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シマノ・新型アルテグラR8000シリーズ 緊急試乗レポート

このほど発表されたシマノの新型コンポーネント・アルテグラR8000シリーズ。全容がすでに明らかになっているが、サイクルスポーツ編集部では、新旧アルテグラのノーマル仕様のキャリパーブレーキと機械式変速システムを搭載したコンポーネント以外は同じフレームとパーツで組んだバイクを用意し、緊急試乗を行った。果たして新型アルテグラはどのように進化しているのだろうか——。
 
text:浅野真則 photo:吉田悠太

R9100シリーズデュラエースのテクノロジーを継承

試乗バイクは「コラテック・R.T.カーボン」シマノ・アルテグラR8000完成車価格/31万4000円(税抜)
試乗バイクは「コラテック・R.T.カーボン」シマノ・アルテグラR8000完成車価格/31万4000円(税抜)
シマノのロードバイクコンポーネントのアルテグラシリーズは、デュラエースに次ぐセカンドグレード。デュラエースはプロレーサー御用達の究極のレーシングコンポーネントだが、アルテグラは同様のテクノロジーをより手の届きやすい価格で実現し、より多くのサイクリストが体感できるようにするという使命を担っている。

昨年デュラエースがR9100シリーズにフルモデルチェンジし、今年はアルテグラがフルモデルチェンジ。クランクやブレーキキャリパー、STIレバーのデザインなど、基本的な部分は、デュラエースR9100シリーズを踏襲している。
 

油圧ディスクブレーキ追加。ドライブトレインはさらにワイドレシオ化

旧モデルに比べ、ブレーキレバーの形状が若干変わっている。特にレバーの根本の出っ張り部分とくぼみの部分の凹凸が大きくなり、ブラケット先端を握ったときに指の収まりがよくなった
旧モデルに比べ、ブレーキレバーの形状が若干変わっている。特にレバーの根本の出っ張り部分とくぼみの部分の凹凸が大きくなり、ブラケット先端を握ったときに指の収まりがよくなった
シマノのロードバイクコンポーネントのアルテグラシリーズは、デュラエースに次ぐセカンドグレード。デュラエースはプロレーサー御用達の究極のレーシングコンポーネントだが、アルテグラは同様のテクノロジーをより手の届きやすい価格で実現し、より多くのサイクリストが体感できるようにするという使命を担っている。

また、油圧式ディスクブレーキ仕様の登場や、横側への張り出しの少ないシャドウリアディレイラーの採用など、R9100シリーズで採用されたテクノロジーも継承。リアディレイラーはショートケージとロングケージの2タイプあり、ロングケージお仕様では最大34Tのカセットスプロケットまで対応するなどドライブトレインをさらにワイドレシオ化しているのも特徴だ。
 
ブラケットは旧モデルに比べ、さらに小型化。手の小さな人でも握りやすくなっている
ブラケットは旧モデルに比べ、さらに小型化。手の小さな人でも握りやすくなっている
ブラケットの形状も外側のラインが内側にカーブしており、よりエルゴノミックなデザインになっている
ブラケットの形状も外側のラインが内側にカーブしており、よりエルゴノミックなデザインになっている
クランクもデュラエースR9100シリーズのデザインを踏襲。クランクの前後方向の幅がより広くなり、デザインのたくましさもさることながら、カッチリした踏みごたえがあってペダリングのパワーを逃がさない
クランクもデュラエースR9100シリーズのデザインを踏襲。クランクの前後方向の幅がより広くなり、デザインのたくましさもさることながら、カッチリした踏みごたえがあってペダリングのパワーを逃がさない
アウターチェーンリングの裏側には、スパイクピンと斜めに刻まれた溝がある。変速時にスパイクピンと溝にチェーンがかかることで、インナーからアウターに変速するときにも切れ味鋭いシフトフィールを実現している
アウターチェーンリングの裏側には、スパイクピンと斜めに刻まれた溝がある。変速時にスパイクピンと溝にチェーンがかかることで、インナーからアウターに変速するときにも切れ味鋭いシフトフィールを実現している

