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トレック・エモンダSLR 量産モデル史上最軽量!

6月上旬にアメリカ・ウィスコンシン州のトレック本社で開催された新型エモンダのメディア向けの発表試乗会。3年前の初代エモンダの発表会にも参加した国際派自転車ジャーナリスト難波ケンジの現地レポート。

 
text:Kenji Nanba photo:TREK/Kenji Nanba

カーボンフレームの限界に挑戦した 量産史上最軽量の640g

トレック・エモンダSLR8ディスク シマノ・R9100デュラエース完成車価格/89万3000円(税抜)

3年の時を経て、第2世代へとフルモデルチェンジしたエモンダSLRがいよいよ発表された。トレックファクトリーレーシングが使う主力レーサーである3モデル、つまりマドン、ドマーネ、エモンダの中で、エモンダの立ち位置は、軽量オールラウンダー。集団の先頭を引っ張るための究極のエアロ性能を追求したマドン、パヴェ用途も考え快適性を重視したドマーネに比して、エモンダの使命は軽いこと。これは重量だけでなく走りの軽さも含む。

まず驚くべきはそのフレーム重量だ。なんと先代よりも1割弱軽い640g。社内基準となる性能値全てを満たしたうえで、他のトレック市販車と同じ、ライダー重量をクリアした限定永久保証付きを実現したこの数値は、今後ロードバイクの重量のマイルストーンとなることは間違いないだろう。

事実、ロードバイクの開発部門を統括するベン・コーツも「カーボンフレームの軽量化は、ここが一つの到達点。この先自転車は新しい基準を目指すことになる」とプレゼンテーションの場で世界のメディアを前に語っている。

新型には、リムブレーキと、ディスクブレーキの2つのバージョンが用意される。ダイレクトマウント規格のキャリパーブレーキを採用したものと、フラットマウント規格のディスクブレーキバージョン。後者でもフレーム重量で690gとあり得ないぐらい軽い。

フルモデルチェンジとしてフレーム、フォークの形状が変更されているが、全体のシルエットは変わらずコンセプトはキープしている。例えば乗り心地向上のためのシートマスト構造や、カーボンフレームにダイレクトにベアリングを置くBB90、E2テーパーステアリングコラム、フロントディレーラーマウントのカーボン仕様といった従来からの主要要素に劇的なアップデートはない。

長らくトレックのプロレース用カーボンロードバイクといえば、5500シリーズに始まり、5900シリーズなど、エアロよりも軽さを追求したエモンダ的なロードバイク一本だった。2004年に5900シリーズをベースにヘッドまわりをエアロ化した初代マドンが登場し、後に一時存在したパイロットシリーズを経てドマーネが追加されて2トップ体制に。そして3年前にエモンダが登場してから3トップとなった歴史を考えると、エモンダこそがトレックの伝統的なロードバイクを受け継いだ最新モデルといえる。

マドンと分離したことで、エアロ性能を考えることなくトレックの思う最高のロードバイクを具現化した新型エモンダの開発には、ロードバイクの歴史を覆す開発手法が採用されていた。

 

フレーム開発「AI化」の真実

トレックが新型エモンダで導入した新しい自転車の開発手法。開発を指揮したベン・コーツ氏とOCLVの生みの親、ジム・コールグローブ氏に聞いた自動化設計を用いたフレーム開発とは

全ての数値的要素を満たしたうえで、従来よりも8%軽量な640gのフレームを開発することの大変さと言えば、製品開発の現場を知っている人なら想像しただけでめまいがするほどだと分かるだろう。今回のエモンダは自転車設計の歴史を覆す技術を投入して、その数値を実現化してきた。

それは〝AI設計〞とでも呼ぶべき自動化設計技術だ。長らくトレックらしさと言える走りのキーポイントを、トレックのエンジニアリンググループが持っていることは知られていた。今回公表されたのは、自転車性能の見える化とでも言うべき開発の裏側だ。具体的なステップは、例えばスプリントしたときに脚に感じる剛性や、加速時のウィップ感といった感覚を、トレックのテストライダーやチーム員、一般の上級者などから感覚値として聞き取る。それを元にフレームのそれぞれの部分で持つべき剛性値なり、しなり値、減衰性能値なりを数値化する。

そのトップシークレットの目標値を全ての値で達成すれば、例えばどのメーカーが作ってもエモンダと同じ走りのバイクが作れるはずだ。しかしその数値が同じでも、メーカーごとにフレームのカーボンレイアップは異なるはずだし、チューブの形状もまったく異なるものになる。カーボンフレームは数百種類のカーボンシートを貼り合わせることで自由自在に性能を作り出すことができる素材だからだ。

