安井行生のロードバイク徹底評論第10回 BMC SLR01 vol.5

目次

安井BMC・SLR01-5

2018シーズンはアツい年となりそうである。ドグマF10とK10。ターマックとルーベ。エモンダ、プロペル、リアクト、シナプス、R5に785……。

各社の主力機のモデルチェンジに日本中のロード好きが話題騒然としているなか、BMCは旗艦SLR01を世代交代させた。

開発プログラム主導による前作をどのように変化させたのか。イタリアでのプレスローンチに参加した安井が報告する。vol.5

 

リムブレーキとディスクブレーキの作り分け

リムブレーキとディスクブレーキでは、制動時のフレームへの入力が大きく異なるのではないか。メインフレームが全く同じでいいのだろうか。

安井BMC・SLR01-5

SLR01リムブレーキモデル

安井BMC・SLR01-5

SLR01ディスクブレーキモデル

Q:リムブレーキとディスクブレーキでメインフレームが全く同じというのはおかしいのでは。

A:ブレーキシステムが異なっても、メインフレームにかかる力は同じなんです。フロントブレーキからの力はどちらもヘッドチューブにかかります。リヤトライアングルは三角形が一体となってブレーキに耐え、それをメインフレームに伝えます。だからメインフレームを作り分ける必要はないんですよ。
 
言われてみれば確かにそうかもしれない。フロントフォークと左チェーンステーをしっかりとディスクに最適化すれば、それ以外の場所の設計は共通で問題ないのだ。ちなみに、サーヴェロのエンジニアに同じ質問をしたところ、全く同じ答えが返ってきた。
こう聞くとリムブレーキモデルにディスクブレーキ版を追加するのは簡単なように思えるが、そうやってお手軽に作られた即席ディスクロード勢の情けない走りを体感すると、いかにフレーム末端(フォークブレード、チェーンステーなど)の設計が走りに大きな影響を及ぼしているかが分かる。逆に考えれば、フレーム末端をディスクブレーキに最適化し注意深く設計すれば、イチから設計しなおさなくとも優れたディスクロードは作れるのだ。
 

Q:ではディスクブレーキ化のデメリットについて。フレーム末端の剛性が上がりすぎてしまうという危険性は?

A:確かにディスクブレーキはフレーム末端にかかる力が大きくなるので、使う素材を増やさなければならず、軽量性や快適性が低下します。ローターをつかんだときの振動も入ってきます。フォーク剛性が不足しているとそれが強調されてしまいます。これらはロードマシンの開発のときに分かったことです。新型SLRではフォークとチェーンステーを左右非対称形状とし、薄い積層で剛性の確保と振動の減衰ができるように設計しました。リムブレーキ版とできるだけ同じライディングフィールを目指していますが、ディスクブレーキ特有の負荷や振動に対応させるため、フロントフォーク前後方向の剛性はディスク版のほうが8%高くなっています。横剛性はリムブレーキ版と同等です。

 

加速性能向上は副産物

安井BMC・SLR01-5

不思議なのは、モデルチェンジ時には必ずといっていいほど出てくる「動的性能や快適性の向上」という話題が、これまで一切出てこないことだ。

Q:制動面と強度面で改善したということは分かったが、加速や快適性などほかの性能に変化は。

A:加速に関しては、横方向のBB剛性が15%向上しています。しかし、これは意図して上げたわけではありません。目標はあくまで「前作の加速性能を維持すること」でした。チェーンステーの強度を上げたことやディスクブレーキに対応させた結果、チェーンステーの剛性が上がり、その結果BB剛性も上がったのだと思われます。しかしそれは新型SLRにとって都合のいいことでした。加速がよくなっただけでデメリットはありませんから。
 
「動的性能を上げようとした」のではないのだ。「攻めた設計によって強度が不足していたところを補った」、そして「新しいブレーキシステムを採用した」結果、メインフレームの剛性が上がり、結果的に「動的性能が上がってしまった」のである。
 
A:快適性に関しては、シートクランプをトップチューブに埋め込んでシートポストが長く出る構造になったことで10%ほど向上しています。シートポストの形状は前作と同じですが、クランプ方式が押し子式に変わったので、積層を変更しています。シートポスト単体のバーティカルコンプライアンス(縦方向のしなり)は前作と同じですが、クランプ位置が下がったことで装着した状態での快適性は向上している計算です。

 
Q:BB剛性が15%上がったとのことだが、フレームの剛性はできるだけ高いほうがいいと考えているのか、それとも適度に抑えるべきなのか。ロードバイクエンジニアとしての見解は。

A:いろいろなフレームを作ってきた経験から言うと、私は硬すぎるとよくないと考えています。ある程度のしなりは必要です。新型SLRはBB剛性が15%増していますが、それは体に害のない範囲です。ちなみにTMR01は新型SLR01よりフレーム剛性が高いんですが、もしTMRの次世代機を作るのであれば、剛性を落とすでしょう。そのほうが乗りやすくなり、結果的に速くなると思います。

Q:“ある程度のしなり”とは曖昧な表現だが、正解はあるのか。

A:それは経験の積み上げによって決まるもの。自分で乗ったときの感覚や、プロ選手やマーケットからのフィードバックがないと分からないことです。時間が経てば経つほどいい情報が返ってくるとは言えますが。
 

コンピュータ主導の開発とはいえ、絶対的な正解が出来上がったわけではないのだ。やはり“目指すべき最適解”の場所そのものは未だに曖昧模糊としているのである。

 

安井行生のロードバイク徹底評論第10回 BMC SLR01 vol.4へ戻る
 

安井行生のロードバイク徹底評論第10回 BMC SLR01 vol.6へ