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安井行生のロードバイク徹底評論第9回 TREK MADONE vol.3

第9回で俎上に載せるのは、デビューから2年が経つトレックのマドンである。安井がOCLV700のマドンRSLとOCLV600のマドン9.2という2台と数日間を共にし、見て考えたこと・乗って感じたことを子細にお届けする。全8回、計1万6000文字。渾身のマドン評論。vol.3。
 
text:安井行生 photo:吉田悠太

狂気その3に唸りまくる

Isoスピードを構成する、トップチューブとシートチューブの交点に設けられたピボット
さて、序盤で「全てを空力に捧げたバイクだ」と書いたが、実はちょっと違う。このマドンはシリーズとして初めてIsoスピードを採用しているのである。これがマドンの狂気その3だ。
Isoスピードとは、トップチューブ~シートステーからシートチューブを独立させて快適性を生み出すトレック独自の構造設計で、2012年にデビューしたエンデュランスロード、ドマーネに初採用された。
 
Isoスピードの作りを簡単に説明すると、まずトップチューブ後端を双胴とし、その間をシートチューブが貫通するような構造としておく。トップチューブとシートチューブを完全に分離させるのである。しかしそのままではシートチューブが動きすぎてしまうため、トップチューブとシートチューブの交点をピボットによって連結してたわみの量と方向を制限、スムーズに動くようにベアリングを入れる。これによって、トップチューブやシートステーやチェーンステーとは全く関係なく、シートチューブ~サドルが前後にしなりやすくなる。
 
シートチューブのカットサンプル。チューブが二重になっていることがわかる
要するにシートチューブ全体をサスペンションとして働かせてしまおうという算段である。こうすることでシートチューブを振動吸収に専念させることができるようになり、他社のエンデュランスロードのようにリアセクションをソフトにしてリアホイールを無駄に動かす必要がなくなったのだ。
トレックは、エンデュランスロード専用品かと思われたそのIsoスピードを、なんとエアロロードであるマドンに採用したのである。
 
それだけではない。Isoスピードが有効に働くようにするには、シートチューブをしなりやすくしておかねばならない。「カムテール形状は剛性、柔軟性、軽量性をさほど犠牲にすることなく空力性能を高めることができる」と書いたが、さすがに「しなりやすい」とまではいかない。チューブを前後方向にしならせたくば横方向に扁平させるしかないのだが、それでは空力性能が大幅に低下する。エアロロードのジレンマである。

トレックはここでも普通のエンジニアなら考えもつかないような手法を採った。Isoスピードのシートチューブを前後にしなりやすい形状にしておき、それをKVF形状のシートチューブで覆ってしまうのである。我々が見ているマドンのシートチューブは実は単なるエアロカウルに過ぎず、真のシートチューブはその中に隠れているのだ。

こうして、快適性を向上させる「しなり」と空力を高めるための「エアロ形状」を完全に分離させてしまった。まさに力技。好き嫌いは別にして、もう唸るしかない。

ジオメトリも悪くない

KVF形状をそのままシートチューブにしたなら、新型マドンはかなりスパルタンな乗り味になっただろう。事実、開発当初はKVFチューブに直にIsoスピード機構を仕込むという案も検討されたというが、それではIsoスピードの持つ高い振動吸収性をもってしても快適性を確保できなかったらしい。
 
シートチューブはBBからサドル部まで一本のように見えるが、トップチューブより上のシートマスト部は内側のシートチューブの延長部である。シートマストには専用シートポストを挿入して固定する。構造上、最低サドル高と最高サドル高に制限があるため、購入前にはチェックが必要である。

ただ、このシートまわりには気になることがあった。シートポストの固定は金属製の臼で行うのだが、臼とシートポストの接触面積が小さすぎる気がする。これでは何度も調整しているうちにシートポストが凹んでしまうのではないか。もっと接触面積を大きく取るとか、接触部に金属プレートを入れるなどの工夫をしてほしかったところだが、しかし実際にはクレームはないというから問題はないのだろう。
 
ジオメトリも見ておく。フレームサイズは50cm~60cmの6種類。ヘッド角、シート角は全サイズで細かく調整されており、共通になっている数値は一つもない。ハンガー下がりも3種類(72mm、70mm、68mm)あり、フォークオフセットは2種類(45mm、40mm)、チェーンステー長も2種類(410mm、411mm)、トレール値も全サイズで適正と言える範囲内(56~61mm)に入っている。真っ当なジオメトリだと言える。

さらに、マドンにはヘッドチューブが短くレーシーなポジションを実現するH1フィットと、ヘッドが長いH2フィットという2種類のジオメトリを用意する。H2はH1より2~3cmほどヘッドチューブが長くなる。ヘッドチューブ長以外の数値は基本的には同じだが、ヘッド長が影響するフレームリーチはH1とH2で異なる(H1のほうが全体的に1cmほど長い)。リーチの逆転現象は見られないが、いずれも52cmと54cmのリーチが2mmしか変わらないのは気になるところだ(H1の52cm:38.8cm、54cm:39cm/H2の52cm:37.9cm、54cm:38.1cm)。
 
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マドンのジオメトリー(トレックホームページより)