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2017年ツール・ド・ラヴニール、U23日本ナショナルの挑戦 世界の現実を知ること。それが未来への第一歩

「若手のためのツール・ド・フランス」や「プロへの登竜門」と呼ばれるレベルの極めて高いレースには、甘い幻想の入り込む隙などなかった。2年連続で出場したU23日本ナショナルチームに、ただひたすら、非情な現実を突きつけた。しかし雨澤毅明、石上優大、岡篤志、岡本隼、小野寺玲、山本大喜の5選手に、挫けている暇などない。ありのままを直視し、自分に足りないものを理解したら、彼らはただ大急ぎで漕ぎ出していくだけだ。輝けるラヴニール(未来)を目指して。
 
text:Asaka Miyamoto photo:jeep.vidon

厳しい結果、でもそれが現実

大会最初の山岳ステージを全力で闘い、フィニッシュ後にハンドルに崩れ落ちる雨澤毅明。「疲れと悔しさの両方」でしばらく動けなかった

「悔しいし苦しいです。でも……嬉しかった。だってツール・ド・ラヴニールで走ったからこそ、世界のレベルがはっきりとわかったんですから」

それまで伏し目がちに語っていた雨澤毅明が、最後に、ポジティヴな言葉を口にした。晴れやかな笑顔だった。

1年前は体調不良で途中棄権し、得意の山で戦えなかった。リタイア直後にリベンジを誓った。昨年末には早くも「次のラヴニールで総合15位以内」を目標に定め、そのためにあらゆる努力を積んできた。6月のクルス・ド・ラ・ペでは総合18位に入り、U23日本代表に、ネイションズカップ参戦5年目にして初めてのポイントをもたらした。おかげで招待枠で出場した昨大会とは違い、2017年の日本チームはラヴニールは正々堂々と出場権を獲得した。

序盤6ステージは、必ずしも得意ではない平地や風を上手く乗り切って、最小限のタイム差に留めた。勝負の山頂フィニッシュ3連戦に入ると、コロンビア勢の刻む早いペースに苦しんだ。文字通り最後の一滴まで振り絞るような走りで、第7ステージ25位、第8ステージ30位に食い込むと、最終日を前に総合25位に踏みとどまった。「あと5つ総合を上げるのは不可能ではない」。そんな浅田監督の鼓舞のもと、超級マドレーヌ峠が立ちはだかる最終ステージへと走り出した。

しかし現実は過酷だった。山岳初日にタイムを大きく落としながらも、残り2日を果敢に攻めたベビージロ総合覇者パヴェル・シヴァコフが区間勝利で自らの名誉を取り戻した一方で、雨澤は26分33秒遅れの最終グルペットで山頂にたどり着いた。来季のスカイ入りが決定したエガン・ベルナルから40分33秒遅れの総合39位で、人生最後のツール・ド・ラヴニールを終えた。

「全力を出した結果がこれなので、純粋に自分の力が足りなかったんだな……と改めて痛感しましたね。またしても世界の壁に阻まれました。足りないものは全てです。力も、経験も。体調を最後までしっかり保つという部分でも、気持ちを強く持ち続けるという面でも。なにもかもが足りていないんです。あまりにも世界との差を実感したので、これからどうしていくべきか、早急に考え直していかなきゃなりません。ずっと自分の中で考え続けてきたキャリアプランに、急いで修正を入れないと」
 

これが世界の基準だ

第8ステージスタート前。写真左から、雨澤毅明、岡篤志、岡本隼、石上優大、山本大喜。小野寺玲は第4ステージでリタイアしている

アジアチャンピオンの岡本隼は、生まれて初めてのラヴニールに、予想以上の衝撃を受けた。ツアー・オブ・ジャパンで8日間のレースを走ったことならあるけれど、ここでの9日間の辛さやストレスは濃度が桁外れだった。

「アンダーの最高峰のレース……、とは聞いていましたが、聞いていたのと実際に走るのとは全然違いました。今までに体験したことのない厳しさです。これまでの競技生活で、走りのスムーズさや技術の面で、強い選手との差をそこまで感じたことはありませんでした。でも、今大会で、『上には上がいる』とはっきり思い知らされました。これが世界の基準なんだ、と。ここに来たからこそ、気がつくことができたんです」

ジュニア時代から海外遠征を数多く経験してきた岡篤志は、日本が初めて本格的にチームリーダーを擁して総合上位入に挑んだ今大会を、「すごくやりがいがあった。毎日たくさん考えて、毎日が試行錯誤だった。僕にとっても日本代表にとっても大きな一歩」と振り返った。