つまりは無限大に広がるレイアップの可能性を突き詰めていくことにエンジニアリングが介在する。しかし今回のエモンダから採用されている新手法では、この工程の一部に自動化設計を行うことで、無限大のバリエーションをバーチャルに作り出しているのだ。

 
目標数値に対して、どのようなレイアップを組み合わせると性能を保ちつつ軽量化できるかを自動で計算する技術を用いて開発した
レイアップだけでなくもちろんチューブ形状にも膨大なバリエーションが演算され、デザイナーが求める形状に煮詰めていく

これが理想の設計方法

ロードバイク部門開発ダイレクトマネージャー ベン・コーツ氏。マドン、ドマーネといった近年のトレックのロードバイクの企画設計を統括。元トライア スロン、アメリカユース代表選手でもある
もちろんフレーム作りでは絶対に外せない要素があり、BB90規格を採用しているのでBBシェルの幅は必然的に決まってくる。シートマストを採用するのでシートチューブ上端の外径も最初から決まっている。

まずこの2点の動かせない要素があったとして、その間を通るシートチューブの形状、レイアップについてはどんな形も想像できることになる。使えるカーボン素材の種類と性能は分かっているので、目標値を達成しつつ最も軽量に仕上がるレイアップや形状を自動化計算する。

それこそ1つのパーツにつき何万通りもの可能性を自動で計算させるのだ。

一つのチューブが決まると、次にそれぞれのチューブ同士の組み合わせの可能性を自動で計算し、形状をはじき出す。しかしそこには製造不可能なレイアップや、プロダクトデザイナーの望みとは異なる形状がある。そこで性能を妥協せず、重量も増やさずに到達できる形状を再び自動で計算という作業を繰り返して開発している。

シートチューブにカーボンフロントディレーラーマウントを装着するとしなり値が変わるので、それに対して最適なレイアップを何万通りもはじき出す。最も理想に近いレイアップをピックアップして、試作車両を制作し実際の数値のテストを行っている。

出来上がったバイクにも複数のバリエーションがあり、ライダーがどのチューブを使っているかをブラインドテストして、ヒトの感覚値的な部分を織り込んでいく。そういった地道な作業を繰り返して得た50gとライドフィールが新型エモンダなのだ。

 

我々はフレーム軽量化の限界に達した

OCLVカーボンの発明者ジム・コールグローブ氏 軍事系航空宇宙産業メーカーから約30年前に トレックに転職し、OCLVの開発を指揮。世界初の量産カーボンフレームを生み出した
この開発手法は、自動車や航空機などの設計の現場ではそれこそ10年以上前から投入され、すでに一般的となっている。しかし自動車等の構造部材においては、一部を除いて性質が単純な金属であること、あるいはカーボン素材であっても、一つの部材について0.1gを突き詰めて考えるような設計までは行われていないことが異なる。それを自転車の開発に使ってきた点が新しい。

プレゼン内では、自転車の軽量化は、カーボンの次となる素材が出てくるまでは、これがひとつの到達点であり、ここから大幅に軽量化されることは現状では考えにくいとの見解も公表された。本社に隣接する工場で、ごく一部の車種とはいえバイクを生産しているからこそ、以上の自動化実験値をすぐさま試作バイクに落とし込めるのがトレックの優位点でもある。

たった640gの自転車フレームの裏側には、このようなエンジニアリングの宇宙が広がっていると聞くと、エモンダを見る目が変わるのではなかろうか。

 

軽量でも性能に妥協しないのがエモンダ

軽量をモットーとして開発された超軽量バイクに言われがちなのは、没個性。そして軽量であること以外の機能は極めてシンプル、言い換えると低機能という事が往々にしてあるが、そこはトレックのロードバイクなので安心だ。

快適性で言えば、トレックの十八番ともいえるシートマストと、剛性だけではなく進行方向のベンドに対して柔軟性を持っているE2ステアリングコラムをもちろん採用。センサー類をチェーンステーに内蔵できるデュオトラップスも採用し、ステムにライトとガーミンのマウントを一体化して装備できるブレンダーも搭載するなど必要な要素は押さえている。

その上でカーボンレイアップだけでなく、コストのかかったカーボンフロントディレーラーマウントやカーボンドロップアウトなどでグラム単位で軽量化。写真で見るとシンプルに見えるフレームも、トップチューブの上側が逆反りしていたり、複雑にベンドしたシートステー、スクエアから丸へと変化した形状のシートステーなどシンプルな中に手間の掛かった造形を採用。走りはもちろん、機能面でも全ての性能に妥協することなく640gを達成したのが新型エモンダなのだ。

