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小林海(マリノ)の体当たりスペインロードレース参戦記 第5回

レース
シーズン初戦目前!
 
左がオスカル。右がヘスス。ヘススとトレーニング行くと、しんどい・・・
 
ども!「小林海の体当たりスペインロードレース参戦記」5回目です。今週末、ついに今シーズン初戦があります。南の地Alicanteでのトレーニングを終えて、北のカンタブリア地方のCiceroにあるオスカルの家に戻ってきました。オスカルも今週末に初戦ですが、Alicanteから近い場所でのレースなので直接行くことに。僕は金曜日まで泊めてもらい、その後チームの宿舎に移動してレースに行きます。なので少し離れてるところですが、南下してたヴォルタ・アルガルベ帰りのプロ選手、ヘスス・エスケーラと車を借りて2人で帰ってきました。ヘススの家もここからすぐそこなので。
 
カンタブリアに帰って初トレ。雨が冷たいです。久しぶりに濡れた
 
彼とは昨年からとても多くの時間を共にしました。トレーニングはもちろん、トレーニングが終わった午後に2人で将来について語り合ったり、彼がレースの無い週末には僕のレースに連れて行ってもらったり。僕と考え方や性格などなど共通点の多い選手(身体能力以外!笑)なので、彼と自分を照らし合わせることが多く、自分のこれからも大事にして行こうと思う部分や、直さなくてはならない部分が見えてくる気がします。そんな彼について、そして彼から聞いたことについて少し書こうかと思います。
 
ガラスの天才
彼は1990年生まれの僕より4つ年上の選手。カデクラス、ジュニア、U23と常にスペインでトップクラスでした。身長は187cmもあり、体重は67kgとスリムな彼。自転車に乗るフォームを見るだけで早いのがわかるような綺麗な乗り方、オーラを持っています。彼を知らない人でも、すれ違えばすぐにプロだとわかる程。人当たりがよくて、口から先に産まれて来たのでは?と思うくらいよくしゃべる彼の性格は、一言で言えば嵐のよう。17時に電話して来て「おい!映画観に行くから、19時に家の下に迎えに行く。まだ時間あるからゆっくり準備しとけ!」と言ったくせに、20分後にまた電話かけてきて「おい!もう下にいるから早く来い!観る映画変えたから急げ!」とか言ってくる始末(笑)。そう。常に彼の気分や思いつきでこの世が回っているかのよう。
それはトレーンングやレースの時も同じ。一緒にトレーニングしていて、気分が乗っているか乗っていないかがすぐわかってしまう。気分が乗っている時の彼は恐ろしく速い。しかしそうでないと、決められたトレーニングすらやらないことまで。特に去年は彼にとってとても難しい年で、トレーニング中にいきなり「やる気失せた。俺帰るわ。」なんてことまで。彼の抱えてる問題を知っていたので僕は彼のモチベーションの低さを理解できたし、なにより悲しかった。彼の溢れんばかりの身体能力を全く発揮できてなかったから。普段は冗談を言ったりし、常に周囲を笑わせてくれたり、モチベーションを上げてくれるけれど、本当はとても繊細な精神の持ち主で、肝心な自分を精神的にコントロールすることがなかなかできない。
彼はU23の3年目にU23とエリートを合せたスペインアマチュアロードランキングで1位になり、翌年レオパード・トレック・コンチネンタルチームでプロ入りし、プロ1年目の21歳でプロのスペイン選手権で8位になり「スペイン自転車界の未来」とまで言われた選手だった。しかし、その後チーム環境や、重なる不運などで思うような結果が出せず、今はポーランド籍のアクティブジェットというコンチネンタルチームにいる。
彼のアマ時代、プロ1、2年目時代のチームメイト達は今プロツアーチームに所属し、ワールドツアーのレースで輝かしい成績を上げている。彼はそれを見てなにを思うのだろう、と僕はよく考える。僕たちの前では「あいつはやっぱりやると思ってたよ!めちゃくちゃ強かったからな!」と、かつてのチームメイトの勝利を明るく喜んでいるが、心の奥では「自分もあの場にいられたはずだ。」と思うだろうなと僕は考えている。僕だったらそう思うから。
彼にもう少しの運があれば、そしてなにより彼にもう少しの精神面の安定性があれば、恐らく彼は今プロツアーチームに所属し、ワールドツアーのレースで上位に入る有名若手選手なっていただろうと思っている。
 
 
俺が遅くなったんじゃねえんだよ
この手の話はたくさんあるし、たくさん聞かされて来た。でもやっぱり自分の身近な人だととても考えさせられるし、自分のこれからのために共通する悪い部分は直さなくちゃと思わせてくれる。反面教師なんて言ったらヘススに悪いけど、そう見ている部分もある。
僕自身の今シーズンが上手く行くことを願うのはもちろんだが、彼の今シーズンが上手く行くことも心から願っている。
そして最後に彼がよく僕に言うセリフを紹介。僕の夢の、プロの世界のことを考えさせられるセリフ。
「俺はなあ、ジュニアやU23の時はこの競技でなんだってできると思ってたよ。神だわって(笑)。でもな、プロになってから、今までやってきた競技が違う競技だったんだってわかった。俺がやって来た競技は自転車ロードレースなんかじゃなかったんだって。よく『ヘスス・エスケーラはU23の頃の方が速かった。プロに行ったら腐っちまった。』って言葉を耳にするけどよ、違うんだよ。俺が遅くなったんじゃねえんだよ。周りが速すぎるんだ。周りにいるのは、みんなその世代、その国のチャンピオンなんだよ。」
 
アリカンテ。来年もこの地に戻りたい。滞在期間は1ヶ月ちょいだが、大好きな場所になった
 
さて今回はここまで。次はまた僕の話をします!レースの話や宿舎生活の話、楽しみにしててください!!
第4回はこちら! http://www.cyclesports.jp/depot/detail.php?id=11521