「ラヴニールはどこよりも厳しく、より速く、より完成されたレースでした。とにかく僕個人としてはフィジカルの違いを改めて感じました。ものすごいハイスピードで走っているのに、さらにスピードを上げて飛び出し、勝利をもぎ取ってしまった選手もいました。平地で活躍した体の大きな選手たちだって、山をみんなそれなりに上れていました。このラヴニールのレベルを、絶対に忘れないようにしなければなりません。この先は地道にトレーニングを重ねて、体を作っていかなければ」

昨大会は日本チーム唯一の完走者となった小野寺玲は、今年は落車で残念ながら真っ先にリタイア(第4ステージ)してしまった。それでも2度のラヴニール経験で、なにより気持ちを強く持つことを学んだ。

「去年は何も分からない状態で、ただ最後まで必死に走っただけ。でも今年はどのような大会なのかを理解した上で、積極的に走ることを心がけました。ラヴニールは本当に強い選手だけがやってくる。それでも気持ちの上だけでも、彼らに負けてはならないんだ、と去年はっきり分かったからです。世界の壁は厚い。でもそこに挑戦し、上位を大胆に狙っていかなきゃならない。だから僕はこれからも目立つ走りを心がけ、積極的に成績を追い求めていく」
 

道のりは長く、甘くはない


上記の4人がアンダー最後の年に、人生最後のツール・ド・ラヴニールを戦ったのだとしたら、山本大喜には最大1回、石上優大には最大で2回の出場機会が残されている。もちろん2人とも、まずはラヴニール出場権を獲得するところから、挑戦を始めなければならないことは理解している。第5ステージで逃げに乗った山本は、もはや逃げだけでは十分ではないのだ、と語る。

「来年もラヴニールに出るためには、まずはネイションズカップでポイントを取らなければなりませんね。でつまり来年は『惜しい』とか『好走』ではダメなんです。確実に成績を残さなければなりません。さらに本番ラヴニールでは、雨澤さんのポジションを引き継げるだけの、つまり総合20位位内を目標に定めて走れるような選手になっていなければ」

全部で4年間あるアンダーカテゴリーの1年目から、ネイションズカップ、さらにはラヴニールを走ってきた石上は、現実が「甘くはない」ことを嫌と言うほど知っている。

「とりあえずラヴニールに出るだけでも、日本にとっては大変な状態なんです。今年は年長組に強いメンバーが揃っていました。アジア戦でTTとロードを勝ちましたし、チェコでは雨澤さんがポイントを取っています。でもその年長組がごっそり抜けていってしまうので、来年はそう簡単には行かないでしょうね。だから来年は、まずは、とにかくこの場に立っていられるよう努力することからはじめきゃならないんです」

1年前は第6ステージ半ばで足切りにあい、「いい経験にさえならなかった」と悔し涙がこぼれぬよう精一杯強がった石上は、2年目の今年は最終日のフィニッシュ地点までたどり着いた。アンダー1年目に「自分の力が停滞しているどころか、後退しているような気がする」と悩み、思い切って環境を変えるためフランスのクラブに単身加入した19歳は、ようやく再びスタート地点に立てたような気がしている。

「やって当然のことを、今年はやれただけです。難しいですね。いろいろなことが試されるレースでした。どうにか完走できたというレベルなので、ここで闘うには、もっと力をつけなければならない。これから進んでいくべき道のりは、まだまだ長い」
 
最終日までひとつの目標に向かって闘い続けた日本U23代表。1年後、再びこの場に立っているためには、来春からのポイント収集が必要だ

最終総合成績

1位:エガン・ベルナル Egan Arley BERNAL GOMEZ(コロンビア)29時間56分33秒(時速40.946km)
2位:ビョルグ・ランブレヒト Bjorg LAMBRECHT (ベルギー) +1分9秒
3位:ニクラス・エグ EG Niklas(デンマーク) +1分12秒

39位:雨澤毅明(宇都宮ブリッツェン)+40分33秒
77位:岡篤志(宇都宮ブリッツェン)+1時間8分48秒
83位:石上優大(EQADS/Amical Velo Club Aix en Provence) +1時間13分21秒
99位:岡本隼(日本大学/愛三工業レーシング)+1時間22分33秒
第4ステージリタイア:小野寺玲(宇都宮ブリッツェン)
第8ステージリタイア:山本大喜(鹿屋体育大学)

・ポイント賞:クリストファー・ハルフォルセン(ノルウェー)
・山岳賞:パヴェル・シバコフ(ロシア)
・チーム総合:オーストラリア
・総合敢闘賞:パヴェル・シバコフ(ロシア)


2017年ツール・ド・ラヴニール、U23日本ナショナルチーム監督・浅田顕インタビュー「最後まで走り抜く力が足りなかった」
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