 
下側に大型ベアリングを採用したテーパードス テアリングコラムに、前方向に柔軟性のあるレイ アップを加えた「E2ステアリングコラム」
フレーム造形自体はシンプルななかに、手間の かかった繊細なデザインを織り込んでいる。近く でよく見ると初代とは完全に違う造形
トレックのエンジニアが圧倒的な自信を持っているシートマストを継続採用。柔軟性に優れ快適な乗り心地を実現する
少しだけベンドしたフォークを採用する超軽量フォーク。軽量化を最優先したブレーキホース外付け仕様に、スルーアクスルを採用

キャリパー仕様は ダイレクトマウントブレーキ規格

トレック・エモンダSLR8
シマノ・R9100デュラエース完成車価格/79万7000円(税抜)


フレーム:カーボン 
フォーク:カーボン 
メインコンポ:シマノ・R9100デュラエース 
ホイール:ボントレガー・アイオロスプロ3 
タイヤ:ボントレガー・R3 700×25C
ハンドル:ボントレガー・XXX 
ステム:ボントレガー・プロ 
サドル:ボントレガー・モントローズエリート  
サイズ:50、52、54、56、58、60 
重量:6.35kg(サイズ56)
カラー:セミグロスブラック×ガンメタル


 

"限界重量"の走りとは

難波ケンジ:海外トレンドに詳しい国際派自転車ジャーナリスト。トレックの最初のOCLVフルカーボンロードバイク5200をいまだに所有しており、年に1度は乗っている
ありえない軽さを持ったバイクであることは、走り出して10mで分かった。重量が軽いのではない。走りが軽いのだ。

四半世紀ほど前にトレックが作り出したOCLVカーボンであるが、その開発者をして限界まで到達したという重量とともに注目したいのは、ディスクブレーキ仕様の重量680g。通常は100gから200gほど重くなるところをわずか40gに抑えている。

今回試乗したのはディスクブレーキ仕様。その走りは完璧とすら言える仕上がりで、トレックがロードバイクの開発で蓄積してきた理想の走りに必要な数値と言うとおり、乗れば乗るほどにトレック。

ゴチッと硬いのではなく、しなやかな硬さとでもいうべき剛性に、振動吸収性の良さ、シャープでいてそれでいてクイックすぎないハンドリングなど、全てがこれぞトレックというべき走り。印象としては初代エモンダというより、先々代のマドンSSLや、先代マドン7の流れをくんだ走りに近い。新型デュラエースのディスクブレーキの仕上がりもすばらしいので、サポートカーなどの事情でキャリパー仕様を選ばざるを得ない理由がなければ、積極的にディスクブレーキ仕様を選ぶべきだ。

気になる点は、ディスクキャリパーの力を受け止めるために強化されているフォークエンド。しなりが少なく、超高速でほんの少し直進安定性に疑問がある。だが、トータルで見て歴史に残る一台であることは間違いない。
 

「正直言ってもうディスクブレーキ」元・プロロードレーサー イェンス・フォイクト氏

昨年プロ生活を終えたドイツの超人、フォイクト。
今回の試乗会にゲストとして参加していたので、
新型エモンダの印象を聞いた。



イベントのためにドイツから駆けつけたフォイクト氏。「まあとにかく、新しいエモンダは走りが軽いね」と語る。

UCIレースでは重りを積んで6.8㎏にするからフレームが軽くても意味がないのでは?と聞くと「エモンダの場合は、全ての性能を満たしたうえでこれだけ軽いんだから、もうフレーム重量うんぬんの話ではなく単純にバイクがいいよね。ディスクブレーキはプロの中でも知ってのとおり意見が分かれているけど、僕はどちらかというと否定的だった。けれど新型デュラエースのディスクブレーキ仕様に乗ると、これはもうプロも含めて全員ディスクブレーキでいいね。サポートカーも全部ディスクブレーキにすべき」。

そのうえで、フォイクト氏がもし1台しか自転車を持てないとしたらエモンダSLRにする?と聞くと「クライマーではないのでマドンだね。レースでも平地で逃げるなら当然マドン。2台なら両方かな」。エモンダのゲストで来ているのにこの正直さ。ウソはつけないフォイクト氏のコメントは信用できるだろう。

 





問い合わせ先

トレック・ジャパン
https://www.trekbikes.com/jp/ja_JP/