安井行生のロードバイク徹底評論第10回 BMC SLR01 vol.1

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安井BMC・SLR01-1

2018シーズンはアツい年となりそうである。ドグマF10とK10。ターマックとルーベ。エモンダ、プロペル、リアクト、シナプス、R5に785……。

各社の主力機のモデルチェンジに日本中のロード好きが話題騒然としているなか、BMCは旗艦SLR01を世代交代させた。

開発プログラム主導による前作をどのように変化させたのか。イタリアでのプレスローンチに参加した安井が報告する。

 

先代SLR01の出自

安井BMC・SLR01-1

「担当エンジニアが来られなくなった。インタビューするのはプロダクトマネージャーでもいいか」。

いまさらそんなことを言われても困る。もうイタリアに来ているのだ。

プロダクトマネージャーという職種は、確かに製品に関して雄弁に語れる立場にある。各国のマーケットやチームの選手から要望をくみ取り、コストを右目で、ライバル他社の他車を左目で睨みつつ、製品作りの方向性を取りまとめ、それを現場の技術者に伝える。そういう仕事である。製品コンセプトについてならプロダクトマネージャーは誰よりもたくさん喋ってくれるだろう。

しかし技術的に突っ込んだ質問をするなら、実際に図面を引き、カーボンの種類を選び、プリプレグを切ったり貼ったりしているエンジニアに聞くにしくはない。もちろんエンジニア顔負けの知識を持ち、自転車愛にあふれたプロダクトマネージャー氏もたくさんいる。過去の取材ではそういう自転車野郎に大いに助けられてきた。しかし、なかには工学的な知識を持ち合わせていないプロダクトマネージャーもいるのだ。「そういうことは分からない。エンジニアに聞いてくれ」。何度そう言われて悔しい思いをしたか。設計について根掘り葉掘り聞き出すなら、エンジニアしか考えられないのだ。
 
今回は特にそこにこだわりたいと思っていた。このイタリアで発表されるのは、BMCの新型SLR01なのである。広報資料+αの情報で誤魔化すわけにはいかない。その理由はSLR01の出自にある。先代SLR01はその開発方法からして異彩を放っていた。最大の技術トピックが開発プログラムだったのだ。

安井BMC・SLR01-1

いきなり横道に逸れるが、その開発プログラムについておさらいをしておく。

BMCは先代SLR01を設計するにあたり、スイスのチューリッヒ工科大学と共同で開発したソフトを使用して3万4000通りものシミュレーションを行った。開発プログラムによって軽さ、剛性、快適性の最適解を導き出すという方法である。BMCはこれをACE(Accelerated Composites Evolution)テクノロジーと呼んでおり、これが従来モデルや他ブランドとの大きな違いになっているという。しかし、解析ソフトなどいまやどこのメーカーも使っている。重要なのは、そのACEテクノロジーとやらが従来の開発方法とはどう違うのか、である。
 
「3万4000回もの解析を繰り返し」― 筆者のような素人にはその“3万4000”という数字が多いのか少ないのかすら分からないが、しかし重要なのは回数ではなく内容だろう。アホが何万回計算してもアホな答えが出てくるだけだ。そんなことを考えていたら、先代SLR01のデビュー時に本国で行われたプレスローンチに参加し、同じ疑問(=「従来の開発方法とどう違うのか」)をBMCのエンジニアにぶつけた人物がいた。フォーチュンバイクの店長、錦織さんである。

メディアの方々がプレゼンテーションと広報資料の内容をそっくりそのまま文章に書き起こす作業に勤しまれているなか、錦織さんは“3万4000”という数字に惑わされることなく、唯一マトモな質問をされていた。以下は錦織さんに聞いた話の内容に基づいた、ACEテクノロジーに対する考察である。

 

ACEテクノロジー一考

安井BMC・SLR01-1

一般的に、ロードフレームのFEM解析は「こういうカタチにしよう」という先行概念があり、デザイナーが起こしたフレーム形状にカーボンレイアップを後付けしていく。「この形じゃダメだ」となったら盛る・削るを繰り返す。よって、出来上がるフレームの姿はどうしても「作られていたカタチ」に影響を受ける。「設計が途中から始まっている」「人のアイディアが息づいている」とも言える。

先代SLR01は先行概念を設けず、白紙状態から作り上げたフレームなのだという。フレーム、フォーク、シートポストにおいてカーボンの種類、プリプレグの形状、その積層などを、フレーム形状を変えつつ、仮想空間で3万4000台のフレームを作り、それらの性能(剛性、強度、軽さ、快適性など)がもっとも高次元でバランスする1台に絞り込んでいく方法だ。「こういうカタチのフレームはどうだろう?」というアイディアを基にFEMを使って辻褄を合わせていくという従来の解析方法とは、意味合いが全く違うらしい。
 
そして、やはり重要なのは回数ではなくアルゴリズム(計算方式)だった。解析の方法そのものが特殊で、膨大な数の候補を闘わせて優劣を決しながら絞り込んでいくというピラミッド方式なのだという。レベルの低い候補たちを振るい落としながら、性能が3万4000分の1の頂点(剛性・重量・快適性がバランスする最高地点)を目指して収斂していくのだ。

しかしBMCが採用したこのアルゴリズムだと、答えが最後に一つになることはない。常にどこかを変更したライバルを出現させ、それと比較する方法で検討が行われるからである。それでは解析が永久に終わらないように思えるが、コストや使えるカーボンのグレード、ユーザーが求める性能レベル、UCIルールなどの制約条件があるため、最終的にはフレーム2パターン、フォーク2パターン、シートポスト2パターンが残ったところで解析を終了。それらの組み合わせ(2×2×2の全8パターン)をBMCレーシング(当時)のメンバーにテストさせ、最終的に最も優れている組み合わせで商品化した。それが先代SLR01である。

 

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