだったら買ってもいいけれど、本格的にレースで走りたいのならやめたほうがいい、とアドバイスすることもあります」と言う。 スペースでは、現在使用中のバイクを持ち込み、ポジションのみをチェックしてもらうこともできる。 「実際に走ってもらって、そのポジションを横から見るのが基本。だから、走っているところを横から仲間に写真に撮ってもらうのはいい方法です。ちゃんとしたショップなら、それを見るだけでポジショニングのアドバイスができるはずですから」。 実は佐藤店長自身、しばらくブランクがあって、数年前に昔のポジションでレース活動を再開。ふくらはぎがやたらつるため、クリートを2mm深くしたという。1ミリ単位でのアドバイスは、現役アスリートならでは、といえるだろう。
自転車とカラダが接するのはわずか3点。ハンドルとサドル、そしてペダルだ。とくにサドルの位置決めは、きちんとしておかないとヒザ痛などの原因になる最重要ポイント。それゆえサドル調整する際には、まず足とペダルとの位置を決めておく必要がある。サドルの高さを決定し、次に前後位置を確定する。サドルの前後位置が決まったら、再度高さを微調整する。サドルが決まったらハンドル位置を調整し、ようやくライディングポジションが決まる。
サドルの上下位置を決めるには、まず専用のスケールで股下長を測る。ロードバイクに乗るときのレーサーパンツと靴下をはき、両足の内幅をおおよそ15cmに開いて立つ(この寸法はほぼロードバイクのペダルを踏んでいるときの左右の間隔に相当する)。そしてスケールを股に押し当てる。このときの押し当てはけっこう強めだ。 小室選手の測定値は780mm。この値に×0.875(ビギナーの場合は×0.87)を掛けた数値が基準となるサドル高さ(BBセンターからサドル上面までの距離)だ。小室選手の場合は682.5mm。「うちではまず計算値ジャストで組んで、少し乗ってもらう。初心者はサドルが高いほうが好きだけど低めから合わせたほうがいい」と佐藤さん。
ペダルシャフトの中心と、母指球小指球を結ぶ線の中心が一致するように足を置くのがいちばん効率のいい位置とされる。そこでクリートの位置は、母指球を基準としてセッティングしよう。 まず、ここで母指球の位置を確認しておきたい。親指(母指)の付け根の、最も出っ張った骨の部分がそれだ。佐藤さんは「シューズを履いてもらい、母指球の位置を教えてもらいます。そこをシューズに直接マーキングするか、シールを貼ったりする」。そしてクリートを固定する。クリートにはペダルシャフトの中心を示す線が入っているので、これに合わせよう。 このように、クリートの靴に対する前後位置は母指球とペダルシャフトで合わせるのだが、左右位置はペダルと足をセットしたときの足の開き具合に関係するQファクターがからんでくる。ひとまず足をペダルにセットした際、自転車の中心線とシューズの内側のカカトとつま先を結んだ線が平行になるようにクリートを固定しよう。ねじってクリートを取り付けていないか、実際にはめてみてチェックする。
次はサドルの後退幅を決めよう。まずバイクにまたがり、サドルに尻を載せ、ペダルにクリートをはめる。右クランク側を前にして水平位置に保ち、ヒザのお皿のすぐ後ろからおもりを下げて、そのラインがペダルシャフト(=母指球)を通るのが適正なサドル位置だ。このとき、サドルの上面は水平を保つ。 「小室選手はヒザ裏の位置よりわずかにシャフトが前ですね。大臀筋で踏んでいる状態です」と佐藤さんが解説してくれた。 バイクのシートアングルやシートポストによっては、最適な腰の位置に合うサドル前後位置にできないことがある。この場合は、後ろへの移動なら「セルコフ・68N」や「WR・RSR」、「FSA・Kフォース」など後退幅の大きなシートポストに交換すれば解決するはず。 また、前への移動は、もともとついていたシートポストがオフセットタイプなら、MTBで人気のトムソンなどのストレートタイプに交換すれば可能になる。
ペダルを踏む動作を正面から見たとき、両脚がまっすぐ垂直方向に動いているのがロスのないペダリングだ。 佐藤さんは「自然に回っているかどうかをまず見る。小室選手は右ヒザがちょっと開いている感じがするけど、これはクセの範囲。度が過ぎる場合は、クセの域を超えてヒザが痛くなっていたりするから、クセを直し気味に教える場合もあるけど、無理に直すと弊害が起きるから難しい」と語る。 もう一つのポイントは上で述べた、「ヒザの皿の後ろからの垂線が母指球に至る」というもの。ここを基準にサドルの後退幅を決めると、大臀筋がよく使える。それはヨーロッパの選手を見ても、出力の数値を見てもわかるから、ここのポジションは重要だ。
「タイムのクリートは、左右を入れ替えてQファクターの広さをコントロールできる。しかも足をセットしてからも横へ2.5mm(片足)動くのでヒザの故障が起きにくい」とタイム好きの佐藤店長。クリートを足がクランク寄りの狭いほうに変更した小室選手は、「違和感がなくなり、力が入りやすくなった」とのこと。 シマノにもルックにも足をペダルにセットしてから動かせるフローティングタイプのクリートがあるが、ルックのクリートは前側の中心はズレず(軸がブレず)に横へ動く。
「初心者のハンドル位置は、下ハンドルを持てない人が多いからけっこう『送る』(ブラケットがより上方に位置する)ことが多い。横から見たときのブレーキレバーからバーの上のラインが地面と水平になるくらい『送る』場合もある」と佐藤さん。手の大きさにもよるが、不安をなくすためにブレーキレバーがしっかり握れる位置を優先するのがスペース流だ。 ブレーキレバーとハンドルの位置関係は、ハンドルの形状に合わせて組み付けてあるのであまり変えることはない。 ただし、女性の場合、ショートリーチのデュアルコントロールレバーに換えることがある。 これらは実際に乗ってみて、変速操作なども試してもらって決める。
参考までに、小室選手のフォームを佐藤店長に分析してもらった。「小室選手のフォームは、選手として見てもかなりクラウチングが深い。ハンドルが遠めです。初心者には出せないポジションでしょう」 佐藤さんは前傾姿勢を教えるとき、「おへそのあたりから曲げて前傾姿勢をとる」と教える。「へっぴり腰になると手首に負担がかかるし、尿道も痛くなる。お腹が出ている人も含め、ポジションは何回も来店してもらって直していきます。半年後にはお腹がへっこんできて、ハンドルポジションが3〜4レ違うこともザラ。お客さんに理解してもらわないと、正しいポジションで乗り続けることはできないです。ポジションは変わっていきますから」
ロードバイクを完成車で購入すると、ほとんどの場合は170mmのクランクがついてくる。しかし、いろいろな体型の人がいるなかで、みんなが同じサイズで大丈夫なのだろうか。 「普通の男性なら170mmでオーケー。身長がよっぽど低くないかぎりは大丈夫。でも、女性など身長の低い人には交換を勧めます。女性なら165〜167.5mmがいいでしょう」と佐藤さん。 さらに「クランクの長さは、大腿骨の長さだけでなく、股下長によっても変わってくるので、違和感があればお店に相談したほうがいい」とのこと。 小室選手も「クランクは短いほうが回せるから弊害がないはず。長いと踏むペダリングになってしまうからよくない」とアドバイスしてくれた。