変速・ブレーキの官能性能も機械的な性能もアップ

ブレーキキャリパーはデュラエースR9100シリーズと同じ形状を採用。ロードバイクの近年のトレンドである太めのタイヤにも対応し、700×28Cタイヤまで対応する
ブレーキキャリパーはデュラエースR9100シリーズと同じ形状を採用。ロードバイクの近年のトレンドである太めのタイヤにも対応し、700×28Cタイヤまで対応する
ブレーキキャリパーの左右のアームは、金属製のブースターで接続されている。このパーツがスタビライザーとしての機能を果たし、カッチリしたブレーキフィールを実現する
ブレーキキャリパーの左右のアームは、金属製のブースターで接続されている。このパーツがスタビライザーとしての機能を果たし、カッチリしたブレーキフィールを実現する
フロントディレイラーは旧モデルのロングアーム構造から一新。工具箱のふたのロック部分に使われるトグル構造を採用し、ストレスの少ない変速動作を実現している
フロントディレイラーは旧モデルのロングアーム構造から一新。工具箱のふたのロック部分に使われるトグル構造を採用し、ストレスの少ない変速動作を実現している
リアディレイラーは30Tのスプロケットまで対応するショートケージ仕様と34Tまで対応するロングケージ仕様の2モデル展開。レースに限らず、ロングライドやグランフォンドなどあらゆる楽しみ方に対応する
リアディレイラーは30Tのスプロケットまで対応するショートケージ仕様と34Tまで対応するロングケージ仕様の2モデル展開。レースに限らず、ロングライドやグランフォンドなどあらゆる楽しみ方に対応する
アルテグラR8000シリーズは、単にデュラエースR9100シリーズのデザインだけをまねたわけではない。そのことは、ブレーキ操作をしたときに、変速操作をしたときに明らかになる。

特筆すべきは変速性能の高さだ。特にフロント変速のスムーズさやキレは数段良くなった。インナーからアウターにシフトチェンジしても、ガラガラ言わずにスパッと変速する。まるでDi2のようだ。これはフロントディレイラーに工具箱のふたのロック部分にも使われるトグル構造を採用して、よりストレスがかかりやすいインナーからアウターへの変速を助けてくれているのが大きいと感じた。

変速のきっかけとなるレバー操作の官能性能にも磨きがかかっていた。旧モデルと比べて圧倒的に軽い操作でレバーが動かせるし、レバーを押したときの心地よさ、節度感にも磨きがかかっている。デュラエースに匹敵する、とまで言うと言い過ぎかもしれないが、かなり肉薄していると思う。

ブレーキ周りの官能性能にも磨きがかかった。特に良くなったと感じるのは、ホイールとシューが接してからレバーを握り込む感覚と制動力の立ち上がり方がよりリニアになったと感じられることだ。これはおそらく、キャリパーの剛性アップが大きいと思われる。キャリパーをよく見ると、左右のピボットををつなぐブレーキブースターのような部品がある。これがレバーを握り込んだときにスタビライザーとして働くのだろう。

官能性能といえば、ブラケット回りの形状やレバーの形状も秀逸だ。ブラケット先端は小さくなり、左右非対称の形状となったことで手のなじみがよくなり、手の小さな人でも握りやすくなった。個人的にはブラケット先端を持ってエアロフォームを取るときに、小指と薬指がレバーの根本に収まりやすくなったのがよかった。エアロフォームで走る時にもハンドルを引きやすく、力強くペダリングしやすいと感じた。
 
リアディレイラーは、サイドへの張り出しが少ないシャドーデザインを採用。障害物にヒットしにくいだけでなく、空力の面でもメリットがある
リアディレイラーは、サイドへの張り出しが少ないシャドーデザインを採用。障害物にヒットしにくいだけでなく、空力の面でもメリットがある
リアディレイラーのプーリーは、デュラエースR9100シリーズと同様、上部のガイドプーリーの歯がより高くなった。確実でスムーズな変速に貢献する
リアディレイラーのプーリーは、デュラエースR9100シリーズと同様、上部のガイドプーリーの歯がより高くなった。確実でスムーズな変速に貢献する

ブラインドテストしたら差が分からないほどデュラエースに肉薄

アルテグラR8000シリーズは、コンポーネントとしての機械的な性能の部分のグレードアップだけでなく、操作フィールという官能性能にも磨きをかけ、より上質なコンポになった。上位モデルのデュラエースR9100シリーズに迫る性能を得たと言っても過言ではなく、R9100シリーズとR8000シリーズをブラインドテストしたら、両者の違いが分からないのでは——と思わせるほどだ。

それでいて、価格面ではデュラエースR9100シリーズのの半額程度とかなり手の届きやすい価格を実現している。アルテグラR8000時リーズは、「アルテグラで十分」などという消極的な理由ではなく、積極的に選びたくなる魅力を備えた費用対効果の高いコンポーネントだ。



■浅野真則
実業団E1クラスで走る自転車ライター。ロードレース、エンデューロ、ヒルクライムなど幅広くレースを楽しみ、海外のグランフォンドにも参加経験がある。レースや普段使いなど用途別にロードバイク3台を所有し、うち2台はデュラエース9000シリーズと105 5800シリーズを搭載している。