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安井行生のロードバイク徹底評論第9回 TREK MADONE vol.1

第9回で俎上に載せるのは、デビューから2年が経つトレックのマドンである。安井がOCLV700のマドンRSLとOCLV600のマドン9.2という2台と数日間を共にし、見て考えたこと・乗って感じたことを子細にお届けする。全8回、計1万6000文字。渾身のマドン評論。vol.1。
 
text:安井行生 photo:吉田悠太

そろそろマドンについて書こう

マドン9.2 シマノ・アルテグラ完成車価格/68万円(税込)
この連載で取り上げるバイクの選定は、完全に筆者に一任されている。書いておきたい、書かねばならない、そう思わされるバイクを取り上げる。編集部の営業サイドから茶々が入ることはない。原稿の内容が規制されることも基本的にはない。ありがたいことである。前回はスーパーシックスエボについて書いた。ならば次はこれしかないだろう。トレックのマドンである。
 
あの懐かしい5200、5500、5900などの5000系を出発点とするマドンは、2007年にガラリと姿を変え(それまで細身ホリゾンタルフレーム&インナーラグ接合、上下同径の非インテグラルヘッド、スレッドBB、ノーマルシートポストだったのに、いきなり大径異形チューブのスローピングフレーム&3ピースモノコック構造、上下異径インテグラルヘッドのE2フォーク、独自規格のBB90、シートマスト構造という最新スペックてんこ盛りになったのだから、文字通りの激変だった)、それまでにはなかった滑らかな走行感を手に入れた。2009年にはマイナーチェンジを受け、その洗練度合いをさらに高める。2010年モデルのマドン6.9プロに乗ったときの衝撃は今でもはっきりと覚えている。あれは奇跡のバランスの上に成り立つ名車だった。
 
マドンは2012年に再びフルモデルチェンジ、チューブ形状をKVF(いわゆるカムテール)とし、リヤブレーキキャリパーをBB下に配して空力性能を付加した。4代目のマドン、確かにその走りはそつなくまとまっていたけれど、マドンでなければいけない理由には乏しかった。翌年に年次改良と称してチェーンステーの形状を変えて剛性案配を探るなど、トレックらしからぬ右往左往も見せた。ただ一つすばらしかったのは、KVFと呼ばれるチューブ形状がもたらす空力性能だった。

万能軽量フレームとしてデビューしたはずのマドン(なにせ車名の由来はフランスにある峠の名なのだ)が、なぜどんどんエアロに傾倒していったのか。かつてトレックが持つハイエンドロードバイクは、マドンシリーズのみだった。それ一台で闘わねばならないから、軽さも快適性も無視できなかったのだ。しかし2012年、快適担当であるドマーネが登場したことで、マドンは軽さと剛性と空力を重視し始める。さらにその2年後、軽量・万能担当であるエモンダも加わったことで、新型マドンはエアロに専念できるようになったのだ。
 

お絵描きのように見えて超実戦的

 
というわけで、2015年に登場した6代目のマドンは純粋なエアロロードになった。少なくとも見た目は全身これ空力の機械だ。思い切ったモデルチェンジである。とはいえ縦に薄っぺらい物体ではなく、前後にも左右にもボリュームのあるフレームを支配するのは先代のマドンで採用されたKVF=カムテール形状(涙滴断面後端の尖った部分を切り落としたような断面形状のチューブ)だ。涙滴断面の後部を切り落としても空気抵抗がほとんど悪化しないことから、スコット・フォイルを嚆矢としていまや多くのメーカーがエアロロードにこのカムテールデザインを採用している。剛性や快適性や軽さを犠牲にすることなく空力性能を高めようとすると、カムテールデザインは自転車にとって非常に都合がいいのである。
 
フレームとフォークにおいてUCIの3:1ルールが撤廃されたとはいえ、エアロロードにおいてカムテールデザインの優位性はさほど揺るがないだろう。翼断面形状は前後に長いため、どうしても縦に硬く、横方向には弱くなる。そのうえチューブの表面積が大きくなるので素材が多く必要になり、重くなる。もちろん横風も受けやすくなる。確かに空気抵抗は少ないかもしれないが、ロードバイクのフレームを構成するチューブとしての性能は最悪なのだ。しかしカムテールデザインならば、剛性、柔軟性、軽量性をさほど犠牲にすることなく空力性能を高めることができる。翼断面ほど前後に長くないので横風に対しても強い。
 
新型マドンの空気の流れと直交するチューブ(フォークブレード、ヘッドチューブ、ダウンチューブ、シートチューブ、シートステー)は全てKVF形状である。とはいえカムテール形状それ自体はいまや珍しくもなんともない。新型マドンを見て、他のエアロロードにはない違和感を覚えるのは、全体的に凹凸がなくどこもかしこもツルッとしているからだ。ワイヤ類がほぼ露出せず、フォークやステムやブレーキやシートポストはフレーム本体に取り込まれて同一曲面を成している。“未来の自転車”というアイディアスケッチがそのまま実車になったような、ロードバイクなのに僕らの知ってるロードバイクじゃないような、そんな印象なのだ。しかしこれはデザイナーのお絵描きで机上に産まれたものではない。マドンは現時点でできる限りのことをやっていた。超現実的、超戦闘的、そして狂気的な一台だった。次回から詳しく見ていく。
 
 
安井行生のロードバイク徹底評論第9回 TREK MADONE vol.2へ続く